電源波形(電圧波形)
電気には直流と交流があるというのは理科で習ったとおりです。直流とは電圧が一定で、一直線の波形を示すものです。交流は上がったり下がったりする波形を描くものです。
- 直流(direct current)
- 交流(Alternating Current)
バッテリ自体からの出力は直流ですが、家電製品などは交流電源を必要とするため、ポータブル電源などでは直流を交流に変換します。
このときの出力は、一直線の直流を交流っぽく見せる『矩形波』(くけいは)というものと、壁コンセントから取れる商用電源と同じような『正弦波』(せいげんは)という波形で出力するものに大別されます。
- 矩形波
- 正弦波
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矩形波ではNG
正弦波であれば家電品が使えるということは理解しやすいですが、矩形波ではダメなのか疑問が残ります。
矩形波が絶対的にダメだということはありません。矩形波でも正常動作する電化製品もありますが、動作しない電化製品もあります。
正弦波で動作しないようであれば不良品として返品対象かもしれませんが、矩形波で動作しなくてもメーカーの保証対象外だと思います。
できれば、電源は矩形波ではない方が良いです。
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波形は可視
当社は登録電気工事業者です。工事をする方の『電気屋さん』です。家電を売る方の『電器屋さん』ではありません。
工事現場に出て仕事をする電気屋として必要な電気計測器具はそれなりに揃えています。
今回はHIOKIの3351Tという『ラインモニタ』や『電源品質アナライザ』などと呼ばれる器具を使ってみます。
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この電気計測器を使うと、壁コンセントの波形を見ることができます。プローブを変えれば分電盤でもどこでも確認できます。
例えば、下図のような波形が出てきます。
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壁コンセントの波形
壁にあるコンセントで取得する電源を『商用電源』(しょうようでんげん)と呼びます。
並行した2つの刃でできたプラグを差し込むようなコンセント(アウトレット)は100Vです。東日本は50Hz、西日本は60Hzです。
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商用電源を電源品質アナライザで見ると下図のようになりました。測定地域は関西電力エリア、60Hzの地域です。
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蓄電池の波形
蓄電池の波形も観察できます。
LACITAのENERBOX-SPという製品の電源波形は下図の通りです。
先述の商用電源とよく似た波形、キレイだと思います。
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次に、もう少し小さい蓄電池で試してみます。RAVPowerのRP-PB055の電源品質測定結果は下図の通りです。
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次は、大きな蓄電池で試してみます。EENOURのP2001PLUSという機種でもやはり正弦波交流が見られます。
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商用電源と蓄電池の波形、拡大してみても特に違いが見られません。少なくとも家電製品は違いに気づいていない、問題なく使えている状態です。
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使用機材(蓄電池)
LACITA ENERBOX-SP 444Wh/120000mAh/400W 防塵 防沫 IP44
リチウムニッケルコバルトアルミニウム(NCA)搭載、IP44防水規格取得のポータブル電源。本体電池容量120,000mAh(444Wh)、サイズは303mm×134mm×184mm、5kgの軽量コンパクト。 |
RAVPower 30000mAh 100W AC出力 PD 60W RP-PB055
リチウムイオン電池を搭載。AC100W出力・30000mAhの充電に対応。60W出力のUSB-Cポート。3時間で満充電。軽量1kg |
EENOUR 蓄電池 P2001PLUS (スマホ連動版)
▽大容量 2048Wh/640000mAh ▽リン酸鉄リチウム電池 ▽スマホアプリ遠隔操作・遠隔監視 ▽充電時入力電力調整可能、1.6時間急速充電 ▽最大2400W出力 ▽USB TYPE-C出力100W、DC12Vシガーソケットなど各種ポート搭載 |
発電機の波形
発電機の電源波形も、蓄電池と同様に商用電源に酷似しています。
下図はバイクメーカーでもある本田技研工業の発電機 enepo の波形です。
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下図は昨年調達したばかりのEENOURのGS2200ID-Bという発電機の波形です。こちらもキレイな波形です。
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使用機材(発電機)
