COVID-19の流行拡大を受けて『一斉休校』『緊急事態宣言』などで行動が制限される中で『エッセンシャルワーカー』(Essential Worker)という言葉がマスコミでも使われるようになりました。
今回はエッセンシャルワーカーたちが働く『エッセンシャルビジネス』(Essential Business)について深掘りしてみました。
不要不急を超える存在
災禍では『不要不急の外出自粛を』と呼び掛けられることがあります。
不要不急でなければ外出しても良い、という訳ではなく、必要な用事であっても外出を取り止める努力をしてみましょうといった、かなり踏み込んだ呼びかけです。
『誕生ケーキの予約がある』という理由から菓子店に出勤するのは、一部の人にとって必要かもしれません。
では、予約がキャンセルされると何が起こるでしょうか。楽しみにしていた人は残念な気持ちになります。お店は売上が1つ減ります。店の評判が落ちるかもしれません。
ただし、人命や社会秩序へ関わりは薄いです。
エッセンシャルビジネスは、非常事態が起きていても仕事をして貰わなければ困る、という人命や社会秩序に関わる業種です。
米国には定義(PPD-21)
米国のホワイトハウスから出された文書『Presidential Policy Directive / PPD-21』(Critical Infrastructure Security and Resilience)では下記のように16の業種を重要インフラとして指定しています。
This directive identifies 16 critical infrastructure sectors and designates associated Federal SSAs.
訳)この指令は、16の重要インフラ部門を特定し関連する連邦SSAを指定している。
Presidential Policy Directive / PPD-21 (page.10)
原文はABC順に並んでいます。
- Chemical:
Sector Risk Management Agency: DHS- Commercial Facilities:
Sector Risk Management Agency: DHS- Communications:
Sector Risk Management Agency: DHS- Critical Manufacturing:
Sector Risk Management Agency: DHS- Dams:
Sector Risk Management Agency: DHS- Defense Industrial Base:
Sector Risk Management Agency: DOD- Emergency Services:
Sector Risk Management Agency: DHS- Energy:
Sector Risk Management Agency: DOE- Financial Services:
Sector Risk Management Agency: Department of the Treasury- Food and Agriculture:
Co-Sector Risk Management Agencies: Department of Agriculture and Department of Health and Human Services (HHS)- Government Services and Facilities:
Co-Sector Risk Management Agencies: DHS and GSA- Healthcare and Public Health:
Sector Risk Management Agency: HHS- Information Technology:
Sector Risk Management Agency: DHS- Nuclear Reactors, Materials, and Waste:
Sector Risk Management Agency: DHS- Transportation Systems:
Co-Sector Risk Management Agencies: DHS and Department of Transportation- Water and Wastewater Systems:
Sector Risk Management Agency: Environmental Protection Agency
訳すと下記のような感じです。1段目が業種、2段目が危機管理担当部門です。
- 化学物質
国土安全保障省(DHS)- 商業施設
国土安全保障省(DHS)- 通信
国土安全保障省(DHS)- 重要製造業
国土安全保障省(DHS)- ダム
国土安全保障省(DHS)- 国防産業基盤
国防総省(DOD)- 緊急サービス
国土安全保障省(DHS)- エネルギー
エネルギー省(DOE)- 金融サービス
財務省- 食料・農業
農務省および保健福祉省(HHS)- 政府サービスおよび施設
国土安全保障省(DHS)および家安全保障局(GSA)- 医療および公衆衛生
保健省(HHS)- 情報技術
国土安全保障省(DHS)- 原子炉、材料、廃棄物
国土安全保障省(DHS)- 輸送システム
国土安全保障省(DHS)と運輸省- 上下水道システム
環境保護庁
THE WHITE HOUSE (Office of the Press Secretary): Critical Infrastructure Security and Resilience
THE WHITE HOUSE: National Security Memorandum on Critical Infrastructure Security and Resilience
CISA: Presidential Policy Directive (PPD) 21: Critical Infrastructure Security and Resilience
FEMA: Presidential Policy Directive 21 (PPD-21): Critical Infrastructure Security and Resilience
COVID-19
米国では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大時にPPD-21を引用して『16 Critical Infrastructure Sectors』をエッセンシャルビジネスとして指定しています。
その際の資料では、前述の16の部門一覧の12番目にあった『Healthcare and Public Health』が先頭に書かれているものもありました。
CISAの『MEMORANDUM ON IDENTIFICATION OF ESSENTIAL CRITICAL INFRASTRUCTURE WORKERS DURING COVID-19 RESPONSE』(COVID-19への対応における重要インフラ要員の特定に関する覚書)の中で『Healthcare and Public Health』について詳しく述べられています。
- Workers providing COVID-19 testing; Workers that perform critical clinical research needed for COVID-19 response
- Caregivers (e.g., physicians, dentists, psychologists, mid-level practitioners, nurses and assistants, infection control and quality assurance personnel, pharmacists, physical and occupational therapists and assistants, social workers, speech pathologists and diagnostic and therapeutic technicians and technologists)
- Hospital and laboratory personnel (including accounting, administrative, admitting and discharge, engineering, epidemiological, source plasma and blood donation, food service, housekeeping, medical records, information technology and operational technology, nutritionists, sanitarians, respiratory therapists, etc.)
