かつて臨床工学技士は看護部や手術部、麻酔科などの配下で従業する人も少なくありませんでした。
1987に免許が誕生し、1988年から交付が始まって養成校ができ、1990年頃からやっと新卒者が出始めました。
移行期間の現任者措置で免許を取得した人は部門を持つことがあったとしても、新卒で免許取得後間もない人が部門を持つという事は考えづらいため、黎明期は他職種の下で働くという事が普遍的でした。
養成校1期生も30年超のベテラン、年齢的にも50代を迎えマネジャーとしての適齢期を迎えていると思います。
部下も増え、業務も多様化し、部門としての資質や能力が問われているのではないかと考えます。
基盤なくして発展なし
何事にも共通しますが、基盤がしっかりしていなければ、いつかは崩れるものです。
医療従事者はヒトの生命や健康を預かる身であり、外見を装うだけでは安全な医療は提供できません。
では、臨床工学部門の基盤とは何でしょうか。
人材、資金、技術、信頼、枚挙にいとまがありません。
これから部門を発展させていこうという場合、基盤の再構築を検討するところから始めてはいかがでしょうか。
筆者の実務経験
筆者は総合病院で技士長をしていました。
院内昇進ではなく、外部から雇われた中途採用の技士長です。
与えられた仕事は、部門の立て直しです。目下の急務は離職者を減らすこと、そして求職者を集めることでした。
立て直すと聞くと、マイナスをゼロに戻す作業のようにも思えますが、私の解釈はゼロを大きく超えてプラス、しかも他にはない臨床工学部門にしようと考えました。
魅力のある職場であれば働き続けたいと思えますし、転職して来てくれる人も多くなると思います。応募者が多ければ当然ながら競争が生まれ、より良い人材を雇う事ができます。
そこで、部門の中期計画を掲げました。
全員と面談、属性を分類
ほぼ全員が初対面で『オマエは誰だ』という目で技士長を見ていますので、まずは一人ずつ丁寧に面談をしていきました。
どうして技士になったのか、今は何が楽しく、何が不満なのか、将来はどうしたいのか、といった個人の考えを聞いて行きました。
そこでわかった事が、将来に対するプランが無い事です。もう1つわかった事は、将来のプランを持っている人には仕事が集まりすぎてオーバーワークになっている事です。
将来に対する絵が描けていないのは、技士人生のスタートに問題があったようにも思えました。そして、現状に満足でも不満でもないという感じの人が多い事に気づきました。
今の仕事の範囲から飛び出さず、自分のやり方は変えず、出世など望まないので自分の領域も侵さないで欲しいという人が何人も居ました。
これは自己主張ですので、尊重してあげたいと思いましたが、一方で組織としてルールには従ってもらう必要があるので、自己流はやめてもらう必要がありました。
新しい事をしたい、もっと給与が欲しいといった欲望を持つ若者も居ましたが、自ら天井を決めてしまっている感がありました。先輩方を追い越して、まったくの異次元に行ってしまおうという程の考えが無かったので、自由な発想を持てるように導きました。
根本原因の1つは業務レベル
意欲を感じられない、目標が低いといった症状の原因の1つに業務レベルの問題があると思いました。
単に透析を回せばよい、できる範囲の治療だけやれば良いという風潮が根付いてしまっていて『何がベストか』という議論に至らない感じがありました。
その結果だと思いますが、治療について真剣に議論してくれる医師や看護師は居ないという事を感じました。
技士がカルテを読めないという事も問題でした。透析記録という1枚の紙を見て、指示されたダイアライザと抗凝固剤を用意して、決まった時間、決められた設定で透析をすれば終わりという流れ作業のような臨床がよく目に入りました。
急性期の患者に対し、医師と看護師が意見をぶつけ合っている中に、臨床工学技士が入って行こうともしていませんでした。
技士全体の底上げが必要で、それができなければ業務拡大どころか、評価(賃金)を下げられてしまう可能性すらありました。
マネジャー
P.F.ドラッカーのエッセンシャル版『マネジメント』に『マネジャーとは何か』(P125)という項があります。
かつては『人の仕事に責任を持つ者』と定義されたマネジャーであるが、今日では『組織の成果に責任を持つ者』であると述べられています。貢献する責任のある者がマネジャーです。
そして『専門家にはマネジャーが必要である』とも述べられています。専門家のアウトプットが、他の者のインプットにならない限り活用されないため、臨床工学技士という専門家にも他職種との間をつなぐマネジャーが必要になります。
