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在宅医療の電気設備と予備電源 | NES株式会社

 こどもの日を前に、医療的ケア児について何かできることは無いか、考えておくべきことは無いか、広く国民が知っておくべきことは無いか、考えてみました。

 弊社は減災をコンサルティングしており、登録電気工事業者でもあるので、停電や電力について考察しました。




医療的ケア児・医療的ケア者

 医療的ケア児・医療的ケア者という呼び方は近年広がっています。
 医療従事者や医療福祉設備と密に接する入院医療から、在宅など院外へ出てもなお人工呼吸や喀痰吸引などの日常的なケアが必要な患児・患者を医療的ケア児・医療的ケア者などと呼びます。

 入院中は院長の管理下で診療も安全も適正化が図られていますが、在宅では患者および担当ケアラーが中心となり、特に子供たちは家族がケアラーになることが多く、医療、福祉、保健などのヘルスケア系だけでなく、子育てや教育なども関わってきます。

 ケアの場が自宅になることで、入院時と同様の療養環境が必要な上に、生活のための住環境も必要になります。
 どちらかを犠牲にする部分もありますが、不可欠な要素が多いため療養住環境には特殊性があります。

【参考】厚生労働省:医療的ケア児等とその家族に対する支援施策
【参考】医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律

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  1. 医療的ケア児・医療的ケア者
  2. 小児在宅ケアのメリット
  3. 小児在宅ケアの増加
  4. 法改正と医療的ケア児
  5. 療養住環境の特徴
  6. 医療設備
  7. 療養住環境の設備
  8. コンセントは交換
  9. 照明の交換・増設
  10. 分電盤
  11. 療養住環境の予備電源
  12. 療養住環境ノウハウ
  13. 定格と実効
  14. 実測すべき
  15. 波形も測定
  16. 測定の依頼先
  17. ポータブル電源の仕様
  18. モバイルバッテリの容量計算
  19. ポータブル電源の持続時間
  20. 実験済ポータブル電源
  21. 電気屋さんの介入
  22. プロにご相談を
  23. 激レア卓越人材
  24. 生業とプロボノ
  25. 講演、委員、アドバイザリーボード、承ります。




小児在宅ケアのメリット

 在宅でケアを続けることは、患児の快適性を向上させることが期待されます。

 入院中はベッド周辺だけがプライベート空間であり、そのベッドもカーテン1枚、施錠されていない扉1枚で共用空間と接しており、完全なプライベート空間ではありません。

 スペースも宅内全体がプライベート空間である在宅では、オモチャ部屋や勉強部屋を設けることができますし、生活リズムは患児中心につくりあげることができます。

 入院中はきょうだいとは会う機会が限られますが、在宅では毎日会うことができます。家族とのアクセスの良さは、小児在宅ケアの大きなメリットとなります。

【参考】厚生労働省:医療的ケア児等とその家族に対する支援施策
【参考】鳥取県:医療的ケア児の支援について
【参考】Johns Hopkins Care at Home
【参考】Johns Hopkins: Pediatric Home Health Care – What You Need to Know

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小児在宅ケアの増加

 下図は在宅人工呼吸療法患者数の推計値です。

 診療報酬から算出しているので『人』という単位については曖昧さがありますが、2016年度と2021年度を対比して、相対的には約1.5倍増加しています。


 医療的ケア児は、15歳になったら小児科の患者ではなくなるかというと、そうでもありません。成長の程度、病態の変化などにより、そのまま小児科患者として残るケースも少なくありません。

 19歳以下に拡大して同じデータを見ても、やはり1.5倍程度の増加が見られます。


※.診療報酬C164(人工呼吸器加算)は月1回算定できる。年齢別算定回数を年度集計し、12で除して1カ月あたりの患者数を推算。

【参考】西謙一:医療的ケア児の患家BCP策定支援と療養住環境最適化
【参考】NES:レセプト(診療報酬)集計データを再集計したデータの提供
【参考】厚生労働省:健康・医療NDBオープンデータ

