COVID-19の感染が始まった当初は、無症状であっても措置として入院させていました。
病床が逼迫したため宿泊療養や自宅療養が始まりました。
宿泊療養は、宿泊者全員がCOVID-19陽性者のため隣室との隔離は行われませんが、医療従事者やホテル従業員とは隔離されています。
自宅療養の場合、自助努力は求められますが、特に措置はないため、宅内クラスターも発生しています。
もし、自身や家族が感染者となった場合、どのように隔離をするべきか、検討してみましたので共有します。
ゾーニング
ゾーニング(zoning)とは、区域分けです。
感染症対策でゾーニングと言えば、病原体に汚染されている区域と、そうではない区域を分けることを言います。
病原体で汚染されていると既定する区域を『汚染区域』と言います。病原体の有無を検査する訳ではなく、汚染されているものとして扱う区域です。管理者が定義します。
汚染区域以外を『清潔区域』とします。
病原体が無い事を確定する事は難しいので、汚染されないように注意し、適宜消毒等を行って汚染から守ります。
レッド・グリーン・イエロー
ゾーニングは汚染区域をレッドゾーン、清潔区域をグリーンゾーンと呼ぶことがあります。
病院で言えば感染患者の診療を行う区域をレッドゾーン、それ以外をグリーンゾーンとしますが、この2つだけでは運用上の課題があります。
レッドゾーンに居る患者は区域内で療養を続けますが、スタッフは出入りが発生します。
スタッフは感染していない前提ですので、レッドゾーンへ行って感染してしまわないように感染防護します。
汚染区域内では防護具を外せないため、レッドゾーンから退避した場所で外します。
この脱衣する場所がイエローゾーンになります。
感染の機会
濃厚接触を通知するアプリがありますが、これはCOVID-19陽性者と『概ね1メートル以内の距離で15分以上の近接した状態にあった場合』に通知されます。
普段の家族との距離は1メートル以内にもなりますし、15分以上の接触にもなりますので、簡単に濃厚接触者となります。
もし、同居する家族に陽性者が居れば濃厚接触者になりやすく、濃厚接触者ゆえに感染しやすいです。
濃厚接触の危険は既知であるが、軽症者等は自宅療養か宿泊療養かの2択になりますので、自宅療養を選ぶ場合は十分な注意が必要です。
療養住環境におけるゾーニング
一般的なご家庭でゾーニングと言われても、容易な事ではありません。
しかしながら、ゾーニングしなければ家族内感染のリスクは高止まりです。
住宅は限られたスペースであり、同居人は親密な距離感で生活していますので、十分な配慮が無ければ破綻します。
ケーススタディ(1)
マンション
30代夫婦・小学生の子供・父感染
このケースでは、よくあるマンションに住む40代代夫婦と小学生の子供の3人家族で、父親がCOVID-19に感染してしまったとします。
父:30代
母:30代
子:小学校3年生
玄関側とベランダ側は屋外に面し、残る2面は隣家があるため窓が無いよくある造りのマンションです。
居室Aは子供部屋、居室Bは夫婦の寝室、寝室からキッチンへ出入りができます。リビングに行くには必ずキッチンを通る必要があります。対面キッチンタイプのためLDKは1つの空間です。
トイレは1つしかありません。
居室Aは子供部屋ですが、屋外に面した部屋ですので、療養室はこちらにすると良いと思います。
同じく屋外に面するリビング・ダイニング(LD)ですが、キッチンを通らなくてはならず、トイレに行くだけでも大騒動になります。そもそもキッチンとLDは空間として1つなので、療養者がLDに居てはキッチンで作業ができません。
居室Aを療養室とする事で、COVID-19患者を1か所に固定する事ができます。
お子様には不便を強いてしまいますが我慢してもらいましょう。勉強道具などは一時的に汚染された状態になりますので、療養開始前に部屋から持ち出しておきます。洋服なども同様です。
この部屋に陰圧装置があると理想的です。
マンションは気密度が高いため、居室Aに陰圧装置を設置すれば、家中の空気を居室Aに集める事ができると考えられます。古い建物であってもLDには外壁面に給気口があると思いますので最も遠い部屋からも空気の流れを作れる可能性があります。
COVID-19患者がトイレに行く場合は、家族で申し合わせをします。
非感染者である家族はLDKか屋外に退避します。お子様が学校から帰って来そうな時間などではお母さんが玄関の外で待機しておきます。
家族の安全を確認したところで、患者はトイレへ行きます。このとき、居室Aとトイレのドアは開けておきます。
