業界を問わず、地域を問わず、遭遇する可能性の高い停電や断水は、DIY的な方法で対策を講じることもできます。
停電や断水の期間中は休業するという選択で済ませた方がリーズナブルな場合も多いため、まずは何を守りたいのか、どう攻めたいのかといった方向性について検討します。
その後、具体的に計画をしていき、目標達成を目指します。
守りのBCP
脅威にさらされたときの対応策がBCPであるとすれば、脅威という攻めに遭っているので、何らかの防御が必要になります。
停電しても、この商品は守りたいというお店があるでしょう。
その商品はアイスクリームかもしれないですし、観賞魚かもしれません。
停電により社会が混乱している中で店舗営業は休止しても、営業再開まで大事な商品(資産)は維持したいと考えることは自然です。
守るべき業務や資産は多くのサービス業にあると思います。まずは守りのBCPを検討するとわかりやすいと思います。
攻めのBCP
競争の激しい業界であれば特に検討していただきたいのが攻めのBCPです。
非常事態に直面したとき、自社だけでなく同業他社も同じ状況であるかもしれません。
最近ですとドラッグストアが小学校区内に2~3軒あることは珍しくないですが、駅前ですと洋菓子店や美容室が何店舗もあったりします。
自然災害を伴わない停電や断水では、社会生活は平常どおりということが少なくありません。
2018年9月4日に始まった関西電力・中部電力管内での300万軒にも及ぶ大規模停電は、3日目になっても数十万軒が停電していましたが、公共交通機関やオフィス街は平常通りという様子でした。
停電に無策であれば、停電期間中は休業かもしれません。
他社が無策であれば、停電期間中は自社の独占状態になれるかもしれないと考えた時、攻めのBCPが生まれます。
わずか3日間であっても、競合他社の固定客が自社に流れ込めば乗換えてもらえる好機になるかもしれません。
そのためには、停電や断水などの先手を打つことが必要です。
断水
業種を問わず断水の影響が出るのがトイレです。
オフィスのトイレが使えず、近くの公民館まで往復15分のトイレ旅に出かけるとしても、その15分間は従業員が1人欠けることになります。
同じ状況の人が多ければ、公衆トイレは行列となり、移動時間以上に待ち時間がかかるかもしれません。
トイレが使えない状況で出勤させる必要があるのか、休業出来ないのか、考える必要があると思います。
上水道の異常による断水であれば、水を備蓄しておくことでトイレくらいは対応できます。
ポリタンクに20Lの水があれば、トイレを4~5回は使えるかもしれません。
水を大量に使うサービス業では、断水は休業を意味する可能性があります。
電気温水器などを設置すると1台200リットルくらい貯湯できますが常時満水という訳ではありません。別途貯水槽を設けるとすると、その衛生管理が必要になります。
それだけの設備投資をするべきかどうか、検討してみましょう。1日の売上が10万円、10日休業して蒸発する売上は100万円ですが、材料費や光熱費は抑制されるので損失が100万円という訳ではありません。断水対応の設備投資に100万円をかける価値があるのか、じっくり考える必要があります。
堅牢な策を講じるにしても、断水を受入れて休業するにしても、損失が広がらないようにするための検討が必要です。
断水の原因
断水が起こる原因は何でしょうか。
水道は上水、中水、下水の3種類に分類できます。この内、上水道の停止を『断水』と呼ぶことが多いです。
上水道とは、蛇口をひねると出て来る水のことと考えて頂ければ良いと思います。
その経路は蛇口、構内配管、水道メーター、止水栓、道路地中など埋まる公共水道、配水場、浄水場、貯水池や河川などとさかのぼることができます。
水道の経路のどこで損傷が起こると、どのように困るのか検討します。
蛇口が1つ壊れただけで休業ということはないかもしれませんが、業務に支障が出るかもしれません。
各ポイントにおいて、どのような場合に断水が発生するのかも検討します。
恐ろしいのは配水場や浄水場へのダメージです。地震で水槽が割れて水が貯まらないということは無いかもしれませんが、ミサイル攻撃を受ければ破壊されるかもしれません。
過去には『毒』で断水ということもあります。取水口のある河川で汚染水が確認され、水道の供給が一時停止する騒ぎがありました。繰り返し検査されて、安全であることが確認された後に供給が再開されましたが、先が見えない断水ですので、難しい判断が迫られます。
インフラ老朽化で、水道管の破裂騒ぎは毎年起きています。当然、その破断点より下流は断水です。
道路工事のミスで水道管を壊してしまっても断水は発生します。その場合はミスをした側が補償してくれると思いますが、顧客へのアナウンスなど対応は自社の仕事になりますので、無計画で良いものではありません。
堅牢な断水対策
断水対策の堅牢化も検討はしておくべきだと思います。
ただし、費用対効果が高い業種が少ないので、あまりお勧めではありません。