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法改正と医療的ケア児

 前述の2016年と2021年には、医療的ケア児をとりまく環境を変化させる法改正がありました。

 2016年の児童福祉法改正では医療的ケア児への行政支援が努力義務となりました。
 第五十六条の六第2項に、適切なケアを受けられるように自治体は努めなければならない旨が示されています。

第七章 雑則
第五十六条の六

地方公共団体は、児童の福祉を増進するため、障害児通所給付費、特例障害児通所給付費、高額障害児通所給付費、障害児相談支援給付費、特例障害児相談支援給付費、介護給付費等、障害児入所給付費、高額障害児入所給付費又は特定入所障害児食費等給付費の支給、第二十一条の六、第二十一条の十八第二項、第二十四条第五項若しくは第六項又は第二十七条第一項若しくは第二項の規定による措置及び保育の利用等並びにその他の福祉の保障が適切に行われるように、相互に連絡及び調整を図らなければならない。

② 地方公共団体は、人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児が、その心身の状況に応じた適切な保健、医療、福祉その他の各関連分野の支援を受けられるよう、保健、医療、福祉その他の各関連分野の支援を行う機関との連絡調整を行うための体制の整備に関し、必要な措置を講ずるように努めなければならない。

③ 児童自立生活援助事業、社会的養護自立支援拠点事業又は放課後児童健全育成事業を行う者及び児童福祉施設の設置者は、その事業を行い、又はその施設を運営するに当たつては、相互に連携を図りつつ、児童及びその家庭からの相談に応ずることその他の地域の実情に応じた積極的な支援を行うように努めなければならない。

児童福祉法

 2021年の医療的ケア児支援法施行で責務へと変わりました。

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加するとともにその実態が多様化し、医療的ケア児及びその家族が個々の医療的ケア児の心身の状況等に応じた適切な支援を受けられるようにすることが重要な課題となっていることに鑑み、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、保育及び教育の拡充に係る施策その他必要な施策並びに医療的ケア児支援センターの指定等について定めることにより、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資し、もって安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「医療的ケア」とは、人工呼吸器による呼吸管理、喀かく痰たん吸引その他の医療行為をいう。
2 この法律において「医療的ケア児」とは、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である児童をいう。

(基本理念)
第三条 医療的ケア児及びその家族に対する支援は、医療的ケア児の日常生活及び社会生活を社会全体で支えることを旨として行われなければならない。
2 医療的ケア児及びその家族に対する支援は、医療的ケア児が医療的ケア児でない児童と共に教育を受けられるよう最大限に配慮しつつ適切に教育に係る支援が行われる等、個々の医療的ケア児の年齢、必要とする医療的ケアの種類及び生活の実態に応じて、かつ、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体相互の緊密な連携の下に、切れ目なく行われなければならない。
3 医療的ケア児及びその家族に対する支援は、医療的ケア児が十八歳に達し、又は高等学校等を卒業した後も適切な保健医療サービス及び福祉サービスを受けながら日常生活及び社会生活を営むことができるようにすることにも配慮して行われなければならない。
4 医療的ケア児及びその家族に対する支援に係る施策を講ずるに当たっては、医療的ケア児及びその保護者の意思を最大限に尊重しなければならない。
5 医療的ケア児及びその家族に対する支援に係る施策を講ずるに当たっては、医療的ケア児及びその家族がその居住する地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられるようにすることを旨としなければならない。

(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、医療的ケア児及びその家族に対する支援に係る施策を総合的に実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、医療的ケア児及びその家族に対する支援に係る施策を実施する責務を有する。
(以下省略)

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律

【参考】児童福祉法
【参考】医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律
【参考】全国医療的ケア児者支援協議会:医療的ケア児支援法
【参考】文部科学省:医療的ケア児の支援に関する保健、医療、福祉、教育等の連携の一層の推進について
【参考】厚生労働省:医療的ケア児の支援に関する施策と保健、医療、福祉、教育等の連携について
【参考】厚生労働省政策統括官付政策評価官室 アフターサービス推進室:医療的ケアが必要な子どもと家族が、安心して心地よく暮らすために

