少し前まで電力会社(電気事業者)は地域に1社、発送電を一括して担ってきました。
今では発電と送電は分業化され、昔からあった電力会社(電気事業者)は、発電事業者・送配電事業者・小売電気事業者に分けられました。
寡占は崩れ分担・分業されました。
太陽光発電の普及により売電も普及したので、発電の分散は始まっていましたが事業としてではなく、買い取りという方式が一般的でした。
これからは、誰がどのように作ったエネルギーを買うのか、工場などでは自給率100%以上を維持して発電事業者になるという事も考える時代です。
[Link] 経済産業省資源エネルギー庁: 送配電事業者一覧
[Link] 経済産業省資源エネルギー庁: 登録小売電気事業者一覧
中央or分散
今日の記事は中央管理or分散管理、一括供給or分散供給といった対比的な中で話題を進めます。
平時の電力は一般的に、発電事業者(東京電力や関西電力等)から送配電事業者を経て受電し、消費していると思います。何百万世帯分もの電力を大きな発電所で発電しています。
停電時には事業所毎に自前の発電機(自家発電設備)で一時的な対応をすると思います。
この自家発電設備は、防災用の場合は大型の物が1~2基設置され、関係する設備に供給される仕組みが多いと思います。中央で大きく発電して中央で管理する手法です。
これに対し、ある範囲内で必要な分だけ電力をまかなう方法があります。
サーバ室のUPS(無停電電源装置)はその例の1つですが、中央の発電機が動くか否かに関わらず、サーバ室だけ電源を確保するために設置されます。
今回はこの分散電源や分散管理について述べて参ります。
小出力発電設備
小出力発電設備は電気事業法施行規則第48条に定義が明文化されています。
電圧600V以下の発電用の電気工作物であって、以下1から6に掲げるものとなっています。
- 太陽電池発電設備であって出力50kW未満のもの
- 風力発電設備であって出力20kW未満のもの
- 次のいずれかに該当する水力発電設備であって、出力20kW未満のもの
a.最大使用水量が毎秒1m³未満のもの
b.特定の施設内に設置されるものであって別に告示するもの - 内燃力を原動力とする火力発電設備であって出力10kW未満のもの
- 次のいずれかに該当する燃料電池発電設備であって、出力10kW未満のもの
a.固体高分子型又は固体酸化物型の燃料電池発電設備であって、燃料・改質系統設備の最高使用圧力が0.1Mpa未満のもの
b.道路運送車両法第二条第二項に規定する自動車に設置される燃料電池発電設備であって、道路運送車両の保安基準第17条第1項及び第17条の二第5項の基準に適合するもの - 発電用火力設備に関する技術基準を定める省令第73条の二第1項に規定するスターリングエンジンで発生させた運動エネルギーを原動力とする発電設備であって、出力10kW未満のもの
ただし、同一の構内で1~6の小出力発電設備が電気的に接続された場合の出力合計が50kW以上となった場合は、小出力発電設備ではありません。
同一種類の小出力発電設備が同一構内に複数ある場合においては、種類毎に合算したその種類の上限値では判断せず、個別の小出力発電設備の合算値が50kWの上限値以上であるかどうかで判断します。
[Link] 小型発電設備の規制の見直しについて (2010年1月)
太陽光発電への事故報告制度適用
以前から法に基づく報告制度はあったのですが、その適用が広がりました。
電気事業法第106条の規定に基づく、電気関係報告規則が2021年4月1日に改正され、電気事業法第38条第2項で定める小出力発電設備のうち、以下のものが追加されました。
- 10kW以上50kW未満の太陽電池発電設備
- 20kW未満の風力発電設備
太陽光発電は、パネル損傷による本体の発火、土砂崩れなどによりパネルと配線が断絶され、パネルが発電し続けた事による落ち葉などからの発火などが報告されています。
また、パネルが小さくても発電能力が高まっていますので、感電事故のリスクも高まっています。
[Link] 経済産業省: 事故報告制度について, 電力の安全
