医療的ケア児の住まい
住み慣れた家
住み慣れた家に住み続けられる幸せを感じる方は多いと思います。
病院で生活するより、家に住みたいと思っている子も多いと思います。
家族と触れ合う時間も、自宅の方が長くなると思います。
ケアに馴染まない家
大抵のおうちは医療的ケア児を育てるために設計されていません。
ベッドの周りには学習机とワードロープを置くスペースは確保していても、喀痰吸引とオムツ交換のためのスペースや電源は用意されていません。
リビングや応接間にお客さんを通す想定があっても、子供部屋に看護師が出入することは想定していません。
特に病院と比べてしまうと見劣りする設備となってしまいます。
ここは病院ではないとわかっていても、高望みしてしまう親御さんも少なく無いようです。
なにかあったとき
災害など『なにかあったらどうしよう』という不安にかられる方も少なくありません。
娘の在宅医療にあまり積極的でないように見えたお父さんが『発電機を買ってきた』と少し驚いていたお母さんがいました。
働きに出ているお父さんとしては、日頃のケアはお母さんに任せていても、我が子のためにできることはしたいと思っている様子が垣間見えました。
特に災害は発生後に考え始めてもできることは限られています。
完璧な備蓄をしても、津波や噴火が起これば逃げるしか手段がありません。
いまできることは何か、我が家はどこまで準備しているのか、下図のチェック表でもご確認いただけます。
満点を取る必要はありません。
医療的ケア児の療養住環境の基本
工事が始まれば後戻り困難
住宅の新築でもリフォームでも、大工さんが工事を始めてから追加や変更することは容易ではなく、工事単価も上がります。
つまり、工事が始まる前の構想や設計が重要になります。
専門家は誰?
病気のことや患者をよく理解しているのは医師や看護師、住宅のリフォームや増改築に詳しいのは工務店、両者を橋渡しするケアマネジャーやソーシャルワーカー、それぞれ専門の仕事があります。
療養住環境の専門家、居そうで居ないです。
知っているようで、知らない。
気づいているようで、気づいていない。
これから在宅でケアを受ける患児、寄り添う家族、『だいたい大丈夫』では困ります。
療養生活について確認
まずは看護師さんに、在宅で行われる医療行為などについて確認します。
患児のケア歴が長い家族の場合、専門用語も通じてしまいましが、工務店などは通じないので、咀嚼した言い方を聞いてみましょう。
また、喀痰吸引などの処置には慣れている看護師でも、その器材や原理などについては詳しくない場合もあります。
どのような設備や工事が必要であるか、しっかりと話し合い、患者や家族の側も任せきりにならず、自ら考えるよう努めた方が、良い療養住環境を生み出せます。
理解度の相互確認
療養住環境の施工実績がある工務店さんなどでも、工事の時点では何らクレームが出る事は無いと思います。
療養が始まってから患宅へ訪問しているような工務店であれば、教訓が蓄積され良い施工をしてもらえると思います。
あまり療養の『現場』を見たことが無い場合、上手くいっているように感じているだけかもしれません。
要望するレベルは家庭ごとに異なると思いますので、そうしたすり合わせも大事になります。
家族の志向・思考
同じ病気で、同じマンションに暮らす患児であったとしても、療養住環境に対する要望は同じではありません。
診療最優先、不安を1つでも無くしたい家族の場合は『病院と同じ仕様』という要望を出すかもしれません。
コンセントや酸素ボンベ、ナースコール、照明、ベッドなどすべてをホスピタルグレードに近づけて施工する事は無理ではありません。
生活も重視したいと思う家族の場合は仕様が異なります。
健常者のきょうだいが友達を連れて来ても『普通の家』と思えるような空間を残しつつ、療養もしっかりできるレベルにしたい、そう思う家族も少なくありません。
食事をするスペースと排泄する場所は分けたいと思う家族、常に目の届くところに居て欲しいのでリビングで完結したいと思う家族、色々な考え方があります。
この多様な考え方、すべては施主の意向であるとすれば、工務店には『どうすれば意向に沿えるか』を考えて貰わなければなりません。
予算の都合はありますが、施主本位、患者本位で療養住環境はつくられます。
ゾーン分け