- Workers in other medical facilities (including Ambulatory Health and Surgical, Blood Banks, Clinics, Community Mental Health, Comprehensive Outpatient rehabilitation, End Stage Renal Disease, Health Departments, Home Health care, Hospices, Hospitals, Long Term Care, Organ Pharmacies, Procurement Organizations, Psychiatric Residential, Rural Health Clinics and Federally Qualified Health Centers)
- Manufacturers, technicians, logistics and warehouse operators, and distributors of medical equipment, personal protective equipment (PPE), medical gases, pharmaceuticals, blood and blood products, vaccines, testing materials, laboratory supplies, cleaning, sanitizing, disinfecting or sterilization supplies, and tissue and paper towel products
- Public health / community health workers, including those who compile, model, analyze and communicate public health information
- Blood and plasma donors and the employees of the organizations that operate and manage related activities
- Workers that manage health plans, billing, and health information, who cannot practically work remotely
- Workers who conduct community-based public health functions, conducting epidemiologic surveillance, compiling, analyzing and communicating public health information, who cannot practically work remotely
- Workers performing cybersecurity functions at healthcare and public health facilities, who cannot practically work remotely
- Workers conducting research critical to COVID-19 response
- Workers performing security, incident management, and emergency operations functions at or on behalf of healthcare entities including healthcare coalitions, who cannot practically work remotely
- Workers who support food, shelter, and social services, and other necessities of life for economically disadvantaged or otherwise needy individuals, such as those residing in shelters
- Pharmacy employees necessary for filling prescriptions
- Workers performing mortuary services, including funeral homes, crematoriums, and cemetery workers
- Workers who coordinate with other organizations to ensure the proper recovery, handling, identification, transportation, tracking, storage, and disposal of human remains and personal effects; certify cause of death; and facilitate access to mental/behavioral health services to the family members, responders, and survivors of an incident