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療養住環境の特徴

 療養住環境には、以下のような特徴があります。

入院環境療養住環境
専ら医療のための施設医療専用ではない
住宅ではない居住兼用
医療従事者が常駐常駐する医療従事者が居ない
医療従事者はスタッフ医療従事者はゲスト
医療と介護がシームレスサービス毎に事業者が異なる
入院料が発生家賃や維持費が発生
患者はゲスト患者はホストファミリーの一員
患者の家族はゲスト患者の家族はホスト・家主
施設管理責任は医療側施設管理責任は患者側
消防法の厳しい基準が適用消防法は一般住宅
廃棄物は事業系廃棄物廃棄物は家庭ゴミ
全面的に医療法が適用医療法適用は部分的

 医療用に造られていない建物で、医療従事者が居ない中で、人工呼吸器などの医療機器を使ってケアを受けながら、患者と家族が生活を営んでいくというのが療養住環境の特徴です。

【参考】環境省:在宅医療廃棄物の処理に関する取組推進のための手引き(在宅医療廃棄物の処理の在り方検討会)
【参考】日本医師会:在宅医療廃棄物の取扱いガイド
【参考】大阪市:在宅医療に伴う廃棄物を処分されるときは(お願い)

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医療設備

 入院ベッドの近くの壁には、下図のような医療ガスのアウトレットが備えられています。ICUやHCUなど酸素をよく使うようなベッド周りは20年ほど前に普及していましたが、その後は全ベッド配備が普遍化しています。


 アウトレットがあるということは、医療ガスの中央配管が敷設されているということになります。
 バックヤードには酸素ボンベ(タンク)や吸引ポンプが備えられています。


 入院ベッドの所には医療ガスだけでなくナースコール、照明、電源コンセントなども敷設されています。


 医療機関のトイレはだいたい同じようなつくりをしています。便座に蓋があるか無いかの違いはあるものの、温水洗浄便座、自動洗浄(フラッシュ)、手すり、ナースコールなどは共通しています。

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療養住環境の設備

 医療的ケア児に絞ると平成生まれの両親、平成か令和生まれの子供という世代だと思いますが、在宅医療全般で考えれば昭和50年以前に建てられた家屋に住む人も少なからず居ります。

 トイレの水洗化は進んでいますが、温水洗浄便座ではないお宅、手すりがないお宅、介助者が入る隙間がないお宅など、まだまだ存在していると思います。


 床頭台という考え方もなく、ケアするために造られている訳でもないので、コンセントは足元の20~30cmの高さにあると思います。
 アース付きコンセントは、令和築のお宅でも電子レンジやエアコンの所くらいで、ベッド周りにアースを敷設しているケースは稀だと思います。

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コンセントは交換

 壁のコンセントは、在宅医療を始める前に交換してしまった方が良いと思います。

 前述の昭和感があるクリーム色のコンセント類は松下電工の『ハイ角連用器具』です。
 その後は『フルカラー』シリーズが40年ほどスタンダードでしたが、近年は『コスモシリーズ』が低廉化したこともあり、価格重視の建売住宅でもコスモが採用されています。

 ハイ角と今どきのコンセント(アウトレット)の違いのひとつに、強度があります。下図のように雑に扱われているコンセントでも、ある程度の安全性が保たれます。


 配線に対する保持力にも違いがあります。

 ハイ角の時代はネジ締め方式での銅線保持でしたので、ネジが緩めば接触不良を起こします。ネジの頭はマイナスの時代ですので、締め付け力にも不安材料があります。
 フルカラー以降は、差し込み型です。これは照明器具などにも共通した仕様です。


 見た目の強度だけではなく、絶縁性能にも違いがあります。ボディと呼ばれる本体部分の素材、構造、金枠との接合にも進化の跡が見られます。

 ハイ角のコンセントは金枠がボディを上下2か所で固定しており、その金属部分は背面にまで及んでいます。
 フルカラーのコンセントは金枠が左右4箇所でボディを固定しており、その金属部分は側面に止まっています。


