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抗癌剤曝露で健康被害なし? | NES’s blog

 12月12日に掲載された医療機器の回収/改修情報に議論が必要そうなものがありました。

1.一般的名称及び販売名

一般的名称:閉鎖式薬剤移注システム
販売名:

2.対象ロット、数量及び出荷時期

製品コード・ロット:
出荷数量 :826,300
出荷時期 :令和5年1月20日~令和6年10月17日

3.製造販売業者等名称

製造販売業者の名称 :
製造販売業者の所在地:
許可の種類     :
許可番号      :

4.回収理由

 国内の医療機関から、当該製品と輸液セットの接続を外したところ、当該製品の天面から液体が漏れているとの報告を受け調査した。その調査の結果、当該製品のメスコネクタに使用されている混注口の内部部品に変形があり、輸液セット等のオスコネクタと接続した際にシール性が保たれなくなり漏れが生じたことが判明した。
 出荷済み製品の一部に同様の状態の製品が含まれている可能性があることから、自主回収を実施することとしました。

5.危惧される具体的な健康被害

 当該品使用時に接続部から抗がん剤等が漏れる可能性が否定できないものの、電子添文の記載からも、投与開始時に接続部の状態が確認される。また、投与中の定期的な確認により、液漏れが発生した場合にはすぐに医療従事者が気付くことができ、適切に処置等がなされる。加えて、抗がん剤を取扱う際、医療従事者は安全キャビネットを使用することや、手袋等の保護具の着用が想定されることからも、重篤な健康被害が発生する恐れはないと考えている。
 なお、現時点では本事象が発生したことによる健康被害の報告は受けておりません。

6.回収開始年月日

令和6年12月10日

7.効能・効果又は用途等

 抗がん剤等を容器から他の薬液容器に移す際に、容器に接続して環境中への薬剤の飛散・漏出を防止するために用いる閉鎖型の薬物移送システム(CSTD:Closed-System Drug Transfer Device)であり、容器内外の差圧を調整する機構を有する。外部の微生物等の本システムへの混入を防止すると同時に、液状又は気化・エアロゾル化した薬剤の本システムからの飛散・漏出を防止する。

8.その他

 出荷先はすべて把握しており、回収対象品の納入先に対して文書等で通知の上、当該製品の自主回収を行います。

9.担当者及び連絡先

担当者:
連絡先:
電話番号:
FAX番号:

医療機器回収の概要(クラスII)




閉鎖式薬剤移注システム

 薬機法上の一般的名称『閉鎖式薬剤移注システム』は以下のような内容になっています。

 その目的は『環境中への薬剤の飛散・漏出を防止』です。抗がん剤は飛散したものが医療従事者の健康を害する恐れがあるため、患者だけでなく周辺環境への配慮も必要なため、このような安全性の高い器具が使われています。

クラス分類告示2-1977
類別コード器74
類別名称医薬品注入器
中分類名採血・輸血用、輸液用器具及び医薬品注入器
コード71055002
一般的名称閉鎖式薬剤移注システム
一般的名称定義抗がん剤等を容器から他の薬液容器に移す際に、容器に接続して環境中への薬剤の飛散・漏出を防止するために用いるシステムをいう。容器内外の差圧を調整する機構を有する。
クラス分類
GHTFルール2-①
特定保守
設置管理




同じ製品の過去

1.一般的名称及び販売名

一般的名称:閉鎖式薬剤移注システム
販売名  :

2.対象ロット、数量及び出荷時期

製品コード: 
ロット  : 
出荷数量 : 12,040個(*)
出荷時期 : 令和4年3月24日~令和4年5月30日

3.製造販売業者等名称

製造販売業者の名称 :
製造販売業者の所在地:
許可の種類     :
許可番号      :

4.回収理由

 国内の医療機関から、本品のメスコネクターとオスコネクターを接続する際にロックができない(オスコネクターに接続できない、外れやすい)という報告を受け調査した結果、メスコネクター内部構成部品であるばねの圧縮時の長さにばらつきがあり、オスコネクターとの接続の際に、ロックができないものが出荷されていることが判しました。
 出荷済み製品の一部に同様の状態の製品が含まれている可能性があることから、自主回収を実施することとしました。

5.危惧される具体的な健康被害

 メスコネクターとオスコネクターを接続する際に、ロックができないことにより、製品の交換による手技の遅れにつながる可能性が生じるものの、本件による重篤な健康被害が発生する可能性はないものと判断しております。
 なお、現在までに、本事象に伴う健康被害の報告は受けておりません。

