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創造的復興を想像[1]  | NES’s blog

 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、応急の復旧作業が進む中で、発災後2週間頃には『創造的復興』という言葉が出るようになりました。

『創造的復興に向けての絵を』(1時間6分25秒あたりから再生)
『農林水産業の創造的復興』(8分15秒あたりから再生)

【参考】石川県第19回災害対策本部員会議での知事の主な発言(2024年1月12日)

【参考】石川県:知事記者会見(令和6年1月15日)

【参考】石川県第23回災害対策本部員会議での知事の主な発言(2024年1月16日)




  1. 生活と生業(なりわい)
  2. ピンチをチャンスに変える『創造的復興』
  3. 莫大な予算で大規模事業
  4. まずは既存産業の復旧と再建
  5. 石川県珠洲市
  6. 石川県輪島市
  7. 交通
  8. 中核拠点 兼 エスケープゾーン
  9. 城と街
  10. 私見『創造的復興』~既存産業マッチング~
  11. 過去には『食』で『職』を創造
  12. 私見『創造的復興』~大学~
  13. 私見『創造的復興』~引きこもり学習~
  14. 私見『創造的復興』~飛躍的なビジネス思考~
  15. ネット通販の聖地
  16. 私見『創造的復興』~安全教育の聖地~
  17. コホート研究の聖地
  18. Universal Health Coverage (UHC)
  19. 地域を盛り上げるコミュニティFM
  20. おわりに



生活と生業(なりわい)

 1月21日の災害対策本部員会議では復興生活再建支援チームの編成の詰めの作業を急ぐよう馳知事から指示が出ました。

 1月22日の記者会見では『復興生活再建支援チーム』についての説明がありました。

 1月23日の記者会見では『なりわい再建支援チーム』についての説明がありました。

【参考】石川県:第27回災害対策本部員会議(令和6年1月21日)(54分58秒あたり)

【参考】石川県:知事記者会見(令和6年1月22日)

【参考】石川県:知事記者会見(令和6年1月23日)




ピンチをチャンスに変える『創造的復興』

 従前の姿に戻す復興ではなく、再建を機に次代に向けて躍進する被災地を目指すようなものです。

 農業や工業で言えば生産量や出荷額が発災前を上回ることも成果の1つです。

 持続可能な社会を鑑みると、人材の回遊や新陳代謝も重要ですので、若い世代の労働力が集まることも成果になると思います。

 観光業でもピンチをチャンスに変えるような仕掛けができると思います。

【参考】宮城県農業振興部:東日本大震災からの創造的復興10年の歩み(令和4年3月)

【参考】宮城県:新・宮城の将来ビジョン(2020年12月策定)

【参考】宮城県土木部:東日本大震災5年間の復旧・復興の記録

【参考】兵庫県:「創造的復興」の理念を活かしたウクライナ支援




莫大な予算で大規模事業

 阪神淡路大震災が発生したのが1995年1月17日、そして1995年4月1日には財団法人阪神・淡路大震災復興基金が創設され、基本財産(出捐金)が200億円、運用財産(長期借入金)が8,800億円、合計9,000億円の基金が創られました。

 兵庫県と神戸市が地方債を発行して8,800億円を基金に無利子貸付しています。その地方債に係る利払いについては国からの地方交付税、すなわち兵庫県民以外の国民を含む税投資が行われた事業です。押しなべて多くの国民が復興に協力したとも言えます。

 資金の活路として大きかったものが被災者自立支援金などの生活支援です。住宅ローンや中小企業の利子補給など破綻回避策にも1,000億円以上使っています。

 1件あたり10万円の補給でも1,000件の申請があれば1億円になります。被災家屋は万単位でしたので事業費も大きくなります。

 基金として街づくりに貢献した部分もあります。
 災害復興公営住宅や被災商店街空き店舗等活用支援事業などはコミュニティ形成にも深く関わっています。

【参考】兵庫県:阪神・淡路大震災からの創造的復興

【参考】公益財団法人阪神・淡路大震災復興基金:創造的復興の歩み 令和3年7月

【参考】財団法人阪神・淡路大震災復興基金:創造的復興をめざして 復興基金 5年の歩み 平成12年3月




まずは既存産業の復旧と再建

 『創造的復興』を考える前に、まずは既存産業の復旧や再建を検討しなければなりません。その理由は2つあります。

 1つ目は、被災地に在った産業、被災地で必要とされていた産業が元に戻る事が、被災者のモチベーションにもつながります。絶望的な状況かもしれませんが、愛着のある地元に残り、そこで雇用や納税を続ける、大変意義深いことです。

