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BPA発表『医療的ケア児の患家BCP策定支援と療養住環境最適化』 | 講演  | NES’s blog

 第34回日本臨床工学会の一般演題発表には、通常の発表とは別に Best Presentation Award (BPA)という枠が在ります。今回BPAにノミネートされました。昨年の第33回大会でもノミネートされましたので、2年連続になります。

 BPA対象演題は『医療的ケア児の患家BCP策定視点と療養住環境最適化』です。

 タイトルが端的ではなにのでマイナス点かもしれません。
 臨床工学業界において『BCP』という言葉がどこまで浸透しているのか、『医療的ケア児』『患家』『療養住環境』という言葉は日常的には使われないので、やや説明がましいタイトルになっています。

 発表冒頭のスライドは下記2枚から始まります。


 緒言として示す予定のスライドは下記です。詳細は発表会場に来てご聴講頂きたいので、一部だけ示しておきます。

 在宅で人工呼吸器を使って療養している患者数について、20歳以上は5年間で6人しか変わっていないのに対し、19歳以下は1,752人増です。
 この数字は患者個人を特定して調べた訳ではないので実数を反映している訳ではありませんが、20歳を境に患者数の差があることは間違いないと考えています。

 また、病院と在宅との比較も行っています。在宅は患者が1人しか居ませんが、医療従事者がゼロの状況で被災する可能性が高い特徴があります。


 『医療機器 停電』などのキーワード検索すると日本臨床工学技士会のウェブサイトやPDFファイルがヒットしますが、そこに書かれている内容が古いため、今日の対応として役立たない部分があります。
 例えば停電情報の入手について、張られているリンクは切れていますし、今ではアプリでプッシュ通知を受け取ることが普遍的になっている業者も多くあります。
 細かいことですが、アップデートしていかなければ、患者の生命を失う恐れがある重大なことであると考えています。

【参考】日本臨床工学技士会:医療機器の停電対応マニュアル


 ここからは研究の本題に入りますが、核となる部分は会場でご聴講願います。

 今回はスピンオフ的な部分で、DXの話題も追加しています。

 電源に関する経時的変化をシミュレーションするために方眼紙に描いていた作業があまりにも手間がかかり、しかも不正確さがあるため、ICTを使った自動化にチャレンジしました。
 これまで1種類で数時間という作業であったのが、10種類で1分前後にまで短縮されました。
 これだけ早く作業が進むと『発電機の燃料をあと1割増やしたら』といった仮説を立てることも容易になります。


 患者から見て、人工呼吸療法はすべて医療従事者で完結、相談先がワンストップ化されれば理想的であると考えます。
 普段の診療に係ることは既に医療従事者がすべてカバーしていると思います。
 装置についてはレンタル業者との連携しながらも、医療従事者が対応していると思います。
 課題があると考えているのが設備やエネルギーの部分、そしてそれらの非常時対応です。

 医療従事者のリスクリングが、設備リテラシーを高めるのであればぜひとも学ぶ機会を設けて欲しいと思います。

 本題とは外れて展望ですが、本研究ではタイトルに『医療的ケア児』と掲げたとおり概ね20歳未満を対象にしています。およそ5,000人の患児を対応できたら、次は大人へと展開したいと考えています。




審査は難しそう

 臨床工学技士の養成課程では透析や呼吸などは十分な時間を割いて習いますが、災害や非常事態についてはほとんど触れません。
 審査対象にBCPがありますと言われて、それを承諾した審査員の方々のレベルの高さが窺い知れます。

 現状を調べてみました。
 昨年の学会を調べてみると、演題名または抄録に『BCP』が含まれていた演題は以下のような結果になりました。

  1. BPA3-3.事業継続計画(BCP)のレジリエンス性向上に資する目標志向行動(goal-oriented action)とマネジメント(BCM), 西謙一, NES株式会社
  2. DP7-5-5.外来透析施設における BCP 策定の取組み報告, 渡邉文雅, 医療法人社団厚済会上大岡仁正クリニック
  3. DP7-5-4.透析センターの災害に対する備え, 今井美穂, 三菱京都病院
第33回日本臨床工学会抄録集(397ページ)

 わずか3演題、ワークショップやシンポジウムなど企画ものはゼロということで、そもそもBCPを研究したことがある人がどれだけ居るのかわからないですが、少なくとも演者以上に詳しい、演者の理論を正しいとか間違えているとか、そうした判断ができるレベルの人材が存在していることに驚きました。
 いずれ、BCPが関心事になれば、審査員を務めた先生方が登壇されるセッションが生まれるのだと思います。

 少し気になるのは、BCPを生業としている人に遭遇しないことです。研究発表は前述のとおり少ないですが、プロとして対価を貰っている人に出会ったことがない点です。
 ビジネスとなると、相手は医師や看護師、いい加減なことを言っていればすぐに見抜かれますし、患者生命に直結するためサービス提供側にも思い責任があります。
 筆者は、胃が痛くなりながらも、綿密な計画(BCP)を練っています。

 BPAは事前審査で以下の点を審査されます。筆者の演題はこの審査をパスできた演題の1つと言えます。

  1. 新規性や独創性
  2. 発展性
  3. 社会へのインパクト

 さらに、発表当日は以下の項目で審査されます。

  1. 研究目的の明確さ、研究方法の妥当性
  2. 研究の新規性、社会へのインパクト
  3. 議論・論理展開の妥当性
  4. スライドのデザイン
  5. プレゼンテーションの内容

 過去に『患家BCP』を扱った研究は見当たらず、商品やサービスなども見当たりません。すなわち『患家BCP』自体が新規性あるテーマであると考えられます。

 『医療的ケア児』は社会問題として取り上げられ、近年は法改正や施策も目立つようになっており、その医療的ケア児の生命を守るための研究に成果が伴えば、社会的インパクトがある研究であると考えられます。

 スライドのデザインなどは審査員の主観なので、何とも言えません。
 プレゼンテーションの内容についても、当日の状況次第という部分もあります。昨年は、前の数演題が時間超過、それを筆者の発表時間で調整されてしまい、持ち時間が1分以上削られるという、なんとも後味の悪いBPA発表でした。

 今回のBPAのセッション、同じ枠の6演題中3演題は病院所属ではない人、すなわち非臨床家の発表です。どの演題も臨床どっぷりではなくマネジメント系、無くても臨床は動くが、あると良いといったものの発表なので、審査員の先生方は相当な博識であると察します。




忌憚なき意見

 学会は発表内容の重箱の隅をつつくのが目的ではなく、研究成果が現場に役立つことが目的です。嘘や誤魔化しで患者らを不幸にしないために厳しい批判を受けることが学会の本質であり、専門家の意見交換を経て生まれた研究成果は、現場に取り入れられていくべきだと思います。

 演者側が審査についてどうこう変化を与えることはできないので、フロアーとのディスカッションを楽しみ、その結果を見た聴衆に社会実装に値する内容であるのかどうか、判断してもらいたいと思います。




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