簡単に訳すと以下のようになります。日本とは医療制度が違うため職種や業種の表現がわかりづらい部分があります。
- COVID-19検査を行う労働者;COVID-19対応に必要な重要な臨床研究を行う労働者
- ケアギバー(医療従事者)
例:
医師、歯科医師、心理学者、中堅開業医、看護師および助手
感染管理および品質保証担当者、薬剤師、理学療法士および作業療法士および助手、ソーシャルワーカー、言語聴覚士、診断および治療技術者および技術者- 病院および研究所の職員
(経理、事務、入退院、工学、疫学、原血漿および検査技師を含む、 疫学、原血漿・献血、給食、ハウスキーピング、医療記録、情報技術、業務技術、栄養士を含む。技術、栄養士、衛生士、呼吸療法士など)- その他の医療施設の労働者
(外来医療・外科、血液銀行、診療所、地域精神保健、包括的外来リハビリテーション、末期腎疾患、保健所、在宅医療、ホスピス、病院、長期介護、臓器薬局、調達機関、精神科住宅、農村保健診療所、連邦資格保健センターを含む)- 医療機器、個人用保護具(PPE)、医療用ガス、医薬品、血液および血液製剤、ワクチン、検査材料、実験室用品、洗浄・消毒・滅菌用品、ティッシュおよびペーパータオル製品の製造業者、技術者、物流業者、倉庫業者、流通業者。
- 公衆衛生/地域保健ワーカー
(公衆衛生情報の編集、モデル化、分析、伝達を行う者を含む)- 献血者、血漿提供者、および関連活動を運営・管理する組織の従業員
- 医療計画、請求、健康情報を管理する労働者で、現実的に遠隔で働くことができない者
- 地域に根ざした公衆衛生機能、疫学的サーベイランスの実施、公衆衛生情報の編集、分析、伝達を行う労働者で、現実的に遠隔地で働くことができない者
- 医療・公衆衛生施設においてサイバーセキュリティ機能を遂行する労働者で、現実的に遠隔地勤務が不可能な者
- COVID-19への対応に不可欠な研究を行っている労働者
- 医療団体(医療連合を含む)において、または医療団体に代わって、警備、事故管理、緊急オペレーションを行う労働者で、現実的に遠隔で働くことができない者。
- 経済的に恵まれない、またはその他の理由で生活に困窮している人々
(避難所に居住している人々など)の食糧、住居、社会サービス、その他の生活必需品を支援する労働者- 処方箋記入に必要な薬局従業員
- 葬儀社、火葬場、墓地労働者など、安置サービスを行う労働者
- 遺体および遺品の適切な回収、取り扱い、身元確認、輸送、追跡、保管、処分を確実に行うため、他の組織と調整する労働者
CISA: Identifying Critical Infrastructure During COVID-19 (March 19, 2020)
CISA: Guidance on the Essential Critical Infrastructure Workforce (August 13, 2021)
ブラジルの例
2020年4月に発表された資料の引用です。
食料などの生活必需品と健康医療は大きく取り上げられ、特に健康医療については詳しく述べられています。
令和2年4月20日,アマゾナス州政府は,4月30日まで商業・サービス業の閉業措置に関して,生活に必要不可欠な業種(閉業措置を受けない)を以下のとおり更新致しました(州政令42,216号,20日公布,即日発効)。
- 1 商業,サービス業
- (1)小・中・大型食料品販売・卸売り店(スーパーマーケット)
- (2)パン屋
- (3)薬局,調剤薬局
- (4)デリバリー販売に限るレストラン
- (5)ミネラルウォーターと調理用ガス販売
- (6)動物(ペット)用食料品・薬品販売
- (7)銀行,公共料金支払い店舗(人の密集を防ぐ列管理などの徹底が必須)
- 健康医療
- (1)通院している患者を受け付けている医療機関
- (2)公共・民間医療施設の飽和状態を回避するため,入院施設の伴う医療クリニック
- (3)予防接種クリニック
- (4)動物(ペット)の保健医療サービス
- (5)歯科医療サービス(緊急時のみ)
- アプリ配車サービスやタクシーを含む公共交通移動機関(都市間,州間の交通手段は除く)。
- 自動車部品,電気機器や建設資材,宅配サービスを有しており,急を要するもの。
- ガソリンスタンド及びこれに付属するコンビニエンスストア(簡易的な販売に限る)。
- 電気・水供給維持に不可欠なサービス業:水ポンプ専門技師,電気技師,機械技師。
- 自動車工場
- クリーニング業
- 所有権の移行,融資の権利に関わる案件等,必要最低限の経済活動で市民の権利を行使するための公証・登録サービス業。
- 弁護士事務所
- 繊維・縫製業店
- 水,ガス,電気の供給,および通信サービスとインターネットサービス。
- 個人事業者として当抑制措置の適応範囲内で宅配サービスやドライブスルーシステムによる営業。
在マナウス日本国総領事館:新型コロナウイルスに関する注意喚起(アマゾナス州の必要不可欠業種更新)
在マナウス日本国総領事館:新型コロナウイルスに関する注意喚起(当地の動向)
日本では
日本においては厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの事務連絡で以下のリストが出ています。
