弊社が立地する兵庫県伊丹市野間は、1995年1月17日の阪神淡路大震災での大きなダメージを受けた地域の1つです。
全国的には『神戸』が取り上げられているため、神戸の地震のようなイメージが強いのですが芦屋市や西宮市なども大きな被害があった兵庫県南部の広域な地震です。
- 生き埋め
- 若いマンパワー
- 即席救助チーム
- 新幹線、落ちる。
- 木密地域
- 復旧 or 復興
- 災害に負けない街へ
- 強靭な街へ
- 社会的な強靭性
- 地域でビジネス
- 早くから
- 区画整理では土地不足
- 対等でなければ
- ウチは得か?
- 2市の協調
- 見据えるのは未来
- 野間5の脆弱性
- 恐れるはゴーストタウン
- 1区画50坪
- 誰が買い取るのかも重要
- 医療福祉施設の誘致
- 未来志向で無駄も甘受
- 現実は…
- おわりに
生き埋め
弊社の事務所がある土地にはかつて、木造の家屋が2軒ありました。新しい方の家屋は平成6年(1994年)に建てられ、もう1軒は昭和のいつしかに建てられたものです。
震災当日、昭和の建物には、昭和1桁生まれの夫婦が寝ていました。木造家屋は全壊し、夫婦2名が生き埋めになりましたが、近所の方々の協力により無事に救出されました。
柱が倒れてきた位置が、2人の間であったことが助かった大きな要因ですが、その後の救出も不可欠な要素です。
若いマンパワー
1995年(平成7年)と2020年(令和2年)の国勢調査のデータを比較します。
住居表示が変わったため単純比較とはいきませんが、概ね同じデータとして表にまとめました。
75歳以上の人口は1995年が216人(2.57%)、2020年は1,177人(15.5%)です。
高齢者とされる65歳以上で見ると1995年が649人(7.7%)、2020年は2,175人(28.6%)です。
人口減少により絶対数が減っている上に、高齢者が増えているため1995年当時の若いマンパワーは激減しています。
仮に、30~59歳が瓦礫からの救出に自主的に参加していたとすると、1995年には3,636人居ましたが2020年には2,580人に、絶対数で1,056人減っています。
年齢階級 | 平成7年 野間エリア 人口 | 平成7年 野間エリア 構成比 | 令和2年 野間・野間北 人口 | 令和2年 野間・野間北 構成比 |
---|---|---|---|---|
総数 | 8,402 | 100.0% | 7,606 | 100.0% |
0~4歳 | 628 | 7.5% | 314 | 4.1% |
5~9歳 | 470 | 5.6% | 337 | 4.4% |
10~14歳 | 471 | 5.6% | 341 | 4.5% |
15~19歳 | 535 | 6.4% | 332 | 4.4% |
20~24歳 | 734 | 8.7% | 366 | 4.8% |
25~29歳 | 909 | 10.8% | 384 | 5.0% |
30~34歳 | 783 | 9.3% | 384 | 5.0% |
35~39歳 | 529 | 6.3% | 407 | 5.4% |
40~44歳 | 562 | 6.7% | 504 | 6.6% |
45~49歳 | 627 | 7.5% | 629 | 8.3% |
50~54歳 | 619 | 7.4% | 557 | 7.3% |
55~59歳 | 516 | 6.1% | 483 | 6.4% |
60~64歳 | 370 | 4.4% | 393 | 5.2% |
65~69歳 | 255 | 3.0% | 484 | 6.4% |
70~74歳 | 178 | 2.1% | 514 | 6.8% |
75~79歳 | 107 | 1.3% | 520 | 6.8% |
80~84歳 | 76 | 0.9% | 339 | 4.5% |
85~89歳 | 25 | 0.3% | 205 | 2.7% |
90~94歳 | 5 | 0.06% | 90 | 1.2% |
95~99歳 | 3 | 0.04% | 20 | 0.26% |
100歳以上 | – | – | 3 | 0.04% |
年齢階級 | 平成7年 野間エリア 人口 | 平成7年 野間エリア 構成比 | 令和2年 野間 人口 | 令和2年 野間 構成比 | 令和2年 野間北 人口 | 令和2年 野間北 構成比 |
---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 8,402 | 100.0% | 4,437 | 100.0% | 3,169 | 100.0% |
0~4歳 | 628 | 7.5% | 207 | 4.7% | 107 | 3.4% |
