合格者数52,239人
2022年3月7日に実施された臨床工学技士国家試験において、2,232人が合格しました。
これにより、延べ52,239人が合格したことになります。
公益財団法人医療機器センター:臨床工学技士国家試験 実施結果
合格者数は横這い
合格者数の過去10年の平均は2,092.8人、5年平均は2,204.6人です。
受験者数の過去10年の平均は2,662.4人、5年平均は2,761.2人です。
10年前の第25回国家試験では、移行期間終了後初めて受験者数が2千人を超え、臨床工学技士数は大きく増加しました。
再受験者数は不明
臨床工学技士について詳細な資料がないため再受験者数は不明ですが、国家試験に合格しなければ医療機関等への就職は取り消される可能性が大きく、1年間の浪人生活を送れる財力がなければ他の職業に就いている可能性があります。
ただし、合格率が低水準であった第29回(合格率72.5%)の翌年は受験者数が10年平均よりも284.6人多く、前回より208人増、次回より210人増であったことから、再受験者は一定程度は居る事が推測されます。
もうすぐ定年退職
実数は不明ですが、もうすぐ定年退職ラッシュが来るかもしれません。
仮に22歳で臨床工学技士免状を取得するとして、60歳で定年であれば38年前に免状取得した人が定年の年です。
2022年の試験で34回目でしたので、あと4回先、4年後の2026年の国家試験開催の年度に60歳の誕生日を迎える人が居れば定年退職です。
言い換えれば、あと4年は定年退職者が居ない(少ない)ということになります。
定年退職が居なければ増加の一途
定年退職者が居ない、新規免状取得者は年2千人規模で増えるという実態からすると、臨床工学技士が減る要素がありません。
減るどころか、ものすごい勢いで増え続けています。
増え続けるとどうなるかと言えば、人口密度が高くなります。
全員が臨床、医療機関勤務の臨床工学技士として働きたいと希望すると、2022年現在で5万人ほどの枠であるのに対し、10年も経てば7万人がその枠内に入ろうとします。
定年延長がもたらす影響
上図は60歳定年制を前提とした『技士減』と、ここ数年の平均合格者数から試算した『技士増』のグラフです。
合格者の5年平均は2,204.6人なので、定年退職者が年2千人居たとしても200人ほど増えます。
移行期間後の国家試験では合格者数が1千人に満たないですし、移行期間中に免状取得した人の多くがダブルライセンスなので、わざわざ臨床工学技士を名乗らずとも地位が確立されていたので、臨床工学技士として定年退職しません。
すなわち、移行期間の人が定年退職の年齢を迎えても、在籍枠に空きができる訳ではありません。
さらに、定年退職の年齢が引き上げられていますので、そもそも60歳では定年退職しないということになります。
『0.1人』がもたらす影響
制度上の問題ですが、在籍数はユニーク人数でカウントされ、業務量では考えられていないケースが多くあります。
現在10人の常勤者で年間20,000時間の勤務があったとします。10人でシェアするので1人2,000時間です。
この内の1人が定年退職し、そのまま再雇用として週3日、すなわち従前の6割で勤務することになったとします。
すると9人の常勤と0.6人の非常勤で、従前の20,000時間の労働をこなすことになります。
非常勤者は0.6が上限、すなち1,200時間が上限だとすると残る18,800時間を9人で割ると1人2,089時間ずつ、年間89時間分の労務負荷増加になります。
これが残業で消化できる業務であれば良いのですが、もし日勤帯にしか業務が無いとすれば、日勤帯で消化しなければなりません。
年89時間ということは月7.5時間くらい、1日の勤務に相当しますので、休みを1日削ることになります。
1日削るということを現金化できれば、割り切って働けるかもしれませんが、マンパワーがかつかつなので有給休暇の取得は容易なことではなくなります。
もし、出勤回数を増やさずにこの労働時間を埋めるとすれば、過密に働くしかありません。たぶん、昼休憩を削って働いてやっと日勤帯に業務が終わるといった休憩返上の『サービス残業』が常態化するのではないかと思います。
このケースだと0.4人ですが、このように1人に満たない欠員を埋める事ができれば良いのですが、なかなかできることではありません。
技士裁量パートタイマー
実装しているケースを見たことがありませんが、現場の裁量でパートタイマーを雇用して業務を回すことで0.1人の穴を埋めることができます。
前述の例で言えば定年退職した人の0.4人分の給与はどこかに浮いたのであれば、その分だけ臨床工学科に予算を配分してもらいます。
この0.4人分、仮に200万円としましょう。
業務負荷が大きくなった分の800時間を200万円に換金したとすれば1時間2,500円です。
1時間2,500円を上限にパートタイマーを雇う事ができれば、多少でも穴埋めをすることができます。
