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災害対応力を強化する女性の視点 | NES’s blog

 防災における男女均等、女性の意見への傾聴について必要性は叫ばれていますが、社会実装には至っていない感があります。

 その背景には何が在るのかについては探索する必要があり、得られた結果の1つ1つに向き合って、課題を解決していく必要がありそうです。

 内閣府の男女共同参画局では、災害時の対応力強化に資する女性の視点についてガイドラインを発行しています。
 災害担当ではなく男女共同参画から出されたガイドラインということで、その内容もユニークです。




読みながら所感

 内閣府男女共同参画局の『災害対応力を強化する女性の視点』は80ページ以上あるガイドラインです。読むだけで疲れそうなので、読まないという選択をする人が多いと思います。

 そこで、筆者が読んでみて、コメントを付けてみました。 




第1部 7つの基本方針

 第1部では、このガイドラインの基本方針を述べています。

1.平常時からの男女共同参画の推進が防災・復興の基盤となる

 人口の半分が女性だから、女性の意見を反映すると防災力が向上するという説明から入ります。

 女性参画を普遍とするならば、女性の意見が入ることが当然のことであって、女性の意見が反映された防災は標準レベル、ゼロ点と言えるかもしれません。
 男女が互いに尊重し合い、相乗効果が発揮されたときに、創造的な防災に至り、防災力が飛躍的に高まる可能性があります。

 課題として、意思決定の場に女性が少ないこと、旧態依然の性別による役割分担が存在すること、性暴力などの弱者が女性に偏ること、就業状況や職位に男女差が存在することなどを挙げています。
 子育てや介護などのケアラーにも性差が存在します。


2.女性は防災・復興の『主体的な担い手』である

 啓発や提言のようにも見える第二項目です。

 意思決定の場、防災現場への女性参画を推進すべきとしています。
 これを目指さなければならないことが問題ですが、それに気づかせることが必要になります。

 男性用の仕事、例えば重い瓦礫を撤去する仕事を女性にも与えるということではなく、女性が担うべき仕事をつくる、性別不問の仕事は分かち合うことが必要であると思います。


3.災害から受ける影響やニーズの男女の違いに配慮する

 ニーズに傾聴すべき、女性の中でも多様な意見に傾聴すべきであると述べています。

 データの活用についても述べられています。

 データに基づいて議論しようとしても、データを見ようともしない、経験こそがすべてという人が居るので、データ活用の意義などを啓発して頂きたいです。


4.男女の人権を尊重して安全・安心を確保する

 すべての人の人権を尊重する、尊厳や安全を守ることを述べています。

 プライバシーを守る、性暴力などから守ることも人権と密接であることを紹介しています。


5.女性の視点を入れて必要な民間との連携・協働体制を構築する

 発災時に行政がすべてを担える訳ではないとした上で、行政以外との連携をすべきと述べています。

 自治会や町内会、自主防災組織などの多くは法人格を持たない任意団体ゆえに、責任の所在も不明です。役員全員が高齢男性というケースも珍しくない任意団体との連携に潜むリスクについても注意喚起してもらいたいと思いました。


6.男女共同参画担当部局・男女共同参画センターの役割を位置付ける

 男女共同参画を担当する行政への提言のようになっています。

 地域防災計画や危機管理を担う市役所の担当者が、男女共同参画について知り、考え、協力を要請するようにならないと、そもそも市役所の担当者に課題があれば、すべてが滞ります。


7.要配慮者への対応においても女性のニーズに配慮する

 看護師や保育士などは圧倒的に女性の比率が高い職業ですが、そうした専門職が、意思決定の場に必ず入るようにすべきと述べています。

 ここでは福祉避難所の運営にも言及していますが、そもそも福祉避難所の運営自体に大きな課題があるため、福祉避難所運営を根本から見直し、その見直し作業の中には看護師や保育士らを招聘すれば良いのではないかと思います。




第2部 段階ごとに取り組むべき事項

 第2部では、具体的な活動について記載されています。

  • 平常時の備え
  • 初動段階
  • 避難生活
  • 復旧・復興


第2部 平常時の備え

1.職員の体制と研修

 県庁や市役所などの防災や危機管理の職員の男女比について適正化するよう述べられています。

  • 防災・危機管理担当部局の職員の男女比率を、少なくとも庁内全体の職員の男女比率に近づけるよう努める。
  • 防災・危機管理担当部局の管理職や職員のほか、災害時に避難所対策等行うことが想定される庁内職員に対し、本ガイドラインを踏まえた災害対応に関する研修・訓練等を実施する。
  • 防災訓練などで本ガイドラインを踏まえた災害対応を取り上げる。
  • 上記研修・訓練等の際には、必ず、防災・危機管理担当部局と男女共同参画担当部局・男女共同参画センターとが連携する。

 自治体には人数の適正化を実現してもらいたいですが、人数だけではなく、影響力の男女比を適正化してもらえれば良いと思います。


2.地方防災会議

 女性委員3割以上が目標として掲げられています。
 3割未達が当たり前の状況のようです。

  • 市町村は、女性委員がゼロとなっている場合には、早期に女性委員を登用する。
  • 女性委員の割合を3割以上とすることを目指し、女性人材の育成、登用を進める。例えば、女性が多い専門職(保健師、助産師、看護師、保育士、介護士、民生委員等)は災害対応に深くかかわることから、こうした女性を登用する。
  • 庁内職員を任命する際には、女性職員を積極的に登用する。
  • 男性委員に対し、本ガイドラインを踏まえた災害対応について情報提供・啓発を行う。
  • 「充て職」による制約のない下部組織(部会等)や実質的な事務を担う幹事に女性を登用する。
  • 女性の視点を取り入れるための下部組織を設ける。

 女性比率を高める具体策については、やや違和感がありました。
 5号で『部門の課長級の女性管理職』の登用が工夫点になっていますが、『女性だから登用された』となりそうです。女性を増やすことが目的化しているように見えてしまいます。
 7号でも『報道機関で働く女性』『看護協会(中略)等、女性が活躍している団体を指定』などが挙げられています。
 報道機関で働く人の意見が欲しいのか、女性の意見が欲しいのかわかりづらく、これでは『報道機関の席は女性にしてもらいましょう』となってしまい、本来、報道機関に求めていた役割を果たすことができない可能性すらあります。
 看護協会についても、看護協会として知見を提供することが本来の仕事のはずですが、『女性枠として看護協会の席を設けましょう』という的外れな考えに至りそうです。男性看護師ではダメな理由が看護協会側には理解できないかもしれません。助産師を指定した場合には、女子以外に受験資格が無いので、必然的に助産師は全員女性ということになります。

