ブレーカーとは?
遮断器
ブレーカーとは電気回路を遮断する器具のことで、circuit breaker(サーキットブレーカー)や遮断器などとも言います。
遮断器の中にも目的別に色々な物があります。
家庭の分電盤には漏電遮断器と配線用遮断器の2つは最低限取り付けられていると思います。
漏電遮断器(漏電ブレーカー)とは、回路の漏電状態を監視する遮断器です。単に監視するだけであれば漏電警報器という物もありますが、危険を察知したら自ら電流を遮断することができます。
配線用遮断器(ブレーカー)は過負荷や短絡などから保護する目的で設置されます。一般的に分電盤内に漏電遮断器は1つですが、配線用遮断器は数個~数十個設置されています。
分電盤
分電盤とは、電気の配線を幹線から分岐させるもので、簡単に言えばブレーカーの集合場所です。ブレーカーは分電盤の構成要素の1つです。
昭和40~50年代の住宅であれば主幹となる大きなブレーカーが1個、分岐となる小さなブレーカーが2~4個程度でしたので、分電盤といっても今のようにプラスチックケースには入っておらず、板の上にネジ止めされただけの手作り感がある物でした。
近年は住宅でも20個程のブレーカーが付くことが珍しくなくなりました。
本稿のメニュー
復旧方法:過負荷・短絡
覚知
家全体で電気を使いすぎた場合は、一番大きなブレーカー(主幹ブレーカー)が作動して全館停電が発生します。
照明もエアコンも炊飯器も、すべて停止します。
小さいブレーカーが作動した場合は、分岐回路が許容値を超えたことになります。
対象の回路だけ停電します。多いのがキッチン。電子レンジを使っている時に冷蔵庫のモーターが回り始めたり、コーヒーメーカーのスイッチを入れてしまったようなときに容量オーバーとなって遮断されます。
小さいブレーカーは一般的に定格20A(アンペア)、100V(ボルト)で2000W(ワット)程度です。
大きいブレーカーは契約電力などに依存するため一様には言えませんが、30~50A程度の製品が取り付けられていることが多いと思います。
この時点では過負荷(オーバーロード)を疑っていますが、短絡(ショート)している可能性もあります。短絡(ショート)は滅多に発生するものではなく、突然発生するというよりは、何かをしたひょうしに発生することが多いので、まずは過負荷を疑うのが合理的です。
ただし、危険度は短絡の方がはるかに上です。過負荷は予防的に遮断しますが、短絡は危険が発生したときに作動するので、短絡により遮断器が作動した場合、既に何らかのトラブルは発生していると考えましょう。
1.負荷を減らす
まずは負荷を減らしてから分電盤へ行きます。
分岐回路(小さいブレーカー)が切れた場合には、いま停電しているエリアのコンセントをすべて抜きます。
主幹ブレーカー(大きいブレーカー)が切れた場合は、冷蔵庫や電気ストーブなど容量が大きそうな物のコンセントを抜きます。
エアコンは復電しても自動運転しませんが、冷蔵庫などは自動的に動き始めますので、再び過負荷で遮断される可能性が高くなります。
2.通電
小さいブレーカーだけが切れていた場合、対象のブレーカーを投入します。
大きいブレーカーが切れていた場合、大きいブレーカーを投入します。
負荷を減らしているので、過負荷で遮断していた場合には問題は解され、ブレーカーを投入することはできていると思います。
この時点で再びブレーカーが作動(遮断)した場合は、短絡を疑います。短絡の復帰は後述します。
3.復帰
ブレーカーが投入でき、通電状態を確保できたら器具を再びコンセントに差し込んでいきます。
冷蔵庫のようにスイッチが付いていない器具で、モーターやヒーターなどを積んだ大容量の器具から復帰させていくと良いでしょう。
エアコン等のスイッチ操作できる器具は後回しで良いです。
4.負荷
元の状態に戻すために、コンセントを差し終えたら器具(負荷)を運転していきます。
運転が始まってから再びブレーカーが作動(遮断)した場合、需要と供給のバランスが悪い可能性があります。