療養住環境を計画する場合、まずはお宅をゾーン分けします。
病院であれば病室、ナースステーション、トイレや汚物室、浴室、薬品庫、器材庫など多様な部屋があります。
また、食事は厨房で作られ、配膳車が廊下に停車し配膳され、食後は下膳車にお膳を戻して廊下⇒エレベーターを通って厨房へと戻ります。
住宅では大きく昼間と夜間の過ごす場所を決めます。次に、看護師ら外からケアに訪れる方々をどこで迎えるかを決めます。
水廻りをどうするかも決めます。自宅で入浴するのか、排泄はトイレを使うのか否かを検討します。
オムツや医療廃棄物をどこに保管するのかなどもゾーニングに関わります。
選択肢
選択肢が多くと困ってしまう。
そんなときには当社のコンサルティングサービスの利用をご検討ください。
自ら選択肢を想定し、選んでいける場合はコンサルを使わなくても大丈夫かもしれません。必要かどうか、じっくりご検討ください。
医療的ケア児の現状(厚生労働省)
厚労省が医療的ケア児と家族を支えるサービスの取組紹介
厚生労働省政策統括官付製作評価官室アフターサービス推進室では2018年12月に『医療的ケアが必要な子どもと家族が、安心して心地よく暮らすために』と題した医療的ケア児と家族を支えるサービスの取組を調査した報告書を公開しました。
医療機器の装着が強いられる児、食事や排泄など日常生活に介助が必要な児など医療的ケア児が自宅で過ごすには、誰かの看護が必要となっています。
その看護の一番の担い手は家族であり、主に母親です。
各種サービスは医療的ケア児向けのサービスではありますが、同時に母親をサポートするサービスでもあります。
詳しくは報告書をご覧ください。
厚生労働省:「医療的ケアが必要な子どもと家族が、安心して心地よく暮らすために-医療的ケア児と家族を支えるサービスの取組紹介」を公表します (2018年12月19日)
厚生労働省:『医療的ケアが必要な子どもと家族が、安心して心地よく暮らすために-医療的ケア児と家族を支えるサービスの取組紹介-』(報告書全文)
自分ケア専業会社をつくってしまう!?
自分ケア永続
ご自身、あるいはお子様のケアに満足していますか。
その満足しているケア、永続性はありますか。
いま、ご自身(またはご家族)が受けている各種ケアサービスは、サービス事業者から提供されているか、ご家族の無償の労務で構築されていると思います。
この業務のすべてを事業化し、自らのケアをするための専業法人化するという考え方を持ってみてはいかがでしょうか。
病院の院長先生が自院に入院するように、自ら運営するケアサービス事業者に自らのケアを依頼するという構図です。
事業化のメリット
障害のあるお子様を抱えるお母さま方からこんなお願いをされたことがあります。
『この子の生活の場と、ある程度自立するための収入源としてグループホームを作りたい』
実際に建物のデザインもしました。
事業化のメリットの1つは『収入』です。
『親なき後の子ども』の心配を軽減する狙いがあります。
また別な理由で事業化した人もいます。
障害者コロニーから脱出したい、社会に出て生活したいという方でした。
事業化のメリットの1つに『自由』があります。
障害者だけでアパートを借りることも中々できない中で、自らの居場所を自ら創り出すことができます。
リスクも顕在
簡単に事業化できるものではありません。
株式会社でもNPO法人でも、事業をするからには人件費や諸経費を支払っていかなければなりません。
建物や車両には修繕や保守が必要であり、事故を起こせば賠償が必要になります。車がパンクしただけで資金ショートするような運営状況では危険です。
サービス事業者の場合、1人のためだけに1人を雇用する訳にはいかず、勤務交代や専門の違いなども考慮して複数名の雇用が必要であり、できればケアを受ける消費者が複数必要です。
顧客獲得のためには営業活動や宣伝広告が必要となります。市場競争に参入しなければなりません。
グループホームの経営でも、数十年後のリフォームや建替の費用積立や、入居者確保のための様々な施策が必要になり無策であれば淘汰されていきます。
サラリーマンであれば住宅ローンなどは組みやすいですが、収益物件の事業主として借金をするのは容易ではありません。健常者か障害者かという前に、事業者としての評価を受けなければなりません。
非現実的?