(別添)緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者
以下、事業者等については、「三つの密」を避けるための取組を講じていただきつつ、事業の継続を求める。
- 1.医療体制の維持
- 新型コロナウイルス感染症の治療はもちろん、その他の重要疾患への対応もあるため、全ての医療関係者の事業継続を要請する。
- 医療関係者には、病院・薬局等のほか、医薬品・医療機器の輸入・製造・販売、献血を実施する採血業、入院者への食事提供等、患者の治療に必要な全ての物資・サービスに関わる製造業、サービス業を含む。
- 支援が必要な方々の保護の継続
- 高齢者、障害者等特に支援が必要な方々の居住や支援に関する全ての関係者(生活支援関係事業者)の事業継続を要請する。
- 生活支援関係事業者には、介護老人福祉施設、障害者支援施設等の運営関係者のほか、施設入所者への食事提供など、高齢者、障害者等が生活する上で必要な物資・サービスに関わる全ての製造業、サービス業を含む。
- 国民の安定的な生活の確保
- 自宅等で過ごす国民が、必要最低限の生活を送るために不可欠なサービスを提供する関係事業者の事業継続を要請する。
- ①インフラ運営関係(電力、ガス、石油・石油化学・LPガス、上下水道、通信・データセンター等)
- ② 飲食料品供給関係(農業・林業・漁業、飲食料品の輸入・製造・加工・流通・ネット通販等)
- ③ 生活必需物資供給関係(家庭用品の輸入・製造・加工・流通・ネット通販等)
- ④ 宅配・テイクアウト、生活必需物資の小売関係(百貨店・スーパー、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター等)
- ⑤ 家庭用品のメンテナンス関係(配管工・電気技師等)
- ⑥ 生活必需サービス(ホテル・宿泊、銭湯、理美容、ランドリー、獣医等)
- ⑦ ごみ処理関係(廃棄物収集・運搬、処分等)
- ⑧ 冠婚葬祭業関係(火葬の実施や遺体の死後処置に係る事業者等)
- ⑨ メディア(テレビ、ラジオ、新聞、ネット関係者等)
- ⑩ 個人向けサービス(ネット配信、遠隔教育、ネット環境維持に係る設備・サービス、自家用車等の整備等)
- 社会の安定の維持
- 社会の安定の維持の観点から、緊急事態宣言の期間中にも、企業の活動を維持するために不可欠なサービスを提供する関係事業者の最低限の事業継続を要請する。
- ① 金融サービス(銀行、信金・信組、証券、保険、クレジットカードその他決済サービス等)
- ② 物流・運送サービス(鉄道、バス・タクシー・トラック、海運・港湾管理、航空・空港管理、郵便等)
- ③ 国防に必要な製造業・サービス業の維持(航空機、潜水艦等)
- ④ 企業活動・治安の維持に必要なサービス(ビルメンテナンス、セキュリティ関係等)
- ⑤ 安全安心に必要な社会基盤(河川や道路等の公物管理、公共工事、廃棄物処理、個別法に基づく危険物管理等)
- ⑥ 行政サービス等(警察、消防、その他行政サービス)
- ⑦ 育児サービス(託児所等)
- その他
- 医療、製造業のうち、設備の特性上、生産停止が困難なもの(高炉や半導体工場等)、医療・支援が必要な人の保護・社会基盤の維持等に不可欠なもの(サプライチェーン上の重要物を含む。)を製造しているものについては、感染防止に配慮しつつ、継続する。また、医療、国民生活・国民経済維持の業務を支援する事業者等にも、事業継続を要請する。
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部:新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について(令和4年1月5日)
消防庁消防・救急課:新型コロナウイルス感染症への対応について(情報提供)(令和2年4月14日)
内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室:新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2年3月28日)
医療関係
先述のリストを『医療』に絞ってみてみます。
まず第1項の『医療体制の維持』では、まさに医療に向けて述べられています。
ここでは『全ての医療関係者の事業継続を要請する』とされ、その『全て』に含まれる業種や職種が述べられています。
1.医療体制の維持
- 新型コロナウイルス感染症の治療はもちろん、その他の重要疾患への対応もあるため、全ての医療関係者の事業継続を要請する。
- 医療関係者には、病院・薬局等のほか、医薬品・医療機器の輸入・製造・販売、献血を実施する採血業、入院者への食事提供等、患者の治療に必要な全ての物資・サービスに関わる製造業、サービス業を含む。
第2項では『支援が必要な方々の保護の継続』とされていますが、これも医療関係の仕事が関わる部分です。
訪問看護と訪問介護を混同してはなりませんが、訪問看護が必要な現場には下記内容が合致するケースが多いと思います。
2.支援が必要な方々の保護の継続
- 高齢者、障害者等特に支援が必要な方々の居住や支援に関する全ての関係者(生活支援関係事業者)の事業継続を要請する。
- 生活支援関係事業者には、介護老人福祉施設、障害者支援施設等の運営関係者のほか、施設入所者への食事提供など、高齢者、障害者等が生活する上で必要な物資・サービスに関わる全ての製造業、サービス業を含む。