 注目しておきたい文言として『男性委員に対し、本ガイドラインを踏まえた災害対応について情報提供・啓発を行う』という一文です。
 男性委員の中には、女性登用について理解が無い人が居ると推察される文章です。
 理解のない男性が居る中で、女性の席だけ用意しても、お飾りのようにしか思われていないのであれば、意味がありません。本質的な改善が必要です。

 このようなケースに女性代表として呼んでもらえる『防災女子』が居ると良いと思います。適合する人材、続々と育成していく必要があります。


3.地域防災計画の作成・修正

 本ガイドラインを反映させましょうという内容です。意思決定の場に女性を参画させる、女性だけの話し合いの場を設けるなどが挙げられています。

  • 本ガイドラインに盛り込まれた事項を反映するよう努める。
  • 男女共同参画担当部局・男女共同参画センターの役割を位置付けるよう努める。
  • 作成・修正に関する意思決定の場への多様な女性の参画を促進する。
  • 例えば、住民参画によるワークショップや意見交換会の際、女性だけの話し合いの場の設置や、世帯単位ではなく個人単位の住民対象のアンケートを実施することが考えられる。

 これは、自治体に実行してもらうしかない内容です。


4.避難所運営マニュアルの作成・改定

 マニュアル作成の初期から女性が参画する、訓練でも女性への配慮を話し合い、平時から課題を解消しておく、といった内容です。

  • 本ガイドラインに盛り込まれた事項を反映するよう努める。
  • マニュアルは検討の初期から女性が参画する。
  • 住民参画によるワークショップや意見交換会の際には女性だけの話し合いの場を設けたり、世帯単位ではなく個人単位の住民対象のアンケートを実施などの工夫をする。
  • 避難所で必要となる避難者名簿、部屋札、意見箱、多言語シート等を事前に準備し、避難所運営マニュアルと共に避難所に指定されている施設に保管する。
  • 避難所運営ゲーム(HUG)等の机上訓練や実動訓練を実施する際には、女性の視点からの必要な間取り・スペースや備蓄等について課題を話し合う。

 避難所運営を担うであろう自治会や自主防災組織の幹部が、避難所運営はマニュアル通りに進めれば良いという程度にしか考えていないとすれば、良い運営は期待薄です。
 住民ニーズにあった避難所とはどのようなものか、その地域毎でもニーズは違いますし、例えば妊婦は10カ月程度の一時的な状態なので、誰が発災時に妊婦であるかわからないためニーズが潜在してしまう可能性が高いです。

 様々なニーズを把握しておくことが避難所運営には必要です。
 マニュアルについては必要な部分と、そうでない部分があります。災害別、季節別、集まったメンバー別にマニュアルを作るほどの暇もないと思いますし、専門的知識を持ってマニュアルを作れる人も少ないと思いますので、居合わせた人がケースバイケースで対応するのが現実的です。

 マニュアルより大事なのは方針だと思います。
 女性に配慮したパーティションを立てるマニュアルよりも、配慮が必要な人のためのスペースを作ることが大事なので、例えば授乳室として一部屋用意するとか、トラックの荷台を専用スペースとするなど、パーティション以外の方法でもプライベート空間はつくれます。
 配慮が必要な人に対応するという方針が存在することに意義があります。


5.応援・受援体制

 『応援職員に対し、必要に応じて被災者支援における女性の視点の重要性を伝えるよう努める。』が冒頭に掲げられています。

  • 応援職員に対し、必要に応じて被災者支援における女性の視点の重要性を伝えるよう努める。
  • 受援体制の整備において、女性の応援職員にとって安全で安心できる受入環境を定めるよう努め、女性の応援職員の円滑な受入れに努める。
  • 受援側の要請を踏まえつつ、女性の職員や、男女共同参画担当部局の職員を積極的に派遣するよう努める。
  • 本ガイドラインに盛り込まれた事項が明記された派遣者用対応マニュアルの整備に努める。
  • トップマネジメントの支援にかかわる可能性がある職員を始め、応援に派遣する職員に対し、派遣前に、本ガイドラインに盛り込まれた事項を説明する。
  • 派遣される女性職員にとって安全・安心できる派遣環境を整える。

 現実としては、性差の問題を伝えるよりも先に、目先の仕事をこなしていく方が優先されてしまうと思います。空腹の住民が何万と居る中で、女性の入浴の計画を立てている場合でもないと思います。性差への配慮について努力することは重要ですが、何と比較して優先されるのかまで平時に考えておく必要があります。

 応援職員に女性が含まれるようにするためには、受入側が女性職員に配慮している必要があります。
 とはいえ、女性用の寝室やトイレなどを完璧に揃えられるかというと、受援側職員が役所の床で雑魚寝している中で、応援職員用のホテルを手配するなどということは簡単なことではありません。

 個人的な意見ですが、全自治体がキャンピングカーを持っておいたら良いのではないかと思います。救急車と同じ様に市の予算で買い、有事にはキャンピングカーで被災地へ向かうとすれば、全国で1,000台以上のキャンピングカー、被災地に職員を派遣せずとも車だけ貸せば1,000室以上の個室をつくることが可能になるのではないかと思います。


6.物資の備蓄・調達・配布

 女性と男性のニーズの違いを明らかにして物資を備蓄すべきとの内容です。
 これについては公助としての備蓄だけでなく、自助としての備蓄についても言及しています。

  • 備蓄チェックシートを活用し、男女共同参画担当部局と防災・危機管理担当部局が連携し、女性の職員の参画も得ながら、女性と男性のニーズの違いや、妊産婦・乳幼児・子育て家庭等のニーズを十分に踏まえた品目を選定し、必要かつ十分な物資を備蓄する。
  • 上記物資について、関係団体や企業と必要な協定を締結する。
  • 女性用品や乳幼児用品、衛生用品等について、住民の備えを促す。

 自助は大事ですが、自助の費用負担者は住民本人です。公助は税金が使われます。このバランスは大事だと思います。
 生理用品は女性しか使わないから自助だと言われると、男性側は納得でも、女性側は不満、という構図が出来てしまうかもしれません。では、男性も生理用品を使うならOKなのかという妙な議論になることもしばしばですが、根本的なところを見直す必要があると思います。

 老若男女を押し並べて、例えば1カ月に使用する生活必需品などをリストアップし、それらを対象人口で割りだした指標に基づいて備蓄すれば良いと思います。
 生理用品や粉ミルクは全世帯に必要な物ではないですが、社会全体で見れば毎日どこかに利用者が居るものです。


7.自主防災組織

 ここでは以下6項目が掲げられました。

  1. 自主防災組織における女性の参画を促進する。
  2. 自主防災組織における男女の理解の促進や女性による自主防災組織の形成を支援する。
  3. 性別による役割の固定や偏りが起きないよう、自主防災組織内の活動の分担に配慮する。
  4. 地域の課題に取り組む女性を育成し、防災分野にも活動を広げるよう促す。
  5. 平常時から女性が集まることができ、防災に取り組める場所を作る。
  6. 女性リーダーの育成を推進し、平常時からリーダー同士の連携や情報共有を図る。