5~9歳 | 470 | 5.6% | 203 | 4.6% | 134 | 4.2% |
10~14歳 | 471 | 5.6% | 205 | 4.6% | 136 | 4.3% |
15~19歳 | 535 | 6.4% | 201 | 4.5% | 131 | 4.1% |
20~24歳 | 734 | 8.7% | 243 | 5.5% | 123 | 3.9% |
25~29歳 | 909 | 10.8% | 259 | 5.8% | 125 | 3.9% |
30~34歳 | 783 | 9.3% | 251 | 5.7% | 133 | 4.2% |
35~39歳 | 529 | 6.3% | 257 | 5.8% | 150 | 4.7% |
40~44歳 | 562 | 6.7% | 295 | 6.6% | 209 | 6.6% |
45~49歳 | 627 | 7.5% | 388 | 8.7% | 241 | 7.6% |
50~54歳 | 619 | 7.4% | 322 | 7.3% | 235 | 7.4% |
55~59歳 | 516 | 6.1% | 288 | 6.5% | 195 | 6.2% |
60~64歳 | 370 | 4.4% | 234 | 5.3% | 159 | 5.0% |
65~69歳 | 255 | 3.0% | 262 | 5.9% | 222 | 7.0% |
70~74歳 | 178 | 2.1% | 254 | 5.7% | 260 | 8.2% |
75~79歳 | 107 | 1.3% | 267 | 6.0% | 253 | 8.0% |
80~84歳 | 76 | 0.9% | 173 | 3.9% | 166 | 5.2% |
85~89歳 | 25 | 0.3% | 91 | 2.1% | 114 | 3.6% |
90~94歳 | 5 | 0.06% | 28 | 0.6% | 62 | 2.0% |
95~99歳 | 3 | 0.04% | 9 | 0.2% | 11 | 0.35% |
100歳以上 | – | – | – | – | 3 | 0.09% |
【参考】e-Stat:平成7年国勢調査, 小地域集計, 兵庫県
【参考】e-Stat:令和2年国勢調査, 小地域集計, 兵庫県
即席救助チーム
1995年1月17日は火曜日、平日です。発災時刻が5時46分でしたので学生も社会人も家に居る時間帯です。
野間エリアで動けそうな人が総動員で救助にあたったことで助けられた生命があると思われます。
野間エリアの15歳~59歳までの人口は、1995年は5,814人、2020年は3,662人、その差は2,152人です。
これだけのマンパワーの差が、救える生命の数を変えるかもしれません。
また、自力で脱出できた人も現役世代には多かったとすると、高齢者が激増した現在では、自力で出て来れず、要救助者の数が激増すると考えられます。
1995年と2020年で比較すると、野間エリアだけで高齢者が1,526人増加しています。
新幹線、落ちる。
伊丹市野間では、山陽新幹線の高架橋が落下しました。
始発前でしたので新幹線は走行していませんでしたが、もし時速200キロで16両編成ののぞみ号が走行していたならば、脱線事故が起きていた可能性があります。
帰省シーズンなどではのぞみ号には1,500人以上が乗車していることもあります。
2005年4月25日の福知山線の事故現場は、野間エリアから5kmほどです。あの大惨事を身近な出来事として知っている住民が多いエリアだけに、新幹線が事故を起こすようなことがあればどれだけの被害が出るのか、想像すると恐ろしくなります。
木密地域
野間エリアは『木造住宅密集地域』、別称『木密地域』でもあります。
自動車が通れないほど狭い道がたくさんあり、その道の際には木造の建物がたくさん建っています。
それは、昔からあるお寺や神社の周りだけではなく、弊社の周囲も同様です。
木密地域で火災が起こると、次々と燃え広がる恐れがあります。
所轄する消防署では『糸魚川大火のようなことは起こらない』と言っていますが、単体で火災が発生した場合には大火にならなくても、大震災に伴って大火が発生すれば十分な消火活動ができず、大惨事になる可能性があります。
阪神淡路大震災では、長田や東灘などあちらこちらで大きな火災がありました。神戸市のアーカイブ写真を見ても、その関係であろう画像がたくさん所蔵されています。
【参考】兵庫県:兵庫県密集市街地整備マニュアル(平成28年3月)
【参考】読売テレビ:大阪が全国ワースト1位…火災延焼の危険「木造住宅密集地域」解消できないワケと、今できる対策, かんさい情報ネット ten.特集