臨床工学部門のマネジャーが、臨床工学の専門的な知識や技術で優れている必要はなく、すなわち経験年数や症例数などに依存する必要はありません。年齢も不問です。病院という組織に対し診療や経営など何らかの成果に責任を持ってマネジメントできる事が求められます。スタープレイヤーが居なくても、いま居るメンバーでポテンシャルを引出し、組織や他職種の期待に応える事が臨床工学部門に求められたマネジメントだと考えます。
ピーター・F・ドラッカー: マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則
岩崎夏海: もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
人を活かすマネジメント
マネジャーはマネジメントをするのが仕事であって、1つ1つを教えるコーチではありません。
筆者は免許取得後8年でマネジャー(技士長)となったので、現場経験で言えば上はいくらでも居ます。経験のない知識は広く浅く持っていたと思います。
マネジャーの仕事は、1人1人の能力を知り、ときには潜在する力を引出す手伝いをして、最終的にはチームの総合力を高めることが求められます。
そして、チームの総合力を持って組織に貢献する事が目標となります。
人を育てる
部門の全員に共通して行う教育(指導)と、個人の希望や才能に合わせて行うものがあります。
人材育成には目標が必要です。新人教育であれば『ここに到達すれば独り立ち』といった個人目標があります。
キャリアラダーに沿って人を育てて人材の層を厚くする事は、指導側にとっては単なる業務になっている事もありますが、ここにも中長期的な目標を掲げる事が重要だと考えます。
若手が早く育てばベテランと並ぶ、ベテランとしての優位性を損なうので育たない方が良いと考えてしまう人も居るかもしれないことにマネジャーは気づき、配慮する必要があります。
中長期目標
人材育成は一朝一夕ではありません。
特に臨床工学技士の場合は誕生からの年月が浅く、自力で現在の地位を確立してきた人が多いためその苦労を簡単には伝授したくないという守りの姿勢をとる人も居ます。
既に何十年も新しい事をして、成長してきたのでこれ以上を望まない人も居ます。
その背景をチーム全体で理解した上での中長期的な目標が必要になると考えます。
いま20代のスタッフが30歳以上になるまで8年前後、その間に若手を育てて優れた30代を揃えるという事は、教育目標としては立派ですが、チーム全体の付加価値と直結しない部分があります。
若手が育った未来に、中堅やベテランにはどのような特典があり、チームはどう変化するのかを掲げるのが中長期目標です。
希望者全員をマネジャーに
若手がしっかりと育ち、優秀な中堅が増えれば、それまでベテランが担っていた教育を含めた業務を中堅に移行する事ができます。
ベテランには時間的・精神的なゆとりが生まれるので『次』を考える余裕も生まれます。
筆者が実践したマネジメントは、希望者全員がマネジャーになるためのキャリアラダーを持ち、登っていく事です。
経営層の方針転換により、年齢や臨床経験年数による昇進は無くなった組織ゆえに、誰もが昇進のチャンスを得ていました。
マネジャーになることを望まないスタッフには、スペシャリストとしての腕を磨いてもらうようにしました。
院内に用意できるポストには限りがあるため、転職も視野に入れたマネジメントを実施していました。
元々、地方から就職に来ていた若手が何人も居たので『いつかは地元に帰る?』という確認をしていました。帰郷希望者には特にスペシャリストやマネジャーというキーワードを意識づけるよう努めました。
マネジメントできる人員が増える事で組織の基盤は強化されます。マネジャー自身の仕事も軽減され、より高みを見るマネジメントができるようになります。
目標の共有
下図は筆者がマネジャーであったときに内外に向けて発した文書の一部です。マネジャーとして、専門家である臨床工学技士をどう育成し、どう活用するかを示しています。
この文書は院内で共有されることで、組織における臨床工学部門の役割や責任を明確化しています。
筆者は剛腕や敏腕ではないので1年で最強チームを作る事はできませんが、まずは5年後の成長を目指しました。
対外的にも発信したことで、就職希望者が一気に増えました。
ナレッジマネジメント
医療従事者の多くは専門課程を卒業した上で国家試験にも合格している人材であるがゆえに『知の底』が高いです。最低限とされる医学系の知識が非常に高いレベルにあると考えられます。