 自主防災組織の何割が正常に機能しているかわかりませんが、阪神淡路大震災など経験して、盛り上がって組織化したケースが何万件もありますが、組織化して20年以上経過してもなお、同じメンバーが続けているがために当時の40~50歳代が今は60~70歳代になり、活動が鈍化している自主防災組織をいくつも見たことがあります。

 年齢層が高く、昔ながらの男性のみの組織であるとすれば、女性の参画を得ることは容易ではありません。
 女性に席を設けるよりは、女性のための自主防災組織があっても良いと思います。
 筆者がコンサルする場合は、古典的な高齢男性チーム、平日昼間に地域に居る若年~中年のチーム、生産年齢を中心とした活力あるマンパワーチーム、といった具合に3チームを作ります。この中の『平日昼間』は主婦を中心とした女性が中心になるかなと思いますが、筆者のように平日昼間でも地域で活動できる男性も含みます。

 3番から6番には『防災女子』の活躍が期待されます。


8.災害に強いまちづくりへ女性の参画

 ここでは性差の問題にフォーカスせず、広くバリアフリーを謳っています。

 トイレの課題について深掘りしています。

  • 性別や年齢等に関わらず、あらゆる人が暮らしやすいまちづくりを進める。
  • 指定避難所等のバリアフリー化を進める。
  • あらゆる人にとって使いやすいトイレの確保・管理に努める。


9.様々な場面で災害に対応する女性の発掘

 ここでの要点は2つです。

  • 地域、企業、学校など多様な場で活躍する女性に対し、女性の視点からの防災についての理解を促進する。
  • 自治会長などの地域の有力者や各組織の長である男性に、女性の視点からの災害対応についての理解を促進する。

 女性に対して、防災に関する女性の課題などを啓発することが述べられており、『防災女子』の活動に合致します。

 自治会長らに女性の課題を理解してもらうことは容易ではなさそうなので、これは強く啓発していかなければならないと思います。


10.女性団体を始めとする市民団体等との連携

 ここでは女性団体との連携や協働を促しています。

  • 男女共同参画センターに集まるネットワークを活用するなどし、女性団体と連携・協働する。
  • 社会福祉協議会、NPO、ボランティア、企業、学生等の多様な主体と協働する。

 地域に適当な団体がない場合もあるので、市外であっても適当な団体との連携が進められると良いと思います。

 『防災女子』の活動グループが連携先になることを期待します。


11.防災知識の普及、訓練

 教育訓練に関する話題に触れていますが、特にニーズの多様性について理解を深めることに力を入れています。

  • 防災に関する知識の普及において、災害時に女性と男性が受ける影響やニーズの違いについての理解を促進する。
  • 住民向けの訓練・啓発等において、女性の視点からの災害対応について考える機会を設ける。
  • 女性と男性が共に参画した防災訓練を、地域、企業、学校等多様な場で定期的に実施する。
  • 男女共同参画担当部局や男女共同参画センターは、女性の視点からの災害対応に関して、地方公共団体や関係機関の職員、地域住民等に対して、研修・啓発講座等により周知を図るとともに、地域の防災リーダーとなる女性人材の育成や男性リーダーの理解促進に取り組む。

 訓練の実施機会、頻度、対象など具体的に示しています。

 演習や訓練を生業とする弊社では、この分野での需要を喚起したいと思っています。女性や子供などのテーマ別に演習などを実施する機会が増えれば、それを教えるトレーナーの人材育成の機会も増え、層は厚くなり、トレイニーの水準も上がる、好循環が期待できます。同時に、生業としても成り立つようになれば、永続性や均霑性が高まります。


12.マイ・タイムラインの活用促進

 本分では以下のように書かれています。

  • 家族が協力してマイ・タイムラインを検討し、妻と夫、子供がそれぞれ、生活環境や世帯の状況に応じ、必要な対応を理解し、準備し、災害時に避難行動がとれるように促す。

 粒立てて『妻と夫、子供』と書く必要があるのかわかりませんが、言いたいことは家族の構成員それぞれが個々に準備しつつも連携する、といったことだと思います。

 筆者は『タイムライン』の制作支援に注力しています。対象は医療的ケア児のときもあれば、透析患者や透析施設のときもあります。それぞれに事情が異なり、タイムリミットの考え方や、期限後に迎える危機のレベルも違います。

 女性に特化して何かというよりは、パーソナリティに応じたタイムラインを制作することで、公助には頼れない部分が顕在化する可能性があります。


13.男女別データの収集・分析

 データ収集の際には、男女別の分析ができるように収集すべきとしています。避難所の入退名簿も男女別に把握できるようにすべきと具体的に示しています。

  •  被災状況等を調査する際には、男女別にデータを収集、分析し、女性と男性の影響や傾向等を把握する。
  • 世帯の状況を把握する際には、妻と夫など構成員ごとの意見を把握するよう工夫する。
  • 避難所ごとに作成する避難所名簿は、世帯単位とともに、個人単位で男女別に把握、作成するよう努める。

 県庁や市役所の方々であればデータ分析に慣れていると思いますし、生データを持っている側の人なので活用されやすいと思います。
 市民団体などが分析する場合、匿名化後のデータでは男女比くらいはわかっても、複数項目を紐づけることが難しく、例えば中学生以下の子がいる女性の内、常勤者として仕事をしている人の割合を知りたくても、2つが別々に公表されてしまっているために割り出せないというケースが多々あります。


第2部 初動編

14.避難誘導

 ここでは以下の3項目が掲げられています。

  • 旧来の防災無線などのほか、メールや SNS 等も活用し、広く迅速な情報発信を行う。
  • 妊産婦、乳幼児連れの保護者、高齢者や障害者等を在宅で世話している人に配慮した避難誘導・避難介助を行う。
  • 障害のある女性や高齢女性を支援する女性人材の人員配置や避難行動への同行についてあらかじめ検討しておく。

 1項目目ですが、防災無線の在り方にも問題があると思います。住宅の高気密化により防災無線が聴こえないのですが、屋外に居る人に注意喚起するためのものであって、宅内で聴こえる必要はないとする立場を取る自治体があります。ここで掲げられているSNSやメールを併用すれば良いと思いますが、防災無線とLINEが同じ内容で同時期に発せられることがない、という自治体もあります。
 すなわち、防災無線とSNSが独立してしまい、それぞれに流す情報が違ってしまっているため、単に両方を備えていれば良いという訳ではありません。