 細かいところですが、ボディビスなどとの関係も変化しています。

 ハイ角はボディビスとボディの間にプレート固定のネジ穴があり、プレートは外側から直接ネジ固定していたので、プラグを差し込む際に金属であるネジと接触してしまう可能性がありました。
 フルカラーになってからはプレート固定ねネジはボディビスの上方に移動し、かつ、プレートは枠とカバーが別々になったので、カバープレートの外側(可視範囲)にはネジがなくなりました。

左がフルカラー、右がハイ角

 ハイ角を使っていれば、すぐにでもコンセント類の交換をお勧めします。

 フルカラーを使っているとしても、抜き差しが多い場所であれば、内部の充電部、プラグの刃と接触する部分のバネ作用が弱まっている可能性があるので、在宅医療を始める前に交換してしまうと良いと思います。

 コンセント本体は高い物ではありませんが、電気工事士免状がないと作業できませんので、それなりに工賃がかかります。
 1回の出張(訪問)でいくつも仕事をしてもらった方がリーズナブルですので、コンセント交換以外も検討をお勧めします。

パナソニック 埋込ダブルコンセント WTP1502WK
埋込ダブルコンセントのセットです。

【参考】NES:隠蔽配線でコンセント増設

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照明の交換・増設

 療養住環境は医療的ケアをする場所でもあります。

 ケアは単に処置するだけではなく、身体的な変化を捉える機会でもあります。

 できれば、病院と同じくらいの明るさがあると、医師や看護師は比較対象となる標本データが経験的に頭に入っているので、観察時に異変に気付きやすくなります。

 建物の構造によっては、隠蔽配線で照明とスイッチを増設できる場合もあります。


 上図は隠蔽配線での増設に成功した事例です。左上が元のメイン照明、その両サイドに新しい照明を追加しています。また、奥の1段下がった天井にはダウンライトとライティグダクトを増設しています。これらのスイッチは、入口に隠蔽配線で増設しています。

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分電盤

 分電盤は重要設備ですので、交換が必要であるか確認をお勧めします。

 どこを見たら良いのかは、電気工事屋さんに聞くのが一番良いと思います。
 医療従事者でも、詳しい方が居られれば教えてもらえると思います。

 下図は東京電力仕様の単二30Aという分電盤です。この分電盤のままでも在宅医療は開始できますが、そのままで安全であるか弊社が問われた場合は訪問調査、あるいはビデオチャットなどの方法でいくつかのポイントを確認させていただきます。

【参考】NES:地方によって違う電力契約

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療養住環境の予備電源

 電気設備が安全でなければ、商用電源が停電していなくても宅内で停電が起こってしまいます。その回避策としていくつかご紹介いたしました。

 プロの視点でのチェックは重要ですので、実際に在宅医療を始めることになる際には、ぜひ電気工事屋さんにご相談ください。

 電気設備が適正であっても、電柱から来る電気が止まってしまえば、宅内設備は活かされません。

 そこで必要になるのが、商用電源を代替する予備電源です。

 医療機器にフォーカスして話すと『代替』『予備』という考えはいくつかあります。

  • 内蔵バッテリ
  • 外部バッテリ
  • 汎用蓄電池(ポータブル電池)
  • 発電機(エンジン式)
  • 自動車(DC12V)
  • 自動車(V2H・AC100/200V)
  • 機能代替(まったく別の方法で機能)

 ベストミックスを考えるにあたり、医療機器と電気設備の両方の知識を併せ持つ必要があるため、臨床工学技士ら医療従事者と、電気工事士ら設備エンジニアの連携が求められます。