陰圧装置が設置されている場合、ドアの開いている空間は陰圧化されている部屋と同圧になります。仕切られた部屋とは差圧が生まれますので、下図では居室A・廊下・トイレの3箇所が同圧、そして扉で仕切られた居室B・キッチン・洗面脱衣室が常圧で同圧となり、陰圧装置が置かれているエリアと差圧が生じます。
論理的に言えばキッチン等へウイルスが流入しない状態です。
もし、陰圧装置が無い場合はレッドゾーンもグリーンゾーンも同圧になるので、感染防御を徹底するのであれば扉を目張りします。
COVID-19患者が用を足した後は居室Aに戻って扉を閉めます。これで居室Aが宅内で最も空気圧が低い部屋になります。
この時点では、廊下やトイレにはウイルスが残っている可能性があります。特にトイレは患者が直接触れた物が多いので要注意です。
子供が触れる前に、大人が掃除をします。
市販の使い捨てワイプ等で清拭すれば十分ですが、ケチって1枚であちこち拭くと、汚染されたワイプでウイルスを広めてしまう恐れがありますので、あまり無理のない範囲で交換します。
換気する事が望ましいですが、オゾン発生装置などで空気を浄化するのも良い手立てだと思います。空気清浄機も効果は期待できますが、フィルタに付着した新型コロナウイルスを除去する事は難しいと思いますので、フィルタ交換時に感染しないようにご注意ください。
同様の手段で入浴も可能だと思います。
患者の着替えは居室Aで行い、洗面脱衣室への滞在時間は最小化すると良いです。掃除漏れがあって感染するリスクを低減します。
脱いだ衣類はビニル袋に入れておきます。相当な濃厚接触物ですので滅菌するつもりで居た方が良いです。
ウイルスに栄養を与えなければ、布の上では1週間程度で死滅するという話もありますので、洗濯にリスクを感じるようであれば1週間放置してしまいましょう。
マンションの場合は気密性が高いので、陰圧装置を設置できればかなりコントロールしやすいと思います。
トイレが1か所しかない点は要注意です。
COVID-19患者は高熱等でしんどいところですが、可能な限り汚さず、家族の安全に注意しましょう。
ケーススタディ(2)
2階建て・一戸建て
50代夫婦・大学生・高校生・母感染
このケースでは、市街地に多い2階建ての一戸建て住宅に住む家族をモデルに、母親がCOVID-19に感染してしまったとします。
父:50代
母:50代
子:20代・男・大学生
子:10代・女・高校生
4LDKの一戸建てに4人暮らし、トイレは2か所あります。1階にはLDKと水回りがあります。
この間取りであれば、2階の居室Aがトイレの隣なので使いやすいと思います。
2階でトイレに行く場合は下図のようになります。
居室Aとトイレの間は最短距離なので、そこだけが汚染区域になるのですが、空間として廊下全体がつながりますし、階段も仕切りがないので汚染区域・準汚染区域になります。
できれば、廊下と階段の間を仕切るか、居室Aとトイレをつなぐ廊下だけを隔離できるように仕切りを作れると良いです。
こ汚染区域のように最小化するためには陰圧装置を設置する必要があります。
2階にはトイレに換気扇があると思いますが廊下や居室には換気扇が無いと思います。1階のキッチンや浴室には大きめの換気扇があり、特にキッチンの換気扇は強めだと思います。
すなわち、キッチンが家の中で最も低圧になるので、2階のコロナウイルスは1階へと向かって動き出してしまう可能性があります。
下図は掃き出し窓に陰圧装置を設置した例です。ベランダをイメージした設置例です。
一戸建てでは、居室から浴室までの動線が長くなるのが課題です。
下図が浴室までのルートであり、このときにレッドゾーンになってしまう箇所です。
これだけの範囲が立ち入れなくなるのは困りますので、おすすめとしては患者を包んでしまう方法です。
養蜂場などで見かける事もある、ツナギ型の防護服を着てしまうのがわかりやすいですが、身体を丸ごと覆ってしまいます。
感染性のウイルスを撒き散らしやすいのが鼻と口ですので、ここを覆う必要もあります。
無症状や軽症で、20~30秒くらいは息止めできるのであれば口をハンカチで覆って、なるべく息をしないように浴室まで移動してもらうのが良いと思います。
防毒マスクを使ってもらうのも良いと思います。完全にバリアできる訳ではありませんが、ネット通販などで容易に入手できる中では、目が細かいフィルターを使う事ができるデバイスです。
これが上手くいけば、レッドゾーンは居室Aと浴室に限定し、それ以外の箇所はイエローゾーンと考えることができます。
私宅では、下記のガウンを用意しています。ツナギタイプではありませんが膝丈まであり、とりあえず1人でも容易に脱着できるので、これと防毒マスクを併用して家の中を動こうと思っています。