小さいブレーカーの場合は、隣の部屋などから延長コードを引き回すなどの方法で、負荷を今までと違うコンセントに差し込むなどの対応をします。
大きいブレーカーの場合は、コンセントを差し替えただけでは解決できない場合もあります。根本的に足りないのであれば、負荷を減らすか、電力契約を見直し容量を増やします。
短絡からの復旧
負荷をかけなくてもブレーカーが作動してしまう場合には、短絡(ショート)を疑います。
小さいブレーカー(分岐回路)だけが作動する場合、その回路を使わないようにします。
大きいブレーカー(主幹)が作動する場合は、どこの回路に問題があるか探る作業をします。
1.分電盤の確認
分電盤では大きいブレーカー(主幹)が切れており、漏電表示は出ていない状態です。
主幹ブレーカーが漏電ブレーカーを兼ねている場合が多くありますので、漏電であるか過負荷であるかは、ブレーカーの漏電表示を見ます。
漏電表示が出ている場合は、漏電の対応をします。概ね、同じ作業になります。
2.分岐回路の遮断
大きいブレーカー(主幹)が切れた状態のまま、分岐回路(小さいブレーカー)をすべて切ります。
3.主幹ブレーカー投入
主幹ブレーカーを投入します。
この時点で主幹ブレーカーには、分電盤内の銅板しかつながっていません。無負荷状態です。
4.分岐回路復帰
分岐回路のブレーカーを1つずつ上げていきます。
1つあたり5秒程は間隔をあけて、様子を見ながら作業を進めます。
5.悪い箇所発見
例えば上段の左から2番目のブレーカーを上げた時に主幹ブレーカーが作動した場合、その回路に原因の1つがあります。
この回路は以後、ブレーカーを下げた状態にしておきます。
6.仮復旧と原因探索
先ほど発見した問題の回路はブレーカーを『切』の状態にしておき、他の回路は開通させます。
主幹が切れなければ、問題の回路以外はとりあえずの安全宣言が出せます。
7.火災注意
ブレーカーが作動(遮断)するほどの事が起きていますので、火災の危険もあります。
電気工事店(登録電気工事業者)に点検・修理を依頼しましょう。
住宅用強化液(中性)消火器 電気火災対応
消火薬剤は厚生労働省に認可された、酢をベースに食品添加物成分から作られた中性薬剤を使用。ストーブ火災や天ぷら油火災など、電気火災などに対応。 |
復旧方法:漏電ブレーカー(ELB)
覚知
漏電ブレーカーは住宅であれば1軒に1個、オフィスであれば1フロアに1個程度で数は多くありません。
よって、漏電ブレーカーが遮断されると、広範囲で電気が消えます。住宅であれば全館停電、オフィスなら1フロアや1ブロックが停電します。
この時点では原因がわからないので、とりあえずば分電盤を見に行きます。懐中電灯と脚立があると良いかもしれません。
分電盤では、レバー(スイッチ)が下がっているブレーカーを探します。
漏電ブレーカーのレバー(スイッチ)が下がっていて『切』の字が見えていれば、漏電ブレーカーが遮断状態にあることになります。
更にレバーの横にある『漏電表示』というボタンが飛び出ていると、漏電を検出して漏電ブレーカーが作動したことになります。
漏電ブレーカーの復旧
最初に漏電ブレーカーより下流、小さなブレーカー群のすべてのブレーカーを切ります。
次に、漏電ブレーカーを復帰させます。レバー(スイッチ)を完全に下げてから上げて『入』(ON)にします。
続いて、小さなブレーカーを順番に入れていきます。
1.漏電ブレーカーの確認
漏電ブレーカーが遮断され、漏電表示が出ていることを確認します。
小さいブレーカー群はすべてのレバーが上がっていると思います。
※.平時より下げてあるブレーカーがある場合あり
2.分岐ブレーカーをすべて切る
漏電ブレーカーが遮断された時点では上がった状態(入の状態)の分岐回路の遮断器(安全ブレーカー)を、一旦すべて下げます(切の状態)。
3.漏電ブレーカーを上げる
漏電ブレーカーを上げます。
最初に『漏電表示』のボタンを押し込み、ブレーカーのレバーを一旦最下まで下げ、そしてレバーを上げます。
※.ボタンが自動復帰する機種もあります