 2つ目は、前述のことの逆を見ることです。被災地では続けられない産業、担い手が居ない産業などを見つけることです。

 街に1軒しかなかった美容室が被災し廃業を決めたとします。店主らは家を失って遠方に転居してしまうと、担い手が居ないことになります。

 需要の蒸発もあり得ます。漁業の街であったが港と漁船を失って当面は漁が行われないとすれば市場や冷凍庫は不要になります。漁協自体が存在意義を失い、漁船の整備業者や燃料屋も需要が無くなります。

 既存産業の再建の支援は、被災者のモチベーションで可能性が残りますが、廃業する、廃業せざるを得ない産業については復興のハードルが高くなります。




石川県珠洲市

 震災前の市面積247平方キロの土地形態は森林が4分の1、耕地が1割程でした。
 北・東・南の三方を海に囲まれ、その海岸に沿っていくつかの集落が在ります。
 市外の人から見るとわかりづらいですが、歴史的に見れば100以上の村があった地域ですので、集落の形成にも独自の文化があります。今回の震災では孤立地域が把握されない事例がありましたが『大谷の孤立地区の道路啓開』という情報が、大谷地区全体かのように誤解され、大谷地区の中でも孤立が続いていた地域があったようです。陸上自衛隊が足でかせぐ仕事をしたので、自主避難所のようなところが発見されました。

 珪藻泥岩層が広くあり、七輪やコンロ製造など珪藻土産業が盛んです。工場が被災し生産力が劇的に落ちたという報道がありますが、ゼロでは無いようなので復興が期待されます。

 1次産業への従業者は少ないものの、農林水産業が盛んである地域です。牡蠣、カニ、サザエ、海藻など高級食材に類するものがよく獲れましたが、今後はどうなるか心配されます。

 市外との取引がある場合は車がないと困りますが、市内だけであれば循環バスが運行しています。今回の震災により道路整備も見直されるので路線は変更されるかもしれませんが、珠洲市の生命線でもあるのでバス事業は残ると思います。

 人口が1.5万人弱、高齢化率50%超でしたが、今回の災害で避難者数は市民の半数近くになっており、2次避難で金沢以南に行った高齢者たちが戻ってくるのかどうかわかりません。
 移住による人口や高齢化率の大きな変動が見込まれます。

 珠洲市の2024年1月23日14時時点までに確認されている死者数は99人です。




石川県輪島市

 『輪島塗』はブランド力があり、筆者宅にもお盆などがあります。市役所には産業部漆器商工課という部署があるほど地場産業として注力されています。

 『輪島朝市』もブランド力があり、海産物などが売られる風景はニュースで何度も流れたので、行ったことがない人もイメージできるのではないでしょうか。

 能登半島の北側に細長い形で立地するため、市の外周の半分ほどは海岸です。面積は426平方キロ、石川県全体の1割ほどを占めています。

 輪島市の人口は2.8万人ほど、ピーク時は一時避難所に1万人以上が避難、自主避難や車中泊も合わせると市民の半数近くが何らかの避難生活を強いられていた可能性があります。

 被害が大きかったのと里山空港(能登空港)も輪島市に立地しています。発災後は帰宅難民が数百人滞在していました。

 輪島市の2024年1月23日14時時点までに確認されている死者数は98人です。




交通

 創造的復興と題した生活については、新しい住民を呼び込めるかどうかにかかるのではないかと思います。

 珠洲市では高齢化率50%台、駅はあるが鉄道はなく、大型ショッピングモールはかほく市まで行く必要があり、若い世代にとって魅力的なことが少ないかもしれません。

 以前、広島の安芸高田市長が、高校生に全国チェーンのアルバイトを経験させてあげたいが、そのような施設が市内になければ経験の機会が与えられない、と話していました。
 生活と生業が密接であることの一例だと思います。

