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中小零細『サービス業』のBCP | NES株式会社

 『サービス業で、しかも中小零細企業だからBCPは要らないでしょう』とお考えの事業者さんは少なくないと思います。

 『災害』に直面する機会は10年に1度も無いと思いますが、非常事態に直面する可能性は災害の比ではないかもしれません。

 2020年には『新型肺炎』という報道から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサービス業の形を変えるイノベーションにもつながったかもしれません。
 『テレワーク』や『Uber Eats』はすっかり市民権を得た言葉になりました。

 BCPは『何日以内にサービス再開』といった短期的なものと、経営危機を回避するための中長期的なものに大別できます。いずれも重要であり、相互にリンクするところがあります。




サービス業

 日本のサービス業者は100万社以上あり、なかでも多いのが飲食業です。

 飲食業は店舗・持ち帰り・宅配などを合わせて468,951事業所、従業者は3,311,728人とされています。ただし、Uber Eatsのように配達だけを行う人や事業者は含まれていない可能性があり、またアルバイト店員も多い分野なので『飲食関係』とした場合は1千万人超かもしれません。

 次に多いのが『洗濯・理容・美容・浴場業』という分類です。若干、幅が広いようにも感じますが、理美容室だけでも60万軒以上あると言われていますので、関係者の実数はわかりません。

 駅ビルやショッピングモールを見ても、理美容室は必ず入っているかもしれませんが、多くても数店舗だと思います。一方で飲食店は全テナント数に占める割合が50%を超える場合もあるほど、数が多いです。

 理美容室は免許制度があり、提供できるサービスの中核は理容師か美容師の業務範疇、それに付随してネイルや着付け、化粧品販売などを行っている場合があります。ある程度は狭い中での競争なので、1つのビルに複数業者が入ってしまうと潰し合いになってしまう恐れがあります。BCP的には、新規開店の脅威が大きい業種です。

 飲食店は中華料理でもフランス料理でも、好きなものを提供できますし、味に基準はありません。中華でも四川料理や広東料理などの本格派、バラエティに富んだ町中華などコンセプトも様々です。どれが当たるかわからない、その地域の客層の嗜好や単価を見抜けなければ経営が行き詰まるかもしれません。

 介護や給食のように、ライフライン的なサービスでは、災害が起きたからと言って簡単には休めないかもしれませんが、一度契約できれば長期的に営業活動が不要になるかもしれません。

 サービス業といっても多種多様、BCPが必要になる理由も多種多様です。

【参考】経済産業省:令和3年経済センサス – 活動調査 産業別(サービス関連産業に関する集計)

【参考】経済産業省:工業統計調査




サービス業の営業停止

 サービス業の中には、仕入れの停止が営業停止を意味する業態も多くあります。
 コンビニでもガソリンスタンドでも、商品が無ければ開店しても売上は期待できません。

 人が居なければ商売にならないサービス業も多いです。BtoCでは、お客さん(Consumer)の来店が必要な場合が多く、交通機関のマヒなどで客足が途絶えれば商売になりません。

 施術者や教員など属人的なサービスを提供している場合は、そのサービス提供者が居なければ商売になりません。

 『保育士一斉離職』のようなニュースがありますが、保育士が居なければ保育園は営業できないため、規模縮小や休園を迫られます。

 サービス業が営業を停止する因子は多様ですが、自社における危害因子を知っておく必要があります。




中小零細の脅威

 大企業には莫大な資産、巨額の内部留保、多様な事業、豊富な取引先などの特徴があります。

 一定程度の内部留保や損害保険加入などにより多少の難局は乗り切れる中小零細企業は多いと思いますが、難局の原因となった事象の規模や期間によっては消耗は激しく、耐えきれない可能性があります。

 様々な視点から、自社がどのような状況に陥ると困るのかを考え、その困る事を引き起こす要因を脅威として捉えて対策するのがBCPです。

  • 廃業の脅威
  • 営業停止の脅威
  • 備品設備を失う脅威
  • 従業員を失う脅威
  • 取引を失う脅威
  • ほか




ハザードとリスク

 何となくハザードもリスクも同じように聞こえてしまう、という人は少なくないのではないかと思います。筆者は説明を求められると動揺してしまうことがあります。

 ハザードとは危害要因です。
 割れたガラスが存在すれば、その割れたガラス自体は人を傷つけることができる危害要因です。

 リスクは危害因子です。
 割れたガラスが床に散乱している、ゴミ箱に無造作に入れてある、といった場合には誰かがケガをする恐れがある状態なので危害因子になります。
 一方で、処理用の金属箱に収められた割れたガラスは、容易に誰かを傷つける状態にはないので存在としてはハザード(危害要因)であり続けますが、リスク(危害因子)ではありません。

