医療機器において、前回のクラスⅠ回収/改修があった2023年3月7日から1年が経過しました。
医療機器の回収/改修は以下のように分類されています。簡単に言うとクラスⅠは危険、クラスⅢは危険がないということで、特にクラスⅢの対象では住所を書き間違えていたといった、製品そのものには全く関係のない部分で、法律に則っていない部分を直すということが多いです。
クラスⅠ | その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況をいう。 |
クラスⅡ | その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。 |
クラスⅢ | その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。 |
現時点で最後に出たクラスⅠは回収でも改修でもなく、『患者モニタリング』でした。すなわち、簡単に取り換えや修理ができるものではない植え込み機器でした。
出荷時期は2022年6月1日から2022年6月9日、病院が在庫しておくようなお安いものではないので、おそらく出荷時期と植え込み手術の時期に開きはないと思います。
このクラスⅠの1つ前は3月3日、すなわち4日前です。無発生期間が3日間のあとが365日間なので、大きな違いがありますが、不具合を発見できた、その報告があったという時期との関係なので、間隔自体に意味があるものではありません。
4日前のクラスⅠ回収の方は『回収』でした。
出荷期間は2022年10月19日~2022年11月15日、出荷数が7,604個、回収理由は測定値が高く表示される可能性でした。
工業製品は仕方ない
完璧を目指して開発や製造をした製品であっても、想定外や偶発的な故障は避けられません。
学者と呼ばれるような先生方が結集し、最高峰の技術力を集めて造られる宇宙航空産業の機器ですら故障することがあるので、医療機器でも何らかのエラーが発生して当然です。
しかも医療機器は多種多様、出荷数量も多いので絶対数で言えば宇宙航空産業より発生が多いと思います。
回収や広報の仕組みが大事
昨年は自動車のリコールが話題になり、大規模な交換作業が展開され、おそらく今でも全台交換には至っていないと思います。
対象が何台あり、どこまで対応を終えているのか、そういったことが把握され、公表されることに意味があります。
法規制の対象外にある製品では、このような対応は取られません。家電品に不具合があっても、大事故につながるようなことでなければ公表すらされませんし、公表があったとしてもメーカーが独自に行うものであって、国の機関は関与しません。
医療機器は、国の機関のウェブサイトに社名や商品名、回収対象のシリアルナンバーまで載ります。
メーカーになる覚悟
医療機器産業への新規参入を目指す企業は多く、筆者もその関係の講演依頼を受けることが多くあります。
医療機器を売りたいから医療機器メーカーになる、という考え方自体は間違いではないのですが、少なからず不具合を発生させる可能性があり、そのリコール対応には相応の手間暇がかかります。
不具合らしき状況についてユーザーである医療機関や患者から連絡が入ったことを迅速に経営層や管理者へ伝えることを日頃から教育しておかなければ、単に『クレームがついた』という処理になってしまい対応が遅れることになります。
対応遅れではいくつかの問題が発生します。製品や会社の存続の危機にもなり得る、BCP的には脅威に分類されます。
1つ目の課題は患者への健康被害です。
この部分が法規制の対象、法でしばる理由です。
2つ目はユーザーへの裏切り、信用を失うことです。
医療に携わる者として診療に使うべきものが健康被害を与えるのは言語道断、不具合を知っていながら放置したら業界から追い出されても仕方ありません。
3つ目は行政処分です。報告しない体制が組織的である、または報告するための体制ができていないことが明らかになれば、行政処分の対象となり、医療機器の新規出荷が停止します。
出荷できなければ、営業マンは売る物がなく、仕事を失います。工場も製造する必要がなくなるので、仕事を失います。倉庫も稼働する必要がないので、仕事を失います。
関連して、運送業者や材料卸など取引業者も発注が無くなるので事業が停滞します。
医療機器の回収/改修には適正に対応すれば問題ないのですが、なめてかかると痛手を負うので、何も起こっていない平時から十分な備えができるのか、深く考えて医療機器メーカーになるべきだと思います。
国民は安心
医療機器や医薬品は薬機法の下で守られているので、いわゆる薬事承認を取っている機器や薬を使っている分には、問題があれば国がコミットして回収されます。
似て非なるものを使う、用法や用量を正しく使っていない、という場合には保護の対象にはならないので、安心や安全を買うという意味でも法の下に適正な医療機器や医薬品を購入すると良いです。
雑貨屋さんで売っているガーゼと、薬局で売っている医療用ガーゼは、工業製品として見た場合にはもしかすると同じ糸を使っているかもしれませんが、製品として出荷されるまでの管理、出荷後の管理も雑品と医療機器には違いがあるので、医療機関では医療用のガーゼを使っています。
おわりに
今回はクラスⅠの回収/改修が長期間発生していなかったことについて振り返ってみました。
不具合が出ないことが良い事ではありますが、仮に発生してしまってもしっかりと回収/改修されることに意味があるので、包み隠さず公開しているメーカーの皆様に改めて感謝いたします。