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戦術を漏らさず、切れ目なく使う戦略総指揮を検討 | NES’s blog

 今年の元旦、能登半島で大きな地震がありました。

 令和6年能登半島地震ではデジタル時代らしく、様々な情報が早い時期に公開されたことから、後追いで色々な分析をすることができるようになりました。

 今回は戦略と戦術の足並みについて、深掘りしてみたいと思います。

 その背景には馳知事の『改めてですね、政府と一体で、連携して、対応したいと思います』

【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 健康福祉部報告(27分40秒~)




時期の特殊性

 阪神淡路大震災は1月17日火曜日の早朝5時46分発災、東日本大震災は3月11日金曜日の昼過ぎ14時46分発災、熊本地震は4月14日木曜日の21時26分と16日土曜日の1時25分に発災しました。
 いずれも学校や会社は休暇時期ではなく、社会が通常どおりの進み方をしていました。

 令和6年能登半島地震は元旦の16時10分頃、多くの人が休暇中であり、帰省や旅行など宿泊を伴う外出をしている人が年間を通じてピークとなる時期でした。
 更に、ふだんは飲まない人も飲酒しているような、生活上の特殊性も容易に想定できる時期でもありました。




都市の特殊性

 今回は石川県の北側、半島の先の方で起きた災害です。

 石川県の県庁所在地であり全国的な知名度のある『金沢』から輪島市まで100km超、珠洲市ですと150kmほどの場所です。
 東京駅から前橋、宇都宮、水戸までが金沢→珠洲と同じくらいの距離ですが、道路がそれほど発達していません。関西ですと神戸三宮から岡山や米原あたりだと思います。

 石川県の人口は国勢調査の数値で113万人、金沢市は46万人なので約4割が金沢市民です。
 人口規模で近い県は岩手県(121万人)、青森県(123万人)、大分県(112万人)、宮崎県(107万人)です。各県は石川を含め人口が減少しています。

 さいたま市(132万人)、広島市(120万人)、仙台市(110万人)などは1都市で同規模の人口ですが、各都市は人口が増加しています。
 石川県内の都市を人口順に見ると、金沢市は0.5%減、白山市1.0%増、小松市0.7%減、加賀市5.9%減、野々市市3.9増と増減が混在しています。

石川県




半島の課題

 半島の課題は、陸路が限られるという点です。

 半島へのアクセスは一方向、根元側から先端側へ向かうしかありません。
 先端側に産業が無ければ、鉄道が先端まで行く可能性は低いです。

石川県

 幹線道路が1~2本しかなく、高速道路は無い可能性もあります。
 奥能登の基幹道路は国道249号線です。東側と西側の両側から半島を周るようなルートに敷設された国道です。
 中央には能越自動車道があります。能登空港の近くが起点の自動車専用道です。NEXCOが管理する高速道路は一部分で、今回の被災地は石川県が管理する無料の高速道路のようなものです。

 半島の問題は能登だけに限ることではなく、伊豆半島では危機感が高まっています。

静岡県

【参考】能越自動車道
【参考】富山県道路公社:能越自動車道




発災前の奥能登

 『奥能登』とは能登半島の北部を指し、珠洲市、能登町、輪島市、穴水町あたりです。

 令和6年能登半島地震で災害救助法を適用された6市町は珠洲市、能登町、輪島市、穴水町、七尾市、志賀町です。この6市町の首長は石川県災害対策本部員会議に毎回出席しています。
 奥能登から離れますが、内灘町は液状化の被害が大きく出ました。

 国勢調査のデータを人口の多い順に見ると以下の通りです。カッコ内は前回比です。

  1. 七尾市 50,300人(-9.1%)[317.9平方キロ]
  2. 輪島市 24,608人(-9.6%)[426.2平方キロ]
  3. 志賀町 18,630人(-8.8%)[246.6平方キロ]
  4. 能登町 15,687人(-10.7%)[273.4平方キロ]
  5. 珠洲市 12,929人(-11.6%)[247.2平方キロ]
  6. 穴水町 7,890人(-10.2%)[183.2平方キロ]

 人口規模は6市町合計で130,044人です。
 広島県尾道市が131,170人、284.8平方キロで比較的人口密度が低い都市ですが、奥能登ははるかに広大なエリアに、同程度の人口ということになります。