医学は日進月歩、わずか数年で常識が変わってしまう事もあるため生涯を通じて学ぶ必要があり、個人レベルに頼ることなくチーム全体が知の底を上げていく必要があります。
誰が何を知っておくべきなのか、どのように教育すれば効率よく確実に身に付くのかをマネジャーは考えなければなりません。
成長戦略の必要性
新卒1年目の給料と、20年目の給料が同額では働き甲斐や生き甲斐を感じない人が多いと思います。
しかしながら若手とベテランが同じ仕事しかしていなければ、単に年齢が高いからと言って多くの給料を支払う事は不合理です。
1人でできる仕事には限界がありますが、2人居れば1人の3倍の仕事ができるという説もあります。2人目をいかにして育てるかによって、単純に言えば1人のときより5割も多く稼げる事になります。
組織が成長するためには人材育成か設備投資がカギとなります。社会情勢の変化なども無視できませんが、社会を変えられるほどの影響力が無ければ、内から攻めざるを得ません。
組織を成長に導くための戦略が不可欠となります。
任期付常勤
単純作業で一定の研修を受ければ誰でも出来てしまう仕事は、だいたい単価も固定されてしまいます。
スーパーのレジ打ちは高度経済成長の頃であれば値段を覚えていて10キー操作も早い人が高い時給を貰えるというパートタイマーさんの職人技が光る仕事でしたが、現在ではバーコード管理が普遍的、無人レジやレジ無し店舗も登場し現場の時給格差は縮小しました。
臨床工学技士業務においても、透析液を準備し、透析装置がいつも通り動いている事を確認し、型通りに透析を施行するだけのルーチンワークにフォーカスすれば、3年目と30年目の差は少ないと考えられます。
患者急変や機械トラブルなどに対応できる専門人材は各勤務帯に1人居れば良いとすれば、そのポストは看護師と臨床工学技士で競い合う事になるかもしれません。
それ以外のルーチンワークは年齢性差なく『1勤務6時間1万円』のように固定されてしまう可能性があることに気づくべきだと、筆者はマネジャーの立場からスタッフには言っていました。労働基準法では6時間を超えると45分の休憩を与える義務が生じるので、その休憩中も拘束は生じていますし休憩室のエアコンなどもタダではありません。
臨床工学技士に余剰人材が増えると、任期付常勤というポストが増えるのではないかと考えています。常勤ですので勤務表どおりに出勤して仕事をする義務(債務)が発生します。任期付きですので任期満了で契約解除(退職)となります。
キビキビと動ける20代と、疲れていそうな中高年が面接に来た時に、どちらが雇われやすいかを考える必要があります。
成長戦略と業務拡大
基盤構築にはマネジメントが必要であるという私見を長々と書いてきましたが、その基盤を使って発展していかなければならない事は前述の個人の問題にも関わります。
医療費が逼迫する中で、単価(診療報酬)を引き上げる事は非現実的です。
医療機関が現業で得ている医業収入の中で業務を拡大するか、新たな収入源となる仕事を確立するか、いずれにしても経営への影響を考慮した戦略が必要になります。
残念ながら、真面目に臨床業務をしていても成長できるとは言い難いです。戦略と戦術が噛み合わなければ、どんなに優れた戦術を持っていても宝の持ち腐れになってしまいます。
過去を振り返れば、心臓血管カテーテル業務を臨床工学業務とした先人たちは優れた戦略と戦術を持っていたのだろうと思います。ポリグラフの操作だけであれば臨床検査技師、放射線を使う装置という面では診療放射線技師、診療の補助という面では看護師が居ます。心臓血管カテーテルが検査から治療へと技術が進歩するにつれ、検査中に治療へとシフトしても対応できる事が臨床工学技士の強みであったのではないかと推察します。
検査と治療のシームレス化は内視鏡にも当てはまります。現在では多くの内視鏡室で臨床工学技士の姿を見ますが、あの業務も何人かの臨床工学技士が熱心に院内業務を確立し、学会にも積極的に参加して臨床工学技士のポテンシャルを周知した結果であると考えます。
単に言われたからそこに居るというだけでは、業務負荷は増えますが存在意義や価値を高めることにはつながりにくいです。例えば『臨床工学技士が居ないとこの業務はできない』と医師が言うようになればどのようなメリット/デメリットがあるのかを精査し、そう言われるようになるには何が必要か戦術を練り、その戦術に必要な教育を実施していく事が重要になります。
基盤の上のタスク・シフト
『タスク・シフト』や『タスク・シェア』などのキーワードで医師の業務負荷軽減が広がっています。