 2項目目の要配慮者に関する事項は、まったく手つかずと言う自治体も散見されます。
 災害コンサルをしている立場から見ると、当事者のニーズが正しく行政や住民に伝わっていないのではないかと思われるケースが多々あります。
 家から出られないので、給水車の水を持ってきてもらえるだけで十分である、というような家庭であっても『あそこは障害者の居るお宅だから素人は近づけない』とご近所さんが思い込んでいることも多くあります。

 難しく考えようとしているだけではないか、と思います。


15.災害対策本部

 ここでは都道府県や市区町村の災害対策本部に女性を登用しましょうという、ごく当たり前のことが記載されています。

  • 地方公共団体の災害対策本部の構成員に女性職員を配置する。
  • 男女共同参画担当部局を所管する構成員は、本ガイドラインに盛り込まれた事項への対応について、本部において、情報提供や問題提起等を行う。
  • 地方公共団体の災害対策本部の構成員となる男性職員に対しては、女性職員とともに、本ガイドラインに盛り込まれた事項について、研修等を通して理解を深める。
  • 地方公共団体の災害対策本部の下にチームなどの下部組織を構成する場合には、必ず、男女共同参画担当部局や男女共同参画センターの職員を配置する。

 グラフで示されている2016年のデータでは、女性比率が五分五分には程遠い数字です。
 見方を変えれば、倍増は簡単なことだと思います。災害対策本部は20人程度で構成、女性率5%ということは20人中1人しか居ない、男性1人を入れ替えれば女性は2人、倍増です。

 人数ではなく発言が重要ですので、少人数であっても発言の機会を貰えるだけで大きく変わります。人数が目的化しないことを願います。


 下図は国土交通省の訓練の様子ですが、2枚の画像は年が違います。しかしながらいずれも、女性ゼロです。

※.2022年9月追記



16.災害対応に携わる女性職員等への支援

 ここでは、自治体の職員における女性の課題について述べられています。

  • 子育てや介護等を行っている女性職員や男性職員が、災害対応業務に参画できるよう、子育て・介護支援に努める。その際、保育所、幼稚園、学校等の早期の復旧が困難な場合には、避難所、庁舎内、事業所内等で一時的に子供を預かることも検討する。
  • 女性職員が宿直等を安全・安心に行える環境を整備する。
  • 当該女性職員・男性職員のメンタルヘルスケアにも配慮する。

 冒頭の『子育てや介護等を行っている女性職員や男性職員が』という文章には違和感がありました。性別は2つしかないとしても、中性的な性別があるとしても『女性職員や男性職員』とする必要性が無いのではないかと思います。

 『学校等の早期の復旧が困難な場合』に庁舎内で子供を預かるのではなく、発災直後から働きたいと思っている職員が居れば、他の職員と同様に現場に出られるように、発災直後から滞在できる家族ステーションをつくることを考えるべきだと思います。
 筆者は医療機関や高齢者施設のコンサルティングをしており、発災直後に忙しさのピークが来たのち3日程度は落ち着かないであろう中で、マンパワーがいかに重要かを知っています。そこでコンサル先では家族の待機部屋を設ける事を推奨し、特に小学生以下のことを考えるとリハビリ室のように動き回れる部屋を確保することを提案しています。

 保育園などの早期再開を期待するのではなく、発災直後からの機動性が求められると思います。


17.帰宅困難者への対応

 ここでは帰宅難民について触れられています。

  • 一時滞在施設の協定を締結した施設に対して、男女共用のスペースだけでなく、男女別のスペースを確保するよう要請する。要配慮者用スペースについても男女別となるよう要請する。
  • 男女共同参画センターや女性団体と連携し、女性専用の一時受入れ場所を開設する。

 現状として、帰宅困難者の一時滞在施設は下図が少なく、場所を提供してもらえるだけでもありがたい、といった状況です。

 平時は部外者の立ち入りを禁じているエリアも多いビルで、警備員の目が行き届かない中、不特定多数の人を受入れることだけでも大変です。そこに『女性エリアの設置』『性被害など無いように』などの条件を付けられたら、場所の提供を中止するビルオーナーは多いと思います。

 セキュリティ用の扉の設置、社員向けトイレを公衆化するためのリフォームなどに対し、公助の一環として費用負担するのであればお願いもしやすいと思います。
 帰宅困難者の多くは市外の人ですが、市内にオフィスや学校がある人達なので住民票は無くても法人住民税は払っている可能性が高いですし、飲食などでは消費者でもあります。
 その人たちが駅前などに何千人、何万人と溢れ、夜を明かすという状況は見るに堪えがたいです。

 帰宅困難者対応はインフラとして確立されておらず、男女問題以前の喫緊の課題です。


18.女性に対する暴力の防止・安全確保

 ここでは性犯罪や家庭内暴力などの対策について述べられています。非常に重要であり、難しい問題でもあります。

  • 性暴力・DV防止に関するポスター等を避難所の見やすい場所に掲示する。
  • トイレ・更衣室・入浴設備を適切な場所に設置し、照明や防犯ブザーで安全を確保する。
  • 避難所の巡回警備は男女ペアで行う。
  • 女性用トイレや女性用更衣室には女性が巡回する。
  • 女性相談員や女性専用相談窓口を設置する。
  • 警察、病院、女性支援団体と連携する。

 啓発ポスターの例は下図のとおりでした。相談を促すポスターは在ったら良いなと思います。ただし、電話やメールでの相談は、通信状態の問題にも配慮しなければならないので、要検討課題だと思います。


 避難所の巡回警備、警察や病院との連携などは、実効性の評価データが欲しいところです。
 頻繁に巡回はできないため、犯行現場との遭遇は奇跡的です。避難所に居る人は巡回頻度も察してしまうため、空白期間に犯行に及ぶでしょう。
 警察や病院は多忙を極めている非常時に協力は得られないと思います。

 筆者がコンサルする場合、まずは脅威分析から始めます。
 例えば更衣室の覗き見について、目視されるのと撮影されるのでは影響が違います。1人の記憶か、無数の人に記録されるかで人生が変わってしまいます。似た行為ですが、脅威レベルが違います。


第2部 避難生活

19.避難所の開設・運営

 ここでは避難所に関する事項が記載されています。
 ここから先の避難所の話題は想像しやすい人が多いのか、急に冒頭リストの量が増えた気がします。

  • 管理責任者(リーダーや副リーダー)に、女性と男性の両方を配置する。
  • 避難者による自治的な運営組織に、女性の参画を促す。責任者や副責任者等の少なくとも 3割以上が女性となることを目標にする。
  • 避難所チェックシートを活用し、巡回指導を行う。
  • 避難所での生活のルール作りを行う際には女性の意見を反映させるよう促す。
  • 特定の活動(例えば食事作りや片付け等)が特定の性別に偏るなど、役割を固定化しないように配慮する。
  • 避難者の中には、DV やストーカー等の被害者が含まれている可能性もあることから、避難者名簿に個人情報の開示・非開示について本人確認を行う欄を設け、個人情報の管理を徹底する。

