来週から始まる第34回日本臨床工学会のワークショップで弊社の西謙一が講師の1人を務めます。
ITやDXを話題とするセッションは下記要領で開催されます。
セッション概要
今回の座長も演者も、粒ぞろいです。渡邉様はご自身でもIT系の事業化経験がありますし、吉田様は現役のAMED職員、それ以前には医療機器を上市した経験などもおありですし、経産省へ出向していた時期もあります。
五十嵐大会長は演者としてもご登壇ですが、最近よく見かける輸液ポンプのシステムなどの考案者です。社会実装されている実績があります。
古森先生は規制当局であるPMDA、しかもプログラム医療機器の薬事に係る業務を現任されているエキスパートです。
テーマ | 医工連携×IT・DX |
座長 | 渡邉研人 JCHO東京山手メディカルセンター 臨床工学部 |
座長 | 吉田哲也 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 主幹 |
WS4-1 | Garnetシステムの開発と導入について 五十嵐茂幸 福井県済生会病院 臨床工学部 第34回日本臨床工学会 大会長 |
WS4-2 | 医工連携によるシステム開発と実用事例 川崎路浩 神奈川工科大学 健康医療科学部 臨床工学科 |
WS4-3 | IT素人がマネジメントする創造的医療DX 西 謙一 NES株式会社 |
WS4-4 | SaMDの動向と規制 古森亜矢 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) プログラム医療機器審査室 |
日時 | 2024年5月18日(土) 16:55~18:25 |
会場 | 第9会場(福井県繊協ビル10F) |
治療アプリの説明は誰が?
医薬品の処方に係るDrug Informationは薬剤師の仕事です。
DI業務は、行政や製薬企業から出される文書、国内外の文献などから情報を入手し、整理し、管理します。必要に応じて医療従事者や患者に情報提供します。副作用が発生すれば周知や報告をする体制も備えています。
医療機器については、診療報酬の『医療機器安全管理料Ⅰ』の施設届出要件に常勤臨床工学技士と書かれているとおり、Device Informationとでも呼ぶべき情報管理業務は臨床工学技士の仕事と考えても差し支えないかもしれません。
では、禁煙アプリなど医療機器として認められている、薬機法によって医療機器とされているプログラム群は、誰が管理すべきでしょうか。
今回のSaMD(サムディー)に関する古森先生のご講演は、非常に重く受け止めるべき話題です。
Device Informationの担い手となるのかどうか、臨床工学技士の意思表示が必要な時期は到来しています。
筆者演題概要
スライドを用いた講演部分では、以下の3点についてお話しする予定です。
- チープな技術でDX
- AIによる診断支援
- 付加価値が増す境界領域人材
今回は単にITやDXの話題提供ではなく『医工連携』との連関を示す必要がありますので、上記のような構成になっています。
第1幕では、趣味の域を脱しないプログラミングの話題が中心になります。
チープさがよくわかるいくつかのソフトウェアを紹介しつつ、その着眼点は現場に居るからこそわかる、企画力についてはプロのITエンジニアに勝るとも劣らないといった事例を紹介します。
DXには業務改善をはじめとした、使う者にとっての利益や価値が必要になります。
素人のプログラミングでも、業務改善や負担軽減が顕著にみられればDXであると言えます。
第2幕では高度で先進的な医療IT・医療DXの話題を提供します。
AIを用い、既存のCT画像から筋骨格データを得るというものです。
趣味の域のプログラミングしかできない素人が、その診断支援ツール(CAD: Computer-Aided Diagnosis)を事業化に導く、そのプロセスについて紹介します。
第3幕は、ITやDXが医療に浸透するにあたり、医療を熟知したIT人材が必要になる、といった話題です。
ITのテクニックが必要な訳ではなく、医療現場に導入するための障壁を取り払ったり、トラブルがあった際に誰に何を依頼すれば良いかの判断ができるような、ゲートキーパー役が求められています。
そのような話題を提供させて頂く予定です。
臨工さんのITリテラシー
『臨床工学技士』という名称からして理系っぽいです。臨床で工学技士なので、ITやロボにも精通してそうです。
実際、Microsoft Officeやメールなどは上手に扱えると思います。動画編集なども得意な人は多いと思います。
プログラミングができる人となるとどうでしょうか。言語もたくさんあるので、どのくらいの深さまで行けるのか未知数です。
臨工さんのウェブ(1)学会
今回の第34回日本臨床工学会も、前回の第33回日本臨床工学会も、公式ウェブサイトのドメインは他社から借りて来たもの、どこかの組織のドメインの下にディレクトリを設けて公開されています。
- https://www.kwcs.jp/jace33/
- https://www.sasappa.co.jp/jace2024/
第32回日本臨床工学会は独自ドメイン『jace32.com』を取得していましたが、現在は解約されたのだと思います。怪しいサイトにつながります。
推測ですが、『jace32.com』はピーク時に1日数千件のアクセスがあったと思います。Google検索ロボットから見れば優良サイトと判断されたかもしれません。
一般的に何十万円もかけて実施するSEO対策が、学会というイベントによって受動的に実施され、『jace32.com』は育った状態で手放されたと考えられます。
今日の時点でも『第32回日本臨床工学会』と検索すれば100件以上のリストが返されます。優れたサイトだと思います。
都道府県の技士会のウェブサイトにはアクセスが少なく、勉強会などのイベント告知をしても見て貰えないという悩みがあるのではないかと推測します。
何十年に1回の日本臨床工学会の開催地というチャンスにおいて、地方会のドメインを使わないことは勿体ないなと思っています。
例えば『fukurinkou.jp』というドメインを福井県臨床工学技士会が持っていたとします。
今大会では『jace34.fukurinkou.jp』というサブドメインを用意して、別サイトとして運営することができます。あるいは『fukurinkou.jp/jace34』というディレクトリで分けることもできます。
