『ウチは中小零細企業だからBCPなんて要らない』とは言っていられないかもしれません。
サプライチェーンの一端を担う貴社が操業を停止してしまった場合、影響を受ける企業はどれほどあるでしょうか。
大震災が発生して操業停止することは仕方ないですが、著しい復旧遅れがみられればサプライチェーンの他社への影響が続くか、同業他社に乗り換えられてしまいます。
中長期的に事業を継続するためのBCPと、短期的に業務を継続・再開するためのBCP、この2つの視点が求められます。
製造業(モノづくり)
日本の製造業者は数十万社あると言われています。2021年の調査では従業者4人以上の事業所に限っても176,858社です。2012年には233,186社あったので、企業数は減っています。
一方で従業者数は2012年に7,472,111人であったものが、2021年には7,465,556人で横這いです。
上記は従業者4人以上ですので、親子で営むような小さな工場などは含まれていません。
筆者は工業高校卒ですが、同級生の中には現在も親子3人で工場を営んでいる人が居ます。
お仕事を依頼している先の職人さんも、個人事業主である場合があります。
4人未満の調査は平成22年(2010年)で廃止になったので、2010年の資料で『従業者3人以下の事業所に関する統計表』を見ると事業所数210,269軒、従業者数423,054人となっています。
ざっと40万事業所、800万人が働く製造業は日本の経済、社会、生活を支えています。
【参考】経済産業省:「令和3年経済センサス‐活動調査」の製造業に関する結果(概要版)を取りまとめました
製造業の操業停止
素材から最終製品までを一気通貫で製造することは、多くの場合で非合理です。
ネジから製造して製品を造る会社はほとんどなく、ネジを専門に製造する会社が存在します。ネジと言っても精密機器に使われる1mmにも満たないものから、鉄橋などに使われる大きなものまで様々です。
特殊な部品を製造している企業が操業を停止すると、その部品を使っている製品の製造が停止します。そうなると他の部品は需要がなくなるため製造を停止します。
いわゆる『サプライチェーン』の連鎖が抱える潜在的な課題です。
【参考】内閣府:第2章 成長と分配の好循環実現に向けた企業部門の課題(第4節) 第4節 サプライチェーンの強靱化に向けた課題
中小零細の脅威
大企業には莫大な資産、巨額の内部留保、多様な事業、豊富な取引先などの特徴があります。
一定程度の内部留保や損害保険加入などにより多少の難局は乗り切れる中小零細企業は多いと思いますが、難局の原因となった事象の規模や期間によっては消耗は激しく、耐えきれない可能性があります。
様々な視点から、自社がどのような状況に陥ると困るのかを考え、その困る事を引き起こす要因を脅威として捉えて対策するのがBCPです。
- 廃業の脅威
- 操業停止の脅威
- 備品設備を失う脅威
- 従業員を失う脅威
- 取引を失う脅威
- ほか
エンジン⇒モーター
自動車業界では将来、化石燃料を燃焼させるエンジンがなくなり、電気自動車が大半を占める時代が来ると想定されています。
数万点と言われる部品需要が蒸発します。
目立つところでいえばスパークプラグやピストンなどは無用になります。燃料タンクやホース、排気設備も要りません。
エンジンの話は突発的ではなく、何年もかけての脅威ですが、無策であれば需要蒸発で廃業も止む無しとなります。
サプライチェーンの末端まで
貴社のモノづくりは、どのようなサプライチェーンに乗っているかご存知でしょうか。
『何かの医療機器に使われている』というのと『放射線科にあるバリウム検査装置のこの部分』というのでは、脅威同定に差が出ます。
弊社では、ビジネス面の脅威同定を市場占有率、競合他社の存在、代替品の可能性、価格の変動など多様な面から実施しています。
実際には、外部のコンサルが調査するよりも、その事業を続けているご依頼元企業の方が業界に詳しいため、コンサルは道筋をつけるだけの場合もあります。
災害対策
BCPというと『災害対策』と言われることが多くありますが、ここまでお読みいただいたとおり、企業BCPではビジネス面の方が話題が豊富です。
災害もビジネスの脅威になるため無策という訳にはいきません。
特に、競合する同業者が多い業界では、災害による影響で出遅れたがために重要な機会を逸し、そのまま廃業というケースも見られます。
業種や地域にもよりますが、いま対策すべき優先順は下記のようになります。
- 水害・土砂災害
- 地震
地震より水害?
地震よりも水害を優先すべきか、と相談されることがあります。
災害は予想不可能な部分もありますが、半径20km以内で震度7クラスの地震と道路が冠水する程度の水害はどちらが発生する可能性が高いでしょうか。どちらが自社にダメージを与えるでしょうか。
報道量を比較した場合、国内で震度7の地震が起きて新聞の1面に載らないことはありません。一方で水害や土砂災害は3面や社会面で扱われることが多いです。
取引先が『地震で被災したなら仕方ない』と言ってくれるか、『水害があったなんて知らなかった』と言われてしまうのでは、これだけでも大きな差があります。
国民の関心事でないとすれば自衛隊を含めた救援の量が少ないかもしれませんし、義援金の集まり方も小規模になるかもしれません。
自然災害が持つエネルギーの量が問題ではなく、社会的な関心事であるかどうかもビジネスでは重要になります。
災害以外の災害級
下図は筆者が講演で使うスライドの重要な1枚です。
日本には『災害対策基本法』という法律があり、そこでは災害を定義しています。
災害が定義されることで、弊害も起きています。
災害級のコトが起きても、災害としては扱われません。
そこで、脅威ランキングは下記のように入れ替わります。
- 水害・土砂災害
- 停電・断水
- 地震
- ICT障害・通信障害
順位はさておき、いずれも対策しておかなければ貴社のビジネスに悪影響を及ぼす恐れがあります。
それぞれの対策
それぞれの対策について、また別途記事を書きたいと思います。
それまでの間、ぜひ貴社の現況を俯瞰的に確認して頂ければと思います。
下図はFive Forces Analysisという脅威分析の手法の1つです。貴社のビジネスを脅かすものが何か、洗い出しておくと今後の策を立てやすくなります。
BCPとは
BCP(ビー・シー・ピー)とは、Business Continuity Planの略称で、日本語では事業継続計画や業務継続計画などと呼ばれています。
大企業では事業や業務の停止が広範に影響するためBCPを策定している場合が多いですが、中小零細企業であっても自社の存続、関係者への影響を鑑みて関心が高まっています。
【参考】中小企業庁:中小企業BCP策定運用指針, https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
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