6.回収開始年月日

令和4年7月4日

7.効能・効果又は用途等

 抗がん剤等を容器から他の薬液容器に移す際に、容器に接続して環境中への薬剤の飛散・漏出を防止するために用いる閉鎖型の薬物移送システム(CSTD:Closed-System Drug Transfer Device)であり、容器内外の差圧を調整する機構を有する。外部の微生物等の本システムへの混入を防止すると同時に、液状又は気化・エアロゾル化した薬剤の本システムからの飛散・漏出を防止する。

8.その他

 納入先代理店および医療機関はすべて把握しており、回収対象品の納入医療機関に対して文書等で通知の上、当該製品の自主回収を行います。

9.担当者及び連絡先

担当者 :
連絡先 :
電話番号:
FAX番号 :

医療機器回収の概要(クラスII)




抗癌剤曝露防止

 一般的名称『閉鎖式薬剤移注システム』の薬機法上の定義は『環境中への薬剤の飛散・漏出を防止』です。

抗がん剤等を容器から他の薬液容器に移す際に、容器に接続して環境中への薬剤の飛散・漏出を防止するために用いるシステムをいう。容器内外の差圧を調整する機構を有する。

閉鎖式薬剤移注システム

 今回の回収品については以下のように記述されています。

 抗がん剤等を容器から他の薬液容器に移す際に、容器に接続して環境中への薬剤の飛散・漏出を防止するために用いる閉鎖型の薬物移送システム(CSTD:Closed-System Drug Transfer Device)であり、容器内外の差圧を調整する機構を有する。外部の微生物等の本システムへの混入を防止すると同時に、液状又は気化・エアロゾル化した薬剤の本システムからの飛散・漏出を防止する。

閉鎖式薬剤移注システム

 抗がん剤を容器から移す作業で使います。

 製薬メーカーから供給される薬剤はバイアル瓶などに入っています。そのままでは患者に投与できないため、薬液バッグなどに移し替えます。

 易感染性である患者に菌類を投与してはならないので医学的清潔に移注作業は行われますが、同時に、抗がん剤自体が強力な副作用を持つ場合があるので、特に健常者は無用な接触(曝露)を避ける必要があります。

 接続コネクタ部で発生する飛沫などが無用な被曝と深く関わるので特殊形状の高価なコネクタを使っています。




回収情報は矛盾?

 抗がん剤を取扱う際、医療従事者は安全キャビネットを使用することや、手袋等の保護具の着用が想定されることからも、重篤な健康被害が発生する恐れはないと考えている。


 回収情報の『危惧される具体的な健康被害』には上記のような記述がありました。

 バイアル瓶から輸液バッグへ移すようなミキシング作業では安全キャビネットが使われるため、コネクタの異常がただちに被曝ということは考えにくいかもしれません。

 しかしながら、患者に投与中の状態は病室や処置室の開放的な空間であるため、抗がん剤を換気扇で排気してくれるようなことはありません。

 当該製品と輸液セットの接続を外したところ、当該製品の天面から液体が漏れているとの報告を受け調査した。

 輸液セット等のオスコネクタと接続した際にシール性が保たれなくなり漏れが生じたことが判明した。


 発生状況としては薬局の安全キャビネット内での話ではないかもしれません。治療を終えて輸液セットとの接続を外したときにこの現象が発生するならば、そこに居る看護師が被曝する可能性が高いです。




医療安全・医薬品安全・医療機器安全

 院内には医療安全管理、患者安全管理、医薬品安全管理、医療機器安全管理などを担う組織や人員が配置されています。

 今回の件は横断的に関わる事案です。

 抗がん剤被曝を脅威とした場合、ハザードは抗がん剤です。ただし、閉鎖的な容器や回路内に存在している段階ではリスクにはなりません。

 リスクは抗がん剤投与や回路接続などの処置・作業です。

 閉鎖が解除されるような作業がなければ抗がん剤被曝は起こらないので、回路接続の作業がリスクの中心になります。

 抗がん剤投与という処置がなければ、回路接続という作業は無く、そもそも抗がん剤が存在する必要もありません。遠因のようなリスクであると考えられます。

 回路接続という行為は医療安全管理、回路自体は医療機器安全管理、抗がん剤は医薬品安全管理に関わります。それぞれがバラバラに安全対策をしても効果的とは言えません。

 安全であるために高価な器具を使って、その不具合によって安全性が損なわれるが、それによって被曝しても医療従事者が防護しなかったことが原因であるかのように読み取れます。医療機器安全管理の視点から述べると、メーカー(医療機器製造販売業者)の協力が必要な事象ですが、協力的とは読み取れない文書が出ていることになります。