障害者が事業化なんて非現実的ではないか、とよく言われます。
確かにハードルは高いですが、理由は障害にはありません。事業を興すことに高いハードルがあります。
雑貨店などはネット通販もできるので、比較的容易に事業を始められます。事業性があるか否かは、センスや仕入値など色々と作用する要素があります。
障害者サービスを事業化するにはスキルや免許が絡み合ってきます。
厚生労働省がサービス事業者に課す管理者等の人員配置の他、消防法の防火管理者なども配置が必要です。
こうしたものをクリアしてまで、自分のための事業所をつくるかどうか、という意味で非現実的かもしれません。
兵庫県:障害福祉サービス事業等の指定申請手続について(居宅系、GH、相談支援)
兵庫県:障害福祉サービス(療養介護・生活介護・自立訓練・施設入所支援)の指定申請等に関する手続き
兵庫県:障害児通所支援事業の指定申請手続き
自分ケアサービスを事業化する
自分の望むサービスをセルフプロデュースしたい、できれば色々な人にも提供したいと思うならば、やはり事業化という選択肢は有力になります。
まずは何を事業とする法人をつくるか考えましょう。
法人格も株式会社、NPO、社団法人など多種多様です。株式会社は書類や条件が揃っていれば登記できてしまいます。
事業を始めることは比較的簡単ですが、事業を続けることが大変です。
同志・同士で住まう家・専用グループホーム
事業の1つに『住まい』があります。
いまの生活での住まいは自宅、炊事や洗濯などは母親、介護は介護事業者、看護は訪問看護事業者といった人が居たとします。
この内の住まいをグループホームに、母親役を寮母さんのような人に任せる方法でグループホームを事業化します。
トイレや消防設備を考えると自宅を改装するレベルではないので、適当な中古物件を探した方が良いかもしれません。
医療や介護などの専門的サービスは1人のために訪問してもらうより、1カ所で数人のサービスをした方が事業者側も効率的ですし、サービスを受ける側も時間内により多くのサービスを受けられる可能性があります。
1Fにテナントスペースがあるエレベーター付きの中古マンションを買い上げて大家になれば、医療的ケア児専用の賃貸マンションとして家賃収入で維持、いずれはテナントにケア事業者を誘致または起業すれば1棟で様々な用件が済む建物になります。
それなりの資金が必要ですが、同世代・同疾患の医療的ケア児の母親5人で15戸の中古マンションを5,000万円で購入すれば1人1,000万円の負担(出資)で購入できます。
家賃6万円なら年72万円、15戸で1,080万円。諸経費を2~3割見込んでも800万円前後が残ります。
満室ならば月10万円程度の収入を、出資した5人は得られることになります。家賃6万円を支払っても3~5万円は残る計算となります。
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(2006年厚生労働省令第171号)
指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(2006年厚生労働省令第34号)
医療的ケア児、戸建てシェアハウスに集う
シェアハウスは比較的規制が緩和されています。
特に障害者向けには『住宅確保要配慮者専用の住宅』として登録した場合、改修費用な家賃補助などの公的支援制度が受けられます。
会社を創業して事業化するといった大きなものではなく、自宅を大きく改装して数名が下宿できる家の大家さんであり、管理人さんでもある、といった感じで始められます。
我が子の世話をするの生活の一部としてこられたお母さんも、シェアハウスに住む数名の同士のような家族がいれば、ときには休むこともできます。
少し形は違いますが、マクドナルドハウスもシェアハウスのようなものです。
国土交通省:シェアハウス ガイドブック
国土交通省:住宅セーフティネット制度について
日本経済新聞:シェアハウス生活、高齢者に広がる 同世代で支え合う(2015年11月4日)
公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン
当社のしごと
助言
当社で出来る事は、助言です。
どのような住まいづくりをしたいのかをお聞きし、間取りや設備についての助言をさせて頂きます。
臨床経験があり、建設現場の経験もあるので、独自の視点から助言ができます。
原則として中立的な立場に立ちコンサルティングするのが私たちの仕事なので、工費が増えても減っても損得がないため、施主本位の助言ができます。
リーズナブルに
施工をしないのに、助言だけに費用を支払うことはコストなのか、必要経費なのか、難しいところだと思います。
療養が始まってからの住宅改修はなかなか難しいです。追加工事はさらに難しいと思います。1回の工事でなるべく完璧に近づけておきたい、そうした願いに応えるのが私たちの仕事です。
私たちは不可欠な存在ではありませんが、必要とされるよう努力しています。