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災害時の医療支援船 | NES’s blog

 災害時の医療支援船と聴いて、どのような物を想像するでしょうか。

 機動力の高い小型ボートで、救急車のように3人1組で急行するような船なのか、新興感染症の隔離施設のようになったダイヤモンド・プリンセス号のような客船なのか、離島の通勤通学で使われるような単に人や物を運ぶだけの船なのか、自衛隊が持つホバークラフト『LCAC』のようなゴツイ船なのか、どんな船を想像しますか?




3月に閣議決定

 2025年3月18日に開かれた第2回の船舶活用医療推進本部会合で、被災地の医療を支援する船舶を整備する計画が閣議決定されました。


 閣議決定とは内閣総理大臣、今ですと石破総理が主宰する閣議における意思決定です。閣議は内閣法第四条に定められた、法的な根拠のある意思決定の場です。

第四条

内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。

2 閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。

3 各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる。

内閣法

 内閣法の第一条の2にある責任の下、内閣総理大臣や閣僚ら閣議に参加する者の全会一致の原則で、閣議決定は行われます。

第一条

内閣は、国民主権の理念にのつとり、日本国憲法第七十三条その他日本国憲法に定める職権を行う。

2 内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う。

内閣法

 閣議決定のあとには国会審議がありますが、与党が過半数を握っていれば閣議決定がそのまま国会でも通ることになりますが、少数与党の状況下では、不確定要素がたくさんあります。

 とはいえ、災害対策については、総論としては賛成が多いのではないかと思います。

【参考】内閣官房:船舶活用医療推進本部




第1回は昨年7月

 2024年7月9日に開かれた第1回目の船舶活用医療推進本部会合は、主宰する内閣総理大臣は岸田総理でした。

 第1回の出席者は以下のとおりです。

  • 岸田内閣総理大臣(本部長)
  • 林内閣官房長官(副本部長)
  • 松村国務大臣(副本部長)(司会)
  • 船橋総務大臣政務官(松本総務大臣代理)
  • 中野法務大臣政務官(小泉法務大臣代理)
  • 柘植外務副大臣 (上川外務大臣代理)
  • 矢倉財務副大臣 (鈴木財務大臣代理)
  • 今枝文部科学副大臣 (盛山文部科学大臣代理)
  • 塩崎厚生労働大臣政務官 (武見厚生労働大臣代理)
  • 舞立農林水産大臣政務官 (坂本農林水産大臣代理)
  • 上月経済産業副大臣(齋藤経済産業大臣代理)
  • 國場国土交通副大臣(斉藤国土交通大臣代理)
  • 伊藤環境大臣
  • 松本防衛大臣政務官 (木原防衛大臣代理)
  • 土田デジタル大臣政務官(河野デジタル大臣代理)
  • 平沼復興大臣政務官兼内閣府大臣政務官(土屋復興大臣及び高市国務大臣代理)
  • 加藤国務大臣
  • 神田内閣府大臣政務官 (新藤国務大臣代理)
  • 古賀内閣府大臣政務官 (自見国務大臣代理)
  • 村井内閣官房副長官
  • 森屋内閣官房副長官
  • 栗生内閣官房副長官
  • 小島内閣危機管理監
  • 阪田内閣官房副長官補
  • 鈴木内閣官房副長官補
  • 長橋内閣官房災害対処・救援総括官
  • 小林内閣広報官
  • 倉野船舶活用医療推進本部事務局長



根拠法は令和3年法律第79号

 病院船などに係る法令は『災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律』というものが根拠法になるようです。