 石川県内のマクドナルドは中能登町(鹿島アルプラザ)が最北端、次が羽咋市(イオンタウン羽咋)です。
 ガストは金沢市内に4軒あるのが北端です。
 ココスは穴水町に1軒あり、七尾にも1軒あります。

 珠洲市役所から穴水駅まで50kmほど、車で1時間以上かかります。輪島市役所から穴水駅までは20kmほど、30分以上かかります。

 津波被害が大きかった宮城県気仙沼市では、線路があった場所を舗装し、バスを通すBRT(バス高速輸送システム)が整備されました。
 こうした考えは既に検討されているのではないかと思いますが、輪島も珠洲も鉄道がある訳ではないので同じ方法という訳にはいきません。

宮城県気仙沼市のBRT(開通初日に現地訪問)

 神戸空港と関西空港間など海路を使うルートを確立している地域があります。
 通勤通学の日常利用だけでなく、観光利用も考えられるので、漁師の再就職先としては相性が良い仕事かもしれません。
 ただし、欠航リスクが伴います。

【参考】マクドナルド:店舗検索
【参考】ガスト:店舗検索
【参考】ココス:店舗検索
【参考】神戸-関空ベイシャトル




中核拠点 兼 エスケープゾーン

 津波が発生し得るエリアでは『高台避難』として、住居や職場がある場所から最寄りの避難場所を把握している人が多いと思います。今回、それで助かったという人がテレビに出ていました。

 創造的復興を考える際に、非常時に逃げ込むことができるエスケープゾーンのような場所の整備が必要なのではないかと思いました。

 それは津波に限らず、洪水や大火に見舞われても、深く考えずに逃げ込めば良いという場所を整備すると良いのではないかと思います。

 イメージするのはお城です。

 金沢城をイメージして頂ければ、ご理解頂けるのではないかと思います。

大阪城



城と街

 城のお堀の内側、石垣が積まれて一段高くなっている所に市民が逃げ込めるだけのスペースがあれば、とりあえずの避難場所として使えると思います。
 その場所に仮設住宅を建設することもできると思います。

 お城の本丸は市役所、災害時は司令塔になります。

 この本丸が平時に利用されやすいものにすることで、非常時にも多くの市民が使い勝手を知っている、という『身構えない訓練』を社会実装できると思います。

 切手を買う、預金を下ろす、免許を更新する、生活に関わる色々なことが本丸で出来れば、年に数回は行く場所になると思います。
 他県に行かなければ買えないレアな食品をお取り寄せして販売しても良いと思います。

 サッカー場やテニスコートを整備して、そこを非常時のヘリポートとする、あるいは最初からヘリポートを整備して近未来の空飛ぶタクシーやドローンの発着点としても良いと思います。

 本丸の周りには小規模な商店を誘致しても良いと思います。

 人口の多いエリアであれば、ショッピングモールがその役目を果たし得ますが、人口が多ければコンパクトシティにする必要もありません。
 人口が少ないからこそ、核となる場所をつくり、その周辺に住むことで商業的に成り立つ都市とする、という必要性が生まれます。

 商圏人口○千人なら食品のみのスーパー、○千人なら生活用品や衣料品も置くスーパー、○万人なら家電やスポーツ用品を置くスーパー、○万人なら100均やファミレスをテナントとして呼べるといった目安があるとすれば、どのレベルを目指すか市民とも話し合い、例えば本丸から半径2kmに市民の1万人の住居を集めるといった目標を共有すると良いのではないかと思います。
 半径2kmは約12.5平方キロ、半径3kmは約28平方キロです。輪島市や珠洲市は、市役所を起点に概ね2kmに病院などが集まり、住宅も多く集まっています。半径2kmといっても海や山を含むため開発対象は半分くらいになりますが、4km離れていても若い人なら徒歩1時間、バスを使えば15分ほどの範囲なのでコンパクトシティとしては成立すると思います。

 中核に市民の多くが集まることで、巡回バスなどの走行距離は短くでき、係る経費を抑えることができます。救急車も片道5分以内となれば、単位時間あたりに搬送できる市民の数も増えますので合理的です。
 こうした負担軽減効果を見込めるのであれば、その分を固定資産税減免などの措置に回し、コンパクトシティへ協力する見返りを用意するといったこともできると思います。