 奥能登を走る国道249号線は総延長222kmです。

【参考】総務省統計局:令和2年 国勢調査
【参考】石川県:一般国道249号 輪島バイパス




発災当日に2回の災害対策本部員会議

 石川県庁の災害対策本部員会議は、第1回が元旦18時半開始でした。この時点で知事は東京(首相官邸)に居られましたのでウェブで参加しています。

 第1回の発言順は以下の通りです。知事は冒頭1分程度の発言でしたが、そのあとの金沢地方気象台は1分10秒から6分50秒まで5分40秒間も話していました。確実な情報を持っていたのが気象庁に偏っていたためではないかと思われます。

  1. 知事
  2. (国)気象庁(金沢地方気象台)
  3. (県)危機管理監
  4. (県)警察本部
  5. (県)土木部
  6. (県)総務部
  7. (県)教育委員会
  8. (県)企画振興部
  9. (県)文化観光スポーツ部
  10. (県)健康福祉部
  11. (県)生活環境部
  12. (県)競馬事業局
  13. (県)商工労働部
  14. (県)観光戦略推進部
  15. (県)農林水産部
  16. (国)自衛隊
  17. (国)海上保安庁
  18. 知事


 第1回の会議中、1分40秒10分56秒に緊急地震速報が流れるような混乱の中の災害対策本部員会議でした。

 このあと、自衛隊のヘリで内閣府古賀副大臣らとともに石川に戻って来て、第2回の災害対策本部員会議に出席しています。第2回は23時45分から開催されています。

  1. 知事
  2. (国)気象庁(金沢地方気象台)
  3. (県)危機管理監
  4. (県)警察本部
  5. (県)総務部
  6. (県)企画振興部
  7. (県)文化観光スポーツ部
  8. (県)健康福祉部
  9. (県)生活環境部
  10. (県)商工労働部
  11. (県)農林水産部
  12. (県)観光戦略推進部
  13. (県)競馬事業局
  14. (県)土木部
  15. (県)教育委員会
  16. (国)陸上自衛隊
  17. (国)航空自衛隊
  18. (国)海上保安庁
  19. (国)国土交通省(北陸整備局)
  20. (国)総務省消防庁
  21. (国)内閣府(古賀副大臣)
  22. 知事




当初は文化系の話題も

 石川県庁では災害対策本部員会議をYouTubeで公開しています。もうすぐ公開から1年ですが、視聴回数は第1回が7千回台、第2回が4千回台、第3回が2千回台、第4回が1千回台、あまり視聴されていないことがわかります。

 行政とはどのような動きをするのか、何ができて、何ができないのかを知る事で公助を知り得る、それをヒントに共助や自助として何を備えるべきかがわかってきます。

 第1回は発災2時間後ですので情報量が少なかったですが、第2回になるとある程度は情報を集めて各部局が出席しているため、その温度差のようなものが見えてきました。


県庁舎

 第2回の本部員会議では、県庁内の部局からの報告として総務部が筆頭に立ち、県庁舎や出先機関の建物被害、インターネット接続状況などが報告されています。

 『ガラスが割れるなどの大きな被害が出ています』『インターネットの障害が起こっている』など自身の担当する範囲について報告しなければならないために人命や生活に関わらない情報を報告しなければならない県職員さん、心苦しいであろう心中を察します。

【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 土木部報告(7分50秒~)
【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 健康福祉部報告(13分30秒~)【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 観光戦略推進部報告(16分38秒~)


文化施設

 石川と言えば金沢の兼六園ですが、兼六園や金沢城公園について土木部から報告がありました。

 のとじま水族館については観光戦略推進部から報告がありました。
 『ジンベイザメ館の水位、水槽の水位が通常の半分以下と今なっております』ということで、水族館に閉じ込められた生き物の生命に関わりますが、この報告を聞いたからといって自衛隊などを派遣できるほどマンパワーに余裕もないので、報告は必要かもしれませんが、対応しづらいことをどうすべきか要検討課題だと思います。