※.レバーが最下まで下がっている機種もあります
ブレーカーが上がった時点で電力は復帰していますが、分岐回路がすべて遮断状態のため照明などはつきません。
4.分岐回路復帰
分岐回路のブレーカーを1つずつ上げていきます。
1つあたり5秒程は間隔をあけて、ブレーカーが切れたり家電品から異音がしないかなどを確認します。
5.すべてOK
分岐回路のブレーカーをすべて上げる事ができた場合、漏電遮断器が作動した原因は不明ですが、電力は元通りに復旧できています。
宅内(構内)の器具に異常がないか確認して回って下さい。
6.悪い箇所発見
例えば上段の左から2番目のブレーカーを上げた時に漏電遮断器が作動した場合、最後に操作した回路に漏電の原因の1つがあります。
この回路は以後、ブレーカーを下げた状態にしておき、本手順の最初に戻って全ての回路のブレーカーを下げて確認していく作業を繰り返します。
漏電箇所が1カ所とは限りませんので、以後の作業も慎重に行ってください。
7.仮復旧と原因探索
先ほど発見した問題の回路はブレーカーを『切』の状態にしておき、他の回路は通電させることで一時復旧完了です。
いま遮断している回路がどのコンセントにつながっているか分かる図面等があれば、現場に行きます。
わからないときは宅内(構内)を見て回り、コンセントや照明を確認して回ります。
普段は使っていないエアコン、屋外にあるごみ処理機や井戸ポンプなどが原因の場合もあります。
8.除外試験
問題のあった回路に接続中のコンセント類をすべて抜きます。
照明器具や直結されている器具類はそのままにしておきます。
その状態で再び問題のあったブレーカーを『入』にします。
漏電ブレーカーが作動しなければ、先ほどプラグを抜いた器具類が漏電原因の第一候補となります。
漏電ブレーカーが作動した場合、電気工事士の要請が必要です。原因は取り外せなかった器具類、配線路、ブレーカーなど色々と考えられますが、その多くが免許が無ければ触らないものが関係します。
9.器具特定
漏電の原因となった器具を特定する場合、慎重に1台ずつ試験していきます。漏電の危険が伴いますので、この試験はせずに電気屋さんを呼ぶ方が安全です。
参考として、比較的安全性に配慮した方法を示します。
漏電ブレーカー、分岐回路のすべてのブレーカーを切ります。
次に、漏電が疑われる器具をコンセントに差し込みます。1台ずつ試験するので、1回に1台だけ差し込みます。
次に漏電が特定された分岐回路、漏電ブレーカーの2つを投入します。
このとき、漏電ブレーカーが作動すれば当該器具に漏電の可能性があります。以後、使用は中止します。
10.unknown
原因となる器具等が特定できなかった場合、もしかすると誰かが触れた際に人間を介して漏電したかもしれません。モーターが動作している間だけ漏電しているかもしれません。特定できないから安全ということはありません。
また、微小な漏電が積みあがって漏電遮断器が動作した可能性もあります。その場合、1つ1つは問題になるほどでは無いということになりますが、宅内(構内)が安全である訳ではありませんので、お気を付けください。
11.professional
電気工事店に依頼すれば『絶縁抵抗計』という測定器具で回路を測定してもらうことができます。
この測定器を使う事で、宅内(構内)の配線と地面(アース)との間で電気が流れやすくなっているところが無いか調べることができます。
理想的な状態は『抵抗無限大』、まったく疎通が無い絶縁状態です。
しかしながら経年劣化など諸般の事情により抵抗値が測定できる程度に電気が通じ得る状態になってしまいます。
漏電遮断器が動作してしまったあと、できれば絶縁抵抗計で測定してもらい、安全確認を実施しましょう。
絶縁抵抗計
乾電池式の絶縁抵抗計です。HIOKIは日本の計器ブランドです。私も長野にある日置電機には行った事がありますが、しっかりした会社です。 |
遮断器の種類
ヒューズ – fuse –
ブレーカーが普及する前はヒューズ(fuse)を使っていました。