患者がウイルスをまき散らさなかった場合のゾーニングです。
手すりなどは清拭するべきだと思いますが、空間としてはさほど掃除の必要性がないと思います。
このお宅では居室Aを使う方法を検討しましたが、2階の部屋であればどこでも良いとは思います。なるべく、トイレとの距離を短くすると良いと思います。
陰圧装置を使う事を前提にする場合は、無窓室は使えませんが、一戸建てであればだいたいは窓があると思いますので、さほど心配はないと思います。
突っ張り棒で仕切り
療養部屋とトイレの間を1つの空間にしたいと思っても簡単な事ではありません。
順調にいけば約2週間の療養生活のために大規模な工事はしたくないでしょうし、工事をしている時間も無いと思います。
壁に穴を開けずに、仮設で壁を作る方法があります。
それは『突っ張り棒』です。
突っ張り棒の平安伸銅工業さんが出しているLABRICO(ラブリコ)を使ったDIYです。
2X4(ツーバイフォー)という木材の端に突っ張り役の金物を取り付ける方法で簡単に柱が建ちます。
その柱に適当な壁を取り付けます。今回はウイルスを広げない事が目的なのでゴミ袋をホチキスで貼り付けても良いと思います。
天井から床まで、1つの壁ができます。
平安伸銅工業 LABRICO
平安伸銅工業のLABRICOは2×4木材のアジャスターです。アイアンタイプは金属製なので屋外使用できます。使い方は簡単で、突っ張りたい場所の長さを図り、2X4木材をカットし、木材の端にLABRICOを取り付けるだけです。実際にAmazonで注文して使ってみましたが、しっかりしていて安心感・安定感があります。 |
トイレの管理
トイレは敷物や便座カバーなど掃除しづらい物は予め撤去しておきます。
無意識にタオルを使ってしまいますので、タオルも撤去してペーパータオルにしておくと良いです。
トイレットペーパーを別々にするのは難しいので、COVID-19患者が出た後の掃除の際、トイレットペーパーの表側に面している1周分を捨てておきましょう。ペーパーホルダーの消毒ももちろん必要です。
徹底的な消毒をする場合には次亜塩素酸ナトリウムを0.1%(1,000ppm)に調整したもので清拭が推奨されています。市販の次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)は6%の物が多いので希釈して使います。
簡易陰圧装置
簡易陰圧装置を設置することで、一般住宅や高齢者施設等でも陰圧室を作る事ができます。
陰圧室があれば、他の部屋より空気圧が低いので、その部屋から外に空気を漏らす心配が減ります。
したがって、隣室など同じ建物内に居る人々への感染を抑止することができます。
当社で考案した簡易陰圧装置は自宅療養のために開発を始めたので、一般家庭に簡単に取付できます。
2階などによくある腰高窓に設置可能です。
1階やベランダ面などにある掃き出し窓にも設置可能です。
部屋に換気扇があれば、それを外して一時的に簡易陰圧装置の排気口として使う事もできます。
この方法がおそらく、金物代などが一番安く済むと思います。
上に示した写真はすべて、一般木造住宅で試験しています。
1990年代築のごくありふれた木造住宅で設置できています。最新である必要はありません。
キッチン換気扇
キッチンの換気扇は強力です。
陰圧装置よりは弱いですが、もし宅内に給気口が無ければ陰圧装置と空気の取り合いになり、陰圧装置の仕事の妨げになる可能性があります。
キッチンの近くの窓を1つ開ける事で給気が確保できますのでキッチンは気密にしないようにします。
浴室は半日インターバル
『エアロゾル感染』が危険と言われたCOVID-19ですが、浴室にはエアロゾル化した物がたくさん浮遊してしまいます。
乾燥させればエアロゾルも浮遊しなくなりますので、患者が入浴した後は換気扇や乾燥機を使って浴室内を十分に換気・乾燥させてから使うと良いです。
家族が夜7時に入浴するなら、患者は朝のうちに入浴して昼間は換気・乾燥の時間に充てると良いでしょう。
掃除用個人防護具
家族はグリーンゾーンに居るべきですが、どうしても掃除等でイエローゾーンに進入することがあります。
そのとき、もっとも危険なのが鼻と口です。
そこで私宅では、塗装工や解体工が使う産業用の防塵マスクを用意しています。
一度だけ装着してみましたが、激しく運動しようと思うと苦しいです。ゆっくり呼吸する分には、さほど抵抗なく、ある程度は安心して空気を吸う事ができました。
次亜塩素酸ナトリウム・浸漬法
新型コロナウイルスで注目された次亜塩素酸ナトリウムとは、簡単に言うとハイターです。厳密に言うと界面活性剤が入っている商品もあったり色々なのですが、細かい事は置いておきます。