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、海に囲まれた我が国においては災害が発生した時又は感染症が発生し若しくはまん延し、若しくはそのおそれがある時(以下「災害時等」という。)における医療を確保する上で船舶を活用した医療の提供が効果的であることに鑑み、災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、船舶活用医療推進本部を設置することにより、災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備を総合的かつ集中的に推進することを目的とする。
(基本理念)
第二条 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進は、災害が発生し、又は感染症が発生し若しくはまん延し、若しくはそのおそれがある地域(第四条第二号において「災害が発生した地域等」という。)において必要とされる医療を船舶を活用して的確かつ迅速に提供することにより、当該地域にある医療施設の機能を補完し、国民の生命及び身体を災害又は感染症から保護することに資することを旨として、行われなければならない。
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念にのっとり、災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
第二章 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する基本方針
(基本方針)
第四条 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備は、次に掲げる基本方針に基づき、推進されるものとする。
一 災害時等における船舶を活用して提供される医療と陸上の医療施設において提供される医療との適切な役割分担及び相互の連携協力を確保すること。
二 災害が発生した地域等において必要とされる医療の的確かつ迅速な提供が可能となるよう、災害時等における医療の提供の用に主として供するための船舶を保有すること(独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第十三条において同じ。)その他の国以外の者により保有することを含む。)。
三 災害時等における船舶を活用した医療の提供に必要な官民の医療関係者、船舶職員その他の人員を確保すること。
四 災害時等における船舶を活用した医療の提供のための教育訓練等を実施することにより人材を育成すること。
五 災害時等における船舶を活用した医療の提供に必要な医薬品、医療機器その他の物資を確保すること。
六 災害時等以外において、離島等における巡回診療、国際緊急援助活動等に第二号の船舶を効果的に活用すること。
七 民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用すること。
八 前各号に掲げるもののほか、災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関し必要と認められる施策を実施すること。
(法制上の措置等)
第五条 政府は、前条に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。
第三章 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する計画
第六条 政府は、政府が災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関し講ずべき措置について必要な計画(以下「整備推進計画」という。)を策定しなければならない。
2 内閣総理大臣は、整備推進計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。
3 政府は、整備推進計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
4 前二項の規定は、整備推進計画の変更について準用する。
第四章 船舶活用医療推進本部
(設置)
第七条 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進を総合的かつ集中的に行うため、内閣に、船舶活用医療推進本部(以下「本部」という。)を置く。
(所掌事務)
第八条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する総合調整に関すること。
二 整備推進計画の案の作成及び実施の推進に関すること。
三 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進を総合的かつ集中的に行うために必要な法律案及び政令案の立案に関すること。
四 災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する関係機関及び関係団体との連絡調整に関すること。
2 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
(組織)
第九条 本部は、船舶活用医療推進本部長、船舶活用医療推進副本部長及び船舶活用医療推進本部員をもって組織する。
(船舶活用医療推進本部長)
第十条 本部の長は、船舶活用医療推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
(船舶活用医療推進副本部長)
第十一条 本部に、船舶活用医療推進副本部長(次項及び次条第二項において「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。
2 副本部長は、本部長の職務を助ける。
(船舶活用医療推進本部員)
第十二条 本部に、船舶活用医療推進本部員(次項において「本部員」という。)を置く。
2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。
(資料の提出その他の協力)
第十三条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人、地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)及び国立大学法人等(国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第五項に規定する国立大学法人等をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第八号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができる。
2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
(事務局)
第十四条 本部の事務を処理させるため、本部に、事務局を置く。
2 事務局に、事務局長のほか、所要の職員を置く。
3 事務局長は、本部長の命を受けて、局務を掌理する。
(政令への委任)
第十五条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(検討)
2 本部については、この法律の施行後五年を目途として総合的な検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律

 概要は下図のとおりらしいです。専門家が国民にわかりやすいようにまとめてくれた資料なので、そちらをご覧ください。
 要約すると、災害時の医療確保において船舶を活用すると効果的であるから、船舶を活用した医療提供体制の整備を推進する、ということです。

【参考】船舶活用医療推進本部:船舶活用医療推進本部会合(第1回)議事次第
【参考】船舶活用医療推進本部:船舶活用医療に関するこれまでの検討状況について




超急性期はプロ中のプロ

 発災72時間以内の超急性期は、自衛隊艦艇や海上保安庁船艇など、非常事態に即応できるプロが動きます。

 船体も船員も非常事態に強い、プロ中のプロが対応するという計画になっています。




応急は民間も活用

 超急性期は海上に漂流する人を助けたり、緊急搬送したりと、民間人には難しい対応が求められます。

 発災3日目頃からの物資輸送や患者搬送、救護などには民間の船も活用する計画が立てられています。

 津波さえなければ、水の上は平時と大差ないであろうが、陸は道路啓開に時間がかかるかもしれない、だから船を活用しようという話なので、水上を自在に移動できる方法であれば、官民を問わず活用するということになります。




病院船構想

 被災地の医療リソースの不足を補うために、病院船を整備しようという構想が、この船舶活用医療推進本部会合のスタートです。


 資料によると、役割は2つあるようです。

  1. 脱出船:被災地の患者に医療行為を実施しながら、被災地から離れた場所にある病院等に患者を移送する
  2. 救護船:被災地付近の港に接岸し、一定期間、現地で救護活動する