あるいは、この200万円を常勤者9人で案分することもできます。
似たことは実施経験あり
この欠員分を明確に予算化して実施した訳ではありませんが、欠員が出た分を頑張ったスタッフに臨時ボーナスを出したことはあります。
離職が止まらないということで急遽雇われた病院で、離職を止めることに成功はしましたが、それまでに失った人員を補充するには時間を要しました。
1~2割ほどの欠員があったので、残されたスタッフは2割増しの仕事をしていたであろうことに経営層から謝意を表してもらい、臨時ボーナスを出して貰いました。
パートタイムを請け負える技士プール
現在、欠員を0.1人単位で埋めるだけの人材プールが無いので空いた穴を埋めることが容易ではありません。
0.4人くらいの穴であれば時短勤務者を募集することで埋められるかもしれませんが、0.1~0.2人となると容易ではありません。
このようなニーズは実在しています。
当社でも見積依頼を受けたことがありますが、会社としてお引き受けするには人件費の実費以外に管理費がかかってしまいます。
仮に時給が2,000円だとしても法定福利費や交通費などで2~3割は上乗せが必要ですし、マネジメントする人件費もかかります。
契約に至るまでも経費がかかりますし、契約後も現場調整にはマネジャーが要りますので数万円の間接経費を見込む必要があります。
間接経費が月5万円でも12カ月で60万円、先述の200万円の例では3分の1が間接経費で消えてしまうことになります。
発注数が多ければマネジメント経費も案分できるので、この間接経費も低減させることができます。
0.1人ずつ未採用病院へ
常勤臨床工学技士を1名配置していることで施設基準を満たす事ができる『医療機器安全管理料1』は、常勤技士が居ればだいたいの施設は届出しています。
最近の数字でみても令和2年(2020年)で病院が2,718軒、診療所が323軒です。
毎年増加はしていますが、微増です。2019年は2,700軒・319軒、2018年は2,672軒・312軒です。
医療機器安全管理が法制化されたのが第五次医療法改正のあった2007年、診療報酬に医療機器安全管理料が収載されたのが2008年です。
施設届出は2008年から始まっていますが、これだけの年数が経っても増加数が少ないのは、臨床工学技士を常勤で雇用する医療機関には限りがあるということが窺い知れます。
2020年末の病院数は8,237軒、前年末の8,285から見れば減少傾向ですが、劇的な変化はありません。
この数字から見ると、5千余りの病院で臨床工学技士を常勤では雇っていないことがわかります。
もっと厳しい数字を言うと、診療所数は10万軒以上、歯科診療所は6万8千軒以上ありますが、ほぼ雇用なしです。
透析クリニックでも300軒以上はあると思いますが、そちらでは届出をしていない様子なので、もしかすると診療報酬加算を取れるのに取っていないのかもしれません。
病院数 | 診療所数 | |
2020年(令和2年) | 2,718 | 323 |
2019年(令和元年) | 2,700 | 319 |
2018年(平成30年) | 2,672 | 312 |
2017年(平成29年) | 2,638 | 297 |
2016年(平成28年) | 2,609 | 294 |
2015年(平成27年) | 2,559 | 282 |
2014年(平成26年) | 2,519 | 280 |
2013年(平成25年) | 2,481 | 265 |
2012年(平成24年) | 2,450 | 255 |
2011年(平成23年) | 2,386 | 253 |
2010年(平成22年) | 2,354 | 237 |
2009年(平成21年) | 2,207 | 189 |
2008年(平成20年) | 2,103 | 186 |
常勤では臨床工学技士は要らないが、隔週くらいであれば来てほしいと思っているかもしれません。
隔週ということは2週間に1日、月2日です。常勤であれば月20日働くとすれば0.1人分の仕事です。
これが5千軒の病院から集まれば500人分の雇用になります。
厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第488回) 資料 総-13-1 主な施設基準の届出状況等(令和3年9月15日)
厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第370回) 資料 総-6-1 主な施設基準の届出状況等(平成29年11月15日)
厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第306回) 資料 総-3-1 主な施設基準の届出状況等(平成27年10月14日)
厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第233回) 資料 総-3-1 主な施設基準の届出状況等(平成24年11月14日)
月1・半日・診療所で仕事して2,500人
10万軒のクリニックに、1カ月に1回ずつ、半日の仕事を作れたとしましょう。
1カ月に40軒分で1人分の雇用と換算すれば、10万軒で2,500人分の雇用になります。
心療内科などそもそも医師以外にスタッフを必要としないところもありますし、血圧計など故障すれば買い替えてしまうだけの医療機器しか保有していない診療所も多いので、実際はこの10分の1にも満たないと思いますが、管理されずに放置されている医療機器が潜在していることは間違いないと思います。
保守・点検・整備+α
臨床工学技士は院内であれば点検以外にも保守や整備を実施している施設が多いと思います。
これは直接雇用されて、保健所に届け出された臨床工学技士として働いているから実施できる仕事です。
雇用関係のない医療機関に行って整備などをすると、医療機器修理業の範疇になるので臨床工学技士免状では実施できないのではないかと思われます。
ユーザー側の立場、例えば診療所のオーナー院長の立場からみれば、単にME機器の点検だけする技士が来ても、1万円を払うのも惜しいと思います。
ところが、保守や整備など積極的に機器寿命を延ばす行為までしてくれたら、そこに価値を感じてもらえるかもしれません。
さらに、繁忙期だけ機器を貸してくれるとか、たまに使いたいレーザーメスを必要なときだけ貸してくれるとか、都合よく機器を手配してくれる技士であれば、そこにも価値があると思います。
再生医療の請負技士
いまはまだ再生医療というと、厳格な施設管理が行われた中で、限られたデバイスで実施されるイメージが強いと思います。
患者自身から取った組織から再生細胞を取り出して再び戻す自己血輸血のような再生医療では、おそらく膜分離か遠心分離を利用するものが増えてくると思います。
膜分離であれば血液浄化装置の応用、遠心分離であればセルセーバーのような自己血回収装置の応用が考えられます。
これらの装置を上手に扱うことができる臨床工学技士の出番でありますが、そうなるためには再生医療の研究者にこのようなデバイスが存在すること、その使い手が世の中にたくさん居るということを知ってもらう必要もあります。
いまのところそういったロビー活動をしている技士とは遭遇したことがありません。
最近の整形外科手術はバイオクリーン手術室で実施されることが多く、市中のクリニックでできる手術は少なくなっているのではないかと思います。
手術に至らないがある程度の高額で先進的な医療を提供する整形外科では、膝関節などの再生医療を提供するところが増えるかもしれません。すり減ったものを再生細胞で復元する、そういう時代になれば症例数が少ないうちは非常勤の技士が欲しいかもしれません。
厚生労働省:厚生労働省のホームページから、再生医療等提供機関の名称や再生医療等の名称が確認できるようになりました
獣医科
免許制度がまったく異なる動物病院での雇用もほぼないと思います。現在1万6千ほどの動物診療施設があるそうですが、臨床工学技士を雇用しているとは聞いたことがありません。
以前の勤め先にはグループ会社に動物病院がありましたが、そこでは血液浄化やカテーテル治療なども行っていましたし、人間のICUと同じく人工呼吸器や輸液ポンプも動いていました。
その院長は元々は人間の診療放射線技師、臨床経験を以って獣医学科へ進んで獣医師となりましたが、画像診断技術が遅れていた獣医界に新しい風を吹き込んだ先生です。
2022年、大阪府立大学と大阪市立大学は統合し大阪公立大学になりました。
これにより獣医学部と医学部を持つ公立大学となりました。大阪府立大学の獣医学部は関西空港の対岸にあり、国際空港ゆえの動物検疫など独自のノウハウがあるユニークな大学です。
獣医師を育てる環境に、従来の医学の知見が入る事で、新しい何かが生まれるとすれば、そこに臨床工学技士が居ることにも期待が持てます。
医師のタスクシフト
医師の働き方改革から始まったタスク・シフトの議論は、厚生労働省の医政局だけでもたくさんの会議体を生み出しました。
- 医師の働き方改革推進本部
- 医師等医療機関職員の働き方改革推進本部
- 医師の働き方改革に関する検討会
- 医師の働き方改革の推進に関する検討会
- 勤務医に対する情報発信に関する作業部会
- 医師の働き方改革の推進に関するヒアリング
- 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会
- 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング
- 新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会
ときどき臨床工学技士に関する資料も提出されています。