第5項目の『その他』にも医療が明示されています。
米国の例では『Healthcare and Public Health』の中に含まれているサプライヤーなどの話題が、日本では『その他』に記されています。
5.その他
- 医療、製造業のうち、設備の特性上、生産停止が困難なもの(高炉や半導体工場等)、医療・支援が必要な人の保護・社会基盤の維持等に不可欠なもの(サプライチェーン上の重要物を含む。)を製造しているものについては、感染防止に配慮しつつ、継続する。また、医療、国民生活・国民経済維持の業務を支援する事業者等にも、事業継続を要請する。
担当部門
米国のリストには担当する危機管理部門が示されていました。
日本の例を描いてみると、こんな感じになるのかなと思います。どこか1つの省庁が司令塔になってくれると良いのですが、法律で縦割りにしてしまうと『合同』が多くなりそうです。
- インフラ運営関係(電力、ガス、石油・石油化学・LPガス、上下水道、通信・データセンター等)
⇒ 経済産業省・厚生労働省・総務省の合同 - 飲食料品供給関係(農業・林業・漁業、飲食料品の輸入・製造・加工・流通・ネット通販等)
⇒ 農林水産省・厚生労働省・経済産業省・消費者庁の合同 - 生活必需物資供給関係(家庭用品の輸入・製造・加工・流通・ネット通販等)
⇒ 経済産業省 - 宅配・テイクアウト、生活必需物資の小売関係(百貨店・スーパー、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター等)
⇒ 経済産業省・厚生労働省の合同 - 家庭用品のメンテナンス関係(配管工・電気技師等)
⇒ 国土交通省・経済産業省・厚生労働省の合同 - 生活必需サービス(ホテル・宿泊、銭湯、理美容、ランドリー、獣医等)
⇒ 厚生労働省・国土交通省・農林水産省の合同 - ごみ処理関係(廃棄物収集・運搬、処分等)
⇒ 環境省 - 冠婚葬祭業関係(火葬の実施や遺体の死後処置に係る事業者等)
⇒ 厚生労働省・環境省の合同 - メディア(テレビ、ラジオ、新聞、ネット関係者等)
⇒ 総務省 - 個人向けサービス(ネット配信、遠隔教育、ネット環境維持に係る設備・サービス、自家用車等の整備等)
⇒ 総務省・経済産業省・文部科学省の合同
インフラだけを見ても、電力やガスは経済産業省ですが、水道は厚生労働省、通信は総務省になります。家庭用品のメンテナンスも同様です。
飲食料品については農林水産省と厚生労働省が関与し、食品衛生基準は消費者庁、単に流通となると経済産業省になります。宅配やテイクアウトといった分野も物によって省庁が違い、その運送事業者まで至ると国土交通省や警察庁も関係してきます。
ホテルは公衆衛生の面からは厚生労働省が所轄ですが、観光業という面からは国土交通省になります。理美容は厚生労働省です。
人間の医療は厚生労働省ですが、獣医療は農林水産省になります。ペット(愛玩動物)は環境省が所轄です。死後処理の所でも対象が人間であるかどうかで所轄が分かれます。
これだけ入り混じることを想定してのリストアップなのか、所掌するのが誰なのかは気にせず、国民生活に合わせてリストしたのか、よくわかりませんが、テロや戦争など厳しい状況下においては混乱を招くことになるのではないかと心配します。
災害対策基本法
災害対策基本法で『事業者』と検索すると、関連する条文は以下のとおりでした。
最初に出て来るのが第四十二条の『地域防災計画』の条文です。ここでは『地区居住者等』の『等』に含まれる居住者や事業者として記されています。
(市町村地域防災計画)
第四十二条3 市町村地域防災計画は、前項各号に掲げるもののほか、市町村内の一定の地区内の居住者及び当該地区に事業所を有する事業者(以下この項及び次条において「地区居住者等」という。)が共同して行う防災訓練、地区居住者等による防災活動に必要な物資及び資材の備蓄、災害が発生した場合における地区居住者等の相互の支援その他の当該地区における防災活動に関する計画(同条において「地区防災計画」という。)について定めることができる。
次の事業者はエッセンシャルビジネスに近づきます。
第四十九条の三では『物資供給事業者』について述べられています。『災害応急対策又は災害復旧に必要な物資若しくは資材又は役務の供給又は提供を業とする者』や『その他災害応急対策又は災害復旧に関する活動を行う民間の団体』を指しています。
災害対応に必要な物資や役務を供給する事業者ということで、災害の種類によっても異なりますが道路啓開に必要な土木建設関連、仮設トイレや屎尿回収車、食糧や毛布の製造販売業者なども含まれるかもしれません。
(物資供給事業者等の協力を得るために必要な措置)
第四十九条の三災害予防責任者は、法令又は防災計画の定めるところにより、その所掌事務又は業務について、災害応急対策又は災害復旧の実施に際し物資供給事業者等(災害応急対策又は災害復旧に必要な物資若しくは資材又は役務の供給又は提供を業とする者その他災害応急対策又は災害復旧に関する活動を行う民間の団体をいう。以下この条において同じ。)の協力を得ることを必要とする事態に備え、協定の締結その他円滑に物資供給事業者等の協力を得るために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
