日本は医療制度上、株式会社の病院が非常に少なく、最近のデータではわずか23病院となっています。
医務室を診療所として届け出ているケースもあるので診療所数は多くなりますが、それでも142軒ですので、全体の1~2%程度です。
アジアで言えば IHH Healthcare Berhad がタイやシンガポールなどでいくつもの病院を運営していますので、医療に不可欠な人材を回遊させ、医薬品や医療機器の大量調達ができます。
さらには独自の保険商品を売り出すこともでき、病気にならなければ保険が儲かり、病気になれば病院が適正な医療を適正な価格で提供する、という構造を生み出すことができます。
ところで日本では、いったいどこが大きなチェーンを持っているのでしょうか。なんとなくは想像できても、実数で見る事がないので調べてみました。
株式会社の病院
改めて調べてみると、減ったなと言う実感がわきました。
開設者が明らかに『株式会社』となっているものが23軒、民間企業の健康保険組合が開設する病院が7軒、合わせて30病院が概ね企業立病院と言えそうです。
下のリストを見ていただくとわかりやすいと思いますが、元は国営であったJRやNTT、国の管理が厳しい電力や鉄道などが大半です。
電力会社がすべて病院を持っている訳ではなく、東京電力は東日本大震災以降の事業整理の中で病院を閉鎖、土地は売却されました。
トヨタ自動車や三菱自動車、日立製作所などもありますが、これらの中には株式会社を離れ、別法人に切り替わる予定のところもあります。
近年ですと、三菱重工の病院は株式会社を離れ、重工記念病院として新しい医療法人の下で今も運営されています。
品川にあった東芝病院は、東芝とは関係のない医療法人に売却されました。
医療機関名 | 病床数 | 所在地 | 開設者 |
---|---|---|---|
JR仙台病院 | 192 | 宮城県仙台市青葉区五橋 1-1-5 | 東日本旅客鉄道株式会社執行役員仙台支社長三林宏幸 |
株式会社日立製作所日立総合病院 | 631 | 茨城県日立市城南町2-1-1 | 株式会社日立製作所執行役社長小島啓二 |
株式会社日立製作所ひたちなか総合病院 | 300 | 茨城県ひたちなか市石川町20番1 | 株式会社日立製作所代表執行役小島啓二 |
キッコーマン総合病院 | 129 | 千葉県野田市宮崎100 | キッコーマン株式会社代表取締役社長中野祥三郎 |
東京逓信病院 | 461 | 東京都千代田区富士見二丁目14番23号 | 日本郵政株式会社代表執行役増田寛也 |
NTT東日本関東病院 | 594 | 東京都品川区東五反田五丁目9番22号 | 東日本電信電話株式会社代表取締役社長井上福造 |
いすゞ病院 | 20 | 東京都品川区南大井六丁目21番10号 | いすゞ自動車株式会社代表取締役社長片山正則 |
東急株式会社東急病院 | 135 | 東京都大田区北千束三丁目27番2号 | 東急株式会社取締役社長髙橋和夫 |
JR東京総合病院 | 425 | 東京都渋谷区代々木二丁目1番3号 | 東日本旅客鉄道株式会社代表取締役深澤祐二 |
不二越病院 | 56 | 富山県富山市東石金町11番65号 | 株式会社不二越代表取締役社長坂本淳 |
NTT東日本伊豆病院 | 196 | 静岡県田方郡函南町平井750番地 | 東日本電信電話株式会社代表取締役井上福造 |
名古屋セントラル病院 | 198 | 愛知県名古屋市中村区太閤3-7-7 | 東海旅客鉄道株式会社代表取締役社長金子慎 |
トヨタ記念病院 | 527 | 愛知県豊田市平和町1-1 | トヨタ自動車株式会社取締役社長豊田章男 |
三菱京都病院 | 188 | 京都府京都市西京区桂御所町1 | 三菱自動車工業株式会社京都製作所所長神徳浩久 |
京都逓信病院 | 99 | 京都府京都市中京区六角通新町西入西六角町109番地 | 日本郵政株式会社代表執行役社長増田寛也 |
関西電力病院 | 400 | 大阪府大阪市福島区福島2-1-7 | 関西電力株式会社代表執行役社長森本孝 |
大阪鉄道病院 | 303 | 大阪府大阪市阿倍野区松崎町一丁目2番22号 | 西日本旅客鉄道株式会社代表取締役長谷川一明 |