【参考】NES:52時間停電で実証 現場適応性の高いNESの強靭住環境

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療養住環境ノウハウ

 分電盤やコンセント、予備電源など療養住環境をとりまく電気設備について、弊社のは独自のノウハウがあります。

 いわゆる『メシのタネ』なので、ここでは披露できない情報や、現場毎に異なるために形式化できない情報が多くあります。

 電気工事職人時代には気づくことができなかった点、臨床工学技士だから気づける訳ではない点など、両方の実務経験を経たからこそわかることがあります。

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定格と実効

 電化製品の『定格消費電力』は、実際に消費される電力ではありません。

 簡単に言うと電化製品の能力、ポテンシャルがどのくらいあるのかを示しているのが定格消費電力です。
 厳密にはJIS規格をご参照ください。

  • JISC9801-3 家庭用電気冷蔵庫及び電気冷凍庫の特性及び試験方法-第3部:消費電力量及び内容積の算出
  • JISC62301 家庭用電気機器-待機時消費電力の測定方法
  • JISC62623 パーソナルコンピュータの消費電力測定方法

 お宅のエアコンを下から見上げると銘鈑が付いていると思います。機種によっては正面カバーを開くと付いています。
 下図のエアコンですと『定格電圧100V』『電動機の定格消費電力 0.80kW』と書いてあります。
 別枠には『消費電力 定格冷房 0.440kW』『消費電力 定格暖房標準 0.395kW』『消費電力 定格暖房低温 0.845kW』とも書いてあります。


 エアコンの場合、暖房と冷房では消費電力が違います、ということが書いてあるということです。
 暖房も、寒い日に運転し始めたときは低温仕様で電力を多く消費しますが、暖かい日や、部屋が温まってきたあとは冷房並みの消費電力に落ち着くことになります。

 このエアコンの実測値は、下図の『I1』欄で『8.98A』となっています。電圧は『95.8V』なので、95.8V×8.98A=0.860kWです。低温仕様の0.845kWに近似しています。


 このエアコンを使い続けていると、部屋が温まってきたので、別の瞬間には3~6A程度でした。

 運転を取りやめて、待機電流を測定すると、0.45A程度流れていました。1年間放置していても39.4kWh消費することになります。

 振り幅の大きい電化製品もあります。


 上記の医療機器は 100V 1.5kVA という仕様なので、単純計算で 15A の電流が流れます。

 実測してみましたが、最大値でも8.6Aでした。HDモードで安定し、ヒーターが休んでいると1.3A程度でした。

 『1.5kVA』や『1500W』と表示されている機器の中には、機器に使っている電線類が1500Wまで耐えられるものを使っている、という理由から1500Wまでは大丈夫だという意味で銘鈑表示しているものもありそうです。

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実測すべき

 在宅医療で使用する医療機器は、すべて実測して消費電力を把握しておくべきだと思います。

 療養住環境という特殊性を鑑みると、生活家電や調理家電なども測定しておくと良いと思います。

 平時でも、組み合わせが悪ければブレーカーが切れてしまいます。健常者の生活空間であればブレーカーを戻せばよいだけですが、医療機器を使う医ケア世帯では、生命危機すら訪れます。

 弊社では、様々な測定装置を用いて測定しています。

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波形も測定

 測定装置の中には、電力の波形を測定できるものもあります。

 『ラインモニタ』や『電源品質アナライザ』など呼び方は色々ですが、可視化される部分だけで言えばオシロスコープの表示画面のようなものです。


 波形がキレイか汚いかで、電化製品の性能にも影響する場合があります。

 そもそも、波形が矩形波(くけいは)か正弦波(せいげんは)かで大きな違いがあります。ある程度の値段の発電機や蓄電池は『正弦波』や『純正弦波』などと呼称して販売されています。安価なカーインバーターやポータブル電源では矩形波の製品が存在しています。

 矩形波では全く動かない製品、動作するが故障してしまう製品などがあるので、最低限、波形は正弦波であることを確認すべきです。


【参考】NES:電源波形と電源品質

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測定の依頼先

 ほとんどの医療機関が、電気計測器を持っていないと思います。

 電気工事業者であれば、何種類かの電気計測器を持っていると思いますので、相談先は電気工事業者になるかもしれません。

 ただし、医療機器に不慣れな電気屋さんに依頼するのも怖い部分がありますし、在宅医療スタート前であれば手元に機器が無いので、まずは医療機関に問い合わせてみると良いと思います。