復旧 or 復興
地震の揺れで倒壊する家屋は限られています。耐震基準は年々厳しくなっているとすれば、築年数が浅いほど倒壊しない、街の新陳代謝と共に倒壊する家屋は減ると思います。
一方で火災が発生すれば、新旧問わず建物に火が付く可能性があり、建物だけではなく自動車や自動販売機も燃える恐れがあります。
元の状態に戻すことを『復旧』と呼ぶとすれば、損傷を受けていない建物はそのままに、倒壊や火災により損傷した建物だけを建て直すことで復旧はできるかもしれません。
復旧を英語に変えると『restoration』『replace』が適当なのかなと思います。
復興について、意味をつかむと『regeneration』『rebirth』が適当かもしれませんが、『reconstruction』を使うことが多いようです。
令和6年能登半島地震で被害が大きかった石川県では『創造的復興プラン』を掲げています。意味を捉えると『Renaissance』(強靭性)を『creative』(創造)するような内容です。
形だけ元通りにしても、地域社会が元通りになる訳ではなく、日本は少子高齢、多死、人口減少が進むことが自明であることから時代変化に適応できる復興計画が必要になります。
災害に負けない街へ
弊社が立地する兵庫県伊丹市野間5丁目の現在の地図は下図のような状態になっています。
地図にはっきりと載らない道がいくつか存在しています。辛うじて地図に載っている道も、軽自動車ですら通れない道も多くあります。
古い水路があり、それに沿った古い道が残っているため、曲がりくねった道が多いです。
下図は、筆者が勝手に作った区画整理図です。防災性を考慮して車が通れないような道を無くしています。
お寺と神社は元の位置に残しつつ、現状より少し広くなるように区画し直すことで、木造建築物でる寺社仏閣の周囲から延焼するものを遠ざけます。
健速神社と大空寺の間は狭い道を抜けていくのが現状ですが、そこを緑地帯に置換え、このあたりを緊急避難場所として利用できるように再整備します。
イメージとしては下図のような感じです。
近隣には尼宝線、道意線、五合橋線など南北に走る幹線道路が生活や仕事の核となるため、このエリア内は東西に移動する車が多くなります。
交通安全に配慮し、また緊急車両が展開しやすいよう複数の東西道路を整備、特に新幹線の側道は片側2車線に再整備することで、住宅街を通り抜ける車の数を減らします。
強靭な街へ
勝ち負けを争うと、誰かが負けます。
災害対策において、災害に抗って負けるリスクを取るより、勝負せずに『負けない』ことが重要になります。
停電すれば信号は消灯しますし、地震で信号自体が倒壊すれば機能不全に陥ります。
ラウンドアバウトは信号機なしで交通整理できます。
野間エリアの住民はラウンドアバウトを使い慣れている人が多いので強靭性のために設けても良いのではないかと考えます。
ラウンドアバウトは、交差点を真っすぐ通り抜けることができないので必ず減速します。住宅街を高速で通り抜ける車が居なくなるメリットがあります。以前ですとアクセルを踏み直すので排気ガスが課題でしたが、電気が普及してきたため排ガスは軽減されています。
水路を残すことで、水害の危険性は残りますが、災害時の消火活動や生活用水の確保に役立ちます。
その点では、井戸を掘る事が強靭性に寄与します。緑地帯や公園に井戸があると地域の強靭性が高まります。
社会的な強靭性
物理的な強靭性は他地域の真似事でも再現率が高くなりますが、地域社会の強靭性は、地域事情を鑑みる必要があります。
弊社が立地する野間5丁目に限れば、この地域の住民が顧客であるビジネスは1軒しかありません。
- かわさき内科クリニック
隣接エリアに広げると多くなります。
- キリン堂 伊丹野間店(野間8)
- 万代 伊丹野間店(野間1)
- ファミリーマート 伊丹野間二丁目店(野間8)
- 新誠塾 伊丹野間校(野間3)
- コインランドリー ウォッシュ&ダッシュ野間店(野間8)
- ワッツ 伊丹店(野間1)
- ほっかほっか亭 野間店(野間1)
- ガスト 伊丹野間店(南野6)
- ささはらこども園(野間1)
- トレジャーキッズささはら保育園(野間3)
- おの小児科(野間3)
- フタバ薬局 伊丹野間店(野間3)
- とよくに歯科医院(野間2)
- 山中耳鼻咽喉科医院(野間1)
- むこきたクリニック(野間4)
- むろさきクリニック(野間1)
- 片山内科クリニック(野間1)
- すずらん薬局(野間1)
- ウエルシア 伊丹野間店(野間7)
- ドラッグストアコスモス 野間北店(野間北4)
- 伊丹警察署 野間交番(野間8)
- 伊丹野間郵便局(野間3)