 管理責任者を男女両方配置することに問題はないですが、本質的には老若男女を網羅的に検討することが重要です。
 あらゆる課題について老若男女の立場からの意見を求め、検討することがなければ、人数でのバランスに留まってしまいます。バランスよく運営できるリーダーであれば、男性または女性が1人で責任者を務めるとしても問題はないはずです。

 議決の場では、男女比7対3では女性が不利なので『3割以上が女性』という人数とは別に、議決権を半々にする工夫が必要だと思います。

 役割分担については、『食事作りや片付け等』に女性が偏ることが問題ではなく、全体の業務量としての不平衡に問題があります。
 避難所は生活の場になるので、避難者は食事、排泄、居住をします。製造や販売などの業務はありません。極端に言うと『食事作りや片付け等』以外の業務がありません。業務の100%を女性が担うことに問題があります。
 筆者がコンサルする場合、すべての業務のリストアップから始めます。個人の事、全体の事、すべての行動を業務としてリストアップします。その中から優先性や重要性を評価していき、その頻度などから業務量を定義します。
 全ブースを回って声掛けするのは小学生以上ならできる、トラックから救援物資を降ろすのは中学生以上ならできるが高齢者にはキツい、などの議論をすることで、業務の100%が女性に偏るようなことは無くなると思います。


20.避難所の環境整備

 ここでは環境整備について述べられています。

  • プライバシーの十分に確保された間仕切りにより、世帯ごとのエリアを設ける。
  • トイレ・物干し場・更衣室・休養スペース・入浴設備は、男女別に設ける。授乳室を設ける。
  • これらの施設を昼夜問わず安全に安心して利用できるような配慮を行う。
  • 女性用品の配布場所を設ける。
  • 女性用トイレの数は、男性用トイレの数に比べ、多くする。多目的トイレも設置する。
  • 運営体制への女性の参画を進める。

 まず、リスクマネジメントについて、避難所内でのリテラシーを高める教育が必要であると思います。
 本来は平時に行うべき教育ですが、その教育を受けるべき人が参加しないであろうと考えると、発災後に実施せざるを得ないです。

 『プライバシーの十分に確保された間仕切り』については、布一枚でも『十分』と思う人と、簡単に侵入できるので無理という人が居てしかるべきです。
 筆者の友人でも、遊びで行ったキャンプのテントに泊まることができず、車中泊した人が居ました。その場になって自身の恐怖心に気づく人も居ます。

 物干し場を男女別にすることは、耳障りが良く、優れた方法に見えますが、リスクマネジメントとしてはいかがでしょうか。
 女性用の物干し場に行けば、女性の衣類しかない、盗人にとっては率の良い仕事ができるとは考えられないでしょうか。
 ケガをして物干し場に行けない妻の下着を、夫が代理で女性専用物干し場に干しには行く訳にはいかない、では男性専用物干し場に干すべきなのか、他人に託すべきなのか、いかがでしょう。
 男女別にすることは有用ではありますが、すべての問題が解決される訳ではないので、少数意見、マイノリティにも傾聴することで様々な解決策が考案されると思います。


21.要配慮者支援における女性のニーズへの対応

 ここでは要配慮者の支援について述べられています。主に啓発的な内容です。

  • 福祉避難所や各地域防災拠点等でも、女性と男性のニーズの違いに配慮する。
  • 福祉避難所や各地域防災拠点等の運営者や支援者に対して、女性と男性のニーズの違い等に配慮することの重要性について周知徹底する。
  • 専門的な人材の確保については、他の地方公共団体や関係機関、民間支援団体等と協定を締結し、災害時の対応、広域連携の方法等について事前調整する。

 『重要性について周知徹底する』といった文言は何度も出てきましたが、年齢性差について配慮に欠ける人が多いということをこのガイドラインでは言いたいのではないかなと思います。

 3項目目の『専門的な人材の確保』について、発災後は専門人材は多忙であること、遠方からの救援が被災地に届くまで2~3日はかかること、個々の避難所まで救援が行き渡る可能性が低いことを考慮すると、被災地内で完結できる方法を平時から確立しておく必要があると思います。少なくとも72時間、健康を害さない程度のケアができる初動体制が必要です。

 乳幼児や妊産婦へのケアについては、当事者としての経験を持つ女性が地域にもたくさん居ると思いますので、ここは自助や共助でどうにかなるかなと思います。もちろん、授乳スペースの確保などに管理者らの理解が必要です。

 高齢者ケアについても、家庭に高齢者が居る/居たという人は少なくないと思いますので、多少のケアはできると思います。高齢者は大人、自ら意見を述べられる人も多いため、ケア不足ということは回避できるかもしれません。

 障害者ケアとなると、そもそも障害者と接したことがない人が圧倒的に多いと思いますので、ハードルが高くなります。父が働きに出て、母がケアラーを務めるという家庭も少なくないため、女性問題としてケアラーが取り上げられることが多くなります。


22.在宅避難・車中泊避難対策

 ここでは避難所などの集団生活ではなく、個々の自助について述べられています。

  • 在宅避難者、車中泊避難者についても、名簿登録を進め、女性と男性のニーズ等の違いを把握し、必要な対応を行う。
  • 在宅避難者、車中泊避難者に対しても、避難所に集積される物資や情報を提供する。

 在宅避難(自宅避難)や車中泊については、自治体の仕事ではないためか名簿すら作られない状況が問題になりました。

 自助にかかる経費は、避難者の自己負担です。
 災害で住居を失った人が避難所に身を寄せて、着の身着のままで避難してきたので食事や毛布を公助として提供することには誰も異論はないと思います。
 一方で、住居は無事であるが被災者なのだから受けられるサービスは受けようということで、備蓄などに費用負担しなかった人が公助を受け、自費を使った人が公助を受けられない、という不公平感のある自助推進には、異論が出ています。

 医療的ケア児など在宅医療や介護を受けている家庭では、避難所利用を最終手段と考え、在宅避難を選ぶ人が多いです。家計に余裕があるか否かでない人たちへの、支援が求められています。

 過去の地震を振り返り、自助・共助・公助が見直されることに期待しています。


23.災害関連死の予防

 ここでは災害関連死について述べられています。急に具体性がない漠然とした内容になった気がします。

  • 避難所の生活環境の改善を図る。
  • 避難者のうち、特に要配慮者や妊産婦の健康状態の変化に注意を払う。
  • 車中泊、在宅避難者など、避難所外の避難者への声かけ、見守りを続ける。
  • 被災者の精神面での回復・安定をサポートする支援を行う。

 災害関連死については、最近も議論がありました。
 『○○地震を超えた』といった報道が被災者に動揺を与えています。
 マスコミは災害の規模の評価として死者数を用いる傾向があり、東日本大震災では毎日死者数欄が確保されていました。