トイレ用水については、洋式水洗トイレで1回5~10リットルの水を使います。20Lのポリタンク3個で60リットル、大便を12回流したら終わりです。この程度の備蓄はすぐにでもできるので始めると良いと思います。
受水槽や高置水槽などを備えている建物では、その水槽内の貯水量だけ余裕があります。
例えば10トンの水槽を設置、残り4トンになれば水槽に給水する設定にしておけば最少で4トン、最大で10トンの水が手に入ります。
水の清浄化のためには、古い水と新しい水の比率を大きく離す方が良い場合もあるので、最低水位は専門業者とも要相談です。
同じ規模のビルでもオフィス中心の場合は、水の使用はトイレくらいなので1人10リットル程度、1,000人働いていても1日10トンくらいしか消費しません。
美容室では洗髪1回で50~100リットルの水を使いますので、10人のロングヘアで1トンに及びます。
ビルのテナント同士で水の奪い合いが起こるのか、ゆとりがあるのか、試算してみる価値はあると思います。
河川などから水を引いて、ビルに浄水設備をつけて断水対策をするということはまずないと思います。様々な法対応など容易なことではありません。
上水道の備蓄は色々とありますが、下水道は容易なことではありません。
自らのビルから出る雑排水を集めて、トイレ用水として再利用するシステムを導入しているビルは散見されます。災害対策としても有意義ですが、環境面への配慮にもつながりますので採用が増えていくと思います。
浄化槽があれば、数週間は放置しておいても大丈夫かもしれませんが、本下水であればすぐに流れなくなることがあります。
仮設トイレや浄化槽を備蓄しておくということは簡単なことではありませんし、その備蓄を使った場合には糞尿を回収する必要があります。
Z世代ではバキュームカーの存在すら知らない人も居るかもしれませんが、下水道普及率が100%に近い都市部では滅多に見かけるものではありません。
停電
停電はかなりの頻度で発生しています。
全国のメジャー電力会社のウェブサイトを見てもらうと、停電情報が無い日の方が少ないのではないかと思われます。
- ほくでんネットワーク:停電情報
- 東北電力ネットワーク:停電情報
- 東京電力パワーグリッド:停電情報
- 中部電力パワーグリッド:停電情報
- 北陸電力送配電:停電情報
- 関西電力送配電:停電情報
- 中国電力ネットワーク:停電情報
- 四国電力送配電:停電情報
- 九州電力送配電:停電情報
- 沖縄電力:停電情報について
停電は落雷だけでも起こります。電気の性質上、落雷による対地電圧の変動が瞬間的に異常を来たすこともあります。
暴風や豪雪では電線が切れてしまう事がありますし、2018年(関西電力)や2019年(東京電力)の台風では電柱や鉄塔までも倒壊しました。
送配電側が原因で起こる停電は頻発していますが、構内で起こる停電もゼロではありません。
受変電設備(キュービクル)や分電盤は熱を持つため、冬場は温かいです。そこへネコやネズミ、ヘビなどが侵入して事故を起こすことがあります。最近は防獣対策を強化していますが、それでもゼロにはなりません。
堅牢な停電対策
キャンプで使うようなポータブル電源や可搬式発電機はネット通販で手軽に調達できます。
床置きの本格的な発電機も、手軽な物から一軒家くらいの値段のものまで様々です。
下図はバイク1台分くらいのスペースにおける発電機で、燃料はプロパンガスを使うため設置工事が比較的容易です。主任技術者の配置が必要な10kVAを超えないため、主任なしで運用できます。
水源に比べると電源は比較的容易に堅牢化できます。
水は、水の状態で備蓄が必要ですが、電気は燃料の備蓄で発災後に変換することができる点が着目点になります。
前述のプロパンガスであれば、ボンベの状態で自家用車に積んで運ぶことができます。自宅のボンベを外して職場に持ち込む事も不可能ではありません。発災後に調達できる可能性が高い点も堅牢化には重要です。
停電対策の堅牢化について検討し、備蓄を強化する事と並行してBCPを策定します。
策定当初は何もない現状で考えざるを得ませんが、ある程度まで備蓄が進めば対策すべき内容は減ります。
例えば、レジを動かすことができるというだけで営業可能性が激変します。
BCPをつくる
断水と停電は1冊にまとめても、別々に策定しても良いと思います。
ビルなどで揚水ポンプが動かなければ断水するような場合は、1本化した方がリーズナブルかもしれません。
給水と電源が密接でない場合は、別々の方が検討しやすいかもしれません。
共通して言えることは、何を恐れるのか、何が困るのかを決めることです。
専門的には『脅威分析』ということをしますが、とりあえずは自社の仕事をリストアップして、断水や停電が影響するか考えてみると良いでしょう。
それらに対して、自社の備えを列挙していきます。
これにより、危機に対する自社の対応が顕在化されます。それを深掘りすると、より精緻な計画書になります。
難しいなと思ったときは、専門コンサルを要請してみましょう。
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