- 尼崎信用金庫 野間支店(野間7)
- 家族葬のセレモニーハウス伊丹野間(野間7)
地域住民が居なくなる、住民の層が変わる、店舗が現在地から移転するなどがビジネスに大きく影響するとなれば、各社・各店にとって地域の健全性は重要になります。
住民から見てもクリニックや薬局、保育園などが地域から無くなると生活に支障があります。
ここに住んでいると幼稚園や保育園に入りづらい、通いづらいようなことがあれば若い人が減ってしまう可能性があります。
ビジネスに関しては災害が起きて撤退というだけでなく、人口減少なども影響するので平時から検討する必要があります。先述の通りこのエリアの高齢化率は1995年が7.7%、2020年は28.6%で1,500人程増えています。
ここ10年ほどで近隣にはクリニックが増え、ドラッグストアや調剤薬局も開業しています。
高齢人口が2,000人を超えるエリアであり続ければ、これらのビジネスに関わる顧客(患者)は安定的に供給され続けるかもしれません。
子供は少ないですが、小児科は1軒しかないので、競合が現れない限りはどうにかなりそうです。
スーパーやコンビニは人口減少の影響を受けやすく、軒数は減って行く可能性は高いです。区画整理によって交通量が変わればコンビニは成り立つかもしれません。
遠方からでも客が来る複合スーパーを誘致すれば解決するかというと、その進出が地域の小規模店撤退を来たし、もし大型店が閉業してしまうと商店が何も残らない状況になります。
生活の質が低下するほど不便な地域になってしまえば、地価が下がるかもしれません。
この地域は小規模店舗の林立で持続可能性を高められるのであれば、大型店誘致は強靭性とは乖離した方法かもしれません。
地域でビジネス
山間部の過疎地ではガソリンスタンドや食料品店など生活インフラとなる商店が撤退や廃業したため、住民がそれらのビジネスを自主運営しているケースがあります。
訪問介護なども事業者不在ではサービスを受けられないので、地域で事業を興すことがあります。
野間エリアでも、地域住民が自らビジネスを興すことも視野に、まずは地域に必要な生活インフラなどを考える必要があります。
自治会で貸地や貸しビルを経営する考えもあるかもしれません。
市街中心の角地、車も乗り入れやすい一等地であれば多少の高家賃でもコンビニが借りてくれるかもしれません。
その2階には貸会議室を設け、自治会の会議だけでなく一般向けに有償で貸し出すのも良いかと思います。
土地は自治会、建物は持たずテナントビルを経営する財力やノウハウがある不動産事業者に任せるのでも良いかなと思います。
早くから
このような案を、災害後に話し始めても揉める要素が多くなります。
区画整理をすると決まれば、ある時期になると建物を撤去しなければなりません。
災害で家が崩壊して、新たに建てようと思っても、区画整理が決まらなければ建てられない、整理前では土地の買い手もつかない、中途半端な状態になります。
そうならないために、平時から区画整理案を話し合い、いざ災害が起きてしまったときには実行に移す、くらいの準備があると復旧や復興が早まります。
区画整理では土地不足
道路が狭かったところを広くするということは、そこに存在した宅地を減らすことにもなります。
仮にエリア全体で200世帯あったとしても、区画整理後は120~150世帯にまで減らさないと収まらないということもあります。
角地や道路面、南向きなど条件の良い土地が欲しいと考えるのは当然なので、その再配分でも意見が衝突することがあります。
まず、このエリアに残りたいのか、出て行きたいのか、どちらでも良いのか、意思確認が必要になります。
希望を募った結果、土地が不足しないのであれば、区画整理はスタートしやすくなります。
対等でなければ
土地の区画整理で問題になるのが、立場の高低差です。
大規模災害後の区画整理では、市役所が音頭を取って住民をまとめることがありますが、そうなると市役所職員に対して住民が上に立つような構図ができてしまうことがあります。
同床異夢といったことかもしれません。
関係者はすべて対等な関係であり、ゴールは区画整理、そのために誰かが金銭的な損害を被るのではなく、何か要望を妥協する程度で済むようにまとめていく必要があります。
区画整理後は土地の価格が上がることが期待できます。消防車も通れない狭い道ばかりの場所よりも、大型消防車も入って来られる土地の方が価値が高いと思います。街並みが新しく、そこに住みたいと思う人が増えれば、競争の原理で土地は高くなります。
元の住民同士が協力して区画整理を成功させ、どの住民も土地の価値が上がり、豊かな暮らしができればハッピーエンドであったと感じる人が多いのではないでしょうか。
ウチは得か?