 敵と戦う訳でもなく、富や財を見せつける必要もないので本丸を高層化する必要はありませんが、城のようなつくりをして、平時も災害時も使える核づくりは創造的復興のシンボルになるのではないかと考えます。

避難場所となる広場と津波やミサイルに耐え得る頑丈な建物




私見『創造的復興』~既存産業マッチング~

 創造的復興には生業が必要です。

 コンパクトシティ化したとして、市の中核エリアに1つは必要な事業所をリストアップします。

 郵便局や銀行など窓口業務についてはICT化・DX化に伴い店舗型の営業は必須ではなくなる可能性があります。移動ATMで奥能登を巡回するという方法もあるので、不採算な窓口は置かれないと思います。

 医療機関や理美容室など本人が出向く必要がある事業所は最低1軒は必要になると思いますので、担い手が居なければ誘致が必要でしょう。
 選択肢が無いということが『豊かさ』と関係するならば、店舗は市が用意して、店子は日替わりというシステムを構築することもアリかもしれません。
 市長が開設者となる診療所に、内科医や整形外科医など日替わりで来てもらえば、慢性疾患については対応できると思います。急性期への対応として、病院にかかりやすくする仕組みが必要になります。
 理美容室は、お気に入りの理美容師をみつけて、その人が来る日を予約する、あるいは予約が一定件数に満ちた日に来てもらうという仕組みができると思います。

 復興の過程では家電品を買う人が多いと思いますが、これをネット通販ではなく地元商店から買う事のインセンティブがあれば事業として成り立つと思います。地元に担い手が居なければ、若手の創業支援で奥能登で開業してもらうことは有意義だと思います。

 同様に建築もラッシュが来ます。
 ほとんどが復興期の数年間だけ現地滞在ということになろうかと思いますが、そのまま定住する職人が現れるように手を尽くすことも良いのではないかと思います。
 私案ですが、職人育成プログラムをつくり、復興予算を使うためには研修生を受け入れなければならないという制度をつくり、全国から職人志望者を集めると良いのではないかと思います。




過去には『食』で『職』を創造

 筆者は2011年、東日本大震災の被災地を訪問し食の問題に触れました。

 漁業の街ゆえに、毎日美味しい生魚を食べられた人たちが、避難所ではコンビニのオニギリか弁当という生活がしばらく続きました。魚肉ソーセージとマヨネーズが取り放題の状態で、皆がマイマヨネーズを持つというのが避難所の終盤でした。仮設住宅に移るとスーパーで売っている魚は都会と同じレベルの新鮮な魚、獲れたてとは違いました。海外から来た冷凍の魚を初めて食べたという人も居たようです。

 高塩分食と低代謝、特に発災から半月ほどはトイレ事情が悪くトイレに行かないために水を飲まないという高齢者が多く、異常な血圧の避難者が多く居ました。

 こうした課題を解決するために、減塩食の大量調理ノウハウを被災地に持ち込むプロジェクトを提案し、県栄養士会をカウンターパートとして市民公開講座などを展開しました。

 美味しい減塩食なので、健常者も美味しく食べて貰えるということで老若男女を対象に弁当事業などを展開できる仕掛けも用意しました。

 当時、復興事業で建設関係者が数千人は来ていたと思います。コンビニの弁当の売上が全国一であったと話していました。
 どうせ食事をしなければならないのであれば地元にお金を落として貰おう、元気に働き続けてもらうためには美味しくて健康にも良い物を食べて貰おう、といったコンセプトがあります。

 被災者の減塩を意図した食、建設業者などに向けた食の販売による職の創出を兼ね、創造的復興ソーシャルビジネスを計画しました。

 筆者らが計画した事業では、推定で6千万円ほどの資金が必要でしたが、復興予算などを活用することで一部は補助金、一部は無利子融資などが活用できるため、被災地外で創業するよりはリスクは軽減される見込みでした。




私見『創造的復興』~大学~

 人口減少時代、かなり飛躍した施策を試す必要があるかなと思います。

 異色な大学の誘致はどうでしょうか。
 馳知事は第16代文部科学大臣であった背景もあり、災害対策本部員会議でも文科省に対する具体的なリクエストはさすがだなと思って見ています。
 許認可の問題など越えるべきハードルは多いですが、実現不可能ではないと思います。