 動物園・昆虫館・辰口丘陵公園なども観光戦略推進部から報告がありました。

 金沢競馬場について競馬事業局より『スタンド棟の1階の方に複数のガラスにヒビが入っている』『スタンド棟の周辺に地盤沈下によって段差が発生しているところが数カ所あります』『競馬場は本日休日で人的被害はございません』『明日から5日までの場外発売を中止することとしました』などの報告がありました。
 県の歳入をみると令和5年度決算で競馬事業歳入が289億円、歳入歳出差引残額は2億4176万円ということで、事業規模が大きいため開催可否は重要であるのかもしれません。

【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 土木部報告(19分25秒~)
【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 観光戦略推進部報告(16分05秒~)
【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 観光戦略推進部報告(16分58秒~)
【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 競馬事業局報告(17分22秒~)
【参考】石川県:令和5年度石川県歳入歳出決算の概要
【参考】石川県:令和5年度石川県歳入歳出決算書




第2回会議までの救命

 馳知事より『特に医療機関において停電、断水が在る場合に給水車の優先的な対応などをお願いしたいと思います』といった発言がありました。

 同時に『災害人命救助は、まずは最初の24時間が最大のポイントでありますので、情報収集に全力であたっていただきたい』といった発言もありました。

【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 土木部報告(27分20秒~)


負傷者

 第2回の本部員会議で危機管理監より『けが人等も発生していると情報がありますが、各消防本部、連携して、いま対応しているということでございます』ということでしたが、奥能登では119番通報の処理が間に合わず半数程度は受付できなかったのではないかと言われています。
 救助や救命はさらに率が下がった可能性があります。

【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 土木部報告(5分17秒~)


緊急消防援助隊

 第1回の会議で危機管理監から『緊急消防援助隊につきましても、要請済みであります。いま各県から緊急消防援助隊が駆け付けております』と報告がありました。

 第2回会議では『緊急消防援助隊、17時に出動要請しておりまして、各県から緊急消防援助隊が本県に入って来ているという状況です』となっています。

【参考】第1回 石川県災害対策本部員会議 危機管理監報告(8分50秒~)
【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 危機管理監報告(6分15秒~)


ドクターヘリ

 中部地区の大規模災害時のドクターヘリ広域連携協定により、1月2日から長野県と愛知県から1機ずつ小松空港に来る予定で、石川県のヘリと合わせて3機で患者の搬送等にあたる予定とのことが第2回の本部員会議で健康福祉部から報告がありました。

【参考】第2回 石川県災害対策本部員会議 健康福祉部報告(12分20秒~)


医療機関

 第2回の本部員会議で健康福祉部から『所管の施設』という報告があり、公立能登総合病院の給水管破損が報告されています。




第2回会議までの道路啓開

 令和6年能登半島地震では、発災後まもなく道路の陥没など通行に支障のある状況報告が上がっていました。

 発災後6時間で県が集計したデータを見ると15路線17箇所で通行止めとなっています。災害対策本部員会議での土木部からの説明によると『通行止めとしております』(17分50秒頃)ということなので、物理的に通行できない訳ではないかもしれません。


2024年1月1日・第1報

【参考】第2回石川県災害対策本部員会議(17分50秒~)
【参考】みちナビ石川


 『のと里山海道(上下全線)』は孤立を生み、途中にあるサービスエリアに200人程が避難していると報告されています。

 『内浦柳田線』は珠洲へ行く幹線道路ですが、これが通行止めとなっていることで、珠洲へのアクセスに大ダメージを与えています。

 『七尾輪島線』(県道1号線)は海に面さず輪島へ行く幹線道路、能越自動車道ですが、これが通行止めになりました。
 能登空港へのアクセスに欠かせない道路の話題ですが、道路は県土木部、空港は県企画振興部なので、土木部からの話題に空港は入っていません。




発災翌日の道路啓開

 発災翌日の1月2日の第2報では通行止めが15路線17箇所から22路線39箇所に増えました。レポートは2ページに拡大しています。

2024年1月2日・第2報


 前述の報告が8時半、次は15時半ですが7時間の間に通行止めは24路線54箇所に増えました。
 国道249号線の被害状況が明らかになり、通行できる箇所と不可能な箇所が明らかになったものと思われます。