ホンダ発電機 エネポ EU9iGB 900VA
カセットガスボンベ2本で発電できる可搬型発電機です。定格交流出力50/60Hz:100V-0.9kVA、連続運転1.1~2.2hr、365mm×524mm×262mm、騒音79〜84dB |
EENOUR インバーター発電機 GS2200iD-B
【2つの燃料で始動させる発電機】 汎用性の高いガソリン、コンビニでも売っているカセットガスボンベの二刀流。工事現場で使用する場合はガソリンで長時間運転と低コスト、停電対応では長期保存できるカセットガスボンベで備える、といった運用ができます。 【カセットボンベでも高出力】 カセットガスで1700Wの発電量を達成、ガソリン使用時は1800Wの高出力。 |
カーインバーターの波形
カーインバーターの波形を測定していないのでデータがないのですが、メーカー公称で正弦波ではない器具は散見されます。
Amazonで『修正正弦波』という製品を見かけますが、これは『矩形波』を意味しているようです。数学で習った正弦、サイン・コサイン・タンジェントの『サイン』で算出して波形を描けるものがサインカーブ、正弦波ですが、矩形波は正弦ではありません。
正弦波を出せるカーインバーターも存在します。矩形波に比べて価格帯が数倍違います。
電源の品質
電源波形がキレイであれば、電源品質が良いかと言うと、そうでもありません。
波形をよく見ると、波がギザギザということもあります。遠くから離れて見ればキレイな正弦波ですが、近づいて見るとギザギザということはよくあります。電化製品に影響が無ければ、そのままでも大丈夫です。
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波形が部分的に歪むことはよくあります。
これ自体で電化製品が停まることもあり得ますが、さほど影響が無いと見ても良いケースがほとんどです。できればキレイな正弦波を描いて欲しいですが、発電機のエンジンの調子や、負荷側の変動などでこうした波形は散見されます。
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波形全体がなまる、歪むといったことが起こると、電圧が安定しなくなるので困ることがあります。
下図はフリーハンドで波形を描きましたが、このように右肩上がりというものだけでなく、波形1つ1つがバラバラの高さになるようなものも良くないですし、電圧が下がり過ぎれば停電に近い状態になってしまうこともあります。
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電源の質としては、電圧に関わる部分が重要視されます。
波形欠落
あって欲しくはないですが、起こらないとも限らないのが波形の欠落です。
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低電圧
電圧が低いと、電化製品が動かない場合があります。
例えば85Vを閾値としている電化製品の場合、85Vを0.1Vでも下回れば停止することがあります。
また、85V付近で怪しい動きをしていると、電化製品の中の一部の機能やパーツだけが停止してしまい、電化製品を故障させてしまう恐れがあります。
この事象であろうことを、筆者も経験したことがあります。
『瞬低』と呼ばれる、瞬時低電圧がこの事象に近くなりますが、商用電源でも起こりえる瞬低は、発電機などでも起こりえる事象です。
発電機 vs. 蓄電池
電源品質について、発電機も蓄電池も大差ないと言えばそれまでです。ここまで述べて来たとおり、どれを見てもキレイです。
蓄電池は一般的にDC-ACコンバーターという、直流を交流に変換するデバイスで正弦波交流を生み出しています。蓄電池はDC3.7Vのセルの集合体であったりするので、電圧の調整も必要になります。
発電機はAC-ACコンバーターが使われている場合が多いのではないかと思います。交流発電機であれば、生み出される電力は交流なので、それを商用交流と同じ50Hzや60Hzの100Vに変換する必要があります。
発電機はエンジンの回転数などに影響されて波形が乱れる可能性があります。電力需要に応じてエンジン回転数が変動するようであれば負荷による影響を受けますが、一定の回転数で、一定の電力を生み続ける定出力型であれば、変動する要素が少ないので波形は安定します。
蓄電池は負荷に応じて出力を変動させるタイプが多いので、負荷の変動による波形の乱れは想定されます。一方で電池は直流で一定の電圧、動力源による変動は起きづらいと考えられます。
単純な机上の話で言えば、定出力の発電機が、暖機を終えてエンジンが安定していれば、波形の乱れが生じる要素が少なく、キレイな波形を描くと言えます。
『いざ』という時の前に
蓄電池や発電機は、いざというときの備えとして保有しているケースが多いと思います。
非常事態に直面するまで1度も使わないというのは危険です。単に試運転したというだけでも心配です。
停電時に何をしたいのか、それを想定した上での負荷試験を実施すべきです。
平時も非常時もお手伝い
弊社は電気工事業者であり、かつ、減災コンサルティングを生業としています。しかも、エッセンシャルビジネスに強い、希少なコンサルタントが在籍しています。
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その対象は患家にも及びます。医療的ケア児/ケア者が居るお宅の停電対策も私たちの仕事です。
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