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在宅医療の非常用電源購入ガイド  | NES’s blog

 在宅医療、特に生命維持に関わる医療機器を使っている患家では停電により生命を落とさないようにバックアップ電源を準備しようと考える人は少なくありません。

 近年は自治体でも補助金を出して購入のハードルを下げています。

 ここでは、バックアップ電源を購入する際のヒントをいくつか挙げていきます。




電気的な条件

 発電機や蓄電池を買う際に注意しなければならない電気的な条件がいくつかあります。

  • 対象機器に適合した波形(一般的に正弦波交流)
  • 対象機器に適合した電圧(一般的に100V)
  • 対象機器に適合した周波数(一般的に50Hzか60Hz)
  • 対象機器に見合った電源容量(出力)
  • PSEマーク付き

交流or直流

 電化製品には電源が必要になります。その電源の種類はまず『交流』と『直流』に分けられます。

 USB電源や車載電源などは直流です。英語ではdirect current、一般には『DC』が使われます。

 一般家庭の壁にあるコンセントは交流です。英語ではalternating current、一般には『AC』が使われます。


正弦波交流

 交流波形には大きく2種類あり『正弦波』(せいげんは)と『矩形波』(くけいは)があります。

矩形波

 下図のように角が無い波を打っている波形が正弦波、それが正負交互になっているものを正弦波交流と呼びます。壁のコンセントから取れる商用電源はこの正弦波交流です。


 交流電源の医療機器は、正弦波交流の医療機器と言っても良いと思います。その機器に矩形波の交流電源を供給すると動かない場合があります。ときには故障することもあります。


電圧

 電圧はとても重要です。

 使用する段階になれば、電圧が違えばプラグを挿入できずに気づきますが、購入時点ではカタログ値を見るしかありません。

 交流電源では100Vか200Vかの2択だと考えて差し支えないと思います。日本国内において200V電源は一部の大容量機器、例えばエアコンや電気自動車などです。医療機器で交流といえば100Vで間違いないと思います。

 直流の場合は、自動車のシガーソケット電源であれば12Vが主流ですが、24Vという場合もあります。

 USB電源であれば5Vです。USBの場合は同じ5Vでもコネクタ形状が様々です。最近の電子機器はUSB-Cに統一されつつありますが、医療機器はmicroなども多くあります。


周波数

 周波数とは、正負入れ替わる回数だと思って頂ければ良いかなと思います。従って、直流は一直線なので周波数という考え方そのものがありません。

 交流は0Vから正(プラス)のピーク、負のピーク、原点となる0Vに戻って1周期です。
 この周期が1秒間に何回あるかで周波数が決まります。

 東日本では50Hz、西日本では60Hzが商用電源、すなわち壁コンセントの電源です。

 コンプレッサなどモーター系では50Hzと60Hzを区別していることがありますが、だいたいの電子機器は両対応です。


容量(出力)

 電化製品側の容量に見合った供給力が無ければ、電化製品は動きません。

 例えばUSB充電器やモバイルバッテリをよく見ると『5V1A』などと表示されています。これは1A(アンペア)の供給力を示しますが、情報端末側が2Aを要求している場合、上手く充電できないことがあります。USB充電器を買う機会があれば、注意深く見てください。

 交流電源の方がシビアかもしれません。
 特に蓄電池は低出力の製品が多くあります。
 最大出力が100Wと書かれた蓄電池に、300Wの人工呼吸器を接続しても、何も反応しないかもしれません。それに気づかず人工呼吸器を使い続ければ、まったく充電されないまま内蔵電池を消費して、突如停止ということもあり得ます。


PSE

 日本の電化製品が適正である場合、経済産業省からPSEマークを貰う事ができます。

 蓄電池などには菱形の『特定電気用品』のPSEマークが付けられます。

 このPSEマークは優れていることを示すものではなく、最低限の安全を守っているという証です。
 法律では『電気用品の製造、輸入又は販売の事業を行う者は、第十条第一項の表示が付されているものでなければ、電気用品を販売し、又は販売の目的で陳列してはならない』と書かれており、第十条第一項の表示がPSEマークになります。

【参考】電気用品安全法

【参考】経済産業省:電気用品安全法の概要

【参考】PMDA:医療機器 添付文書等検索




10万円までの発電機

 家庭用の可搬型発電機の相場は10万円です。

 お勧めはバイクでもお馴染みのHONDAの製品です。原付バイクくらいのエンジンを積んでいるenepoが、量販店で10万円前後で売られています。

 同じくバイクメーカーのYAMAHAの製品もあります。そちらはデザインが工事用っぽいです。HONDAは大きな車輪が付いているので持ち運びすることがあればHONDAの方が良いかなと思います。

 バイクメーカーではありませんが、作業用品の工進さんの発電機にもカセットガスボンベ対応品があります。


 発電機を購入する際にご注意いただきたいのが、発電機だけでは動かないことです。
 例えばホンダのエネポの場合は、最初にエンジンオイルを入れる必要があります。これ、忘れている人が多く、非常時に使えなかったという声も耳にします。
 オイルを注入する際に、非常に注ぎづらいのでジョッキがあると良いです。