大阪回生病院 | 300 | 大阪府大阪市淀川区宮原一丁目6番10号 | 株式会社互恵会代表取締役土居布加志 |
三菱神戸病院 | 164 | 兵庫県神戸市兵庫区和田宮通6丁目1-34 | 三菱重工業株式会社神戸造船所長長屋充 |
中国電力株式会社中電病院 | 248 | 広島県広島市中区大手町3丁目4-27 | 中国電力株式会社代表取締役社長執行役員清水希茂 |
マツダ株式会社マツダ病院 | 270 | 広島県安芸郡府中町青崎南2-15 | マツダ株式会社代表取締役社長丸本明 |
広島逓信病院 | 110 | 広島県広島市中区東白島町19-16 | 日本郵政株式会社代表執行役社長増田寛也 |
飯塚病院 | 1048 | 福岡県飯塚市芳雄町3番83号 | 株式会社麻生取締役社長麻生巌 |
医療機関名 | 病床数 | 所在地 | 開設者 |
---|---|---|---|
SUBARU健康保険組合太田記念病院 | 400 | 群馬県太田市大島町455-1 | SUBARU健康保険組合理事長小林達朗 |
東芝林間病院 | 199 | 神奈川県相模原市南区上鶴間7-9-1 | 東芝健康保険組合理事長高橋智宏 |
名鉄病院 | 373 | 愛知県名古屋市西区栄生2-26-11 | 名古屋鉄道健康保険組合理事長加藤悟司 |
中日病院 | 93 | 愛知県名古屋市中区丸の内3-12-3 | 中日新聞社健康保険組合理事長臼田信行 |
ブラザー記念病院 | 59 | 愛知県名古屋市瑞穂区塩入町11-8 | ブラザー健康保険組合理事長小池利和 |
パナソニック健康保険組合松下記念病院 | 323 | 大阪府守口市外島町5番55号 | パナソニック健康保険組合理事長三島茂樹 |
日立造船健康保険組合因島総合病院 | 115 | 広島県尾道市因島土生町2561 | 日立造船健康保険組合理事長木村悟 |
株式会社麻生
企業立病院の中で最大規模となるのが株式会社麻生の飯塚病院です。飯塚とは、福岡県飯塚市の地名です。
人口12~13万人の都市で1,000床規模の病院を、民業として成り立たせているのは、経営力があるからだと思います。
その株式会社麻生は今年、キッザニアに病院アクティビティを出展します。
キッザニア甲子園にも病院はありますが、スポンサーは生命保険会社です。
医療機関が子供の教育に本気で取り組む例は他にないかもしれません。
飯塚病院では、病院の業務を外販することもあります。
施設内で片手間で、専門でもない人がするのではなく、専業として本気で取り組む事で専門性が高まり、スタッフ数を増やすためにもその業務を外販して規模を大きくし、また専門性も高めて人材の層も厚くします。
こうした取り組みができるのが、株式会社らしさだと思います。
医工連携にも注力しており、コロナ前であれば病院の見学パス付きの契約のようなものもありました。
現場を知り、現場ニーズを拾って機器等の開発に活かす、それをサポートするためのスタッフを置いたりもしていました。
外国語が堪能なスタッフも普通に居て、幅広い活動をされています。
多店舗経営
病院なので多店舗とは言いませんが、例えば日立製作所では5つの施設を運営しています。
- 株式会社日立製作所日立総合病院
- 株式会社日立製作所ひたちなか総合病院
- 株式会社日立製作所日立総合病院附属多賀クリニック
- 株式会社日立製作所土浦診療健診センタ
- 株式会社日立製作所日立健康管理センタ
NTT東日本は2病院で790床、JR東日本は2病院で617床、日本郵便は3病院で670床を持っています。
これら複数病院を運営するメリット・デメリットがあると思いますが、株式会社らしさが前面に出て来ることは少なく、ビジネスとしてどうこういうことはあまりありません。
グループ病院数No.1は
開設者が同じ病院で探すと、日本で最も多いのは『国立病院機構』でした。
現在ですと楠岡英雄先生が理事長です。
楠岡先生の前職は国立大阪医療センターの理事長で、大阪大学出身ということもあり、年に数回はお会いしていましたが、大阪を離れて居られますしコロナもあるので滅多にお目にかかることもなくなってしまいました。
その国立病院機構が131病院を運営しています。