ヒューズとは、金属製の板のような物で、電線との接点となるネジ止め部は銅製、中間部は可溶性の金属(亜鉛等)でできています。過電流で可溶性金属部が溶ける事で回路を遮断します。
一度切れた(溶けた)ヒューズは再使用できませんので、新品に取り換える必要があります。
また、取替作業をするときの片側(一次側)は通電状態ですので注意して作業しなければなりません。
爪付ヒューズを使った遮断器は見かける事が少なくなりましたが、古い工場や農家の納屋などではまだ実用していることもあります。
似た機能のヒューズは自動車では現在も実用されています。
ヒューズを使わない今のブレーカーを『ノーヒューズブレーカー』(No fuse breaker: NFB)と呼ぶこともあります。
配線用遮断器 – Molded Case Circuit Breaker (MCB) –
ヒューズ不要の遮断器ということで no fuse breaker (NFB)と呼ぶこともあるサーキットブレーカーです。
ヒューズと同様に規定の電流値(アンペア)になると引き外されて回路が遮断します。
ヒューズとの大きな違いは再開通が早く、安全な点です。
レバー操作だけで復帰できます。
ヒューズの場合は、ドライバーを使ってツメを固定する作業があり、充電部(電気が通っている箇所)の直近で作業するため感電対策などが必要です。
[Link] 三菱電機:配線用遮断器 のーヒューズブレーカーとは?
漏電遮断器
– Earth Leakage Circuit Breaker (ELB) –
漏電を検出して回路を遮断する装置です。
簡略的言うと電気は閉回路、出て行ったものは元に戻り、収支はゼロになります。電気がどこかから漏れると収支バランスが崩れしまいます。その収支の差が一定以上になった場合に漏電遮断器が作動します。
漏電はアース線を伝って地面に流れる分には多少の安全性が確保されていますが、人体に流れてから地中に流れると危険です。
停電規模と要因
停電は発生原因や場所によって種類が異なります。
下図は弊社で作成した電力の配送電経路の概略図ですが、この中のどこで停電するのかによって、停電規模が変わるため、停電発生時の情報収集として、停電点を探ることの重要性を教育するために使用しています。
停電発生時にまず見るべきは敷地内(建物内)で通電している場所があるか否かです。
次に近所でも停電しているかどうかを確認します。
停電対応の具体策については弊社BCPサービスで提供しています。
ミニマム
最も小さな規模の停電は、何か1つの電気器具が使えない状況かもしれませんが、単にコンセントが抜けているだけかもしれません。
電気設備系でのミニマムな停電を考える場合、末端のブレーカーが1つだけ切れる停電になります。
『コンセントが使えない!?』『照明が消えた!!』などの事象から停電を覚知しますが、『この部屋だけ!?』『レンジだけ!?』という場合には、このミニマムな停電であることが多いと思います。
全館停電
『照明が消えた!!』のあと、家中の電気が使えない場合は恐らく主幹ブレーカー以上の場所で停電が発生しています。
主幹ブレーカーがオフになったのであれば自身で復旧を試みますが、それより上流で発生した停電は電力会社の仕事になります。
主幹ブレーカーが切れる原因には大きく漏電、過負荷、短絡があります。
漏電・リーク
漏電とは、電気回路のどこかから電気が漏れ出し、アース(地球)に電気が流れてしまっていることです。
漏電は危険なため、漏電遮断器が作動します。
復旧方法は別途記述します。
通常の交流回路は閉鎖状態になっており、簡単に言うと出た分は戻って来ます。もし、漏電があると戻ってくるはずのものが戻って来ないので、その差を検出して漏電を知らせたり(漏電警報器)、回路を遮断したり(漏電遮断器)します。
漏れた電流が地面に直接流れればさほど危険はありませんが、人体に流れれば『感電』となり、心臓に流れれば致死的な状態にもなり得ます。
抵抗になる物体に流れると、それが熱を持って発火することもあります。
