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自治会・地域コミュニティ法人化 | NES’s blog

法人化とは?

 ヒトであれば、妊娠した時点で母子手帳が発行され、生まれる前からある程度の人格が認められます。残念ながら死産であったとしても死産届が必要になりますので、妊娠第12週以降は一定の人格があると言えます。
 出生後は14日以内に出生届を提出し戸籍を持つことになります。

 一方でヒト以外のものについては法的な人格がありません。

 ヒトが創ることができるものが人格を持つ、法的に人格を認めるというものが『法人』(ほうじん)です。

 任意団体やチームなどには戸籍謄本のようなものはありませんが、法人であれば謄本があります。

 法人であれば銀行口座やクレジットカードもヒト並みに作れます。不動産や特許を取得して法人名義で登録することができます。

 人格を持つということは、社会における義務や責任を負う事になります。




自治会の法人化、なぜ?

 自治会や町内会などの組織は任意団体、見方によれば草野球チームと大差ありません。

 その存在には法的根拠がなく、例えば何かを所有するということが難しいです。

 土地を買って自治会館を建てたいという自治会があった場合に、その名義人を自治会長など個人にせざるを得ない時代がありました。
 自治会長が亡くなれば相続問題が発生しますし、個人として債務不履行に陥れば自治会館が差し押さえられてしまいます。

 自治会町内会は、「権利能力なき社団」と位置づけられ、法人格を取得することができなかったことから、自治会町内会館等の財産を持っている場合、当該団体の名義での不動産登記ができませんでした。
 そのため、不動産の登記名義を当該団体の会長個人又は役員の共有名義としなければならなかったことにより当該名義人の死亡による相続や、当該名義人の債権者による不動産の差し押さえ等の財産上の問題が生じることがありました。
 地縁による団体の認可(自治会町内会の法人化)制度は、このような問題を解消するため、不動産を保有又は保有を予定している自治会町内会が法人格を取得し、当該団体名義での不動産登記を可能にするものであり、1991年(平成3年)4月の地方自治法の改正により創設された制度です。
 令和3年度の第11 次一括法による地方自治法の改正で、地縁による団体は不動産等の保有の有無にかかわらず、地域的な共同活動を円滑に行うため市町村長の認可を受けることができるものとされました。

自治会町内会を法人化することの意義はなんでしょうか。

横浜市:自治会町内会を法人化することの意義はなんでしょうか。

 任意団体ゆえに横領を立件するのも容易ではありません。飲食や旅行に自治会費を使ったとしても、所有権がはっきりしない資金なので明確に罰する法律が無く、窃盗や業務上横領で警察が調べてくれるかは微妙なところです。
 以前、警察に相談したところ法人格があれば捜査しやすいとのことでした。刑法では『他人の』という条文があるので、人格が必要になります。
 立件されなくても、総会で責任追及する機会がありますので、法人であれば選択肢が広がります。

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法 第二百三十五条

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

刑法 第二百五十三条

【参考】横浜市:自治会町内会を法人化することの意義はなんでしょうか。

【参考】山梨放送:自治会費140万円横領の疑い 韮崎市の看護助手の女を逮捕 山梨県(2024年1月18日)

【参考】刑法




自主防災組織

 法人化しなくても防災はできます。

 自主防災組織は災害対策基本法の『住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織』という規定に基づく、住民の住民による住民のための組織です。
 組織を作って、機能させることが目的です。