乗り換えられないために

 メーカー(医療機器製造販売業者)の立場で考えると、この件が医療従事者の健康を軽視していると見られて他社製品に乗り換えられることを防ぐために、真摯に受け止めて、誠実に対応しているように見せる必要があります。

 これは会社の経営面での事業継続計画やリスクマネジメントにかかわる話ですが、信用を失墜させないことに配慮が必要です。

 この回収情報を出した企業は大企業であり、商品ラインアップも多いので1製品のゴタゴタで取引停止ということはないと思いますが『これ1本です』というベンチャー企業であれば、細心の注意が必要になると思います。

 一方で、健康被害を認めてしまうことによる損害賠償請求の重さもあるのではないかと察します。とりあえずは『責任はございません』という形から入り、裁判で負けたら賠償すれば良いと考える方法もあるとは思います。誠実な方法とは言えませんが、そのような戦略をとるケースを目の当たりにしたことがあります。




起きてしまったことは….

 起きてしまったことは取り戻せないので、再発防止に向けて関係者全員が協力していくしかありません。

 抗がん剤を扱う看護師らは日頃から注意深く回路を扱い、もしも曝露されたらと恐れながら仕事をしていると思います。

 それでも被曝する恐れがあるので、雇い主である医療機関側は高価な回路を支給して飛沫による曝露を防止しています。

 その安全対策が無効である、脅威を制圧できないとすれば、完全防備で作業にあたらなければならず、一般的な化学療法室や病室では抗がん剤投与ができなくなってしまいます。




在宅ではさらに….

 在宅医療でも抗がん剤投与は行われています。

 高気密の隔離部屋がある訳ではなく、普通の木造住宅やコンクリート造のマンションなどです。家族が往来し、訪問看護や介護のスタッフ、家事代行サービスなど様々な人が出入します。

 そのような環境で抗がん剤が曝露されれば、誤ってさらされてしまう人が発生しやすくなります。出入する人数は病院の比ではなく少ないですが、狭い空間、換気などもされない空間では曝露の危険性は高まります。

 療養住環境の在り方にも関わりますが、信頼すべき器具が故障することをどこまで加味するのか、100万回に1回もエラーがないような器具に対して、換気装置や高気密化に何十万円もかけるのか、と問われれば多くの患家で『ノー』と答えるのではないかと思います。




危機感を持って回収

 今回の回収情報はメーカー(医療機器製造販売業者)からディーラー(医療機器販売業者)を通じるなどの方法で、事務的に回収が行われているのではないかと察します。

 現場の看護師らに、曝露の危険性が伝わっているのか、確認してみたいと思いました。

 出荷期間は1年半ほどあったようなので、その間に、気づかぬうちに抗がん剤被曝していたかもしれないと医療従事者が気づかなければ、例えば脱毛などの症状は自身の不注意であったと心を傷めているかもしれません。

 残念ながら医療機器回収情報自体は医療従事者に浸透しているものではないので、この回収情報に触れている医療従事者はごくわずか、知られることなく過ぎていくのかなと思います。




再発防止に向けて

 今回、この記事を書いたのは個社を批判するものではありません。

 課題としては、以下のようなものを挙げています。

  • ヒト・モノ・コトなどが複合的に関係する事象
  • 回収情報に記載の健康被害が軽く書かれている可能性
  • 医療機器回収情報が読まれていない

 どれも同時並行で改善できると良い課題ですが、特に複合的事象である点は、課題解決を遅らせる原因にもなるので、注意が必要です。

 筆者が勤めていた医療機関では、医療安全管理のコアメンバー会議があり、そこには医師や看護師らで構成する医療安全(患者安全)と、薬剤師中心の医薬品安全、臨床工学技士中心の医療機器安全が加わってコアメンバーを構成していました。

 立場や視点の異なる面々が一堂に会して議論することは有意義です。

 メーカーが加わることはないと思いますが、メーカーも入って議論できれば、より再発の可能性を低減できるのではないかと考えます。




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 様々な角度から安全を見る、安全について話す講義をしています。学会等を含め登壇回数150回以上、病院勤務経験もある臨床工学技士が講師を務めます。