火災時に窓を『あける』という選択肢
窓を開ける
京都市消防局が2020年3月17日に発表した『火災から命を守る避難の指針』は2019年7月に発生した京都アニメーションの火災を受けて策定された新しい指針です。
この中で目を引いたのが『窓を開ける』ということ。
※.窓をすぐに開ける訳ではありません。
煙は止めて、避難路は開く
煙が回ってこないように、まずは窓や扉は閉じます。
その上で、避難経路を確保するために窓を開けるという選択肢を持つ事が重要視されています。
避難に使える窓がある部屋では、できれば煙が入ってこないようにするための扉への目張り用のテープなどが備わっていると良いです。煙から身を守り、避難のために窓を開ける、こうした行動が有意義と考えられるようになりました。
従来、消防から指導される際に火災時は窓を閉める、地震では避難路確保のため窓を開ける、とされてきましたが、その常識が少し変わりました。
従来の概念は『窓を閉じる』
消防署のホームページをいくつか閲覧しましたが、窓を閉じて逃げるといった表現をしているものが多く見られます。
『火災対策のため、窓を閉める』
『避難するときは、延焼を防ぐため、燃えている部屋のドアや窓を閉め、空気を遮断する』
『自室から出火したら窓やドアを閉めて、他へ類焼しないようにして逃げる』
消防署が出す情報ですし、避難訓練の際に窓を閉めるよう指導を受けた旨が掲載されたブログやfacebookも散見されました。
地震の際は『あける』
火災時は延焼防止のために窓を閉めると教わったとき、同時に『地震の際は避難路確保のため窓を開ける』と教わった覚えがあります。
地震により窓枠が歪んでしまったら避難路が確保できないというのが理由ですが、学校などではガラスに机を投げつけて割ってしまえば脱出可能です。
しかしビルやマンションではワイヤー入りのガラスが使われている事も多くあり、割る事ができないので、やはり開けておく方が良さそうです。
火災時は窓から救助を求める
煙が広がらないようにする、炎に酸素を与えないようにするために窓を閉じるのは一つの正論だと思います。
しかし、助けを乞うのに屋外との交通が遮断されていては、建物に人が居るのかどうかもわかってもらえません。
被災者が外気を吸うことができる場所を確保し、同時に救助を求めることもできる場所の確保として『窓を開ける』という手段が重要になります。
目標志向型行動(GOA)
弊社では災害対応としてGOAを推奨しています。GOAとはGoal-oriented action、目標志向型の行動です。
社会生活を送る上で良心や秩序は重要ですが、生命危機が迫るときにルールや常識に縛られていては生命を失う恐れがあります。
事件を目撃して怖くなり、110番通報ではなく火災報知機のボタンを押して消防車が来てしまったとき、この通報者は偽計業務妨害で取り調べを受けるかもしれません。
しかしながら、生命を守るという目標を達成するための行動であったとすれば、視点を変えると責められるばかりの行動ではなかったと言えるのかもしれません。
常識か非常識か、法に抵触するか否かはあとで検証されますが、緊急事態に直面したとき、定めた目標に向かって行動できることが、身を守る術になると考えるのがGOAです。
京都市消防局・新指針
火災から命を守る避難の指針
この指針は、京都アニメーション火災の避難者の方々等への聴き取りで得た貴重な教訓を基に作成したもので、指針を踏まえた対策や実践的な訓練(図上訓練含む)を行うことで、火災発生時に事業所や個人、更に市民が、能動的に力強く行動できる知恵や行動力を備え、火災から命を守ることを目的として策定されました。
京都市消防局: 「火災から命を守る避難の指針」の策定について
火災人命危険レベルの設定
火災人命危険状況 | 主な避難行動の例 | |
LV1 | 階段に煙がなく使用可能な状況 | 階段を利用して地上,下階へ避難 ○階段が複数ある場合は,煙が流入していない階段を選択して避難 |
LV2 | 階段が煙により使用できない状況 | 階段以外からの避難等 ○窓,ベランダ等,外気に触れる場所への避難(救助を求める) ○窓,ベランダ等から避難器具での避難 ○一時避難スペースへの避難,待機(救助を求める) |
LV3 | 階段及びフロア全体に煙が流入し,避難者自身が煙に覆われ危機的な状況 | 煙に覆われた状態からの脱出 ○身を低くして最小限の呼吸で,冷静に避難 ○光や壁を頼りに窓,ベランダ又は直近の一時避難スペースを検索,避難 階段以外からの避難等 ○窓,ベランダ等から避難器具での避難 ○一時避難スペースへの避難,待機(救助を求める) ○窓,ベランダ等から,ぶら下がり避難(2階に限る) |
火災発生に伴う基本的な初動措置
(1) 119番通報
(携帯,固定電話等による通報,火災通報装置による自動通報等)
(2) 初期消火
(簡易消火用具,消火器,屋内消火栓等を用いた消火活動)
(3) 避難・避難誘導
⇒ 火災から命を守る避難の指針
指針の方向性および要点
これまでの分析・検証結果から,迅速な避難をするためには,出火から避難開始,そして避難完了までの時間をいかに短くし,また,延焼・煙拡散時間をいかに抑制できるかが重要な要素となる。
A.避難開始までの時間を早くする(早く知り,行動を開始する)
B.避難行動時間を短くする(状況判断力の向上で迅速な避難)
C.延焼・煙拡散時間を抑制する(建物の防火性能向上で,炎,煙の拡散防止)
【火災から命を守る避難の指針】
指針1 火災を早く知る手段の確保と早期の避難行動の開始
指針2 煙が流入しない安全な避難経路(階段)の確保と冷静な避難行動
指針3 窓,ベランダ等から屋外へ逃れる手段の確保
指針4 煙から逃れ一時的に避難できる場所の確保
指針5 煙や炎に覆われるなど危機的状況下における対策
指針6 避難後の命を守る行動
指針7 放火等防止のための防犯対策の徹底
火災から命を守る避難指針
京都市消防局: 「火災から命を守る避難の指針」の策定について
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上記のページでは園児の守るためのエスケープゾーンを想定した避難演習の資料がダウンロードできます。