先日、バイクで走行中に歩道の傍らでうつむきながら座っている子供を発見しました。
片側2車線、両方向で1分間に100台くらいの車が通過するような交通量の多い道路でしたが、誰も声を掛けていなかったようです。
周囲の安全を確認し、エンジンを切って歩道へとバイクを進入させてその子供に声を掛けました。
- 筆者『大丈夫?』
- 少年(首を振りながら)『ううん』
- 筆者『どうしたの?』
- 少年『友達に置いて行かれた』
- 筆者『それは困ったね。おうちはどこ?』
- 少年『わからない』
- 筆者『おうちの住所とか言える?』
- 少年『2丁目』
- 筆者『何の2丁目とかわかる?』
- 少年『わからない』
- 筆者『この道路の向こう側か、こっち側かわかる?』
- 少年『わからない』
この時点で、とりあえずこの大通りは渡っていないであろうことが推察されました。
もう少し素性がわかればと思い、いくつか会話しました。
- 筆者『何年生?』
- 少年『1年』
- 筆者『今日は何してたの?』
- 少年『遊んでた』
- 筆者『どこで?』
- 少年『わからない』
このほか、いくつか話をしているうちに、泣き止んできました。警察に通報しようと思ったところで、自転車に乗った女性が現れました。
筆者は地元ではなく移動中の偶然の遭遇ですが、自転車に乗った人ならば地元かなと思って少し安心しました。
- 女性『泣いている声が聴こえたけど、信号が変わらなくて。どうしたの?』
- 筆者『友達に置いていかれた迷子の小1』
- 女性『オバちゃんがお家に連れて行ってあげようか?』
- 少年『・・・』
- 筆者『家がどこかわからないみたい』
- 女性『小学校は何小学校?』
- 少年『○○小学校』
- 女性『何組?』
- 少年『○組』
- 女性『○○小学校まで一緒に行こうか』
- 少年『・・・』
少年はだいぶお疲れのようで、YesともNoとも言わない。
Google Mapで調べると車で4分、徒歩で7分という距離。
女性が学校に電話し、何年何組の何君が路上で迷子になっているので迎えに来てほしいと依頼、すぐに職員を向かわせますということで解決に至りました。
結局、学校職員が到着する前に、この子を探していたお母さんと合流できて、学校職員を待たずに帰宅してしまいました。
学校職員は現地に到着したときに誰も居なかったので困ったそうですが、学校に電話すると保護された旨が伝えられ、学校へ戻ったそうです。
誘拐犯
今回、交通量の多い道路面での事案であり、私はバイクでしたので少年を拉致することは難しいことが傍目にわかりそうですが、大人が子供に声掛けしていると『声掛け事案発生』として一斉送信されそうな怖さがあります。
今回、後から合流した女性も『私たちが連れて行くと誘拐と間違われたら説明が大変』ということで、一緒に移動するのを見送りましたが、もし少年が『おしっこ!』と言い出したら公園や学校の方へ歩いていくことになったと思います。
一連の対応をしている間に上下線で数百台の車、人数にして千人以上が通過したのではないかと思いますが、妙な通報をされれば何台もパトカーが集まり、私たちは地面に押さえつけられてパトカーに押し込められていたかもしれないなと思うと、子どもの保護についての難しさを感じました。
虐待
薄暗い夕方、18時前に小学校1年生を1人で歩かせている、あるいは屋外に放置しているということが『虐待』に当たるとすれば、対応次第で大問題に発展したかもしれません。
この少年を保護するために警察(110)や児童相談所(189)に通報していたら、おそらく虐待の恐れがないかご家族が取り調べを受け、場合によっては親子が引き離される可能性があります。
おそらく今回は子供同士の些細な喧嘩というか、行き違いから迷子になって保護されたというストーリーだと思いますし、お母さんも自ら我が子を探していたことから、虐待云々でないことは察することができますが、何とも言えません。
もし運悪く、身体のどこかにアザでもあれば、疑いを晴らすのに相当の苦労が生じると思います。
一般市民が対応すべき方法として、110や189に通報することが善行なのか、今回のように学校に通報して対応してもらうことが善行なのか、答えが見つかりません。
法律では、児童虐待が疑われる場合の通告は国民の義務とされているのですが、今回は児童虐待を疑わなかったので通告の義務もなく、とりあえずのところ筆者と女性に児童虐待に係る法令違反は無いのかなと思います。
ただし、刑法については遺棄の罪が疑われます。刑法217条では幼年者の遺棄、刑法218条では幼年者の保護責任について罰を伴う規定があります。