 災害関連死として、被災者の肺血栓塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群が1つの課題として挙げられています。
 女性問題で言えば、妊婦は血の巡りが悪くなりやすいので、注意が必要です。

 運動しない、水分を摂らないことが血栓を生む要因になるため、被災地での運動や水分摂取の促進が重要です。
 トイレ事情が悪いために水分を控える人が多く、根本原因はトイレの衛生状態や便器数の問題であると言えます。
 筆者は国立循環器病研究センターの視察団員として東日本大震災の被災地を訪問しましたが、いずれの場所でもトイレ問題があり、循環器疾患との関連が疑われました。


24.物資の供給

 ここでは物資について述べられています。再び冒頭の文量が多くなった気がします。

  • 女性用品を配布する際は、女性が配布を担当する。
  • 女性トイレや女性専用スペースに、女性用品を常備する。
  • 男性の物資ニーズや受け取りやすい配布方法にも配慮する。
  • 女性の多様なニーズを把握するために、女性支援団体等との連携によるニーズ調査や、女性の声を拾うための意見箱の設置等を行う。
  • 把握したニーズを基に、物資調達・輸送調整等支援システムを利用して女性用品、乳幼児用品等を調達する。
  • 在宅避難者や車中避難者に対しても、女性用品、乳幼児用品等の物資の提供を行う。

 『女性用品を配布する際は、女性が配布を担当する』がすべて正しい訳ではなく、どのような事情や理由から女性が配布するべきか、目標志向で検討する必要があります。
 女性用品を使うのは女性ですが、受け取るのが女性とは限りません。思春期の中2男子が、母や姉妹のために受け取りに来る可能性もあります。
 受け取りやすさが重要なので、自由に持ち去れるような配慮も必要な場合があることに、配慮すべきかもしれません。

 『女性用品』にフォーカスすることよりも、必要な物品のリストアップに女性用品も掲載されることを普遍化することが重要です。

 ある被災者にお聞きした話では、女性用品として生理用品を用意してくれるのはありがたいが、生理用品を用意したことで自己満足する人が居る事を指摘していました。本当は化粧水が欲しかった、洗濯できないので使い捨て下着が欲しかった、といった意見もありましたが『避難所に生理用品を送った』というのがステータスのようになっていたと話していました。

 遠方からの支援でも的確なメニューを提案できる『防災女子』の育成は急がねばならないと思います。


25.保健衛生・栄養管理

 ここでは公衆衛生的なことが述べられています。

  • 妊産婦や乳幼児にとって衛生的な環境を確保するための対策を行う。
  • 妊婦や母子専用の休養スペースを確保するなど、生活面の配慮を行う。
  • 妊産婦や母子への相談対応を行う。同性の支援者でないと相談しにくい悩みもあることから、女性の相談員を配置する。保健師や助産師等と連携する。
  • 保健師、助産師、管理栄養士、歯科衛生士等の専門職や、女性団体、子育て支援団体、母乳育児支援団体等と連携して、妊産婦や母子をはじめとする女性のニーズに対応する。

 妊産婦は女性であるので、妊産婦について取り上げることは重要です。

 妊産婦について取り上げなければならないほど、行政担当者らが無関心であるのかもしれません。
 ある自治体の危機管理室長は『妊婦は病人でないので、市として関与する必要がない。県が保健所として対応すれば良い』と堂々と話しておられました。

 実際、断水時の給水の優先順を調査したところ、分娩や外傷治療よりも血液透析を優先するという市水道局が多かったです。
 分娩に予定日はありますが、妊婦の都合で変えられるものではありません。出てこようとする赤ちゃん次第です。一方で透析は数時間や数日の変更は可能な場合が多いです。このあたりの情報は市職員に行き渡っていないようなので、保健師や助産師の意見にも傾聴してもらいたいです。

 妊産婦や乳幼児以外でも保健領域の仕事はあります。医師や看護師の意見も聴取してもらいたいです。


26.避難所の生活環境の改善

 ここでは、発災直後ではなく数日後、環境改善について述べられています。

  • 避難所チェックシートを活用し、女性と男性のニーズの違いにきめ細かく対応できているか、継続的に、確認する。
  • 女性職員や女性の応援職員、男女共同参画担当部局や男女共同参画センターによる巡回指導を行う。
  • 男女共同参画担当部局や男女共同参画センターは、女性団体等と連携を図りながら、様々な女性の不安や悩みの相談対応を行う。

 環境改善はQC(quality manaegment)活動や5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動の一環として出来ると思います。
 何を以って良質と言うのか、清潔と言うのか、といった基準が男性と女性で違うかもしれないですし、平時の生活環境によっても違うと思います。


27.子供や若年女性への支援

 この項では子供や若年女性について述べています。

  • 子供や若年女性への性暴力の防止を周知する。
  • 子供や若年女性の不安や悩みに関する相談対応を行う。

 具体策は、他の項目で述べられている内容で十分なので、ここは注意喚起として『子供』『若年女性』の存在に目を向ける機会を設けましょう、といった感じで作った項目かなと思います。


28.市町村域等を越えた避難生活

 ここでは市外での支援について述べられています。

  • 遠隔地で避難生活をおくる場合、子育てや介護上の心配・負担が増大したり、世帯が市町村域等を越えて分離して生活したり、家族関係が複雑となるケースも少なくないため、男女別の課題の把握や支援を行う。
  • 遠隔地で避難生活を送る女性たちが繋がれる場や機会を提供する

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大でも話題になりましたが、ウイルスは市境を超えない訳ではありません。
 自然災害も、市境や県境を超えないわけではありません。
 人間が決めた境目で分け隔てることがナンセンスと言えるかもしれません。

 自然災害の場合、被害の核心地から離れれば被害が少ない、十分に遠くまで行けば平時のままです。
 そこへ避難すれば、平時の日本らしいサービスを受けることができますが、市境を超えた時点で全額自費、例えば滞在する場所も自らホテルやレンタルスペースを取る必要があります。

 過去の地震では、遠方に疎開した住民の下に、まったく情報が入って来ないという状況になっていました。
 市役所に連絡したいが電話はつながらない、連絡フォームなどもないのでどうして良いかわからない、という状況でした。
 市側としては安否不明者リストに名前を挙げてしまうことすらあるので、把握しておきたい情報です。

 都市部では電車の事故などで運休すると、振替輸送として競合他社の路線を利用することがあります。民間レベルでは互助の仕組みが在り、利用者の不便を軽減する努力がみられます。
 公助としても、県や市レベルではなく、国レベルで危機管理庁のようなところが采配してくれると、被災者にとって有益、すなわち国民の利益になると考えます。