 では、カッターナイフではどうでしょうか。

 『刃』はハザードです。
 刃が出ているカッターナイフはリスクです。
 刃が鞘に収まっているカッターナイフは低リスクです。鞘に収めてロックを掛けていればリスクではなくなります。


 リスクとハザードを上手く分析すると、リスクマネジメントができるようになります。




強盗を無くすよりも

 最近、コンビニ強盗が減っていると思いませんか?

 警察庁の資料では、2022年の認知件数は74件で前年比32件減です。2013年は590件、2014年は607件あったので激減していることがわかります。

 強盗しそうな人を捕まえるのは難しいことです。

 不景気だから強盗する人が増えるのであれば、好景気にすれば良いという簡単なものでもありません。

 では、どうやってコンビニ強盗を減らすかと言えば、強盗する目的を失わせれば良いのです。

 いま、大手コンビニは店内にATMがあります。レジの現金は1時間と経たずにATMへ入れられるくらい、頻繁にレジから現金が消えていきます。

 さらにここ数年でPayPayやタッチ決済などキャッシュレス化が進んだことで、ますます現金がなくなりました。

 強盗が『現金を出せ』と言っても、レジから数千円しか出てこないと知れば、強盗する目的を失います。

 一方で、住宅強盗は手口の恐ろしさを感じる事件が散見されています。90歳の女性が暴行を受けて死亡した強盗事件は海外にまで拠点を持つグループが関与していたと報道されています。

 現金を無くし、現金が無い事を知ってもらうことが強盗に遭わない策の1つではあります。

【参考】警察庁:令和4年の刑法犯に関する統計資料

【参考】政府広告オンライン:空き巣や強盗から命と財産を守る 「住まいの防犯対策」




保険

 筆者は大学生の頃、深夜のアルバイトをしていました。

 ネットカフェでもセルフスタンドでも、店長からは『強盗が来ても抵抗せず要求された物を渡して下さい。保険で補償される物は構いませんが、生命や健康は買えないので身を守ってください』と異口同音に言われました。

 サービス業では特に保険が重要になります。

 保険事業者による保険が一般的ですが、意味合いとして保険をかけておくこともあるかもしれません。
 『あのワインを入手してイベントをする』という場合のワイン、もし予定先から調達できなかった場合のために、もう1つのルートを確立しておくことを『保険をかけて』などと呼んだりはしないでしょうか。

 飲食業では宴会予約のドタキャンが問題になることがあります。料理も用意した上でのドタキャンは大赤字です。利益は出ずともプラマイゼロにするために、前金をもらうのも『保険をかける』という意味になると思います。

 保険という考え方は、新たなサービスを生み出すことができるかもしれません。
 例えば『当店でお買い上げいただくと、修理に使えるポイントを御買上価格の5%分差し上げます』と言われると、現金は戻らないが故障したときには頼みやすい、ということで購買意欲を喚起するかもしれません。具体的な保険商品という訳ではないのですが、実質的には保険に近いです。

 不安に思う事があれば、先手を打って対策するのが保険です。BCPには欠かせない考え方です。




地震は脅威

 どの業種においても、地震は脅威になり得ます。

 サービス業において特に注意すべきは『死者ゼロ』というワードです。

 TVCMで『ACジャパン』の啓発広告が多く流れる時期として、死者が出るような災害が起きたあとが挙げられます。

 こんなときにダジャレを言うようなCMを流して良いのか、旅行とか言っている場合か、という世論を気にしての自粛です。

 東日本大震災は3月11日発災です。送別会や歓迎会のシーズン直前、日本中が暗くなるニュースが流れ、そして宴会は自粛されました。
 飲食業は大きな売上を期待できる時期、アルバイトの方々もシフトを入れやすい時期、その時期に需要が蒸発しました。

 もちろん、亡くなられた方々を追悼し、被害に遭われ住む場所も困っておられる方々に支援することも重要です。しかしながら、自身の生計が立てられなければ義援金も出せませんので、ビジネスとのバランスが重要になります。