2024年1月2日・第5報


 災害対策本部員会議での自衛隊や国土交通省の発言を見ていてもわかりますが、余震によって通れたはずの道が通れなくなってしまったり、大きな車輪であったから通れたが乗用車では無理であるといった箇所が続々と現れているようでした。




第2回会議までの停電

 停電については、報告があるものの、時々刻々と変化しており、このあたりになると道路啓開との関係もあるため、正確な情報はどこにあるのかわからないといった感じでした。

【参考】第2回石川県災害対策本部員会議(停電関連)10分10秒~




この記事の本題へ

 発災当初だけをまとめると上記のとおりでしたが、このあとも同様に続きます。

 石川県内のことなので県庁が主導で被害状況の把握や復旧を進めていますが、リソース不足は否めず、それを国にお願いして補完してもらう様子が幾度も動画に映ります。

 道路啓開については国土交通省と自衛隊が協力して進めて行く様子が見えましたが、あくまで県知事からの要請に応じて、出せるだけのリソースを提供するといった感じです。

 個々の対応を見ながら、戦術を漏らしていたのではないかというあたりを探ります。




拠点を決める

 能登半島においては、国道249号線が、物資や医療などすべてに通じる重要インフラとなりました。

 戦略の基本方針は『国道249号線と県道1号線の通行維持』になるのではないかと思います。付随して、金沢からそこまでの道路を1本でも維持することが二次的な方針に加わるかなと思います。


兵站拠点は金沢

 他県からの救援は北陸自動車道、東海北陸自動車道、および国道8号線から来ると考えられます。これらの道路に直接つながっている能越自動車道は自動車専用道であり、奥能登の輪島まで行く事ができます。

 小谷部砺波ジャンクションがロジスティックス(兵站)の拠点に適していますが、そこは富山県なので、石川県が拠点とするには不合理です。

 県庁所在地であり、観光地ゆえ宿泊施設も多く、北陸自動車道を通れば20~30分で小谷部砺波JCTに到着できる金沢が、石川県の兵站拠点としては最適であると考えられます。


二次拠点

 一次拠点を金沢とした場合、珠洲市役所まで最短ルートを使っても120km以上あります。輪島の沿岸部経由となれば150kmを超えてしまいます。

 金沢から各地へバラバラに移動するよりも、途中に拠点を構えた方がスムースになる可能性があります。

 まず、金沢の次の拠点を100km圏内に設けるとすれば、県の東側と西側の両ルートから行く事ができる七尾市か穴水町が候補されると思います。
 県民生活を見るとJRは七尾線が和倉温泉駅で終点となっており、そこから北はのと鉄道が穴水駅まで通っています。穴水より北の県民が鉄道を利用して金沢へ行くとすれば、穴水駅か七尾駅を利用することになりますので、奥能登の県民からは穴水・七尾はイメージがつきやすい拠点だと思います。

 ロジスティックスに人員が必要になる場合、飲食や宿泊施設が必要となります。その点では和倉温泉がある七尾が施設数は多いと思いますが客単価の高いエリアでもあるので、1万円未満のビジネスホテルとなると金沢から通うことになるかなと思います。

【参考】JRおでかけネット:路線図
【参考】のと鉄道:沿線情報


二次拠点までコンテナ

 二次拠点として大型倉庫を建設するような時間は無く、平時に大型倉庫を必要としない場所なので民間倉庫の借り上げもできないと思います。

 整備できるとすれば、コンテナヤードのような、平坦な土地ではないかと思います。

 穴水の市街地を見ると、JAが広めの駐車場を持っているくらいで、あまり平坦な空き地が無さそうです。

穴水

 もう少し北へ行くと、のと空港があります。
 航空に係る法律はわかりませんが平地が多くあるので、コンテナを並べていくことはできそうな場所があります。

のと空港

 七尾には工業的な港があるので、コンテナを並べるのに適した土地がたくさんあります。

七尾市

 ただし、津波の恐れがあるため、拠点として活用するには難しいかなと思います。実際、七尾市には大津波警報が発表されており、七尾火力発電所は停止しました。


 コンテナヤードをどこかに設けるとして、そこまでの道路は40フィートのコンテナが通れる道路が必要になります。

 40フィートはコンテナ自体が12mほどあり、それを載せるシャーシは12.5mほどあります。それを牽引するトレーラーヘッドも合わせた連結全長は16.5m以内となるように設計されています。