 NFT的な制度でも良いのかなと思います。
 他市の被災者を受け入れた場合、避難所開設で何ポイント、受入人数1人で何ポイント、といった具合に危機管理庁からポイントが付与され、市職員の活躍が市民にも可視化されるかなと思います。
 ポイントは特別な何かに交換、例えば救急車1台とか、Jリーグの地方試合誘致とか、有形無形問わず豪華メニューがあると良いなと思います。


第2部 復旧・復興

29.復興対策本部

 ここでは復旧や復興におけるヘッドクォーターの話題に触れています。

  • 復興対策本部の構成員に女性を配置する。
  • 復興対策本部の事務局に女性職員を配置する。
  • 復興対策本部の構成員、事務局を担う担当部局職員に対して、本ガイドラインに盛り込まれた事項に関する理解を促進する。

 内容としては災害対策本部の項とほぼ同じです。


30.復興計画の作成・改定

 ここでは復興計画について触れています。

  • 意思決定の場への女性の参画を促進する。
  • 有識者などによる委員会を設置する場合、女性を3割以上とする。
  • 住民参加型ワークショップや意見交換会、住民一人ひとりを対象としたアンケート調査などを通じ、女性の意見を把握する。

 地方防災会議や避難所運営の項と似た内容になっています。


31.住まいづくり
(応急仮設住宅・復興住宅の供給と運営)

 復興住宅などについて述べています。急にテクニカルな感じ、ディテールにこだわっている感じの項目になっています。

  • 応急仮設住宅や復興住宅等の計画・設計において、意思決定の場への女性の参画を促進する。
  • 屋外照明の設置など、女性への暴力の発生が起きにくい環境を作る。
  • 集会施設など交流ができる場を設置し、女性も男性も、引きこもりや孤立を引き起こさないようにする。
  • 建設型応急住宅などに管理人を置く場合、女性と男性の両方を配置する。
  • 建設型応急住宅では自治会などの育成を図り、役員に女性を 3 割以上配置する。
  • 入居者名簿は、世帯単位とともに個人単位でも作成し、男女別に把握する。
  • 自治会における生活のルール作りに当たっては女性の意見が反映されるようにする。

 『交流ができる場』は物理的な面と、機会的な面の両面から整備しなければ実働しません。
 新たなコミュニティを形成するということは大変難しいことです。全員が初対面であれば新入生のように警戒し合うかもしれないですし、強固なつながりのある一部の人が仕切ると新参者が入りづらかったりするので、難しいです。
 筆者は2011年から宮城県の仮設住宅群を訪問しましたが、非常に静かでした。しかしながら、集会場でスポーツレクリエーションを開催させて貰ったところ、ワイワイと騒いで貰えたので、仕掛けは大事だなと思いました。

 復興においては、新しい都市計画を実装していく必要があると思います。
 現在の住民が住みよいことは当然ですが、次の世代の住民、新たに引っ越してくる住民にとっても住みよくなければ地域が崩壊してしまいます。
 路地が狭いと建設工事がしづらい、消防活動もしづらい、夜道を歩くのも危険、といったことから拡幅したいと考える人が多いですが、そうなると誰かの土地を削らなければなりません。土地の区画整理も復興には重要です。地域にコンビニやカフェを誘致したければ、相応の土地を用意する必要もありますので、総合的に話し合える場が必要です。


32.復興まちづくり

 ここではまちづくりについて述べています。

  • 復興まちづくり協議会の役員のうち女性の比率を 3 割以上にする。
  • 復興まちづくり委員会のワークショップなどには、世帯主と配偶者(夫婦)を参画させる。
  • まちづくりの協議の場に女性が参画できるよう、地域の女性が周囲を巻き込み、女性に当事者意識を醸成する。

 まちづくり協議会などは、前述の復興住宅などとも深く関わります。どのような街にしたいのか、住み続けられる街とは何か、このエリアにおける競争力となる街とは何か、議論する場に女性が居ることは当然です。

 これから50~60年は暮らすであろう若年層が協議会に呼ばれていない、ということが多々あります。


33.保健・健康増進

 ここでは復興期の公衆衛生について述べられています。

  • アルコール依存や睡眠障害、心身の不調などについて、女性と男性で異なる影響も報告されており、女性と男性の双方の支援員等が巡回訪問等を行い、予防、問題の把握と解決を行う。

 この項はどのような専門家が担当したのかわかりませんが、色々な問題が潜在してしまいそうに思いました。

 掲げられている問題については『ニュータウン』の問題とリンクするところがありそうな、よく知られる問題が中心です。

 団塊世代以上の高齢者は、女性の社会進出の黎明期、男性が働いて女性は家に居るという時代背景もあり、女性の持つ社会が狭いため孤立しやすいという傾向が見られます。
 四年生大学卒の女性、男性並みの職位を持つ女性が増えた団塊ジュニア以下の世代では関係人口も増えており『同じ釜の飯を食べた』的な同士が助け合える環境づくりが重要になりそうです。


34.生活再建のための生業や就労の回復

 ここでは生活再建について述べられています。

  • 女性の雇用を通じて被災後の人口減少を抑制し、復興の促進やコミュニティ維持を図る。
  • 仕事復帰における男女の差を減らすため、子供や介護を必要とする高齢者の預け先の早期確保、仕事と家庭を両立しやすい職場環境の整備、所得補償、雇用継続の取組を行う。
  • 緊急雇用対策事業や復興基金を活用して雇用創出、職業紹介、職業訓練等を実施する際には、女性が利用しやすいような工夫を行う。
  • 雇用統計を分析し、活用する。
  • 生活再建の支援制度について、適切に情報発信する。

 『女性の雇用を通じて被災後の人口減少を抑制』は、理屈がわかりづらいと思います。仕事を求めて他の地域へ移り住んでしまうということを言いたいのかなと思います。

 女性に限らず、被災地の雇用においては最低賃金も足かせになる場合があります。
 この仕事に1,000円までは出せるが、1時間以上かかってしまうと1,500円くらい支払わなければならない、それだと赤字になるので頼めない、といった具合に小さな仕事を作る事ができなくなります。
 フルタイムでは働けないが、合間で仕事をしたいという人にとって、小さな仕事が散発的に発生してもらえないと困る、というミスマッチが起こり得ます。

 家の片づけをしながら、子育てもしながら、夫婦で仕事をつくって行こうという場合に、仕事を与えるだけでなく創出していく支援も必要だと思います。

 筆者は2011年、岩手県で新たな『職』をつくるための『食』事業を提案しました。
 復旧や復興で何万人もの建設関係者が被災地へ流入することが予測できる中、誰もが必要な衣食住の内、毎日の消費が期待できる『食』事業を被災地で創業できるようパッケージプランを用意しました。