 創造的復興に賛同する人に講師データベースに登録してもらい、教育プログラムに合わせてゲストティーチャーとして招聘すると、思いもよらないような教育ができるのではないかと思います。
 社会人経験者限定とすることで、社会勉強的な実習をせずとも教養が身に付いた状態で学生を迎え入れられると思います。
 フランスでは学費が無料なので、生活費さえ用意できればリカレントを決断できるので、何か補助があれば2~3年間は仕事を休んで労働移動しても良いかなと思っている若手はたくさん居ると思います。

 筆者は社会人経験を経て26歳で大学に進学しましたが、生活費と学費を稼ぐのに必死な大学生活でした。下記のサイクルで生活していたので、なかなかのしんどさです。
 これだけ苦労しても、卒業時には育英会には1,000万円の借金が残りました。
 学費か生活費のどちらかが軽減されると、ここまで無理はしなくても済むかなと思います。

 馳知事も学生時代は苦労されたようなので、バイトを斡旋してもらえることのありがたさには一定の理解があるのではないかと思います。

 何らかの専門人材としてバイトを用意することで、学生生活に多少のゆとりが持てると思います。

 好条件を提示することで、その専門を持った人が市内に移住してくる可能性もあると思います。

 筆者は大学入学前には電気工事業者として独立開業していたので電気工事のスキルと免許がありましたが、大学生活中は役立てる場所がありませんでした。
 危険物取扱者免状と大型自動車運転免許があったので、そちらで深夜のガソリンスタンドを1人で管理でき、仮眠をとる機会を得ながらバイトできました。

 県庁の専門チームが営業してICT関連の仕事を県庁内で探して取ってくる、それを学生に流す、ということくらいであれば出来るのではないかと思います。
 少々複雑なExcelファイルを依頼されたとして、その仕様の打ち合わせからフォローアップまでOJTで学ぶことができれば、学生としても良い事ではないかなと思います。
 県庁の人にとっては面倒なことが多いですが、定着してしまえば庁内でICTが特異な人に残業してもらうよりも、リーズナブルなのではないかと思います。




私見『創造的復興』~引きこもり学習~

 教育の在り方も変わる可能性がある現在『神授業』はどこかのエキスパート人材が行い、児童生徒への個別のケアを現場に居る先生が行うといった方法が模索されると思います。少なくとも教科書は全国共通の数種から選ぶ訳ですから、その教科書に動画が付いてきても良いと思います。

 『神授業』を受けるに適するのは、勉強意欲があり、そのレベルに合っている子供たちなので、やる気を起こさせるのは先生方だと思います。

 現在、『ひきこもり』は146万人、不登校の児童生徒は25万人という数字が示されています。
 学校には行きたくないが、勉強はしたい、しておきたいという子はたくさん居ると思います。YouTubeの『街録ch』でもそうした経験をした人がよく出てきています。
 『あのちゃん』もしばしば引きこもりについて自身の経験や想いを語っています。
 ICTを活用した通信教育は、こうした子供たちへのリーチを伸ばしています。

 ICTで授業が受けられても、伸び伸びと運動する場は得られません。ここに新しい教育ツールを充てることができるのではないかと思います。

 義務教育についてはアンタッチャブルな部分もありますが、家庭教師や塾といった『民』の部分は自由度が高いと思います。過疎地だから塾も無い、だから高いレベルの教育が受けられない、だから医師や弁護士などになることを諦める、といったことが無いように、子供たちには均霑的に学びの機会を与えられると良いと思います。

【参考】総務省:不登校・ひきこもりのこども支援に関する政策評価<評価結果に基づく意見の通知>(2023年7月21日)

【参考】NHK:「ひきこもり」推計146万人 主な理由“コロナ流行”内閣府調査(2023年3月31日)

【参考】NHK:【あのちゃんコメント編】ひきこもり新時代~長期化、募る焦り~




私見『創造的復興』~飛躍的なビジネス思考~

 既存産業を再建することは先述の通り優先すべき事項です。その担い手が足りない場合は積極的なマッチングが必要です。

 既存産業をベースとした飛躍、あるいは社会を見渡しても飛躍的だと言われそうなビジネスを創出することで、その聖地的な位置づけを獲得できれば、奥能登の求心力が高まると思います。