内燃式の発電設備
内燃力とは、シリンダーとピストンを有しその中で燃料を燃焼させることにより発生する往復運動を回転運動にして動力を取り出すタイプの原動機(エンジン)のことを指します。
昔からある発電機です。
エンジンが動かなければ無力、100kVAの高出力発電設備でも不始動なら出力ゼロ、家庭用の1kVAの発電機より小さいです。
発電機が動かないという事が本当にあります。
岩手県から出されている資料の40ページに非常用電源のきじがありますが、途中で停止してしまうリスクなどが書かれています。
日本内燃力発電設備協会の報告書では東日本大震災での始動率が99.6%、阪神淡路大震災が95.3%であった調査報告がされています。
[Link] 岩手県: 東日本大震災津波からの復興 岩手からの提言
[Link] 日本内燃力発電設備協会: 東日本大震災における自家用発電設備の稼働・被災状況 その1, 内発協ニュース 2012年3月号
[Link] 日本内燃力発電設備協会: 東日本大震災における自家用発電設備の稼働・被災状況 その2, 内発協ニュー1ス 2012年4月号
[Link] 日本ガスタービン学会: 東日本大震災におけるガスタービン設備の信頼性の調査研究結果
[Link] 河北医療財団: 河北医療財団の災害対策, かわぴたる 特別号
[Link] 総務省消防庁: 消防用設備等の点検と自家発電設備に関する留意事項, 防火対策の推進等
送電事業者の復電対応は想定外の連続
発電機が始動しないというのは想定外ですが、報告書で示されているので、ある意味では想定内にしておく必要があります。
2019年の台風15号は、鉄塔が倒れるというすさまじい風を伴う台風でした。
倒木により停電した場所へ入れない、建柱車が入れないなどのトラブルが続き、復旧が遅れた事も記憶に新しいと思います。
このようなトラブルは2018年の台風21号でも関西電力管内で発生しており、山林でなくても商店街のアーケードが崩落して立ち入れないなどの事例がありました。
[Link] 経済産業省: 台風15号の停電復旧対応等に係る検証結果取りまとめ
電気自動車による分散型の停電対応
電気自動車に搭載されている電池は進化しています。
そして、自動車に見合う価格へと近づいています。
一般住宅でも、電気自動車用の充電設備を設ける家庭が増えていますが、更に自動車からの給電もできるようにする家庭も増えています。
当社では以前から、訪問看護などに使われる社用車を電気自動車にし、それを病院の補助電源にしてはどうかと提案を続けてきました。
電気自動車の購入に補助する制度もありますし、医療機関の行動範囲はさほど広くないので燃料切れ(充電切れ)を起こすような事も滅多にないと思います。
在宅人工呼吸療法を行う患者宅にも電気自動車を勧めています。
[Link] 国土交通省: 災害時における電動車の活用促進マニュアル
[Link] 経済産業省: 災害時における電動車の活用促進マニュアルを取りまとめました (2020年7月10日)
汎用ガス発電装置
在宅医療における停電対応の研究のために調達したenepoはカセットガス2本で動作します。
災害対策本部で使われる電力程度であればまかなえるので、医療機関でも使えると考えています。
片手でも持ち上げられるくらいなので、ベランダや屋上などに置いて使う事もできるため、使用場所を選ばない発電機だと思います。
ガス交換時に停電することと、1~2時間程度でガス交換時期を迎える点が難点ですが、医療機器は電池内蔵機種も多いので、さほど大きな問題ではないと思います。
保安用ガス発電装置
プロパンガス(LPガス)を燃料とする発電機です。
プロパンガスは可搬性があり、容器に密封されているのでガソリンなどよりは安全です。
ボンベをマニホールド経由で発電機に接続すれば、ボンベをどんどん交換して何時間でも供給し続けられます。
当社では昭栄様の『ガス電くん』に対し医家向けのカスタマイズなどをお願いしています。昭栄様と直接連携しています。
[Link] 日本内燃力発電設備協会: 『ガス電くん』納入実績300件超 LPガス非常用発電装置を設計製造, 内発協ニュース 2017年3月号