弊社の現在の位置は、ギリギリで大通りに面さない土地であり、かつ、半分程度は道路と緑地に重なる位置です。
元の土地を所有し続ける主張をした場合、土地面積は半分以下になると思います。そして、表通りに面さない、角地でもない、悪くはないが特別に良くもない土地になります。
あと数十メートルずれていれば大きな交差点の角地になるので、商業的価値が高まるため、転売するときには高く売れそうです。
2市の協調
このエリアは、伊丹市と尼崎市の市境が通るエリアでもあるため、道路を計画する上では2市の協調が必要になります。
今回の図では、市境の問題で家が建てづらくならないように配慮したつもりですが、どうにもならなそうな場所は緑地にしてしまえば良いかなと思います。
区画整理を機に、境界を引き直すということもあるのですが、このあたりは水路が多いので簡単では無さそうです。
見据えるのは未来
災害後の区画整理は、単に土地をまっさらにして区画し直そうという訳ではなく、二度と惨事が起こらないように、想定される大火などは避けられるように、未来志向で区画を考えていきます。
これはどこの地域で実施する場合も同じことではありますが、野間エリアは30年前に一度、全壊家屋をいくつも見て来たエリアですので、その記憶を思い出せば整理する意義は理解されやすいのではないかと思います。
近くにある笹原公園のあたりは、仮設住宅が建ち並んだエリアでもあると聞いています。
個々の建物が倒壊してしまう要因は様々ですが、建て直すことになるのであれば、様々な面で災害に強い街に建てられた方が、再建のし甲斐があるのではないでしょうか。
野間5の脆弱性
今回、地図を見直してみて改めて気づきましたが、近隣町丁と比べて細い道路が多いです。
また、他の町丁は道路が長方形に近い形で結ばれているのに対して、野間5丁目位は多角形や楕円などが多く見られます。
次に大震災が起こってしまったときには、区画整理をし直した方が強い街になれる気がします。
恐れるはゴーストタウン
周囲が住みよい街づくりができていて、野間5丁目だけが住みづらい、災害に弱い街だと言われてしまった場合、新たに家を買おうという人は、住みよい方を買うようになると思います。
機会があれば転居してしまおうという住民が増えれば、居残った人だけの廃れた街になり、最終的にはゴーストタウン化する恐れがあります。
どことは言いませんが、高度経済成長期に造成された住宅街が、今はゴーストタウン化している場所がいくつかあり、その理由は生活の質低下にあると言われています。
『道路が狭くて危険』ということが、住みよさ/悪さに影響する事例は多くありますが、このエリアも交通量の割に道が狭く、すれ違いができない箇所も多い点は懸念されます。
50年後、ゴーストタウンになってしまわないように、震災が起こらなくても少しずつ区画整理を進めても良いのではないかと思います。
1区画50坪
宅地は1区画(1軒)あたり50坪程度とすることで、宅地造成に比べて広めになると思います。
隣近所の間隔を広くとる事で延焼を予防する狙いもあるので、建物間の規制も厳しくすることで、物件の価値は高まるかもしれません。
あまり厳しいと売却する際のハードルになることもあるので、どの程度が良いのか熟考が必要です。
誰が買い取るのかも重要
今の市の財源では、ここの土地を買収するほどの財力は無いのではないかと思います。
市民の理解を得る事も容易ではないと思います。
区画整理の話がまとまり、土地の価格が上昇する可能性があれば、デベロッパーが買い取るということもあるかもしれません。民間による買取です。
数億円という話ではなく100億円を超えるプロジェクトになると思いますので、それだけの投資をする価値があるのかどうか、投資価値を見出せるだけの区画整理案をまとめることが、住民にもメリットになる可能性があります。
医療福祉施設の誘致
土地の割り付けや道路の位置を決めるだけではなく、どのような用途で使われるのかもシミュレーションすると良いです。
下図のプランAは商業地(薄黄色)を交差点付近に集めて、ここにコンビニやファミレスなどに来て貰えると良いのではないかと思います。
病院誘致は難しいですが、クリニックと薬局の誘致はできると思います。合理性を考えるとクリニックモール(橙色)を作って、そこに内科、消化器科、整形外科、小児科くらいは入って貰えると良いと思います。眼科や耳鼻科も来てくれると良いですが。