 弊社では、測定の代行を行っています。

 測定を相談された医療機関様と連携して、弊社で測定を行ってデータを医療機関に納品、そのデータに基づいて患者説明を行うという流れです。


測定器

 以下は弊社にも備えている測定器です。絶縁測定器やクランプテスターなどは、多くの電気工事屋さんが持っているものです。
 電気工事士が居るならば、医療機関が持っていても良いと思いますので、価格参考のためにネット通販のリンクを載せておきます。

絶縁測定器(NES保有品)
I0r 漏電測定器(NES保有品)

絶縁測定器(メガー)
 絶縁状態を測定する器具です。

漏電測定器(リークテスター)
 回路の漏電状態を測定する器具です。
 Ior(アイゼロアール)対応の器具もあります。
 ロガーがある器具もあります。

クランプメーター(クランプ式テスター)
 輪になったクランプ部分で電線を囲んで電流を測定することができます。
 ボディにあるコネクタにプローブを差し込んで、電圧などを測定できます。
 漏電測定機能が無い分、安価です。

電源品質アナライザ
 電源品質を測定・分析するための測定器具です。
 エラーが出るのは瞬間であったとしても、それを捉えるには長時間測定が必要な場合が多いため、ロガー機能を搭載している機種が一般的です。
 多チャネル型は同時に何種類かのデータを残せるので、異常の原因追及に役立ちます。

配線チェッカー
 どのコンセントが、どのブレーカーにつながっているのか確認することができるツールです。
 光や音で知らせてくれます。

【参考】経済産業省:電気設備の技術基準の解釈の一部改正について
【参考】Amazon:絶縁測定器
【参考】Amazon:漏電測定器

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ポータブル電源の仕様

 ポータブル電源の出力が正弦波であることは、必須の調査事項ですが、ほかにも確認するべき事項があります。

 容量がいくらで、どのくらいの期間に対応するのか、それを知る必要があります。

 ポータブル電源の『容量』という表記は、特記がない場合は電池容量を指していると考えて差し支えないと思います。

 容量1000Wh(ワット・アワー)のポータブル電源が、1000Wh丸ごと引き出して使える訳ではありません。

 よくあるリチウムイオンポリマー電池は3.7Vの物が多くあります。下図の例は3.7V×2,000mAhなので7.4Whです。この電池が135個あると1,000Whです。


 この電池を直接使用する機器はロスが無いので、表記のとおり消費できると思います。

 変圧やDC-AC変換などをすると、そこでロスが発生するので、表記の通りにはいきません。

 直流を交流に変換する場合には『インバーター』というデバイスを使います。バッテリから交流電源を取るためにインバーターは必須です。
 反対に、商用電源からバッテリに充電するためには交流から直流に変換するため『コンバーター』が必要になります。

 エネルギーを変換する際にロスが発生すると、それは熱や光という形に変わる可能性があります。ポータブル電源の場合、熱に変わるようになっているため、熱を逃がすファンが備えられています。

 すなわち、直流から交流に変える際のインバーターのロスと、ファンを動作させるエネルギーが消費されるため、1,000Whという電池であっても、使用可能容量が1,000Whという訳ではありません。

【参考】富士電機:インバータとコンバータ
【参考】PC Watch:ポータブル電源の中身ってどうなってるの?⾃分じゃ怖いから公式に分解してもらいつつ解説!
【参考】Jackery:ポータブル電源とは?
【参考】Jackery:ポータブル電源で家電を使える時間は?使用時間の計算方法を徹底解説

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モバイルバッテリの容量計算

 飛行機に持ち込むことができる蓄電池は『160Wh以下』と書かれていますが、Amazonなどで売っているスマホ用のモバイルバッテリには『Wh』の表記がない物もあります。

 Wh(ワット・アワー)とは、電力(ワット)と時(アワー)なので、電圧×電流でワットを計算して時間を掛けるか、アンペアアワー(電流・時)に電圧を掛けるか、いずれかで求まります。