 まずは先行ビジネスを研究する必要があります。先行者が手を出していない分野や業務に新規参入者(後発)として手を出すことが必要になります。更に、参入後に新たな後発事業者が現れても競争に勝てるための戦略や先述も必要になります。
 筆者は下図のようなFive Forces Analysisという手法を使って分析し、場合によっては事業からの撤退時期も見据えて計画します。

【参考】Five Forces Analysis(ファイブフォース分析)




ネット通販の聖地

 ネット通販台頭の時代、中小零細であっても事業化のハードルが下がる一方で、必要となるリソースもあります。

 コールセンターは自社で抱えるよりも外注した方がリーズナブルなことが多いです。

 その外注先となるコールセンター業務を奥能登に創ることも検討できると思います。


 単にコールセンターを置くだけであれば青森県や沖縄県などにある先行事業者には勝てないと思います。後発としての特色が必要ですし、さらなる後発にも負けない競争力が必要です。

 簡単なところから言うと、撮影スタジオの提供でしょう。小物撮影からセットまで、多種多様なスタジオが用意されていると、それらを抱えられない事業者にとってはメリットになります。
 ダイニングテーブルやソファセットなどは雑貨の紹介ではよく使われるので、そのシーン撮影のために数万円支払ってスタジオを借りるということも行われています。
 自社で家具を持ってしまうと、それを置く場所が必要になりますし、何種類も家具を買うには相応に費用がかかります。


 モデルや声優、CGを使うとなるとかなりハードルが上がります。
 1人のモデルを1日拘束、30分単位で切り売りして10件くらいに分割すれば、1万円くらいでモデルを使うことができるかもしれません。
 声優も同様に、打ち合わせとレコーディングを1枠30分、ナレーションなら10分以内といったパッケージを作り、切り売りすることで費用負担を軽くすることができます。
 こうしたモデルや声優をどのようにプールするのか、そこが難しいところですが、そのようなことに長けた支援者が現れるように、県庁から発信してみる価値はありそうな気がします。


 撮影には様々な器材も必要になり、そのハードウェアの費用負担だけでも相当です。カメラはレンズ1本で10万円ということもめずらしくありません。
 そして、そのハードウェアを使いこなせる人材も必要になります。

 復興が必要な土地、中学生が集団避難した輪島市や珠洲市などでは今後、リモート授業も必要になると思います。

 この授業を受けるにもICTが必要ですし、配信するにもICTが必要です。
 ネット通販の聖地に必要な人材は、教育の場にも必要な人材に共通するので、教育委員会からの委託事業も受けてもらえれば、ある程度の収入を確保できると思います。




私見『創造的復興』~安全教育の聖地~

 海岸の隆起により港は壊滅、漁業も大ダメージを受けている現実は変えようがありません。

 一方で、メートル単位での隆起は珍しいことであり、その様子を目視確認できるということは、世界的に見ても特徴的な場所であるとも言えます。
 海岸の隆起をひとつの目玉に『映える場所』『フォトスポット』として観光客も研究者も集客できれば良いのではないかと思います。

 これだけではリピーターは得られませんので、コンテンツが必要になります。

 そこで『安全教育』のパッケージを創成すると良いと思いました。

 キラーコンテンツとしての地震と津波がありますが、大雪についても知見を積み上げている地域です。
 羽田事故で注目を浴びることになってしまった旅客機の非常時乗客誘導も安全教育としては学んでみたいと思った人が多いと思います。

 筆者は災害コンサルタントなどと名乗ることがありますが、本来は『非常時』への対応をコンサルティングするのが生業です。
 大規模な事故や工場爆発も非常事態です。
 従業員の一斉離職、資金ショートも非常事態です。

 すなわち、安全教育とは幅が広く、様々なコンテンツを提供できます。

 2泊3日でプログラムを組み、1日目は午後から座学、その夜はチーム別の懇親会、2日目はチーム別の演習、3日目も演習を行ってランチをしながら成果発表会、その後はバスで空港か金沢駅まで送る、というスケジュールが組めそうです。月~水と水~金で2クール実施すれば、平日出張として参加者を集めやすいと思います。