同じエリアに高齢者福祉施設もあると、その辺りが医療福祉の場所であるイメージが付きやすいと思います。
下図のプランBは太い道路沿いに商業施設が点在するプラン、エリアの北側にマンション(紫色)を集めて、その北側は新幹線なので日照権の問題は軽減すると考えられます。
橙色のエリアに医療機関や高齢者施設、幼稚園などを集める想定ですが、エリア人口から考えると更に拡張しても良いかもしれません。
市域全体からここに集まるようなことになれば、エリアの価値も上がるのではないかと思います。
買物や娯楽に困らないエリアであって、かつ、住むところが十分にある上に、緑地や公園などの個人所有が難しい場所もあれば宅地としての価値は高いと思います。マンションや老人福祉施設など高層化された建物があることで、人口密度が高くなるため、商売する側としては価値が高い場所になります。
このあたりは神社やお寺があるので、それを利用して公園を整備し、一帯を非居住空間、遊戯空間、観光空間とする価値があるのではないかと考えます。
未来志向で無駄も甘受
野間エリアは東側に伊丹市営バス、西側に旧尼崎市営バス(現在は阪神バスが運行)が運行しており、多い時間では10分に1本程度でバスが来ます。
ただし、バスで市役所まで行こうと思うと不便です。
人口減少、特に通勤通学でバスを利用する人が減ると、減便や廃線の可能性が高まります。運転手不足も拍車をかけます。
Uberなどの配車サービス、デマンドバス、自動運転サービスなど近未来に普及が想定される交通手段には、相応のインフラが必要な場合もあります。
そこで、町内に拠点を設けることで、多様な乗り物が集結しやすくします。車両の充電や運転手交代、待合所などがあり、何台もの車両が停車できる場所があれば、住民にとって生活しやすい場になります。
他のエリアに同様の拠点がなければ、野間エリアに乗り物を求めて人が集まるようになり、周辺の商業施設の価値も高まると考えられます。
現状では『野間』バス停と『野間西』バス停は徒歩10分ほど離れているため伊丹市営バスと阪神バス(旧尼崎市営)の乗換はできませんが、両路線を同じ拠点経由にしてもらえれば、乗換も可能になります。
車両が進入できないほど狭い道が多いために区画整理が必要であるのが野間5丁目や6丁目に集中しているため、現在は不便さがありますが、区画整理を実施したあとは他の町丁より土地の価値が上がる可能性があります。
市境である点を利点と捉えて、両市から医療機関等が移転してくるようにヘルスケアタウン構想を掲げる、行政のサテライト施設を建てられる場所を確保する、住民のための宅地に充てられる土地が減ることになりますが、未来志向で地域の持続可能性や強靭性を考えると、50年後も廃れていない街が想像できます。
現実は….
ここまで、震災後の地域再興を考えての土地区画整理を述べてきましたが、あくまで机上の空論です。
こんな話、上手くいくとは思えません。
その実現可能性を高めるには、住民が意見を出し合う場が必要だと思います。
10年かかっても答えは出ないかもしれませんが、10年も話し合ってきた地域であれば、ゴールは絞られてきているかもしれません。それが2案で対立、互いに譲る事はないとしても、案が絞られているという価値があります。
理想論を突き付けるのではなく、現実的には『話し合いましょう』ということだと思います。
おわりに
今回は丸30年となった阪神淡路大震災を振り返りながら、地域の再生について考えてみました。
壊れた家を直すのが復旧であるとすれば、それはお金を払えばどうにかなる話です。
しかしながら、大震災が起これば地域社会は激変するかもしれません。
弊社が立地する伊丹市野間では、30年前に全壊した家屋が多くあった地域、その時は崩れなかった築30年以上の建物がいまだにたくさんありますので、同規模の地震が起これば惨事は免れないかもしれません。
人口構造が変わった点を考慮せず、高齢化率10%未満の時代を想像しながら対応するのは危険です。
走れるイメージを持って子どもの運動会に参加したお父さんが、足がもつれて転倒する人みたいに、本番で思い通りにいかないことは、容易に想像できます。
転ばぬ先の杖、起こるかわからないことに杖を買うのかという議論はありますが、考えるだけならさしてお金もかからないので、検討する機会になるかなと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。