 自主防災組織は2012年に約15万団体であったものが2022年には1割程増えて約16.7万団体になっていますが、前年より3千団体ほど減っています。

【参考】総務省消防庁:令和4年版 消防白書 第4章 自主的な防火防災活動と災害に強い地域づくり

【参考】総務省消防庁:地域防災を支える自主防災組織等の育成

【参考】内閣府 防災情報のページ:広報・啓発活動

【参考】R5年度ひょうご安全の日推進事業




地域防災連合

 自治会は町丁別に存在する場合もあるほど小さいコミュニティで形成されています。1つの小学校区で自治会が複数存在し、それぞれに会長が居ることになります。

 自治体が指定する避難所は小中学校であることが多く、校区に合わせた避難者が身を寄せることが多いです。

 複数の組織、複数の長が居ると『船頭多くして船山に上る』という状況が容易に想像できると思います。

 災害時は住民の隣保協同が重要であり、住民ファースト、被災者ファーストであるべきです。組織間の軋轢は無用です。

 そこで必要となるのが地域の組織が連携して避難所などを運営できる新たな組織です。

 実際には自治会以外にもPTAや老人会、子供会、青年会、婦人会など様々な組織が地域には存在するので、それぞれの代表者が集まる会議体が必要になります。

 地域の防災連合組織を形成するにあたり、そこには長となる人材が必要ですが、参画する各組織から選抜するよりも、この連合組織専用の長を据えた方が何かとスムースです。




地域連合の法人化

 地域の多様な組織が連携し、1つの連合組織を形成する際に、その組織を法人化するメリットがあると思います。

 参画するのは任意組織であっても、連合組織が法人であれば法に基づいた義務や権利を有することになるので、ガバナンス面ではメリットがあると思います。

 個別組織の規模によらず発言権を1つずつ与えられれば、多様な事情に対応できる地域づくりができると思います。




法人の種類

 地域連合組織が法人化する場合、以下の4つの方法があると思います。

  • 認可地縁団体
  • 特定非営利活動法人(NPO法人)
  • 一般社団法人
  • 株式会社

 認可地縁団体は地方自治法第二百六十条の二から第二百六十条の四十八に規定される団体で、自治会館などの不動産を所有する際に困った団体からの要望から作られたような団体です。
 認可地縁団体は市町村長が認可します。
 税法上の位置づけは公益法人等です。組合や公社などに近い存在です。普通法人では所得すべてが課税対象ですが公益法人等は収益事業のみ課税対象です。

 NPO法人(特定非営利活動法人)はその形態によって所轄庁が異なりますが、基本的には都道府県か政令指定都市です。
 まずは所轄庁からの『認証』を受ける事になります。
 次は『認定』ですが、税制上の優遇が受けられる認定には満たすべき基準があります。

 一般社団法人と株式会社は近い形で設立します。
 発起人を集め、定款を作り、法務局に届け出て、登記されるという手順になります。法務省、法務大臣の所掌です。
 運営も一般社団法人と株式会社は近いです。理事と取締役は名称こそ違えど、役割は似ています。
 非営利型の一般社団法人であれば税軽減されますが、非営利ではない一般社団法人と株式会社は同じレベルで課税されます。株式会社は資本金や従業員数などで輪切りされますが、一般社団法人には規模による区分が無い点が相違点です。

 法人税には所得税と住民税があります。法人税は収支に応じて支払うもの、住民税は存在するだけでかかる均等割(定額)と収支に応じた所得割があります。収支が赤字でも均等割の7~8万円は課税されます。




平時活動が重要

 地域の防災連合組織の法人化が1つのゴールであり、スタートですが、災害のためだけであれば法人化のメリットより、法人税負担などのデメリットの方が大きくなる可能性があります。

 法人として平時に行う業務があれば、固定費に見合った、それ以上のメリットを生み出すことができます。

 過疎が進んでいる地域では移動販売車やガソリンスタンドを経営する法人を創設した事例があります。観光地では案内所やガイド、土産物店などを地域の法人が担うということもあります。

 都市部では民間企業が多くあるため地域連合組織が創業しても経営ノウハウが無ければ容易に破綻しますが、住民の中にはビジネス経験者が多く居る可能性がありますので成功する可能性も秘めています。

 子供向けのデイサービスやスポーツチームの運営などサービス業にもビジネスの道があります。今後は学校の部活動の運営受託なども広がる可能性があります。
 従来は無償ボランティアが当然といったことであっても、今では副業として受委託するケースは増えています。

 買物代行や軽微な日用作業などを担う便利屋的なビジネスも地域でできると思います。Uberが行っているものを、もっと狭いエリアに限定し、かつ、Uberには頼めないようなゴミ出しなども担う、というものです。

 認知症カフェなどケアとサービスを融合したビジネスにも可能性があります。




非営利事業も法人

 地域連合組織として非営利活動を中心に、あるいは非営利のみを実施することも考えられます。

 地域の防犯パトロールをする、生態系や美観を維持する、観光ガイドをする、といった非営利活動を地域に根差して実施するNPO法人が散見されます。

 事業の永続性を考えると、何らかの活動資金を確保しなければならないので、非営利事業は難しい面があります。

 事業性が乏しい場合、補助金や寄付金に依存しています。

 非営利活動の中で専門人材を育成し、その専門人材が後続を教育することで対価を得る、といったことができれば自立性は高まるかもしれません。

 障害者の就労支援としてクッキーなどをつくって『障害者がつくりました』という売り方をする事業者が多く見られますが、本来は『誰が作ったか知らないけど美味しい』という方が事業性が高まります。
 そのためには美味しいクッキーを作るノウハウや設備が必要です。地域に何十も組織があり、何百や何千人もの住民が居れば、そのスキルやノウハウを持った住民も居ると思いますので、積極的に招聘して事業基盤を作ると良いと思います。