 Amazonで『ベストセラー1位』に選ばれていたAnkerのPower Bankは『10000mAh, 22.5W』と書いてありました。また、出力に『10V = 2.25A (MAX 22.5W)』という表記がりました。
 10,000mAh÷2.25A≒4.44hrです。この2.25Aは10Vのときに出力するので、10V×2.25A×4.44hr≒100Whということになります。
 ただし、この数字だと変圧のロスが考慮されていません。電池はリチウムポリマーなので、もしかすると3.7Vのよくある物かもしれないので、そちらで計算すると10,000mAh×3.7V≒37Whです。たぶん、これが正解かなと思います。


 別の電池で見てみると、26,800mAh、99.16Whという製品がありました。99.16Wh÷26.8Ah=3.7Vの計算式から、この電池は3.7Vであることがわかります。


 航空機への持ち込みは160Wh以下、それより容量が小さくても2個までという制限があるので、そこにも注意が必要です。

 預入する手荷物には、単体のモバイルバッテリを預けることはできません。客室へ手荷物として持ち込む必要があります。

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ポータブル電源の持続時間

 1,000Whと表記されたポータブル電源を買った場合、医療機器は何時間使用できるのか、試しに計算してみます。

 人工呼吸器が350W、バイタルサインモニタが50Wとして、400Wの消費電力の医療機器を動かし続けたいとします。

 1,000Whを丸々使えるとすれば、1,000Wh÷400W=2.5hで2.5時間となります。
 しかしながら、1,000Whは電池本体の容量なので、変換ロスがあります。それを2割とした場合、1,000Wh×0.8=800Whとなります。800Wh÷400W=2h、2時間の動作を支えることになります。

 人工呼吸器の内蔵バッテリもあるので、ポータブル電源が枯渇したからといって、直ちに生命危機という訳ではありません。

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実験済ポータブル電源

 弊社では、ポータブル電源を実際に購入して、実験して、在宅医療で使用できるかを検証しています。

 予算としては、10万円未満です。


 Amazonなどで販売されているEENOURのポータブル電源は、クーポン適用で9万円前後です。
 このポータブル電源は容量が2,048Whです。640,000mAhという記述もあり、計算すると3.2Vです。

 交流を取り出す場合の波形は『正弦波』です。最大2400Wまで出力できます。在宅医療ではそこまでの容量は使わないと思います。

 UPS機能が付いている点が、在宅医療に向いているなと思います。UPSとは、平時は商用電源を使いつつも、停電したときには自動的にポータブル電源から電力供給するというものです。

EENOUR 蓄電池 P2001PLUS (スマホ連動版)
▽大容量 2048Wh/640000mAh
▽リン酸鉄リチウム電池
▽スマホアプリ遠隔操作・遠隔監視
▽充電時入力電力調整可能、1.6時間急速充電
▽最大2400W出力
▽USB TYPE-C出力100W、DC12Vシガーソケットなど各種ポート搭載

 ほかにも実験済のポータブル電源があります。

 全機種を購入して実験することはできませんが、どなたかが購入したポータブル電源をお預けいただいて、評価するサービスを提供しています。

【参考】NES:電源波形と電源品質

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電気屋さんの介入

 ポータブル電源は、本体に備えられているコンセント(アウトレット)に接続できた機器だけ電力供給を受けることができます。

 例えば、天井の照明器具や換気扇などは、プラグが出ている訳ではないのでポータブル電源につながることはありません。

 その課題を解決するには、電気工事屋さんの介入が必要です。

 下図は私宅での電源直結の例です。分電盤のカバーを開けて、中にある電線をつなぎかえて、予備電源から住宅へと電力を供給しました。


 分電盤直結により、いくつかの課題を解決しています。

 給湯器はプラグ式ではなく直結式での電力供給であったため、停電によって使えない状態でした。都市ガス式なので、エネルギー源は停電しても正常、着火や制御するための僅かな電力さえあれば良いという状況でした。

 分電盤直結で給湯器が動き出したのですが、同時に、ガレージの照明にも電力が供給されました。暗くなると自動的に点灯するタイプなので、停電して真っ暗なお宅が並ぶ中で、1軒、無駄にガレージの電気が点いていました。

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プロにご相談を

 在宅医療をこれから始める人も、すでに始めている人も、電気設備や電源についてじっくり考えて頂ければと思います。

 消費者として電気は毎日、絶え間なく使っていると思いますが、設備については詳しくなく、停電時の対応についてもマニュアル的な部分しか知らない、という人も少なくないと思います。

 医療従事者さんも、他人事ではないと思います。

 もし、下図のような連絡がきたとき、どのように対応しますか?