 最大積載量は24トンだとすれば、車軸に相応の荷重がかかる設計で道路をつくる必要があります。


3次拠点(市町拠点)へ

 第1次拠点(金沢)から2次拠点まではコンテナ車が通行できる戦略を立てるとします。

 2次拠点から各市町の拠点までは多少の段差や、路肩が崩れていて狭くなっている道路を甘受した上で通行するとして、幅3m程度の道路確保を目指す戦略をとることができます。

 1次~2次では砂利やアスファルトも運搬してきて、本格的に道路啓開する必要がありますが、2次~3次は仮設、どのような形でも良いので通れることに重きを置く事ができます。


ラストワンマイル

 市町の拠点から、避難所等への『ラストワンマイル』については、車すら使わないという方法も含めて検討します。

 実際、孤立地域まで自衛隊が徒歩で移動した例もあり、情報収集が済めばヘリを要請したり、何かしらの手を打てます。




土木工事技術の調達

 道路啓開の方向性としては、被災地との道路を1本でも確保する、令和6年能登半島地震で言えば国道249号線と県道1号線の開通であったと思います。

 戦略として兵站拠点を1次、2次、3次と分けることで、通行すべき車両のサイズを順次小さくすることができました。

 ここで課題となるのが、どのエリア、どの工事に、誰を充てるのかです。

 道路啓開の技術を持っているのは国土交通省と陸上自衛隊、県土木部です。他に民間の道路工事業者、NEXCO中日本などにも技術があります。

 協力者として重機の貸出ができそうなメーカーやレンタル業者、重機自体とオペレーターが居る建設業者、砂利などを払い出せる建材屋など、こちらは小規模多数になると思います。

 県庁の災害対策本部が道路啓開を指揮する場合、県庁の直轄にある土木部にある重機では焼け石に水、まったく足りないと思いますので外部へ依頼することになります。

 相手が国であれば要請するだけで即出動してくれるかもしれませんが、それぞれ法律で動いていますので災害救助法などの適用によって、自衛隊なら防衛省、地方整備局であれば国土交通省に動いてもらうことになります。

 相手が自治体である場合も要請により出動してくれると思いますが、その費用負担については後々、準備する必要があるかもしれません。このあたり、協定によって変わると思います。

 相手が民間の場合、基本的には有償です。
 2トンのダンプにユンボを積んで作業員2人と警備員1人で現場に行ったとします。ダンプとユンボがそれぞれ日額12,000~15,000円、すなわち車両費が1日24,000~30,000円になると思います。
 公共工事設計労務単価は、全国全職種加重平均値で23,600円です。石川県で見ると下表のとおりです。ユンボを扱う工員は3t未満なら『特殊作業員』か『運転手(一般)』、3t以上なら『運転手(特殊)』です。仮に特殊作業員2名と警備員A1名の場合、積算値で74,600円です。これ以外に法定福利費や労務管理費、安全管理費など1万円程度が必要になります。
 3人組で労務費と車両費をセットで1日12~15万円程度を見込む必要があります。

職種労務単価
特殊作業員28,200円
普通作業員24,000円
軽作業員18,400円
造園工23,200円
法面工34,200円
とび工30,800円
電工26,000円
鉄筋工30,500円
鉄骨工30,000円
溶接工30,700円
運転手(特殊)26,500円
運転手(一般)24,400円
さく岩工34,500円
トンネル特殊工46,400円
トンネル作業員31,600円
トンネル世話役48,100円
交通誘導警備員A18,200円
交通誘導警備員B16,200円