 そして、燃料が必要です。
 エネポなどカセットガスで動くタイプは、カセットガスボンベが必要です。
 1日中動作させたい場合は、1日あたり40本くらいを目安にすると良いです。1週間(7日間)なら280本、やや現実離れした数字になります。

ホンダ(Honda)発電機 エネポ EU9iGB 900VA
定格交流出力は交流100V、0.9kVAです周波数は50/60Hzの切替ができるので東日本でも西日本でも使えます。エンジンは50ccほどですが、消音機(マフラー)が無いので原付バイクよりはうるさいです。実際に停電時に使いましたが、非常時なのでご近所からクレームが出るような感じではなかったです。事業所にある大型発電機のほうが爆音で、相当な広範囲に鳴り響いていました。

ヤマハ(YAMAHA) カセットガス インバーター 発電機 EF900iSGB2 定格出力 0.9kVA
■簡単な燃料補給と、長期保管に 最適なカセットボンベ
燃料補給はカセットボンベ(LPGブタンガス)をソケットにセットするだけ。ガス燃料なので本体及び燃料の保管も容易です。

■精密機械にも対応する 良質な電気を供給
コンピュータ内蔵製品やマイコン制御機器をはじめ、調理家電や電動工具類まで幅広い用途に対応します。

■1.8kVAが取り出し可能な 並列運転機能
オプションの並列運転ケーブルで2台のEF900iSGB2をつなぐ並列運転機能により、1.8kVAの取り出しが可能です。

■全国ヤマハ発電機サービス店によるしっかりサポート

■2年間の製品保証

工進(KOSHIN) カセットガス インバーター 発電機 正弦波 GV-9ig 定格出力 0.9kVA
■JIA認証カセットボンベをメーカー問わずに使用可能

■操作手順のナンバーリングなど初心者にも使いやすい機能満載

■寒冷地・寒い季節でも始動可能なヒーターユニットを標準装備(乾電池は別売)

■電力使用目安が分かるインジケーターやオイル警告ランプなど運転状況がわかる操作表示


発電機(enepo)エンジンオイル交換
発電機(enepo)エンジン始動(試運転)

【参考】愛媛県西条市:医療的ケア児者が、停電等の際に電源を確保するための非常用電源装置等の購入費の補助をします




10万円までの蓄電池

 蓄電池は、発電機に比べて非常に種類が多いです。

 内蔵する電池のサイズや数によってバリエーションが増えるので、同じシリーズでも何種類か販売されていることがあります。

 蓄電池を買う時に、必要となる最低限のレベルで選抜するのか、予算の中で最大の物を買うのかといった方針を決めておくと良いです。

 人工呼吸器本体は定格消費電力が200~300W程度、実測すると150W前後かなと思います。
 消費電力量はワット数に時間(hr)を掛けて求めるので、200Wが3時間なら600Whになります。
 すなわち、600Whの商品を買うと、200Wの負荷に3時間供給できます。

 同じ容量の商品でも、最大出力に違いがあります。
 定格出力が100Wの蓄電池に200Wの器具を接続しても動きません。ヒーターやモーターなど負荷の種類によって始動電流などに違いがありますが、ざっくり3倍を見込んでおくと安心です。人工呼吸器が定格200Wとすれば、瞬間的に600Wくらいの電力を必要とするかもしれない、と考えます。
 厳密に言うと、3倍ではないので、目安として考えて頂ければと思います。


 筆者宅にはLACITAという蓄電池があります。ネット通販で購入した物ですが、正弦波交流もきれいに出ていて、容量もそれなりにあるので便利に使っています。
 とはいえ、230Wのノートパソコンを2時間前後という限られた時間なので、医療的ケア児の災害対策としての蓄電池としては容量に満足するものではありません。

LACITA ポータブル電源 120000mAh/444Wh
大容量でありながら小型の蓄電池です。実際に使用しましたが、波形もきれいで様々な機器を動かすことができています。


Jackery

 ポータブル蓄電池としてよく見かける、よく売れているのがJackeryです。

 この1ブランドだけでも20種類ほどの商品ラインアップがあります。

Jackery ポータブル電源 1000 (ソーラーパネルセット)
Jackeryは米国のバッテリメーカーです。黒とオレンジのデザインが印象的です。様々なサイズをラインアップしています。

 この中で人工呼吸器用の商品を選ぶとすると、『708』という型番の電池容量708Wh、出力500Wの物が最低ラインになるかと思います。Amazonでの売価は85,000円ほどです。
 100V200Wの人工呼吸器を使ったとすると、3時間半ほどで700Whになります。加温加湿器も使って500W程になれば、1時間半も持たない可能性があります。


99.2Wh
128W
\15,900
246Wh
定格300W
最大600W
\29,800
288Wh
300W
ソーラーセット
\56,900
400Wh
100W
ソーラーセット
\79,900

635Wh
800W
ソーラーセット
\119,800
708Wh
500W
\84,500
708Wh
500W
ソーラーセット
\118,300
2,528Wh
2000W
最大4000W
\279,900