35.生活再建のための心のケア

 ここでは心のケアについて述べられています。

  • 男女共同参画部局や男女共同参画センターが平素から設置している相談機能を活用する。
  • 女性に対する暴力等の予防に関する啓発や相談対応を行う。

 心の問題は可視化しづらい、時期によっても変化する、非常に難しい問題です。

 ある被災地では震災発生から半年程度はお祭り騒ぎで皆が元気であったが、復旧が一段落し日常に戻っていくと、特別業務が無くなり一気に気持ちが沈んでしまうという様子が見られました。
 その経験があった筆者は、熊本地震から1週間程度で秋開催のイベントを企画し、被災地の知人に提案しました。半年先のことなのですぐに考える必要はありませんが、次の目標を掲げることで気持ちが沈むことを防ごうと、被災地でも先々の目標を掲げるようになりました。
 これが良い方法かどうかわかりません。コミュニケーションが取れている相手であるがゆえに許された提案だと思いますので、むやみに刺激することは避けましょう。

 生活再建においては、喪失感を埋められない人も多い中での活動なので、プロの介入が必要であると思います。




第3部 便利帳

 第3部では、様式(フォーマット)などの資料が掲載されています。

  • 備蓄チェックシート
  • 避難所チェックシート
  • 応急仮設住宅・復興住宅チェックシート
  • 男女別データチェックシート
  • 授乳アセスメントシート
  • 避難所の見守り・相談ポスター
  • 部屋札用ピクトグラムの例
  • 女性の視点からの空間配置図
  • マイ・タイムラインの例
  • お役立ち情報一覧


備蓄チェックシート


応急仮設住宅・復興住宅チェックシート


男女別データチェックシート


授乳アセスメントシート


避難所の見守り・相談ポスター


部屋札用ピクトグラムの例


女性の視点からの空間配置図


マイ・タイムラインの例


お役立ち情報一覧

お役立ち情報一覧①政策文書・ガイドライン

  1. 第 4 次男女共同参画基本計画(平成 27 年 12 月)
    (第 11 分野 男女共同参画の視点に立った防災・復興体制の確立)
      
  2. 災害対策基本法(平成 24 年 6 月 27 日改正)
    (女性の参画促進に向けて追加された地方防災会議の委員の任命条件)
  3. 防災基本計画(令和元年 5 月)
    (災害応急対策における男女のニーズの配慮、復旧・復興の場への女性の参画促進)
  4. 避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針(平成 28 年 4 月改定)
    (避難所における要配慮者(高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦等)への対応方法)
      
  5. 避難所運営ガイドライン(平成 28 年 4 月)
    (避難所における女性や子供への配慮事項、安全・安心、防犯対策事項)
  6. 避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン(平成 28 年 4 月)
    (避難所のトイレ設置における男女共同参画の視点からの配慮事項)
  7. 避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(平成 25 年 8 月)
    (要配慮者(高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児等)に対する避難行動支援)
  8. 授乳・離乳の支援ガイド(平成 31 年 3 月)
    (災害時の授乳及び離乳に関する支援) 

お役立ち情報一覧②国際的な方針・ガイドライン

  1. 仙台防災枠組 2015-2030
    (第 3 回国連防災会議の防災枠組。女性の参画やリーダーシップの重要性を記載)
  2. スフィアハンドブック(2018)日本語版
    (人道憲章と人道支援における最低基準についてのハンドブック)
  3. The Gender Handbook for Humanitarian Action 2017
    (機関間常設委員会(IASC)によるジェンダー視点に立った人道支援のハンドブック)
  4. 人道行動における子どもの保護の最低基準
    (原題:Minimum Standards for Child Protection in Humanitarian Action)
  5. 災害時における乳幼児の栄養に関する活動の手引き(2017)日本語版
    (原題:Infant and Young Child Feeding in Emergencies)
  6. 母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(1981)
    (原題:The International Code of Marketing Breast-milk Substitutes)

お役立ち情報一覧③調査研究報告書

  1. 男女共同参画の視点による震災対応状況調査(平成 24 年 7 月)
  2. 男女共同参画の視点による平成 28 年熊本地震対応状況調査(平成 29 年 3 月)
    (平成 28 年の熊本地震の際の男女共同参画の視点からの取組に関する検証・提言)
  3. 防災における女性のリーダーシップ推進に関する調査研究報告書(平成 28 年 3 月)
    (男女共同参画の視点からの防災研修プログラム紹介、女性リーダー育成に関する提言)
  4. 災害時妊産婦情報共有マニュアル(平成 28 年 3 月)
    (災害時の妊産婦への情報共有の方法に関する保健・医療関係者向けのマニュアル)
  5. 平成 29 年度防災分野における男女共同参画の施策の推進検討・調査業務報告書
    (国内外の事例分析に基づく地域防災の多様性についての情報・課題と今後の方向性)
  6. 東日本大震災被災地における女性の悩み・暴力相談事業報告書(平成 23 ~ 30 年度)
    (東日本大震災被災地における女性の悩み・暴力相談事業の実績と相談事例の紹介)
  7. 指定避難所等における良好な生活環境を確保するための推進策検討調査報告書(平成30年8月)
    (「避難所における良好な生活環境確保のための取組指針」策定に向けた検討会報告書)
  8. 2017 年度 女性・地域住民から見た防災・災害リスク削減策に関する調査報告
    (防災・災害リスク削減分野での都道府県及び市区町村における男女共同参画の状況)

お役立ち情報一覧④その他(研修用資料、事例集 等)

  1. 内閣府 男女共同参画の視点からの防災研修プログラム(平成 28 年6月)
    (地方公共団体向け研修プログラム)
  2. 地域における男女共同参画の視点からの防災・復興に係る啓発資料
    (地方公共団体による地域住民向け啓発資料)
  3. 復興庁 男女共同参画の視点からの復興~参考事例集~
  4. 全国女性会館協議会
  5. 減災と男女共同参画 研修推進センター
  6. 母と子の育児支援ネットワーク(災害時の母と子の育児支援共同特別委員会)
  7. よりそいホットライン・よりそいチャット
    (24 時間・通話料無料の電話相談。外国語/聞き取りが難しい方対応、SNS 相談も有り)




おわりに

 防災や減災、災害復興などの現場における女性の地位は確立されていません。

 行政の会議体の多くが男性優位、人数でも発言力でも女性が強い場は少ないのが現状です。

 人口として半々、あらゆる場面で五分五分の関係である男女が、意見をする場になると男性が強く、押し付けられる仕事量は女性が多いのでは不公平、不平等と言わざるを得ません。

 災害時は我が身を案ずる、我が子を案ずるというサバイバル状態になり得ますが、我が身を脅かす避難所運営にならないように、平時から意見をかわすことができればと思います。

 災害に関して一定の知識を持ち、自らのために、周囲のために活動できる『防災女子』の育成を推進していきたいと思います。