【参考】国土交通省:令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価表


 費用が大きくなることで、自治体の財布からは払えない状況になりかねません。3人組を100箇所に10日間送り込めば、1億円を超えます。

 県庁から国に対して費用を手当てして欲しい旨のお願いをして、内諾を得ても国民の税金を勝手に使う訳にもいかないので所定の手続きを経て用意されることになります。

 国土交通省や防衛省には重機と人員をお願いし、内閣や政府には費用をお願いし、自治体や業者にもお願いし、道路啓開だけでもお願いばかりです。




道路啓開の戦略と戦術の適正化

 戦術となる重機や工員がたくさんあったとしても、適時適切に適材適所で運用できなければ無駄が生じます。

 その場に居るだけで給料が貰えると喜ぶような状況ではなく、少しでも被災地の役に立ちたいと思っている工員たちにとって、無駄時間はストレスでしかありません。

 県庁から『この部分の道路を修復してください。工法は問いません』と依頼されれば、現場裁量で迅速に工事してくれると思います。性善説に立てば、同時間の中で質の高い工法を選んでくれると思います。

 場所を指定したことで、そこが終われば『次はどうしますか?』という指示が必要になります。
 すぐ近くで他の所属の方々が作業中であれば、手伝ってあげたい気持ちはありますが、指示なく勝手に動いて良いのかわかりません。
 特に公務員の場合は指揮命令系統が明確なので、勝手なことができない可能性があります。

 そこで、道路啓開について全権を国の担当官が持ち、公務員については法的根拠のある指揮権を担当官が持つ、民間については発注者としての指揮権を担当官が持つ、といった形にすることで『被災地の道路を復旧してください』という大きな指示の下で、同じ指示を受けた者同士は所属が違っても全責任を担当官が持つことで融通のきく復旧作業ができるようになると思います。

 そもそもの出動要請の段階から、国が動けると話が早くなります。国道だから、市道だからと分けるのではなく、一旦は国で道路を復旧し、そこに係る費用については後日検討して対処することになれば、本質的に『道路の開通』に志向した復旧ができると思います。

 今回の能登地震を見ていても、道路に損傷のある部分が報告されてくるが、それを誰が、いつ、どのようにして復旧するのかが見えてこないので、『あそこまでは行けたが….』ということになってしまいます。

 『医療班をこのルートで行かせる』という計画があったとき、そのルートの障害となるものはすべて1人の国指定の担当官の下で処理されると確実性が高まると思います。




報告・連絡・相談の見直し

 災害対策本部員会議を見て気づいたこととして、一方的な報告に終始している点が挙げられます。

 本部長(知事)から突込みが入ることがありますが、基本的には一方通行です。

 報告は各部局から順次行われるため、所掌する業務ベースになっています。

 目標志向で会議をするならば、ある課題について情報を出し合い、解決策を探ることが建設的であると思います。

 ある地点で断水しているので給水車を手配した旨の『報告』があります。その断水は給水車が必要なレベルか、より優先すべき先があるのではないかという議論はありません。給水車が通るであろうルート上に障害あったとしても、それは報告を聴きながら給水車を手配した人が気づくしかありません。
 改めるとすれば、給水拠点と供給拠点を地図上に示し、そこに警察本部や国土交通省が持つ通行止め情報を重ね、通行困難が予想されれば代替策をその場で打つ、ということで給水の確実性が高まると思います。

 交通に関する情報が予め集約されていると、より良いと思います。今回は県土木部が主体になっているように見えながらも、自衛隊が移動中に得た情報が土木部には伝わっていないような場面もあり、情報中枢というものが見えませんでした。

 毎回、長時間かけて気象情報を説明するシーンが見られますが、あれは必要なのかと考えさせられます。せめて、各部局からの報告を聴いたあとで、必要そうな情報を選りすぐって報告する方が合理的ではないかと思います。
 今回、県庁は電気や通信は正常でしたので天気予報は各自がチェックできました。その情報を扱うような場ではないような気がします。




訓練の形骸化

 防災の日などに合わせて行政が行う防災訓練は、シナリオ通りに形式的に進めるものが多く、形骸化しているように思います。

 デモンストレーション的に救助の様子を見せて『警察と消防が垣根を越えて協力し救助しました』とハッピーエンドにするケースはよく見られます。
 一方で、このときばかりは警察も消防も救助のプロが来て役割演技をするので、成功して当然だと思います。
 災害の現場では、交番の警察官が最前線に居合わせることになり、救助の道具や技術もないままに、出来ることをする、ということになり得ます。
 救助隊のプロが到着するのは数時間先か、数日先かになりますし、72時間の壁に向かって到着する隊員数が余るほどということはありません。