当面は福祉事業がお勧め

 日本は超高齢社会に突入し、令和6年能登半島地震のダメージが大きかったエリアでは高齢化率50%という社会であり、介護や介助が必要である住民が少なくありませんでした。

 平時から高齢者福祉事業や障害者福祉事業を地域で営んでいれば、災害発生後も地域で福祉事業を継続することができます。




加盟に条件

 地域連合組織を作る場合、それが法人であっても任意団体であっても、加盟ルールは必要になります。

 たとえば、加盟時には加盟料として10万円、属性が関係する人の25%以上が加盟していること、などの条件を付けると、無用な組織が加盟する可能性は低くなると思います。

 とはいえ一律のルールでは運用が難しいものもあります。健康な高齢者の団体であったとして、地域の高齢者数はわかっても健康であるかどうかわからないので、加入率は算出困難です。
 妊婦や乳幼児の団体があったとしても、妊婦や乳幼児である期間は限定的であり、そのサポートをする人も出入りがあると思いますので加入率という考え方は難しいと思います。

 近年は外国人も多くなりましたが、20年前が0人で現在は5人となれば増加率は無限大ですが、地域の人口に対する割合は1%未満、組織化して連合に参画するというレベルではありません。

 自治会のように歴史があり、資金があり、力がある組織が牛耳る地域連合組織になってしまっては弱者が居づらくなる、地域が分断することすらあるので、加盟の条件づくりは難しいと思います。




防災上の法人化メリット

 法人は資産を持つことができる点がメリットであり、それを防災に活かすことがメリットになると思います。

 廃品回収などを含め、地域で取り組む資金調達活動は、単に消費するための資金集めではなく、資産として持ち続けるための資金調達であっても良いと思います。

 年間100万円の利益が出たとして、それをバス旅行などに充ててしまえばその1回で終わりかもしれません。
 月5万円のローンで空き地を買えば、地域で自由に使える土地を手に入れることができます。固定資産税や維持管理費がかかるのでネガティブな面もありますが、自治体が用意する公助とは異なる、地域の共助や互助の拠点として活用することができます。




義援金や救援物資の受け皿

 法人格があると、義援金の受け皿として銀行口座を公開することができます。

 救援物資の送付先として法人の拠点を活用することができます。




災害復興の区画整理事業

 法人格があればできるという訳でもありませんが、大きな災害後の復興において、新たな都市計画を策定し、それを実行していく上では土地買収や交換などが行われます。

 しばしば問題になるのが、中途半端な土地が残ることです。

 過去の事例では土地の大部分が拡張する道路にかかり、その部分だけを買いたいと自治体に持ちかけられたケースがありました。
 10坪未満の細長い三角形のような土地が残ってしまう計画で、駐車場にもできない、売ろうとしても買い手がつかない、といった土地が何カ所も残るというものでした。

 ある人は、タダで良いのでこの土地を引き取って欲しいと持ち掛け、隣人に土地を譲ったことがありましたが、そうしたマッチングが毎回上手くいく訳ではありません。

 何十坪ある、家が建つような土地を地域連合組織が買うのは難しいと思いますが、5坪前後の土地を持ち、防災を含めた運用を考えることはできると思います。




地域住民専用の備蓄品

 行政による備蓄は税を使っているため関係人口全員のための備蓄品です。その備蓄品目は行政主導で決められます。

 地域にとって必要となる品々を備蓄する場合、地域連合組織が資産として保有すれば、それは法人の裁量で運用することができます。

 井戸を掘って、井戸水を出せるようにする、この設備を法人が持てば、法人が専有することができます。

 法人として消火器を1,000本買い、1戸に1本ずつ預けておくということもできます。




地域の永続のために

 地域が崩壊しないというネガティブな視点から見る事もできますが、地域の価値が高まれば済み続けたいと思う人も多いと思いますし、高評価の地域であれば住んでみたいという人も多くなると思います。需要が高まれば、地価も上がるので資産価値が高まります。

 地域のために何が良いのか、ぜひお考え頂ければと思います。