いずれにしても『fukurinkou.jp』は検索ロボットに記憶されます。SEO対策としては全国各地から2024年5月だけでも数万件のアクセスがあったと記録されると思います。
もう1つ、業者さんの仕事だと思いますが、第34回日本臨床工学会ではプログラムのPDFリストがテキスト化されておらず、画像データのようになっているため検索ができません。
アクセスを稼ぐのに非常に役立つツールだけにもったいないです。
学会参加者としても、人名やタイトルで検索できない不利益があるので、これは色々な意味で残念です。
臨工さんのウェブ(2)地方会
まず、独自ドメインを使っている地方会が100%ではない、3分の1くらいがどこかに間借りしているような状態であるのはもったいないと思います。
ウェブサイトに優れたコンテンツを載せても、その成果はどこかの民間企業に吸い取られている可能性があります。
各地方会のウェブサイトをみると『medikiki』や『kenkyuukai.jp』というドメインが入っているものもあります。これは株式会社が所有するものだと思われますので、一般社団法人であれば問題ないかもしれませんが、公益性という面ではどうかわかりません。
埼玉県臨床工学技士会のウェブサイトは、おそらくディレクトリの設定ミスがあるのではないかと思います。『sacet.org』にアクセスしても『sacet.org/wp/』に転送されてしまいます。三重県もまったく同じ現象が見られます。
宮崎県や鹿児島県は各ページのURLに日本語が入ってしまっているので、リンクを張りづらく、文字化けも懸念されます。
htmlで制作している県も多いのですが、技術的には難度が高い割にSEO対策としては劣勢なので、PHPに乗り換えた方が良いのではないかなと思います。
SSL (https) 未対応の県も10以上ありますので、早めに乗り換えたらどうかなと思っています。
このあたり、ウェブについて臨床工学技士が疎いのか、関心がないのか、勿体ないです。
色々と勿体ないので、全国の技士会のウェブ担当者向けに勉強会やサポートを実施したらどうかなと思います。
個人的には、WordPressで統一して、同じテーマを使用することで互いに質問しやすくなると思います。デザインが似通ってしまいますが、コンテンツが重要ですので、見た目は統一されてしまっても良いように思います。
WordPressで制作したとしても、その管理は業者委託することができます。記事投稿については権限を与えられた広報委員や理事の裁量で出来ますので、機動力とマネジメントを両立させることができるかなと思います。
既にWordPressの達人級の臨床工学技士はたくさん居ると思われます。
勝手な私案ですが、達人たちに講師を依頼、1時間3,000円くらいの謝金を出して副業化したとしても、業者委託よりは安いですし、技士が技士に教えることで、業界のリスキリングとしても効果的だと思います。
トレイナーとトレイニー、同時に育成できれば費用対効果は抜群に良いのではないかと思います。
独自ドメイン
ITやDXの講演の話題からだいぶ外れてきましたが、地方技士会の独自ドメインの使用状況です。
下記は独自ドメインを取得していると思われます。
- 青森
- 秋田
- 茨城
- 埼玉
- 群馬
- 千葉
- 東京
- 神奈川
- 富山
- 長野
- 岐阜
- 静岡
- 愛知
- 三重
- 滋賀
- 京都
- 大阪
- 奈良
- 和歌山
- 岡山
- 広島
- 徳島
- 香川
- 愛媛
- 高知
- 福岡
- 熊本
- 大分
- 宮崎
- 鹿児島
残る17の会は間借りだと思われます。その内、株式会社から借りているものが複数あります。
独自ドメインの取得自体はさほど難しいものではなく、維持費も年間3~4千円です。
クリックして、申込者情報の入力や支払いを済ませれば、それでドメインの申込は完了です。
おそらく、数時間以内に取得できた旨の連絡が来て、そのドメインは会の物です。
ドメインの空き状況を見ると、間借りドメインの県でもまだまだチャンスがありそうです。下記リストはこの記事執筆時点の空き状況です。ドメインは早いモノ勝ちなので、今晩にもなくなっているかもしれません。
- hcea.jp
- iwate-ces.com
- iwate-ce.net
- macet.biz
- ma-cet.me
- fgishikai.com
- fcet.jp
- tochigi-ces.me
- tochigi-ces.net
- niigata-ces.com
- ngtce.me
- ce-ishikawa.com
- ishikawace.me
- fukurinkou.net
- fukurinkou.me
- yamarinkou.com
- hce.gr.jp
- hcet.me
- yamaguchi-cet.com
- yamaguchi-cet.me
- sagacet.com
- okinawacet.com
- okinawacet.net
【参考】AmpiTa:独自ドメイン取得(Google Domains) ⇒ WordPress公開(さくらのレンタルサーバ) 一連の流れ
災害モード
災害などが発生した際、技士会のウェブサイトにアクセスが集中する恐れがあれば、軽量化する必要があります。
そのような対策を講じている都道府県技士会が存在するのか聞いたことはありませんが、サーバがダウンするぐらい臨床工学技士さんが注目される日があっても良いかなと思います。
よくあるウェブサイトは画像を多く使っているためトップページを開くだけで4~5MBのリソースを消費します。
1分間に1,000件のアクセスがあれば、1分間に5,000MBものデータをサーバが通信することになります。1秒あたり83MBです。
仮に100Mbpsの通信線が敷設されているとすると、1Byteは8bit、雑に計算すると5,000MBは4,000,000bit、100Mbpsならリクエストに応えるために400秒必要になります。1分間(60秒)間のリクエストに対して400秒かかるということは、通信障害の恐れが出てしまいます。
したがって、自治体などは災害モードのページを用意しています。10KB~100KB程度に抑えることで、平常モードの50~500倍のアクセスに対応できることになります。
医療DXは人材育成からか?