 指令本部のようなものを作って『指示した』『報告を受けた』というデモンストレーションも行われますが、これ自体が形骸化していると思います。
 災害の状況もわからない中で、何かを報告されても、それは氷山の一角なのか、全体像なのか判断できる状況ではないと思います。

『要救助者を2名発見し、救助しました』
『救助された2名は病院に搬送し、処置を受けています』

 この報告は、発見できた要救助者の個別ケースなので、1つの仕事を終えたという報告にすぎません。




必要な情報と指示

 訓練も本番も共通しますが、必要な情報をいかにして集め、それらを漏らさず把握できるかが重要になります。

 警察、消防、自治体、省庁、民間、あらゆる組織が多様な情報を得るとは思いますが、それぞれ用語や文化が違い、仮に同じ言葉を使って情報提供したとしても、リテラシーの差から意味が異なる可能性もあります。

 このギャップを埋めるのが訓練の意味でもあると思います。

 被災地全域から些細な情報も集まってしまうので取捨選択が難しいですが、一元管理できる意味はあると思います。




負傷者と医療の間

 負傷者はヒト、地域住民かもしれませんし外国人旅行者かもしれません。とにかく負傷した人です。

 平時において、負傷者を搬送するのは救急車であり、消防行政なので公助の部類です。

 負傷者を診療するのは医療であり、運営母体は色々ありますが何らかの法人か個人です。

 災害が発生した際に、負傷者の救助や搬送は行政の仕事として地域防災計画にも書かれていることが多いですが、医療機関に引き渡した先については医療機関の仕事とされるため、詳細は不明のまま、医療機関の自助として片付けられています。

 これが、国民にとって有益であるかどうか、考えてみるとどうでしょうか。

 医療機関を民業であると考えれば、受入可能な負傷者数だけを対応すれば良く、無理して受け入れる必要はありません。
 仮に無理をするとしても、手持ちのリソースの中でだけ無理をして、事前に備えて置く必要などありません。

 医療機関は平時の医療を提供するための備えを、自らの売上金の中から拠出するというビジネスを行っています。
 災害に備えて、特別な機材などを購入したり、スタッフを待機させておく必要はありません。そのような備えをしても、診療報酬が増える訳でもないので、その資金は従業員に還元した方が良いと思うのではないでしょうか。
 患者から見れば、発電機が調達されても何も影響はありませんが、待合室やトイレがリフォームされたり、最新の医療機器が導入された方が、その病院を利用する価値が高まるのではないかと思います。

 医療機関に患者を搬送するまでが公助、それ以降は医療機関の自助という現在の構図、再考してもらいたいです。




物資調達の一元化

 能登半島地震で上手く調整されたのではないかと思うのが物資の調達です。

 石川県の災害対策本部員会議には内閣府、国土交通省、経済産業省など中央省庁の人が同席し、その場で課題解決を進めていました。

 『仮設トイレが足りない』とわかれば本部長(知事)から経済産業省にリクエスト、経済産業省のネットワークを通じて調達が行われました。小刻みに納入されたので、おそらく製造元がその日に製造した分を出荷、被災地に届けるということを毎日のように続けたのではないかなと思います。

 今回、経済産業省は多くの要望を受けれて、調達していました。その費用は国税なのか県税なのかわかりませんが、とにかく素早い対応でした。




総司令部

 道路啓開、救助、救護、医療、食糧、物資などが一元管理されれば、発災後の対応はスムースになると思います。

 一定の水準、共通の言語で要望を聴く方法があれば、被災地ニーズは的確に捉えられ、その優先順位も付けやすくなります。

 現状では県知事が本部長となって総指揮を執りますが、知事が持つ権限はあらゆる機関を直轄するのではなく、情報を集めてお願いする立場です。

 そうではなく、情報を集めて指揮命令することができれば、タイムラグを短縮できると思います。

 内閣総理大臣がその役を務める訳にもいかないので、任命された大臣級の誰かが、その役を担うと良いと思います。




住みます司令官

 実際に総指揮を執る司令官は、永田町や霞が関にネットワークを持つ必要がありますが、被災地にも詳しくなければなりません。

 さらに、災害対応に長けている必要もあると思います。

 司令官候補者を霞が関で一定期間、防災業務に就いてもらうとします。そののち、担当する都道府県を指定し、県庁所在地に一定期間定住する辞令を出すとします。各地定住期間中は主たる職場を県庁、従たる職場として霞が関を残すとします。