第三十章 遺棄の罪
(遺棄)
第二百十七条 老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の懲役に処する。(保護責任者遺棄等)
第二百十八条 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。(遺棄等致死傷)
刑法
第二百十九条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
誤解は社会的地位を失う
事件の真実はさておき、何らかの罪で警察に逮捕されればテレビや新聞では逮捕されたという報道をします。炎上する前段階で燃やすところまではここで終えます。
嫌疑不十分や不起訴など、逮捕はされたが罪に問われなかった場合には、そちらの情報はあまり報道されません。
逮捕すらされず、警察から事情を聴かれている段階であっても、あたかも何かを疑われているかのような報道を目にすることもあるので、注意が必要です。
もし自身が『○○の職員が児童の誘拐疑いで事情聴取』などと報道されたらいかがなものでしょうか。
いまのネット社会、実名報道されなくても実名がネット上に曝され、職場や経歴も明らかにされます。
会社や取引先からは『ご遠慮願いたい』と言われ、社会的地位が抹消される事態にもなりかねません。
困っている子供を保護しようという善意からの行動が、何かの間違いで悪行にされてしまう可能性は否定できません。
性善説的な法解釈
迷子の子どもを保護しようと動いた結果、誘拐疑いで警察に連れていかれても、警察に事情を話せば『わかってもらえるはず』というのが一般的な解釈のようです。
ある人は『110番通報せず対応したあなたが悪い』という見解を示されました。子どもの保護に関わった人が『悪い』という言葉を投げかけられた時点で、もう心が折れると思います。
卒倒者が出て心肺蘇生をする、その際に胸骨圧迫、いわゆる心臓マッサージをしますが、このときに肋骨を折ってしまうことがあります。
『肋骨を折る重傷を負わせた』傷害犯罪者になる得るのです。
法律に詳しい方にお聞きしたところ、救命処置をして傷害罪に問われた人は居ないが、前例がないというだけで警察の解釈によっては立件されるかもしれない、ということでした。
法改正以外の対応はなく、人命救助の場合は肋骨が折れても死ぬよりましだということを明示的に合法化するしかないそうです。法律の条文が変わらなくても国務大臣の疑義解釈通知などでもある程度はカバーできるだろうということでした。
AEDは市民が行う治療行為ですが、電気ショックのボタンを押す前に『医師は居ないか』と確認する必要があります。医師が居ないので、医師の独占業務である除細動を免許も持っていない市民が行いますという確認が無ければ医師法違反などに問われます。
迷子の保護も『あなたは迷子ですか?』ということを周囲に聴こえるレベルで声を出して確認したり、動画を残したり、書面で迷子であることの同意を得たりすれば、冤罪の可能性は低減できそうです。
迷子や徘徊の同意アプリを作ろうかなと思いました。
子どものランドセルの中に、保護を求めるためのアクションカードを入れておくのも良いなと思いました。
改善点
今回は泣いている少年を発見して、筆者が一人で声を掛けに行きました。
事情を聴かなければ次の一手を打てないので、少なくとも数分は1対1で話をすることになると思います。
この1対1の会話を録音しておくべきだったと振り返ります。その録音をもとに、迷子であると確信した部分を主張できれば冤罪裁判で勝てる可能性があると思います。
学校へ電話して職員に迎えに来てもらうという方法は良かったと思います。我々が連れて行こうとしたら、それは何かの間違いが起こったかもしれません。
見ず知らずの女性と協働して保護しましたが、その女性の名前すら聞いていません。
もし冤罪で逮捕されるようなことがあれば、重要な証人となってくれるであろう女性を特定することができません。
反対に、その女性も自らを守るためにはこちらの連絡先などを知っておいて損はなかったかもしれません。
時効になるまで、互いに個人情報を管理するという約束をして連絡先を交換すべきだったかもしれません。
保護されたかどうか、その後は問題がないかの確認はとれません。ここは個人情報保護法や少年法などに守られているので仕方ありません。今回はお母さんが引き取ったので、それを信じるしかありませんが、お母さんを装った誘拐犯であったらと思うと、色々と恐ろしくなります。