災害以外の災害級

 下図は筆者が講演で使うスライドの重要な1枚です。
 日本には『災害対策基本法』という法律があり、そこでは災害を定義しています。

 災害が定義されることで、弊害も起きています。災害級のコトが起きても、災害としては扱われません。

【参考】災害対策基本法




Five Forces Analysis

 企業は利潤を追求し、以って雇用や納税をして社会に貢献することが存在意義の1つだと言われています。松下幸之助氏は企業を『社会の公器』と述べられています。

 災害よりも頻繁に遭遇するのはビジネスの課題だと思います。

 売り上げが伸びない、利益が出ない、損失が出たという場合に要因を分析して対策すると思います。

 標題のFive Forces Analysisは、ビジネス上の脅威分析手法の1つです。貴社のビジネスを脅かすものが何かをシミュレーションするための基本的な点を押さえるものです。


 筆者は経営コンサルタントではなく、非常事態に対応するためのコンサルタントなので、個々のビジネスにおける脅威を熟知している訳ではありません。

 洋菓子店も居酒屋も、学習塾も経営したことがないので、具体的な脅威を示す事はできません。

 一方で、どのようなケースに遭遇すると困ってしまうのかを経営者様らと一緒に考え、対策を立案することはできます。
 これまで筆者が関わって来た事案は、ご依頼主様に寄り添って知恵を出し合う方法です。

 すなわち、業界の専門家は自社であり、社内には業界内の何らかのエキスパートが居るはずです。外部のコンサルに依頼する価値はありますが、自社からも参戦しなければ最高の戦略や戦術は創出されないかもしれません。




危機を乗り越える

 どんなに努力をしても、断水してしまうことはあります。

 行きつけの理美容室でカット中に断水してしまい、シャンプーはできないと言われた場合、あなたはその理美容室に二度と行かないと思いますか。
 この、顧客の心理は非常に重要な要素です。

 経営側として、何が起きてもシャンプーできるように設備投資することも良いと思います。キレイな水を維持するためにいくらかかるでしょうか。

 目標志向で考えると、顧客との距離を遠ざけないことも重要になります。特に理美容室ではリピーターが大事、クチコミが大事ですから、ここでの対応1つで空気が変わります。

 筆者は理美容室の専門家ではないので細かい事はわかりませんが、コンサルタントとして介入する場合に、目標設定を上記のように変えてコンサルします。

 例えば、断水していない地域にある知り合いの理美容室に依頼してシャンプーだけを請け負ってもらうことで、顧客にシャンプーするという目標は達成できます。
 それに応じてもらうために依頼先の理美容室まではタクシー移動、更に近隣のカフェの2千円分の食事券も付ける、という条件提示は1人あたり5千円前後の経費がかかるものの、評判を落とす方には行かないことが期待できます。

 時間が無い、移動が面倒といった理由でシャンプーをキャンセルする人も居ると思います。
 断水が原因でキャンセルして、それだけで帰らされると不満が残る可能性があるため、何らかのフォローの入れ方を考えます。
 シャンプー5回無料券、業務用のハサミ進呈、営業時間外でのカット対応など、換金ぽいものでもプレミア感が強いものでも、何らかの『誠意』を見せることが怒りを鎮める、怒りを起こさせない戦術になり得ます。




総合的にはBCP

 個別の経営リスクなどは分析ツールがありますが、総合的には『BCP』(business continuity plan)を策定して対応します。

 地震による影響で経営破綻、原材料枯渇で経営破綻、食中毒を出して経営破綻、どんな要因でも経営に悪影響を及ぼす可能性があります。

 経営が行き詰まらなくても、大きな損失を出すことがあれば経営上マイナスです。

 従業員や関係者を危険にさらすこともマイナスが多いです。

 何が障壁になるのかを考え、それについて自社の答えを持つことがBCP策定の意義です。




BCPとは

 BCP(ビー・シー・ピー)とは、Business Continuity Planの略称で、日本語では事業継続計画や業務継続計画などと呼ばれています。

 大企業では事業や業務の停止が広範に影響するためBCPを策定している場合が多いですが、中小零細企業であっても自社の存続、関係者への影響を鑑みて関心が高まっています。

【参考】中小企業庁:中小企業BCP策定運用指針, https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/




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