この次亜塩素酸ナトリウムは濃ければ良いという物ではありません。至適濃度という物があります。
患者の接触部位などは0.05%(500ppm)の次亜塩素酸ナトリウムで清拭します。
リネン類は250ppm(0.025%)の次亜塩素酸ナトリウムに30分浸漬してから選択します。次亜塩素酸ナトリウムが使えない衣類等では熱湯消毒という方法もあります。
熱湯消毒
新型コロナウイルスに限らず、ノロウイルスなどが付着した衣類などは熱湯消毒が必要になります。
患者が着ていたもの、使用済のタオルやシーツ、場合によっては靴なども対象になります。
家庭で熱湯消毒をするのは容易ではなく、特に大きな物は準備が大変です。
ガイドラインでは『80℃・10分』となっているので、衣類が浸かる程度の大きな容器に、80℃以上の湯を10分間維持できなければなりません。
昨年、病院のリネン類の熱湯消毒の相談があった際には、寸胴鍋とぶっ込みヒーターを紹介しました。
建設現場ではお馴染みなのですが、冬場にコーヒーなどを温めるのに使っています。
これらの道具と、キッチンにある鍋やヤカン、電気ケトルなどを組み合わせれば『80℃・10分』も実現可能性が高まると思います。
衣類が熱湯に触れる必要はないので、二次感染防止の観点から衣類は袋に入れた状態で適当に水を注いで口を縛り、袋の外の熱が衣類に行き渡る様にして熱湯消毒します。
繊維によっては高温で縮んでしまう物もあります。ご注意ください。
急変対応備蓄:BVM
ゾーニングして療養していても、ときには重症化してしまう人がいます。
救急搬送の順番待ちも、感染者があまりにも多ければ数時間や数日待ちにもなり得ます。
私宅には人工呼吸器の代わりをする事ができるBag Valve Maskというデバイスがあります。
これがあれば助かるという物ではありませんが、救急の現場などで多用されている用手換気と呼ばれるものです。
もしかすると一家に一台、あると良いのかもしれませんが、使い方を誤ると医師法に抵触する恐れがあります。
現在、Amazonなどでは入手できないようです。
急変対応備蓄:酸素濃縮器
肺炎とは、肺から酸素を取り込みづらいほどの炎症を起こしている状態です。
酸素が取り込めなければ、息苦しくなります。
普段は6秒に1回の呼吸が、2~3秒に1回に縮めても追い付かないほど苦しくなります。
回数では酸素が稼げないのであれば、吸う酸素の濃度を高くしてあげれば解決できる場合があります。
待機の21%の酸素より、倍の酸素を吸えば肺から血中へ取り込まれる酸素も増えます。
酸素ボンベを用いる方法が一般的にありますが、酸素濃縮器というデバイスを使う方法もあります。
医療機器と、そうでない物がありますのでご注意ください。
下記の例は医療機器ではないので、誰でもネット通販などで入手可能です。医療機器ではないので、治療用ではありません。
参考情報としてご覧頂ければと思います。
※.薬事申請などのご相談は弊社の医工連携事業で承っております。
お困りでしたらご相談を
自宅療養をしなければならず、家族への感染が心配でこのサイトをご覧になった方は、まだ不安が解消されていないと思います。
当方でお役に立てるようでしたら、可能な限りお話をお聞きしますのでお気軽にお問合せ下さい。
相談に答えたからすぐに費用を請求という事はありません。
保健所さんもお忙しくされていますので、少しでもお役に立てばと思います。
関連資料
弊社関係
厚生労働省
新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について(事務連絡):2020年4月2日
『新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養マニュアル』の送付について(事務連絡):2020年4月2日
新型コロナウイルス感染症患者が自宅療養を行う場合の患者へのフォローアップ及び自宅療養時の感染管理対策について(事務連絡):2020年4月2日
『新型コロナウイルス感染症の軽度者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について』等の周知について(事務連絡):2020年4月3日
医療機関における新型コロナウイルスに感染する危険のある寝具類の取扱いについて:2020年4月24日
国立国際医療研究センター
国立感染症研究所
新型コロナウイルス感染症に対する感染管理:2021年6月30日
急性期病院における新型コロナウイルス感染症アウトブレイクでのゾーニングの考え方:2020年7月9日