[Link] 高齢者施設への非常用自家発電設備等の導入に関する調査研究事業報告書
[Link] 日本内燃力発電設備協会: 非常用自家発電設備を電力需給対策に使用する場合の留意点等, 自家発Q&A 33, 内発協ニュース 2018年12月号
[Link] 総務省消防庁: 第24 非常電源(自家発電設備)
透析施設の停電対策
自治体では透析医療の継続について注力している所が多いですが、その規模感については臨床と一致しているか確認が必要です。
わが国の透析患者数は30万人以上、人口比で0.3%近くです。人口10万人都市で300人程の計算になります。
透析は1回4時間、入替時間を考慮すると2日あたり8件が限界に近いと思います。300人を透析するには38床必要です。
災害に市内患者を全員透析しようと計画するのであれば、10万人都市であれば最低38床が必要であり、クラッシュ症候群などの急性血液浄化にも対応するのであればそれ以上が必要になります。
市立病院等の透析を維持するために公費を充当する例は多く見られますが、市内透析患者を市外に出さずに治療する計画までは見る事がありません。
過去の災害では、患者だけ市外に避難させようとして、家族とは離れたくないと拒まれて計画通りには進まなかった事例が多くあります。市内に留めるか、患者数の数倍のバスを用意する必要があります。
断水に対しては給水車で搬入できますが、電力は容易ではありません。
市内患者を市内透析施設で対応するためには、透析施設での発電が不可欠になります。
小出力発電設備は重量0.5トン未満の物も多く、テナントビルのエレベーターでも運べる場合もあります。
屋上や駐車場などに設置でき、維持管理もさほど難しくなく、キュービクル式であれば消防法にも抵触せずに設置できます。
透析施設においては機械室と治療室に分けて考えます。
機械室が動かなければ透析は出来ないため、機械室の最低限の稼働を検討します。
治療室はベッドサイドコンソール1台あたりの消費電力を実測して調整します。機械室が上手く稼働できない場合はECUMやHFでの治療も視野に調整します。
当社では独自に透析装置の電力消費量や発災時の配置について研究しています。
貴院の透析関連の消費電力等を調査したい場合はご相談ください。
[Link] 日本透析医学会: 東日本大震災学術調査報告書 -災害時透析医療展開への提言-
[Link] 日本透析医学会: 震災による透析医療の被災の実態
過負荷
発電機にとってボトルネックとなるのが過負荷による遮断です。
特に医療では、非常電源につなげば安心という意識から、生命危機に関わりそうな医療機器が非常電源に接続されます。
しかしながら常用電源に比べて供給量が少ない非常電源ですので、過負荷が起こりやすくなります。
非常時に過負荷を起こさないためのルール作りやトレーニングを推進し、危機的状況に陥らない備えを我々はお手伝いしています。
一般に『過負荷保護』とは電路上での安全、電線が燃えてしまったりしないように保護するものであって、負荷側にある生命を守る物ではありません。
医療の特殊性として、負荷である医療機器の動作停止が生命や健康に関わるため、過負荷保護装置(ブレーカー)が作動する事で電路の安全が守られても患者には危険が迫ります。
過負荷を避ける努力が不可欠です。
[Link] Panasonic: 知っておきたい電気の基礎知識
大規模停電
大規模停電は毎年のように起きています。
当社も2018年9月に3日間停電していますし、停電が解消された9月6日には北海道胆振東部地震が発生し全道停電も起きています。
大停電は起こる事を『想定内』にしておかなければならない時代です。
大阪北部地震での事例
2018年6月に発生した大阪北部地震では、国立循環器病研究センターでの停電が話題となりました。
※.詳細はリンク先の新聞記事等をご参照ください。
停電が発生し自家発電に自動的に切り替わって供給される仕組みは同センターにも備わっていました。
自家発電設備は正常に動作しても、臨床まで送電されないというトラブルが現に発生し、多くの患者を他院搬送して救うという事態に発展しました。