第五十七条はエッセンシャルビジネスであることが明示的です。緊急を要する警告などを国民に伝えるために電気通信事業者の設備を用い、放送を行うといった内容です。
放送局が自局の放送を続けることが重要な訳ではなく、警報等を放送することができる状態を提供することが重要になります。
(警報の伝達等のための通信設備の優先利用等)
第五十七条前二条の規定による通知、要請、伝達又は警告が緊急を要するものである場合において、その通信のため特別の必要があるときは、都道府県知事又は市町村長は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、政令で定めるところにより、電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第五号に規定する電気通信事業者がその事業の用に供する電気通信設備を優先的に利用し、若しくは有線電気通信法(昭和二十八年法律第九十六号)第三条第四項第四号に掲げる者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用し、又は放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二十三号に規定する基幹放送事業者に放送を行うことを求め、若しくはインターネットを利用した情報の提供に関する事業活動であつて政令で定めるものを行う者にインターネットを利用した情報の提供を行うことを求めることができる。
第六十一条の八は、運送事業者についてです。国民の生活のために運送事業が必要ということではなく、運送すべき人が居るときには運送を要請する旨が記されています。
知事の立場的には『お休みのところ恐縮ですが』という感じなのか、『休業分をカバーする仕事を与えます』という感じなのかわかりませんが、運送事業者には協力を要請することができます。
(居住者等の運送)
第六十一条の八都道府県知事は、都道府県の地域に係る災害が発生するおそれがある場合であつて、居住者等の生命又は身体を当該災害から保護するため緊急の必要があると認めるときは、運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、運送すべき人並びに運送すべき場所及び期日を示して、居住者等の運送を要請することができる。
第七十九条も再び電気通信事業者に関係します。
第五十七条では緊急放送のために電気通信設備を提供するといった主旨でしたが、第七十九条では内部的な通信のためにチャネルを開放してください、といった内容です。
(通信設備の優先使用権)
第七十九条災害が発生した場合において、その応急措置の実施に必要な通信のため緊急かつ特別の必要があるときは、指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は都道府県知事若しくは市町村長は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、電気通信事業法第二条第五号に規定する電気通信事業者がその事業の用に供する電気通信設備を優先的に利用し、又は有線電気通信法第三条第四項第四号に掲げる者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用することができる。
第八十六条の五は廃棄物処理です。処理指針を事業者とも話し合っておきましょうといった内容です。
(廃棄物処理の特例)
第八十六条の五3 処理指針には、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 指定災害廃棄物の処理の基本的な方向
二 指定災害廃棄物の処理についての国、地方公共団体、事業者その他の関係者の適切な役割分担及び相互の連携協力の確保に関する事項
三 前二号に掲げるもののほか、指定災害廃棄物の円滑かつ迅速な処理の確保に関し必要な事項
第八十六条の十四については、第六十一条の八と内容が似ています。第六十一条の八では『災害が発生するおそれ』『生命又は身体を当該災害から保護』が条件でした。
第八十六条の十四は『被災者の保護』です。被災者の運送を運送事業者に要請することができる条文です。
第三款 被災者の運送
第八十六条の十四都道府県知事は、被災者の保護の実施のため緊急の必要があると認めるときは、運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、運送すべき人並びに運送すべき場所及び期日を示して、被災者の運送を要請することができる。
災害対策基本法で最後に『事業者』が出て来るのが第八十六条の十八です。前述の第八十六条の十四に近いですが、本条では被災者ではなく物資の運送です。
(災害応急対策必要物資の運送)
第八十六条の十八指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は都道府県知事は、災害応急対策の実施のため緊急の必要があると認めるときは、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長にあつては運送事業者である指定公共機関に対し、都道府県知事にあつては運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、運送すべき物資又は資材並びに運送すべき場所及び期日を示して、当該災害応急対策の実施に必要な物資又は資材(次項において「災害応急対策必要物資」という。)の運送を要請することができる。