電気は抵抗の少ない方へ流れる性質があるので、『アース』をとっていれば、その抵抗の低いアース線に漏れ電流が流れることで感電などを避けることができます。
短絡・ショート
電線同士が触れてしまったり、電極が金属部などに触れてしまった場合などに回路の正常ルートを通らず短絡してしまう状況は、電気的に危険です。
火花がバチバチと散り、接触部や焼け焦げ、器具は破損します。
短絡は危険なため、配線用遮断器が作動します。
復旧方法は後述します。
過負荷・オーバーロード
電線には許容電流と呼ばれる電流値の上限があります。許容電流以上を流し続けると銅線が熱せられビニルの被覆は溶けだし、火災が発生します。
電柱からの引込線も、宅内(構内)の幹線や分岐線にも許容電流があります。
コンセントは許容値15Aが一般的です。それ以上流せば器具や配線に異常を来たします。
電気の使い過ぎによる危険防止のため、一定量以上を感知すると配線用遮断器が作動します。
復旧方法は後述します。
電気事業者要因
多くの家庭や企業は電気を買っています。買うという意識が無くても、電柱等から電線を引込んで使っているのであれば、何らかの契約があります。
外線と宅内(構内)の線の境界線、責任分界点を境に自分側(二次側)ならば自己責任、相手側(一次側)なら電気事業者側の責任下で発生した停電と言えます。
雷が落ちた、電柱に車が衝突した、架線に凧が引っ掛かったなど原因は様々ですが、100軒や1000軒といった単位で停電が発生します。
電源を喪失してしまうので、宅内(構内)で何をしても復旧しません。
漏電と人体
心臓と電気
正常な心臓は、自信が発する電気信号によって刺激されて拍動します。自ら心臓を止めたいと意識しても止まらず、自律的に活動しています。
この電気信号が乱れてしまう、微弱になってしまうなどの病気の治療に用いられる『心臓ペースメーカー』は、心臓を電気で刺激し、心臓を動かさせる(拍動させる)医療機器です。簡単に言うと電池式の電気信号発生装置です。
AEDなどの『除細動器』は、2つの電極、AEDなら2つのパットで心臓を挟むようにし、その2つの間に高い電圧を掛けて心臓に電気刺激を与え、心臓の電気刺激の乱れをリセットするような医療機器です。
正常な心臓に外部から電気刺激を与えると、自律的な心臓の刺激信号は乱れてしまい、元に戻れなくなります。信号が来なければ心臓は動かないので、心臓は機能不全(心室細動)に陥り、数分で死に至ります。
なぜ、感電が怖いのか。それは心臓を止めてしまう恐れがあるからです。
[Link] 小野哲章: 臨床モニタ機器の安全管理, 第24回日本臨床モニター学会安全セミナー, 日臨麻会誌 Vol.34 No.1, 145-150:2014
ミクロショック
皮膚などを介さず、直接体内が感電する状況をミクロショックと呼びます。
日常生活では滅多に無い状況ですが、医療機関では点滴チューブや心臓カテーテルなどが血管内に入っているため、ミクロショックが起こり得る状況になります。
皮膚と違い血液などは水分が多く、電解質も多く含むため電気が流れやすく、すべての血液は心臓を通るため危険です。
教科書的には0.1mAのミクロショックで心室細動が起こるとされます。
これは最小感知電流の10分の1の値。患者の周りの医療従事者は漏電に気づかず感電もしない状況ですが、カテーテルが挿入されている患者にとっては致死的な漏電となります。
マクロショック
一般的に『感電した!』という状況は、手など皮膚を介して身体に電気が流れている状態です。1mA(ミリアンペア)で感電すると言われています。
皮膚は電気を通しづらい(抵抗値が高い)のですが、汗や水で濡れていると抵抗値が下がるので感電しやすくなります。
身体の表面で受けた電気刺激が、運悪く心臓を通ると、心停止が起こるリスクが高まります。
教科書的には100mA以上の電流が体表に流れると、心室細動が起こると言われています。
最小感知電流(感電していると感じ始める電流値)が1mA、マクロショックは100mA、その差100倍もあるので、滅多に感電死することはありません。