下記資料は奈良県立医科大学の先生が麻酔科医を例に調査した資料です。
下記資料は様々な行為について現行法で可能か不可能かが明示された貴重な資料だと思います。2019年11月20日の会議資料なので、この時点での法的解釈がよくわかります。
公布・施行
医師の働き方改革に関する厚生省令が公布されました。
大きな部分は医師の働き方改革、時間外労働の上限を設けて実施していくというものです。
そのために他の医療職を活用します。専門性の活用ということになっていますが、コメディカルと呼ばれる診療チームの一員が担う範囲を拡大するというようなものです。
臨床工学技士も新しい仕事を担うことになります。
ただ、今の免許で自動的に業務範囲が拡大されるのではなく、告示研修と呼ばれる研修を受講した人から順次拡大していくことになります。
厚生労働省:第三十一回 地域医療構想に関するワーキンググループ 参考資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について
厚生労働省:第12回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料 1 「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」の成立について
e-Gov:良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令
日本臨床工学技士会:臨床工学技士の業務範囲追加に伴う厚生労働大臣指定による研修(告示研修2021)
業務拡大が目的化していないか?
筆者が養成校の学生であったころ、最初の頃に臨床工学技士免状を取得した先生から言われた事があります。
かつて、臨床工学技士を制度化しようと奔走した先駆者たちの中には、臨床工学技士法の制定がゴールになってしまい、臨床工学技士免状を取得した時点で達成感が強く、そのあとの地位確立までは頑張り切れなかった人が居ると聞きました。
今回の法改正は大きなことです。
職能団体の方々は多大なる尽力をなさったことでしょう。将来にわたり、名が残る仕事をしたと思います。
拡大した業務範疇で長い期間働くのは20代や30代の若手技士たちですが、彼らは業務拡大を望んでいたのでしょうか。
おそらくですが、医師のタスクシフトがあるので、医師業務の中で臨床工学技士ができるもの、獲得したいものを選んでいった結果が今回の法改正なのではないかと思います。
その業務をどうしても臨床工学技士のものにしたかったのか、どのような職種がするよりも臨床工学技士がすべき合理的理由があるのか、このあたりを国民が理解できる形で説明があったのかは知りません。
できる仕事の項目数は増える事になると思います。
増えるからには、やらなければならないこと、責任を取らなければならないことが増えるのも事実です。
安い請け負い?
『安請け合い』の誤記ではなく、文字通り廉価という意味です。
医師のフィーが時給1万円だとします。
その仕事を技士が代行した場合、1万円貰える訳ではありません。
もちろん、仕事に対する責任、医師の指示の下で代行する者と、全責任下で実施する医師とでは差があって当然です。
この差をどう見るのかが非常に重要です。
あるセミナーで臨床工学技士さんが『医師より安くできる』とタスクシフトの講義で発言されていました。
これはお一人ではなく、非常に多くの方が異口同音のことを発信されているので、もしかすると医師のタスクシフトを牽引する臨床工学技士の皆様の共通認識なのかもしれません。
経営者としては安く済む方が良いですが、安かろう悪かろうでは困ります。質が伴った上で安いのであれば積極的に選択されますし、そこに利便性も伴えば相当にリーズナブルです。
24時間体制で勤務している臨床工学技士は少ないのでアクセス性の部分では医師や看護師には劣ると思いますが、違った面から利便性を高めることができれば、あとは質の問題にフォーカスされます。
同一労働・同一賃金
ある看護協会の幹部がお話されていました。
ワクチン接種で筋肉注射をするという『行為』の部分については、医師と看護師は同一賃金であるべきだと。
ワクチン接種会場の管理、急変時の対応については技術的にできることと、免許として業務範疇に入ることに差があるので、ここは分けて考えられてしかるべきです。
ある調査では、接種について医師は時給1万円超が多く、看護師は5千円以下が多かったそうです。
現実として同一労働・同一賃金にはならなかったものの、看護協会が堂々と『同じ賃金で』と厚生労働省や自治体に申し入れている姿をみたときに、職能団体のあるべき姿だと思いました。
【参考】河北新報:コロナワクチン接種、看護師と歯科医に賃金格差 「同一労働」最大16分の1(2022年4月19日)
【参考】m3.com:ワクチン接種の歯・看報酬格差、医師42%が「適切」(2022年5月22日)
臨床工学技士は安くない?