災害対策基本法と医療
災害対策基本法で『医療』と検索しても、ごくわずかしかヒットしません。
災害時でも『医療の提供を継続してください』という内容ではなく、医療が逼迫するなら『こうしても良いですよ』という内容です。
第八十六条の三では、臨時の医療施設を設ける場合には、医療法の規定は無視できます、という内容です。
(臨時の医療施設に関する特例)
第八十六条の三著しく異常かつ激甚な非常災害であつて、当該災害に係る臨時の医療施設(被災者に対する医療の提供を行うための臨時の施設をいう。以下この条において同じ。)が著しく不足し、被災者に対して医療を迅速に提供することが特に必要と認められるものが発生した場合には、当該災害を政令で指定するものとする。
2 前項の規定による指定があつたときは、政令で定める区域及び期間において地方公共団体の長が開設する臨時の医療施設については、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第四章の規定は、適用しない。
3 前条第二項及び第三項の規定は、第一項の規定による指定があつた場合において、前項に規定する臨時の医療施設について準用する。
第八十六条の六は、避難所の公衆衛生に関わる内容です。
(避難所における生活環境の整備等)
第八十六条の六災害応急対策責任者は、災害が発生したときは、法令又は防災計画の定めるところにより、遅滞なく、避難所を供与するとともに、当該避難所に係る必要な安全性及び良好な居住性の確保、当該避難所における食糧、衣料、医薬品その他の生活関連物資の配布及び保健医療サービスの提供その他避難所に滞在する被災者の生活環境の整備に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
第八十六条の七は、避難所以外の場所に滞在する自主避難者のような方々の公衆衛生に関わる内容です。
(避難所以外の場所に滞在する被災者についての配慮)
第八十六条の七災害応急対策責任者は、やむを得ない理由により避難所に滞在することができない被災者に対しても、必要な生活関連物資の配布、保健医療サービスの提供、情報の提供その他これらの者の生活環境の整備に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
医療を継続しても補償なし?
災害対策基本法第八十四条には損害賠償の規定があります。
第1項は自衛官についてです。
第八十四条の第2項では『応急措置の業務に従事した者』の損害賠償が規定されています。
(応急措置の業務に従事した者に対する損害補償)
第八十四条2 都道府県は、第七十一条の規定による従事命令により応急措置の業務に従事した者がそのため死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、又は障害の状態となつたときは、政令で定める基準に従い、条例で定めるところにより、その者又はその者の遺族若しくは被扶養者がこれらの原因によつて受ける損害を補償しなければならない。
ここで示されている第七十一条は下記の通りです。
(都道府県知事の従事命令等)
第七十一条都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、第五十条第一項第四号から第九号までに掲げる事項について応急措置を実施するため特に必要があると認めるときは、災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)第七条から第十条までの規定の例により、従事命令、協力命令若しくは保管命令を発し、施設、土地、家屋若しくは物資を管理し、使用し、若しくは収用し、又はその職員に施設、土地、家屋若しくは物資の所在する場所若しくは物資を保管させる場所に立ち入り検査をさせ、若しくは物資を保管させた者から必要な報告を取ることができる。
2 前項の規定による都道府県知事の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、その一部を市町村長が行うこととすることができる。
第七十一条にある『第五十条第一項第四号から第九号までに掲げる事項』は下記の通りです。
(災害応急対策及びその実施責任)
第五十条災害応急対策は、次に掲げる事項について、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に災害の発生を防御し、又は応急的救助を行う等災害の拡大を防止するために行うものとする。
一 警報の発令及び伝達並びに避難の勧告又は指示に関する事項
二 消防、水防その他の応急措置に関する事項
三 被災者の救難、救助その他保護に関する事項
四 災害を受けた児童及び生徒の応急の教育に関する事項
五 施設及び設備の応急の復旧に関する事項
六 廃棄物の処理及び清掃、防疫その他の生活環境の保全及び公衆衛生に関する事項
七 犯罪の予防、交通の規制その他災害地における社会秩序の維持に関する事項
八 緊急輸送の確保に関する事項
九 前各号に掲げるもののほか、災害の発生の防御又は拡大の防止のための措置に関する事項