 1番はドクターカー的な役割、2番は応急救護所的な役割を想定しているようです。

 実務としては、両対応できるようにカーフェリーに医療用の資器材を搭載して被災地へ向かう方法を検討しています。

 病院船のメリット、デメリットは以下のとおりです。

脱出船救護船
受け入れ地域との往復により、より多くの患者を移送し、被災地の医療機関の負担を軽減することができる自ら宿泊設備、食糧等の保管設備、および発電等のライフライン供給設備を持ち、自己完結性を有している
被災地から離れた場所に移送することについての患者・家族の同意取得が困難なことが予想される当該救護船までの患者アクセス確保が困難なことが予想される

【参考】船舶活用医療推進本部:船舶活用医療に関するこれまでの検討状況について




能登半島地震でも船が活躍

 令和6年能登半島地震(2024年1月1日)の救援や支援でも船が活用されています。

民間船舶船舶概要支援内容
はくおう○カーフェリー(17,345t)
○防衛省がPFI方式により確保する船舶
○被災者の一時休養施設として活用
ナッチャン
World
○カーフェリー(10,721t)
○防衛省がPFI方式により確保する船舶
○国・自治体職員が情報収集・共有を行う災害拠点として活用
東駿丸○特殊タンク船(499t)
○コーウン・マリン(株)及び東ソー物流保有
○水や簡易トイレ等の支援物資を七尾港に輸送
○海運事業者による自発的な支援として派遣
フェリー粟国○RORO船(451t)
○和幸船舶(株)保有
○シャワー等の支援物資を輪島市及び珠洲市に輸送
○(公財)日本財団の支援活動の一環として派遣
豊島丸○元高専練習船(240t)
○ピースウィンズ・ジャパンが保有
○食料等の支援物資を大三島から飯田港に輸送
○七尾港から飯田港まで往復し物資輸送を継続
きずな○海底ケーブル敷設船(8,598t)
○NTTワールドエンジニアリングマリンが運用
○船上基地局として運用
○輪島市一部沿岸の携帯電話エリアの回線復旧(ドコモ・KDDIに限る)
新世丸等○多目的作業船『新世丸』(697t)
○その他、『第18松前丸』も活動
○復旧工事に用いる資材を輪島港に運搬
○(一社)日本埋立浚渫協会の協力のもと活動
若潮丸○練習船(231t)
○富山高等専門学校が使用
○災害支援物資を七尾港に輸送

【参考】船舶活用医療推進本部:船舶活用医療に関するこれまでの検討状況について




閣議決定

 2025年3月18日朝8時から総理官邸で開かれた船舶活用医療推進本部会合で閣議決定された内容が3月21日に公開されました。

 船舶を活用した医療提供の体制整備が必要であり、そのためには船舶が必要であるので、まずは船舶を確保しようということが書いてあります。

 医療を提供するためには、医療従事者の確保が必要なので、その方法についても記されています。
 ヒトは医療従事者だけでなく、船舶職員も確保しなければならないので、それも調整していく旨が書かれています。

 医薬品や医療機器の調達や積載方法なども、体制整備が必要である旨が書かれています。

【参考】内閣官房:災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する計画 閣議決定




病院船

 COVID-19による医療崩壊が起きていたニューヨークでは、野戦病院や病院船など、あらゆる手を尽くして生命を救う努力をしていました。


 1,000人規模の収容力がある病院船があるという報道を2020年に見た時には、さすがアメリカだと思いました。

 日本には往診に行くという程度の医療支援船は存在していたと思いますが、入院や手術までとなると、自衛隊の艦船などになってしまうので、それを国内活動で使いすぎると、国防力が低下する恐れがあるので、簡単に寄港できるものではないと思います。

 三菱重工長崎造船所には三菱重工株式会社長崎造船所病院がありました。現在は重工記念長崎病院として独立した医療法人になっています。
 三菱重工神戸造船所には、三菱神戸病院があります。
 このように、造船所に隣接した病院が、船上にも病床を持つことができるならば、平時から利用できる病院船が造れそうですが、神戸で入院していたはずが、気づくと遠方に居るということにもなりかねないので、平時利用というのも容易ではなさそうです。
 人間ドック施設であれば、基本的には健常者ばかりなので、すぐに退去をお願いできるかなと思います。内視鏡やCTなど、平時に一定の稼働ができ、週数日使ってもらえれば、正常動作が確認できるので、メンテナンスという面でも良さそうです。

【参考】U.S. Department of Defense: USNS Mercy, USNS Comfort Receiving Patients in LA, New York City
【参考】重工記念長崎病院
【参考】三菱重工:三菱神戸病院