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15年前の講演を振り返り ~医療機器情報の本邦中央管理~  | NES’s blog

 先日、ある人からメールをいただきました。

 その内容は、15年前の筆者の講演についてでした。

 資料で一番驚いたのが、20年近く前に「医療機器情報管理中央管理センター」という考え方を提唱されていたことです。
 国(または準じる機関)による医療製品のマスター整備が、医療機関等でGS1バーコードの活用をより促進し、患者安全、医療関係者の働き方改革にも寄与すると考えており、取り組むべき課題と捉えています。

先日頂戴したメール

 この講演をしたのは2009年6月25日でした。ちょうど15年前の今日です。


 まず、医療機器には生涯にわたって情報がつきまとい、それを診療録(カルテ)のように残していくべきではないか、とった話題から入っています。


 情報は残すだけでは価値がありません。二次利用されることで価値が創造されます。二次利用するためには集計や分類などの処理も必要になります。


 安全には足し算と掛け算があります。
 いま整備を終えた機器が、故障せずに使える確率が95%だという場合、もっと整備をして99%にまで上げられるかというと、そうでもありません。95%は甘受すべき限界かもしれません。
 信頼性が95%の機器を2台用意して、1台目を使用しつつもバックアップとして2台目を待機させておくと、1台目が5%で発生する故障に見舞われたとしても、2台目を投入することで、現場では『ある機器を使用できる確率は99.75%』ということになります。

(0.95+0.95) – (0.95×0.95) = 1.9 – 0.9025 = 0.9975

 この数字、院内の安全管理に用いられます。


 院内の医療機器の実際のデータを見てみると、稼働率がどのくらいで推移し、すなわち未使用機器が何台あったのかがわかります。
 先ほどの信頼性工学の計算に基づけば、ある機器での治療が問題なくできる確率が、日別で算出されます。
 中には外部からレンタルして診療している日があり、このときは稼働率100%以上、機器個別の故障の確率がそのまま院内の水準に反映されてしまうので、やや危険な状態です。


 上述のデータは院内のものです。
 故障してしまう確率は、各院の整備状況にも依存しますが、広く全国のデータが共有されれば、より精緻な計算値を得られるかもしれません。
 筆者が居た病院では輸液ポンプは30台程度、人工呼吸器は10台程度の保有でした。人工呼吸器は常時5台以上レンタルしているような状況でしたが、その機種は院内保有機とは別のものでしたし、日常点検は院内で実施するも、保守整備は貸出元の企業の仕事なので整備状況は外観からしかわかりませんでした。

 機種特有のエラーがあれば知りたいですが、この台数ではエラーに遭遇する率も低いと思います。

 逆に、整備を遅らせても良いデータも欲しいです。電池交換する時期が2年と3年で有意差が出ないのであれば、3年交換にした方が1.5倍のコストメリットが出せるかもしれません。


 どの機種を言っているのかわからないデータでは信用できないので、共有マスタが必要になります。

 ここはGS1-128が役立ちます。JANで機種が識別できます。


 情報を提供することで、全国では膨大なデータが集まる、そのデータを利用させてもらえば自院の管理に役立つ、データを貰うために自院のデータを提供する、といった give and take が成り立てば良いな、といったスライドです。


 2009年の時点で、病院数は1万軒ほどでしたが、医療機器安全管理システムを導入・運用していたのは500軒程度だと思います。診療所まで合わせると0.5%にも満たない数字です。
 そのため、データ共有には先進的な病院と、これからという医療機関の足並みを揃える必要があるだろうと考えました。


 医療機器安全管理が GS1-128 で実施されれば、メリットもあると思います。
 PMDAが発出する医療機器の回収/改修情報がJANコードをベースに出されるようになれば、自院採用機器のGS1-128と即時マッチング、該当機器があれば対応することができます。

 しかしながら現実は、テキストデータが公表されるだけで、その中にJANコードの掲載はありません。シリアルやロットも、人間が読むには問題ないかもしれませんが、データベースとのマッチングに適した形式ではありません。

 したがって、スライドのように発出と『同時』にマッチングすることは、非現実的です。これは15年経過した今も同じです。


 今日の時点では、医療機器の添付文書については、JANコードでの検索ができるようになっています。一応、リンクすることはできますが、小さな問題は残っています。版管理について、自院購入時の内容と、最新版の不整合があるため、そこをどのように補正していくのか、といった課題があります。
 とはいえ、JANでリンクできることは素晴らしいです。

 当時のスライドを見直して、添付文書は無償でJAN対応、マスタについてはMEDIS-DC次第、その他は進んでいないような気がします。


 誰が旗振り役になるのかわかりませんが医療機器情報管理の中央管理センターみたいな構想を進めて欲しいと思っていたのが2009年、これは国際的にも使える仕組みだと思うので、日本がビッグデータの先進国になれたのかな、と思いました。

 筆者は研究者としての芽も出ていないですし、政治力もありませんので、言い逃げ、立ち去り型での提案でしたが、このような構想がまとまるようであれば、何とかしたいなと思いました。




兵庫県臨床工学技士会

 先述の講演と同じ頃、兵庫県臨床工学技士会でも似たような話をしていました。このときはデータ共有がメインの講演ではなかったので、ごく一部にスライドがあったという程度です。


 GS1-128が普及すれば、準備期間ゼロでも医療機器安全管理が開始できるのではないか、といった話です。


 そのためには、マスタ管理などをどうにかしていくべき、といったところです。




おわりに

 15年前の講演を振り返ることは無かったのですが、改めて見てみると、我ながら良い事を言っていたなと思いました。自画自賛ですが。

 そして、このような構想が実現していないことに、無力さを感じる所でもあります。

 ニーズが無かったと言えばそれまでかもしれませんが、GS1-128での標準的な情報管理が社会実装されていれば、医工連携などで使えるデータも多くあったと思います。

 COVID-19では、人工呼吸器やPCPSの国内保有台数をアンケート調査で把握した例がありましたが、GS1-128でデータ共有していれば、かなり精緻な数字を知る事ができたと思います。もしかすると、現役は引退したが倉庫には保管されている人工呼吸器があったかもしれない、その潜在データまで反映すれば国内のポテンシャルは高かったのかもしれない、などと思いました。

 これまでの機器管理では院内データを知るだけにとどまりましたが、地域の業者が持つ医療機器も把握できれば、地域の医療崩壊を遠ざけられるかもしれません。

 改めて、医療機器安全管理のプロと話をしてみたいと思いました。筆者、15年前の先端人材、今ではオワコンなので。