 当初は自治体職員向けの研修プログラムをつくり、県庁や市役所の職員が経験に基づいて講義をするという形を作れれば、比較的早くサービス提供を開始できると思います。
 今回の震災に際しては全国から多くの行政職員が業務支援に来ていますが、この方々を御礼や慰労を兼ねて講師として招くという活動も良いのではないかと思います。演習のファシリテーターとしても経験が役立つと思いますので、その場に居てもらうだけでも価値があると思います。業務支援で来られている間は美味しいものも食べていないと思いますし、ゆっくりお風呂に入ることもなく、トイレすらキレイな水洗ではなかったかもしれないので、御礼とビジネスを兼ねた招聘は、有意義かなと思います。




コホート研究の聖地

 日本国内には何カ所かコホート研究で有名な街があります。それらに共通して30年以上の市民データが蓄積されています。

 コホート研究とは、簡単に言うと集団を調査するものです。集団の中で共通の因子を持つか否かで2群に分けて調査します。
 『1日2杯以上コーヒーを飲む人』のような分類は全国どこでもできますが、少しニッチなところを攻めるとデータが少なくなります。

 市内の病院に委託して、市民の足の血流データを記録するとします。これを毎年1回ずつ実施します。その検査に協力してくれる市民が老若男女3,000人居たとします。10年で30,000件のデータが蓄積します。しかも、その多くは今年と10年前のデータを比較できます。
 途中で出産した人、高血圧の診断を受けて服薬を始めた人、脳梗塞で倒れた人など身体的なイベントだけでなく、転職した人、海外旅行した人、孫ができた人など人生のイベントごとも何らかの研究データになるかもしれません。

 筆者が居た研究機関では、頸部の血管のエコー画像や、皮膚などから出る生体ガスを集めたものなど、色々とありました。

 血液データなどはナショナルデータベースとして国主導で管理しているものもありますが、特徴的なデータはお金を払ってでも欲しいという研究者が居ります。

 これほどの規模の災害に見舞われた都市で、復興の過程のデータが取られることは珍しいと思います。
 専門家ではないのでわかりませんが、国際的に役立つデータが取れるかもしれません。

 コホート研究の聖地になる価値はあるのではないかと思います。




Universal Health Coverage (UHC)

 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage)とは、世界中のすべての人が適切な保健医療サービスを支払い可能な費用でアクセスできる状態のことです。

Universal health coverage (UHC) means that all people have access to the full range of quality health services they need, when and where they need them, without financial hardship.

WHO: Universal health coverage

 創造的復興とUHCのコラボレーションができないか、考えてみました。

 下図はJICAが示すUHCの課題ですが『物理的アクセス』については、今回の被災により輪島や珠洲でも経験した人が多く、今もなお一部の医療は被災地では受けられません。


 10年ほど前の循環器学会で登壇した輪島の医師が、奥能登のでは心筋梗塞の治療ができず、金沢まで救急搬送していては間に合わないといった話をしていました。
 同様のことは岩手沿岸部でも起きていました。
 仮に1人分の診療体制が確保できても、2人同時に発生すれば1人は助からない可能性が高いです。

 そこで医師から提案されたのが、心筋梗塞にかかる医療費を使う機会が無い住民に対し、予防に資する活動の費用を手当できないかといった内容でした。
 適度な運動、適正な睡眠、減塩や減量などに取り組むためのインフラなどが想定されます。

 物理的アクセスに課題を残したまま、地域にある医療以外は世話にならずに済むように予防に取り組む、というモデルも今後の人口減少時代には必要になると思います。

 救急搬送の手段を見直す研究や開発も重要です。


 救急車の中をモニタリングしたり、遠隔で医師が救急救命士に指示を出して処置する取り組みは広がっています。

 令和6年能登地震では5歳児が熱傷の後に亡くなった事例がありましたが、平時であれば助かったが災害中であったために亡くなるケースを防ぎえた災害死、PDD(preventable disaster death)などと呼ばれます。

 救急車の中でできる熱傷の処置には限りがありますが、遠方へ搬送しても病態が悪化しないための対策は講じられるかもしれません。

 皮膚は外界とのバリアになっていますが、それが破綻することによって感染症を起こす可能性があります。
 皮膚呼吸と呼ばれるものが機能しなくなり、組織や臓器の酸素不足が起こる可能性があります。
 こうした熱傷による合併症のようなものの進行を遅らせるための、例えばカプセル状のタンクの中に患者を入れて浄化された酸素を流し込み、病原体との接触を減らしながら酸素加もするようなデバイスがあると、半日の搬送にも耐えられるかもしれません。