水濡れ厳禁
体内に直接電気が流れるミクロショックは危険である事は前述のとおりですが、体表で感電するマクロショックの状況下でもミクロショックに近づいてしまうシチュエーションがあります。
体表面が乾燥していればバリアとなって、およそ数千オームの抵抗となり体内に流れる電流値を安全域に抑えます。
しかし体表が濡れていると、皮膚の抵抗値は低くなり、体内に電気が流れやすくなります。
人間の身体を負荷に例えると500オームだと生理学か解剖学の教科書で習いました。
仮に体表が5,000オームであったとすると、体内と直列回路になるので抵抗値は5,000+500=5,500オームとなります。
電圧100Vであれば100÷5,500=0.018、18ミリアンペアとなります。
もし水濡れしていて体表の抵抗値が10分の1、500オームまで下がって居たら100V÷1,000Ω=0.1A、100mAとなり心室細動が起こる電流値となります。
プールや浴室、厨房などでアースが必要であったり、そもそも電気器具を使うべきでなかったりする理由はここにあります。
アースは大事
人知れず心臓が直接感電して心室細動を起こしてしまうミクロショックを防ぐには、患者に電流を流さずに地球へ還す方法を考えなければなりません。
アースが有効に働いていれば、人間よりも地面の方が抵抗値が少ないので、そちらへ流れて行きます。
筆者が病院の医療機器管理を担っていたある朝、ICU(集中治療室)へ行くと心電図波形に異常が見られました。ベッド柵を触ると消える異常波形の原因は、電動ベッドのアース線の切断でした。
患者を感電させる前に気づき、処置をしたので良かったのですが、調査を進めるとアースの大切さを知らない作業員が切断したことがわかりました。
大変危険なことであり、院内勉強会でも取り上げました。
患者の心臓にショックを与える程の電気を流してよいのは除細動器、一般市民であればAEDだけです。
[Link] 総務省消防庁: 一般市民むけ 応急手当WEB講習
アース工事
アース工事は、アース棒を地面に打ち込んで、そこにアース線をつないで、家電品などと接続します。
一般家庭のメインのアース工事では、当社では90cmのアース棒を使っています。地盤によっては1本では十分な接地抵抗が出ない場合がありますので、状況によって変えています。
アース工事には電気工事士免状が必要です。
アース棒を地面に打ち込む作業、アース線を接続する作業、アース線を延長する作業にも電気工事士免状が必要です。
※.電気工事士法施行規則 第2条 第2項 第1号 ロ
アースは生命と財産を守る重要な設備ですので、材料はホームセンター等で買いそろえても、工事は有資格者に依頼しなければなりません。
日動電工 アース棒 Φ7×300
アースを取るときに使うデバイスです。本格的にアースを取ろうというときには90cmのタイプをお勧めしますが、簡易的にという事であれば、何もしないよりは30cmでも効果があるかもしれません。接地抵抗の測定も併せて実施する事を強くお勧めします。 |
アースが要る場所、要る器具
アースが要る場所は、簡単に言うと湿気の多い場所です。
人は濡れれば電気を通しやすくなります。
水は電気の通り道になり、無用な場所に電気を流し火災を起こす恐れもあります。
アースを必要とする場所としては屋外、ガレージ、軒下、浴室、洗面、脱衣、便所、キッチンなどが挙げられます。
ただし、一般住宅においてトイレやキッチンがタイル貼りで、普段から水浸しという事はないと思いますので、必要とは言い切れませんが、水がありますので不必要とも言えません。
家電で言うと屋外で使用されるものは基本的にアースが必要と考えると良いと思います。エアコンも室外機は屋外設置ですので対象です。
洗濯機や食器洗浄機は水そのものを使いますので対象です。
冷蔵庫は、対象外と見ても差し支えないと考えます。
フローリングの部屋に、水がかかるような場所でもなく置かれている家電品ですので、アースは必須ではありません。
業務用厨房であれば事情は異なります。