おおきなくくりで言うと厚生労働省の所管であり、厚生労働省が関わる病院まで視野を広げてしまえば国立療養所や、国立高度医療研究センターである国立がん研究センターや国立循環器病研究センターなど数十病院も加わります。
人事などでつながりがあるので、筆者が居た国立循環器病研究センターのスタッフは、近畿厚生局内に在る国立病院機構の病院へ異動になっています。
独立行政法人としては別法人ですが、共済組合などまだまだ昔の制度も残っているので、日本最大の病院組織としてはこれを超えるところはなかなか出てこないと思います。
次点は徳洲会と日赤
医療機関数で言えば医療法人徳洲会が88施設、日本赤十字社が76施設です。
病院数で言うと徳洲会が61軒、日赤が74です。
おそらく届出上の問題であろう徳洲会として病院1軒、診療所3軒がリストにはあるので、90施設を超えていると思います。
日赤では開設者が広島県支部や京都府支部などになっているものがあり、これも日赤の施設なので実質経営傘下で見れば10施設くらいは増えると思います。
徳洲会グループはいわば民間企業、民設民営の医療法人が大きなネットワークを形成しています。
日本の民間医療法人としては最大規模だと思います。
日本赤十字社は特別な法律の下で運営されている公的な組織ですので、例えば輸血用の献血は日本赤十字社だけに許されている事業です。
この国立・徳洲会・日赤の3つの法人で日本の『病院』の5%くらいを占めています。
病院グループは公立・公的
上位3グループ以外を見ていくと、コロナ対応で前線に立つ尾身茂先生の存在で国民にも知られたJCHO(地域医療機能推進機構)、国家公務員共済組合、労働者健康安全機構(労災病院)などがあります。
地方ですと県立病院が多い事で知られる岩手県、JAが強い地域である長野県厚生連や新潟県厚生連などがあります。
診療所では官民両方
診療所数最大は医療法人社団善仁会でした。
次に多いのが大阪市です。大阪市直轄は病院1軒と診療所30軒です。
大阪市は他に地方独立行政法人大阪市民病院機構、公益財団法人大阪市救急医療事業団があります。少し前までは大阪市立大学医学部附属病院もありました。
自治体では沖縄県も多く、4病院・21診療所を抱えています。
民間は透析クリニックを多く抱える法人、眼科でショッピングモールなどへも積極的に出店する法人などが多くの診療所を抱えており、医療機関の経営としてはしっかりとした基盤を持っていると思います。
診療所を多く抱えている法人は大別できそうです。
急病センターなど公益性重視で自治体等が整備するものと、多施設化による経営効率の向上を目指しているものがあると思います。
広義に公益性という面では、後者のように経営効率を高めて事業性を向上し、事業の永続性を持つことが有意義であり、それによって投じる税金が減らせられるならば、さらには利益が出て納税するならば、これは公益性が高いと言えると思います。
とはいえ、こども急病センターなどは人件費が一番高い夜間や休日を専門とし、冬場は光熱費も多くかかる時間帯なので、相応の患者数が来なければ不採算です。
独自集計
弊社では保険医療機関のデータベースを独自に制作しています。
生データが蓄積されているだけではなく、それを加工するプログラムも独自に開発し、データの二次利用に積極的に取り組んでいます。
せっかく各医療機関が報告し、厚生労働省で取りまとめてくださったデータがありますので、我々は活用していく方針です。
今回のデータは、下図のようにまとめています。例示しているのは診療所の多い順に並べ替えたものです。
医科だけでなく歯科や薬局も同様に集計しています。
当社の本業は医療コンサルティング、中核事業として医工連携事業化推進コンサルティングを展開しています。
この事業においては、開発物の売り先が医療機関であることが多いので、医療機関の動向や分布などは重要になります。
生データから取り扱い、しっかりとした理解の上でコンサルティングしているコンサルタントは少ないと思います。
当社ではこれからも、誠実に医工連携のお手伝いをしていくため、付け焼刃にならない、エビデンスに基づいたサービスを提供して行けるよう努めて参ります。