被災児童生徒の応急の教育、施設設備の応急の復旧、廃棄物処理など生活環境保全や公衆衛生、犯罪予防、交通規制、社会秩序の維持、緊急輸送確保、災害発生の防御や拡大防止のための措置に関する『災害応急対策』について、都道府県知事の従事命令・協力命令によって従事した者が、死亡や負傷をした場合には、都道府県が損害を補償しなければならないとされています。
第五十条の『被災者の救難、救助その他保護』は除外されているので医療的な救護にあたっても損害賠償の対象にはなりません。
拡大解釈で医療の継続を『公衆衛生』とした場合でも、知事からの従事命令や協力命令が無ければ勝手に実施したことして処理されてしまいます。
現在の災害対策基本法の建付けで言うと、医療機関が医療を継続するか否かは問われていません。問われていないがゆえに、医療を継続することは法人の自由、自院の経営のために業務継続するのであるから行政は関与しません、という態度が明示的な自治体もあります。
医療は金儲けのためにしている訳ではなく、社会インフラとして永続するために必要な対価を得ているに過ぎない非営利的な面が強いのですが、災害になると民間企業と同じ様な扱いになってしまいます。
規制産業、厳しい法律の中で医業をさせて貰っているという見方からすれば仕方ないですが、医療従事者のモチベーションを高める話題にはならなそうです。
医療に災害インセンティブは無い
大地震が起きて、医療機関や医療従事者も被災してもなお医療の継続に努めたとします。
電気や水が限られる中で負傷者が来院し、処置をしたとします。
このとき、貰える対価は平時と同額です。想定される診療報酬は初診料と院外処方で351点(3,510円)です。3,510円の3割は1,053円です。創部を消毒してラップしてもらうのに千円くらいで済めば安いかなと思います。
- 初診料(A000) 291点
- 処方箋料(F400)60点
- 創傷処理(K000)530点
医療機関としては傷の縫合をして530点(5,300円)加算できれば採算性としては改善しそうです。
腹痛を訴える人が来てもやはり初診料と処方箋料くらいしか取れなければ3,510円です。ひどく痛みを訴えられても腹部CTやエコー、内視鏡などは停電していてはできませんし、災害時に実施すべきかどうかも判断が難しいです。
手術が必要そうだが、手術できる環境がないので他院へ行ってくださいと患者に伝えれば、のちにネットで炎上しそうですが、それ以上のことは医療機関にはできない状況だと思います。
災害時、医療機関にはマイナス要素がたくさんありますが、診療したからといって加算がある訳でもなく、平時より提供できる医療が少ないために不採算な診療になりそうです。
医療はエッセンシャルビジネス
社会が混乱なくまわるために必要なエッセンシャルビジネスとして、医療はその地位が確立しているように見えました。
米国の場合はホワイトハウスから出されている文書で明確になっていますが、日本の場合はCOVID-19の資料を参考にする程度でしかありませんでした。
COVID-19の流行下では患者が激減し経営状態が悪くなっても、医業以外はしていないという医療機関がほとんどですので補填するあてもなく、ただ減収となって経営が厳しくなるだけでした。
コロナ患者を受入れれば手当てが付くと言われても陰圧装置などの設備投資が必要であり、50床ある病棟が1人のコロナ患者に専有される状態になればスタッフは余り、当然ながら採算はとれない状況でした。
阪神淡路大震災でも東日本大震災でも、医療従事者は超過勤務手当を十分に貰うことなく医療提供の継続に努めました。
保険証を持たない患者も来院し、とりあえず診療をして費用回収はあとで考える、ということもありました。
エッセンシャルビジネスであると社会が認めるのであれば、エッセンシャルビジネスとして業務継続するための運転資金や技術修練などに社会が費用負担する必要があるのではないかと思います。
災害拠点病院やDMATは訓練を受け、必要な装備を備蓄していますが、これはごく限られた『災害医療』のためのものです。
災害時にも、平時の医療を継続するのは個々の医療機関です。その継続に係る費用や技術は各院が自前で揃えています。
これは医療に限らず介護でも同じです。平時からの介護を続けることは個々の施設の裁量、それに対する備えも施設の裁量、すべて自前です。
エッセンシャルビジネスという言葉は格好良いですが、それを実践する方法は泥くさい、曖昧さのある仕事でありそうです。
9.11
今日は9月11日です。
2001年9月11日、私は広島に居ましたが信じられないニュース映像をテレビで見ていた記憶があります。
自然災害ではなく人的な攻撃によって3千名近い死者、25,000人以上の負傷者を出す惨事になりました。
このような事態でも、元々入院していた患者は病棟に残しつつ、新患を受入れた医療機関が多くあります。
院内での収容にとどまらず、現場近くの仮設救護所でも多くの医療従事者が活動しました。
日本では1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件で、多くの医療従事者が活動し、同時に、多くの医療従事者がサリンの被害に遭いました。
患者を受入れることで、医療従事者が負傷する可能性もあります。それを承知の上で、患者を救おうと奮闘する医療従事者の姿は想像できるのではないでしょうか。
テロは起こってもらいたくないですが、有毒ガス発生や爆発事故はテロ以外でも発生しますので、そうした際に活躍が期待されるエッセンシャルワーカーに、平時から手当があると良いと思います。