 県庁では各部局の仕事内容を知り、職長のパーソナリティも知ることで、庁内の見えないバランスを知る事ができると思います。

 県内各地を巡回し、どの道路が混むとか、どの地域には戸建が多いとか、秋になれば稲刈りで忙しそうだとか、ローカルな情報を持つことができると思います。

 県知事は、県内の産業振興や生活健全化などに努めることが仕事だと思いますが、司令官候補は県内を良くするのではなく、災害で悪化させないことが仕事になると思います。

 ご当地に住むことで、有事にも的確な判断、適材適所のリソース配分ができるのではないかと思います。




訓練実務

 災害時の対応を専門とする司令官候補者が庁内に居る事で、自県の脆弱性にも気づかれる可能性があります。

 熊本地震では車中泊がクローズアップされましたが、法律上は行政の管轄外、勝手に避難している人になるので弁当や毛布の支給は行われません。

 石川県でも車中泊が課題となりました。
 本部長である馳知事からは『塩対応』という言葉で、避難所以外の被災者に対する行政の対応に苦言を呈しました。

 いまだに私のところにもですね、自宅避難、車内避難(車中泊)の方が一次避難所にモノを貰いに行っても『ない!』とか『あげられない!』とかいわゆる『塩対応』されてですね、『どうなってんだ』という連絡は毎日きます。
 恐らくそれが避難所等で徹底されないといけないと思いますので自宅避難の方、車中避難等、現場でですね、様々な事情で避難しておられる方にも物資が届くようにここをお願いしたいと思います。

第26回災害対策本部員会議 本部長発言

第26回 災害対策本部員会議 56分54秒~ 車中泊関係

 今の対応を続けていると、物資を届けなければならないとわかっている市役所や避難所への到達率ばかりを気にしてしまい、被災者への到達率は無視されると思います。

 そこを突くような、尖った訓練を実施してもらいたいです。

 筆者が図上演習を企画するとすれば、発災3日目として避難所リストを配り、毎日供給しているパンやオニギリの数を示して『3食とも食べる事ができている被災者は何割か調べて』や『育ち盛りの中高生が普段通りの食事量を摂るにはどうすべきか』などについて、知恵を出し合い、調査方法や供給方法などをいくつも挙げていきます。
 100個も出れば、発災時にどれかは使えるのではないかと思います。

令和6年能登半島地震
令和6年能登半島地震

 難しい判断についても、訓練が必要だと思います。

 医療ではトリアージと言う、患者を選別する過程があります。現存のリソースで1人でも多く救うとなると、全員を助けることはできないかもしれません。

 能登半島地震でも瀕死の高齢者と、ひどく骨折した中年の人が居たケースがあったようです。応急処置は済み、このあと搬送できるのは1人だけという状況で、平時の救急医療であれば瀕死の患者から搬送すると思いますが、もし、次の救急車が数日後まで来なければ、骨折患者は痛みに耐え、感染症に怯え、苦しい数日を過ごすことになります。

 生き埋めになった人の救助を待つ家族、その横を消防車が何台も通過していくが、消火できる見込みはない、しかし消防隊は消火活動の指示を受けて現場に向かっている、このようなケースについて、平時のうちに意見交換を重ねるべきだと思います。
 消火するにしても、瓦礫から救うにしても、戦術は持ち合わせている消防隊であったとすれば、あとは戦略次第です。

 命令を守ることも正しい、命令に背いても結局は人命優先の行動をとったのであればそれも正しい、という寛容社会がなければ命令に背けないと思います。




おわりに

 今回は思いつくままに記述したので、まとまりがありません。

 とにかく、情報がバラバラ、指揮命令系統もバラバラ、それが被災地にとってマイナスに作用しているとすれば、誰のための災害対策であるのかわかりません。

 県庁の方々も、国の機関の方々も、まったく悪意はないので、どうせなら持ち合わせた戦術、リソースを最大限に活かせる指揮が執られることを願っています。