臨床工学技士会の規程を見ると、講師や座長の『謝金』について、医師との格差を付けているケースが散見されます。
ある地方会で30分の講演をすると医師3万円、医師以外2万円、技士会員1万円となっています。
座長の場合は医師3万円、医師以外1万円、技士会員は3千円相当の品物ということで、もはや現金も貰えません。
他の地方会では医師3万円、その他職種1.5万円です。
また別の地方会では著名人5万円、教授4万円、准教授3万円、医師2万円、技士1万円となっています。
看護協会で調べてみると、職種では分けていません。すなわち医師と看護師は同列、臨床工学技士でも同列です。
受講者の多さで謝金額に差を付けているケースが散見されました。すなわち、誰が話すかではなく、誰に話すかで差が付くということになります。1,000人を集める関心事であれば、その聴衆の要求を満たすだけのレベルの講師が必要でしょうから、講師をブッキングする時点で色々と決まって来ると思います。
これを比べると、臨床工学技士は、自らの職能団体において、自らの価値を低くランキングしてしまっているようにも見えます。
気概としては、医師と技士は同額が良いと思います。
ニーズはないか?
医師のタスクシフトということは、医師にとっては既存業務であり、今後も医師が担っていくと思います。
誰も手を付けていないような仕事が臨床になかったのでしょうか。
あったとすれば、この法改正の機会にそれを業務範疇とすることはなかったのでしょうか。
臨床工学技士法では再生医療やAIといった近未来の医療については触れられていません。
医療現場でAIが多用される時代、誰がその管理を担うのでしょうか。
臨床工学技士はその担い手になれないのでしょうか。
AIを扱うには、それを扱えるだけの能力が必要なことは当然ですが、それが診断や治療のツールであれば免許も伴う事になります。
プログラム医療機器とは、まさにコンピュータープログラムを活用した医療機器として、薬機法での承認/認証が必要になります。
医療機器であれば臨床工学技士が業務として扱いそうですが、その資質があるかどうか評価されなければ、医師は安心して任せることはできないでしょうし、患者も不安だと思います。
TechnicianかTherapistか
海外では、医工学系人材を機械操作を担う技術員か、機械を使って診療の一部を担うセラピストであるかを分類することがありますが、日本では臨床工学技士免状に一本化されています。
AIを例にとっても、AIが正常に動作するための環境を整えるだけの仕事をするテクニシャンは必要だと思います。
どのシーンで、どのAIを使うべきか、そのAIは期待通りの仕事をしているかなど臨床を診ながらAIも見ることができるセラピスト的な存在も必要だと思います。
多忙な臨床工学技士生活の中で、その両方を習得するのは容易な事ではないとすれば、とりあえずテクニシャンとして活躍できる程度の知識や技術を身に付けようとする人が居るかもしれません。
『私はAIのテクニシャンです。それ以上は期待しないでください』と言い続けられれば良いのですが、他の技士が皆、テクニシャンとセラピストの両立をしていたら、テクニシャンしかできない臨床工学技士が劣って見えてしまいます。たまたまAIについては長けていないだけですが、一様に臨床工学技士ということになると、こうした弊害が生じます。
もし別の職種、例えば診療放射線技師がテクニシャンとセラピストの両方を担える人材を育成したら、もう臨床工学技士にテクニシャンとしての仕事の依頼はなくなります。
せっかく勉強した甲斐がなくなります。
いま、免許や職名で仕事を取り合う傾向にありますが、実際は業務内容ごとに『適任者』を据える方が経営面でもリーズナブルだと思います。
企業ではジョブ型雇用が始まっていますが、所属部署や着ている制服が何であれ、適任者がその仕事をすれば良いと思います。
コロナ禍で経営状態が健全でないことも手伝ってか、レジャー施設やホテルなどの観光業ではマルチタスクなスタッフの育成が進み、入場者やチェックインが多い時間帯はフロントにスタッフが集まり、厨房や清掃のスタッフもフロント業務を担えるようになっています。