 電気工事屋さんなら、いくつも手札を持っているので、状況を想像しながら的確な指示が出せると思います。
 さらに、図面などが手元にあれば、より適切な指示が出せると思います。

 医療従事者の方々で、設計図や配線図を読める方、どのくらい居られるでしょうか。どのような図面が用意されていれば指示しやすいか、平時からわかっていれば、患家にそれを提供するようにお願いできます。

 もし、わからないなと思った医療従事者さんは、電気工事屋さんのお友達をつくると良いかもしれません。

 医療に理解がある電気工事屋さんは少ないので、弊社にお声かけ頂ければと思います。

過電流や短絡で切れたブレーカーを戻す(NES監修)
漏電遮断器を戻す(NES監修)

【参考】NES:【ブレーカー復帰】漏電/過負荷/短絡 | 電気工事業者が動画解説

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激レア卓越人材

 標題はハードルを上げすぎていますが、レアキャラであることは間違いないと思います。

 10代で第一種電気工事士を取得、高卒で25歳までは電工職人をしていました。
 26歳から医系大学生、30歳で臨床工学技士免状を取得し、医療機関で勤務しています。
 この時点で、建設現場と、医療現場の、両方での実務経験を積んでいます。


 医療機器安全管理と医療設備を連関させた実務も研究も見当たらなかったので、大学入学直後から医療機器と設備の同時的管理について研究していました。
 その流れから、停電や節電などの研究も行っていました。

 その後、日本医療福祉設備協会の理事(現任)や、日本臨床工学会のBPAで優秀演題賞を受賞するなど、医療機器と設備の関係する場で活動を続けています。

 それが、弊社代表です。

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生業とプロボノ

 弊社では、療養住環境最適化に資するサービスを提供しています。

 医療界、産業界、建設業界などの境界領域にある在宅医療は、その境界領域を専門とする人材が参画すべきであると考え、このサービスを展開しています。

 有償での、ビジネスとしての療養住環境最適化サービスを提供しています。

 同時に、プロのスキルやノウハウで社会貢献する『プロボノ』も実施しています。
 医療的ケア児のための停電シミュレーションなど、過去にいくつかのプロボノを実施してきました。

 お困りの際は、とりあえずご相談いただければと思います。

PRO BONO

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講演、委員、アドバイザリーボード、承ります。

 関連する講演をさせてください。

 登壇経験150回以上、高評を頂いております。

 リクエストしていただいた内容に合わせて、時間も調整して、講演いたします。

 講演料はプロボノの資金に充てていますが、講演自体をプロボノとしてお願いしたい、というご相談も承っております。


 在宅医療のガイドブックやフライヤーなどの制作のお手伝いをさせてください。
 自治体の危機管理室や災害対策本部のお手伝いをさせてください。
 有識者会議や検討会議などの委員、アドバイザーをさせてください。

 弊社は、社会貢献事業に力を入れています。

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おわりに

 今回の記事では、在宅医療の電気設備にフォーカスを当てて減災について述べさせていただきました。

 素人の考えで通用する部分、現場にいるから気づくことができる部分も当然ながらありますが、プロの知識や経験が勝る部分もあるかもしれない、そう考えていただけるようでしたら、ぜひプロの意見も聴いて、療養住環境の最適化へ進んで頂ければと思って書きました。

 実際、医療に精通するのは医療従事者、電気工事に精通するのは電気工事士、患者の生活に精通するのは患者、家族ケアラーの生活に精通するのは患者家族であったりと、それぞれに専門家が居て、すべてを網羅できる専門家は居ないかもしれません。

 チームを形成して、患家の安全や快適に志向して頂ければと思います。

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