このようなケースはどこでも発生し得ると考えられます。
電気工事業をしていると少なからず経験するのが小動物です。特に農家さんでネズミやイタチなどが感電死したという事で対応した経験が何度かありますが、受変電設備(通称キュービクル)の中に昔ですと猫が、小動物対策された近年でも蛇などが入って電源を喪失するという事故は絶えません。
構内送電設備の途中で小動物のトラブルが発生するので、自家発電設備が稼働しても、構内での送電ができないので無力化されてしまいます。
[Link] 日本経済新聞: 病院、地震後あわや一大事 自家発電に不備・診療休止も (2018年6月29日)
[Link] Yahoo!ニュース: 【特集】大阪北部地震から3年…あの日起きていた「医療の危機」 命に関わる「非常用電源」をどう守る? (2021年6月18日)
[Link] 朝日新聞: 国立循環器病センター混乱 入院患者40人を他院へ搬送 (2018年6月18日)
[Link] 経済産業省中部近畿産業保安監督部近畿支部: 電気事業法の遵守について(厳重注意), 2018年7月25日
[Link] 国立循環器病研究センター: 国立循環器病研究センターの自家発電機に係る法定の保安検査の状況について (2018年6月22日)
[Link] 厚生労働省: 病院の非常用電源の確保及び点検状況調査の結果 (2019年7月31日)
分散発電による強靭化
中央から一括供給される自家発電設備は、力強さがありますが構内送電網のトラブルなど脆弱性も顕在化しています。
それを補完するのが分散型の発電機です。
すべての需要に対して分散発電で対応しても良いと思いますが、それには課題もありますので、合理的な方法を選択する事が重要になります。
中央発電の良さは1基の稼働で広範に供給できる事であり、消火設備や避難エレベーターなどが1基の稼働で賄われます。保守点検も1基だけで済みますので経済的です。
分散発電は中央発電の1基分の電力を10基や20基で賄うので保守点検の件数は増加します。
一方で不始動や停止の影響は10分の1以下、仮に10基中1基のエンジンがかからなかったとしても、残る9基から延長コードなどを使って補完できればリスクは激減します。
医療機関における自家発電設備は、診療報酬などの収入に直結しないコストであると言えます。
また、災害拠点病院等でなければ、災害時に新患を受け入れて積極的に医療を提供し続ける必要は無いと考えられます。
そのような背景がありながらも、現に入院中の患者を守るためや、地域の求めに応じるために自家発電設備を設置しています。
自院が守るべき医療、提供すべき医療に合わせて発電も再考していくとなれば、分散発電が非常に便利だと考えます。
従来の考え方では建築や設備に主導権があり、管理のし易さなどから中央発電方式が採用されてきましたが、消防法や建築基準法に拠らない自助のための自家発電であれば、分散発電でも良いと考えられます。
『20基も面倒を見られない』ではなく、どのようにすれば20基を管理できるのか、必要に応じて臨床家の手も借りて管理していく方法が必要であると考えます。
小出力・多数・現地
私たちは小出力発電設備を多数使用し、現場で必要な分の電力供給を担う方法を研究しています。
2013年には災害対策本部の単独電源としてのカセットガス式可搬型発電装置に関する研究に1つの結果を得ました。
連絡や情報管理用のパソコンとプリンタ、テレビが視聴できてカンファレンスで情報共有もできる大型テレビ、携帯電話や無線機などの充電器、作業に最低限必要な照明などが1台の発電機で対応できました。
2019年にはプロパンガス(LPガス)を燃料とするやや大型の可搬型発電機を用いた実験を大学病院で実施しました。
人工呼吸器などの生命維持管理装置をはじめ、多くの医療機器が正常動作することがわかりました。
2021年には、分散発電を病院の停電対策に展開するための研究を進めました。
私たちは、医療機関が停電に負けず事業を継続できるよう、独自の研究結果もまじえてコンサルティングしています。