観光業では語学力が必要になることがありますが、日本にはあまり来ないスペイン語のための接客スタッフは置いておけないため、接客以外の仕事をしながら、必要なときだけ接客の仕事をするといった適時に適材適所とする方法がとられています。
国際化された病院では外国人スタッフが普段は医事課の制服を着て事務をしていても、ある国の人が来た時だけ持ち場を離れて得意の言語力を活かす仕事をしている、という風景をみたことがあります。
職種よりも、業務に合わせた適任者、この考え方がさまざまな能力を引き出すのではないかと考えます。
0.1人ずつ切り売り
1人の臨床工学技士が『臨床工学技士×1人』というカウントのされ方をしているところを『0.1人の臨床工学技士免状保有者×10』という考え方に変えて見てみましょう。
0.9は一般的な臨床工学技士と同じだが、0.1は清掃が得意だとしたとき、この人材を清掃部門に配属することもないでしょうし、実際の業務で1割を清掃に充てることもないと思います。
実家が特殊清掃業者で、どの汚れにはどの洗剤と道具を使うと良いか何でも知っている、知らないことがあっても家族に聞けばわかるとなると、おそらく毎日清掃しているスタッフより知識や技術は長けていると思います。
院内の清掃コンサルタントとして、困った時にお願いする相手として『適任者』になると思います。年間2千時間の内の2時間にも満たない適任者かもしれませんが、職種で輪切りにしていたら気づかれない特技、それを知る事ができれば経営側にとってマイナスにはならないと思います。
建築・設備は空き地
先述のAIも空き地になっていると思いますので、臨床工学技士業務にするなら今だと思います。
筆者は2009年頃に再生医療に関わっていましたが、当時は空き地だらけでしたが、今では臨床検査技師さんらクリーンベンチでピペット操作できる人材にだいぶ取られていると思います。
病院には建物が在り、設備があります。
この建設や保守は、建設業界や設備業界の人が担っています。
ハードには詳しくても、ソフトには詳しくないと思われます。
野戦病院があるように、医療はどんな場所でも求められれば提供しますので、そういう意味ではハードよりもソフト重視だと言えます。
ソフトとしての医療に精通した人が、ハードも管理した方がリーズナブルかもしれません。
建設業界の人は皆、建設に詳しいです。
臨床工学技士で建設に詳しい人は居ますが、皆が詳しい訳ではありません。
この状態から『建設に詳しい人が多い職種が臨床工学技士』というイメージにシフトできたらどうでしょうか。
建設というと幅が広いので設備に絞っても良いと思います。
『このME機器が動かない』と現場から言われて、それが壁コンセントの問題であったとき、応急処置や原因分析を自部署で担う臨床工学技士はどれだけ居るでしょうか。
全部を任せられる技士ばかりの臨床工学科であったとき、何を期待するでしょうか。
業務拡大は多種多様
まとまりのないblogになってしまいましたが、臨床工学技士の業務拡大において、その答えはないと思います。
どれもが正解かもしれないですし、失敗するものもあるかもしれません。
業務拡大というものは多種多様であって、絞り込むべきものでもないと思います。
適任者として働ける人が増えれば、それはいずれ臨床工学技士業務になるかもしれません。
筆者は2009年には医工連携関係の仕事で給料を貰っていました。東証一部上場企業でも、国立高度医療研究機関でも常勤職員として医工連携に携わってきました。
当時はレアな仕事でしたが、近年は散見するほどに医工連携に就く臨床工学技士が増えました。業務拡大とまではいきませんが、そういう選択肢ができたことは間違いないと思います。
今後、新しい業務を確立したいという技士が続々と出てくると思います。
そういう人に出会ったら、少しでも後押ししてあげられるように人脈や財力を積み上げておきたいと思います。