ITスキルやリテラシーが高い集団であれば、DXを推進する方針さえ掲げれば一気に進んでいくのではないかと思います。
ITスキルやリテラシーが低い集団であれば、まずは水準を高める底上げ策から練る必要があります。
臨床工学技士さんを高低どちらで見れば良いのか、今のところ不明です。
筆者の知る臨床工学技士さんは、高いITスキルをお持ちの方も居られるので、こちらが教わることも多くあります。
一方でITの活用方法の基礎的なことを学びたいという人も少なからず居ります。
同じ免許を持つ者同士の連携が強ければ、高度なスキルを持つ人が数パーセント居れば技術指導や伝承ができると思います。
筆者は臨床工学技士の世界に影響力がある訳でもなく、理事や委員を務めている訳でもないので人材育成や啓発には関わりませんが、来週は臨床工学技士の集まりで講演させていただく機会を頂戴していますので、何らかの提言ができれば良いなと思っています。
医療IT・医療DXの始め方
医療DXについては、課題を探ることが第一だと思います。ニーズがないところで研究開発しても、自己満足にしかなりません。ITを使うことが目的化してしまいます。
課題解決型志向だと思います。
その上で、課題を解決するための手段として求められるITとは何かを考えることができるリテラシーが必要になると思います。
例えば、診療材料の入出庫を手書きの紙台帳から電子化しようと考えます。モノを自動認識・識別できるようにバーコードを使おうというくらいまでは考えられると思います。
では、バーコードラベルの発行や走査にはどのような機材やシステムが必要になるのか算段できるでしょうか。バーコード運用するためのラベル印刷やマスター登録などの手間は想像できるでしょうか。
要するに企画や構成ができるマネジメント力が求められます。そのためには一定程度のITリテラシーが求められます。
まずはMicrosoft Excelの基本を身に付け、次にマクロで何ができるのかを知り、データベースシステムの構築に必要なITスキルのレベル感を知ることが第一歩かもしれません。
まずは受動的DB
システム構築には色々ありますが、わかりやすいところで言うとデータベースがあります。
Microsoft Excelより複雑なデータベース(DB: database)を構築できる汎用ソフトがMicrosoft Access、そのAccessデータベースをプログラミングで制御できるのがVisual Studioです。BASICやC言語など比較的わかりやすい機械語で、XMLなどを利用してデータベースを組んでみると良い勉強になります。
データベースの基本は登録です。例えば品番と品名の登録枠を設けて、棚にある品物の品番と品名を登録していくことでデータベースが構築されていきます。同じ品番の登録を集計することで数量、例えば在庫数がわかります。
ここにIn/Outのフラグを立てることで、Inが立てば在庫増、Outに切り替われば在庫減という集計ができます。
能動的DB
データベースは情報を登録してもらわなくても構築することができます。
院内で言うと医療情報システム(電子カルテ)にある情報から必要なものを抽出してデータベース化することがあります。
電子カルテ自体もある意味でデータベースを基本としているので、そのデータベースを見に行って、必要な情報を持ち帰り、新たなデータベースを構築するようなイメージです。
最近ではAIやIoTが発達しているので、例えば車椅子が定位置から持ち出された回数や、アルコール消毒液がプッシュされた回数などをカメラ映像からデータベース化することもできます。
従来は可視化が難しかったデータも、AIやIoTによって可視化できるようになっています。
そのデータが何の課題を解決するに至るのか、それを考えることでDXにつながっていくと思います。
ITで遊んでみてください
今回のワークショップは、実際はパネルディスカッションやシンポジウムに近くなると思います。特にワークは無いと思います。
ご聴講できる方はご来場いただきたいですが、並行してたくさんのセッションがあるので満席は無いでしょう。
とにかくITで遊んでみてくださいということが皆様へのメッセージになると思います。