1002Wh
1000W
最大2000W
\149,800
1,264Wh
2000W
最大4000W
ソーラーセット
\202,800
1002Wh
1000W
最大2000W
\139,800
1,512Wh
1800W
最大3600W
\199,800

1,535Wh
1800W
最大3600W
ソーラーセット
\242,600
2042.8Wh
拡張バッテリ
\175,000
2042.8Wh
3000W
最大6000W
\285,000
2160Wh
2200W
最大4400W
\285,000

【参考】愛媛県西条市:医療的ケア児者が、停電等の際に電源を確保するための非常用電源装置等の購入費の補助をします




10万円までのAC/DCインバータ

 AC-DCインバータとは、自動車の直流電源を、商用電源のような交流電源に変換する器具です。

 自動車の配線は独特なので、安易にインバータを取り付けると思わぬトラブルが起こるかもしれません。

 シガーソケットで動作させられるのは、12V90W程度、7.5A程度です。それを超えて来るとバッテリ直結になります。

 多少の知識があれば、発災後に自らDIYで取り付けもできますので、後付けも検討してはどうかなと思います。

大橋産業(BAL) 3WAY正弦波インバーター 400W
DC12VをAC100V/DC12V/DC5Vに変換して出力します。容量は400Wです。1.5mのケーブルが付属しています。

 大きめの容量のAC-DCインバータを車内に常設する場合、別途自動車用バッテリを搭載し、そこから電源を取るようにした方が良いと思います。

【参考】愛媛県西条市:医療的ケア児者が、停電等の際に電源を確保するための非常用電源装置等の購入費の補助をします




7万円までの専用バッテリ

 兵庫県尼崎市の例では、人工呼吸器の非常用外部バッテリーについて購入額の9割を補助する制度が実施されました。

 上限が税込63,000円なので、63,000÷0.9で70,000円(税込)までであれば9割の補助が受けられます。

 尼崎市の例では、補助限度額が63,000円という意味ではなく、本体価格7万円を超過するバッテリは買えないようです。
 従って、自己負担額の上限も7,000円と決められています。

 尼崎市では見積書を市の指定業者から取る必要があるので、この時点で価格調整が行われていると思われますので、心配する必要は無さそうです。


【参考】尼崎市:人工呼吸器非常用外部バッテリーの購入費用の助成について




主な医療機器の電源

人工呼吸器

商品名メーカー電源添付文書
トリロジーフィリップス添付文書
トリロジー 100plusフィリップスAC 100V (50/60 Hz) 最大2.1A
DC 12V 最大9.0A
添付文書
トリロジー 200plusフィリップスAC 100V (50/60 Hz) 最大2.1A
DC 12V 最大9.0A
添付文書
トリロジー EvoフィリップスAC100V~240V (50/60 Hz) 1.7~0.6A添付文書
トリロジー O2plusフィリップスAC 100V (50/60 Hz) 最大2.1A
DC 12V 最大9.0A
添付文書
V60フィリップスAC100V (50/60Hz) 300VA 添付文書
BiPAP A40フィリップスAC100V~200V (50/60 Hz) 1.2A添付文書
MONNAL T50IMIAC100~240V (50/60 Hz) 160VA添付文書
MONNAL T60IMIAC100~240V (50/60 Hz) 1.2A添付文書
LTV2 2200IMI (パシフィックメディコ)AC100~250V (50/60 Hz)
DC15V
本体 11~29V 150W
添付文書
LTV2 2150IMI (パシフィックメディコ)AC100~250V (50/60 Hz)
DC15V
本体 11~29V 150W
添付文書
クリーンエア ASTRALレスメドAC100~240V (50/60 Hz) 1..0-1.5A
AC110V 400Hz 1.5A
添付文書
Stellar NIPネーザルVレスメドAC100~240V (50/60 Hz) 2.2A添付文書
Lumis HFTレスメドAC100~240V (50/60 Hz) 1.5A
AC110V 400Hz 1.5A
添付文書
Vivo 50チェストAC100~240V (50/60 Hz) 300VA添付文書
Vivo 60チェストAC100~240V (50/60 Hz) 300VA添付文書
オールインワン VOCSNカフベンテック添付文書
VOCSN-VCカフベンテック添付文書
Puritan Bennett 560コヴィディエンAC100~240V (50/60 Hz) 180VA添付文書
ニューポート e360コヴィディエンAC100~240V (50/60 Hz) 300VA以下添付文書
ニューポート HT70コヴィディエンAC100~240V (50/60 Hz) 最大2A
DC12~30V
添付文書




おわりに

 予算に応じた発電機や蓄電池を見てきました。

 どの製品にも共通して、医療機器に使って良いとは書いていないのですが、医療機器のサブバッテリは薬事承認/認証の対象になっていなければ法律上の医療機器ではない、したがって問題ない、という建て付けのようです。

 10万円の発電機は満足できる機種のようですが、蓄電池は10万円を投じても半日も持たないので、発電機との組み合わせが必要であることが示唆されました。

 これから実機を買って、比較試験をしてみたいと思います。