 こうしたデバイスの開発を推進し、その試作機の評価を地域で行う、良い評価が出れば地域でデバイスを買う、実際に使用する場面に遭遇したら、その様子を学会等で報告し世の役に立てる、といったサイクルを、倫理的に許される中で実践できれば、開発パートナーとして珠洲市や能登町などオファーが集まるのではないかと思います。

 成功事例となれば、新興国や途上国に展開できる何かを発見できるかもしれません。

【参考】WHO: Universal health coverage

【参考】WHO: A New WHO Goodwill Ambassador for Universal Health Coverage

【参考】厚生労働省:2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」です。

【参考】JICA:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)




地域を盛り上げるコミュニティFM

 創造的復興において、地域で理念や目標を共有し、足並みを揃えて復興に向かっていくことは有意義だと思います。

 地域の情報を日常的に、受動的であっても入ってくるようにするためにコミュニティFMの開局は有意義だと思います。

 復興以前に、応急や復旧でもコミュニティラジオ局は役立ちますので、災害対策本部員会議では志賀町長から『臨時災害FMの開催をお願いしたい』との要望が出されました。


 コミュニティFMでは地元ネタを中心に扱いますが、地元に執着する必要はありません。

 多彩なゲストスピーカーを招くことで、リスナー層を厚く、広くすることができます。

 電波として飛ばす場合には数キロ先までしか届きませんが、ネット配信を併用することで、リスナーを世界中から開拓できます。

 北九州のクロスFMは、ホリエモンの出資を受けて地方局でありながら日本中からリスナーを集めています。

 FM尼崎は市税の投入が終了した2023年3月に停波しましたが、同年10月に一般社団法人として再開しています。

 コミュニティFM局のレベルでは多くのスタッフを抱えられないため、災害時の緊急対応は期待しづらいと思います。しかしながら復旧や復興の段階であれば少人数のFM局でも力強く寄り添えると思いますので、創造的復興の盛り上げ役として、地元FM局は『あると良い』なと思います。

 先述の声優やモデルといった仕事と、FM局のスピーカーを兼ねてタレントを育成するということも、新たな取り組みになるのではないかと思います。

【参考】CROSS FM

【参考】みんなのあま咲き放送局




おわりに

 石川県の災害対策本部員会議は毎回YouTubeで拝見し、特に馳知事(本部長)の冒頭と締めの言葉には注目しています。

 発災10日あたりから復興など長期を見据えた動きも見られ、『創造的復興』というキーワードが出て来たのが1月12日だったと思います。そこから筆者も勝手ながら創造的復興について考えていました。

 自身が住むエリアは阪神淡路大震災で大ダメージを負った経緯があり、筆者の自宅がある敷地内にあった家屋はあの日に倒壊しています。先代夫婦が生き埋めになったが助かった奇跡的な場所でもあります。
 一方で、このエリアは昔のままの細い路地を残しており、軽自動車すら入れない道が多く、そこには昭和時代に建てられた木造住宅も多くあるため、おそらく大火に見舞われたら消防車が何台来ても消火困難な状況に陥ると思います。
 次に大震災に見舞われたときは、路地を無くす方向で復興できるよう、平時から住民が話し合う場が必要だなと思っていますが、そのような機会はなかなか訪れません。

 今回、残念ながら能登で大きな地震が起きてしまい、津波も起きてしまい、甚大な被害がありそうですが、まだ全容はつかめていません。

 馳知事がおっしゃるとおり、元あった場所に同じ物を復旧させても、再び同じ災害が起これば同じ事が起きてしまうので、未来に志向した復興が必要だと思います。

 『普通』というものはないと思いますので、100年先の住民も喜んでくれるような、創造的復興をとげてもらいたいと思っています。

 できることなら、筆者が被災地に入り、何年もかけて一緒に復興したいと思っていますが、ぜひ地元の有志、特に若い世代が自身の50年後を見据えて創造的復興をとげてもらいたいと思います。