単にテクニシャンとして医師と同じ作業できるというだけでは、その作業だけ医師から臨床工学技士に移行されます。
医師には、その作業をするという判断(指示)をするための知識が求められ、その作業の背景にあるエビデンスや、トラブル発生時の対処法、対処の指示(処方)も求められます。
臨床工学技士が指示(処方)はできないので、その部分は医師に任せるとしても、その作業に関わるエビデンスやトラブルシューティングについては、誰もが当然のごとく持っておくべきですし、それを習得している事を証明する必要があると考えます。
テクニシャンではなくセラピストとしてその行為に関わる事で臨床での存在意義は高まり、同時に責任範囲も大きくなります。
COVID-19のワクチン接種の際に、医師不足だからと看護師を打ち手にすれば良いと安易に発言した事が波紋を呼びました。看護協会などは、医師と同じ行為をするのであれば、医師と同じ対価を支払うべきと主張したとのニュースが流れていました。看護師が注射を打つ技術を持っていて、しかも時給が医師より安いからと見るのは間違いです。
医師とそれ以外の医療職では免許取得までの道のりも、その後の仕事にも大きな開きがあるので単純に『同一労働同一賃金』という世界ではありません。この知的な格差や、責任の重さなどを考慮した上でも妥当な対価を貰えるのか、臨床工学技士も熟慮する必要があると思います。
せっかく仕事を任せて頂けるチャンスですが、将来を見据えた戦略なくして業務拡大はあり得ませんので、未来の技士に要らぬツケが回らない事を期待します。
厚生労働省: 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング第1回, 6.日本臨床工学技士会
厚生労働省: 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会第3回, 参考資料1-3 臨床工学技士によるタスク・シフト/タスク・シェア調査
業務拡大の着眼点
筆者が取り組んだ業務拡大は、他職種の仕事を奪うという考えではなく、以下の4つの考えに基づいて仕事を探しました。
- 誰よりも臨床工学技士が適任である仕事をする
- 誰もやっていない担当者不在の仕事をする
- 誰もやっていない前人未踏の仕事をする
- 誰もやりたがらない仕事をする
1番の適任であるかどうかは客観性も必要ですので、他職種との会議などで調整を進めていきます。医療機関全体で見ての成果を基準に考えますので、技士から他職種に渡すべき仕事もあると考えられます。
筆者は再生医療に専門的に関わった事があります。10年以上前ですが、再生医療の研究者である医師に話を伺うと、臨床に実装するためには手が足りないとおっしゃっていました。細胞を抽出し、増やし、投与する過程においては技術提供する人材やデバイスが必要であるとの事でした。その方法としてセルセーバーのような遠心分離法、血液浄化のような膜分離法が有力であるとの話でしたが、そうした技術開発の場に臨床工学技士は不在であり、臨床検査技師や薬剤師が多いのでクリーンベンチでのピペット操作が優位になるだろうというお話もよく耳にしました。もし遠心分離や膜分離が主流となれば、普段から扱っている臨床工学技士が誰よりも適任になると思われますので、実は基礎研究の段階から職能団体等が関わる必要性があると考えられます。
2番と3番は似ていますが、少し違いがあります。
例えば医療廃棄物の処理は法人が廃棄業者と契約、院内の廃棄ルールは策定されていても廃物に関する課題解決については『気づいた人がする』という程度である事が多いと思います。この、担当者不在の仕事を見つけて、臨床工学技士が適任者であるかどうか、その仕事を担う事で法人への寄与はあるのか否かを熟考します。
3番の『前人未踏』は大げさな表現ですが、自施設で誰もしていない事、まだ始まっていない事を始めるだけで十分です。近年ですと物品搬送ロボやAIなどの導入に際し、院内ルール策定やサイバーセキュリティなどの管理の担い手が居ないことが障壁になっている感もありますので、そうした未導入の先端技術を問い入れていく事も重要な業務拡大であると考えます。
4番の仕事は、比較的簡単に取れる仕事です。スキルやマンパワーとのバランスが必要ですので何でも取れば良いというものではありません。
例えば車椅子の空気圧管理を考えてみます。面倒ですし誰からも感謝されなさそうなので、誰もやりたかがらないかもしれません。もし、COVID-19の院内感染が車椅子の車輪経由であったとき、車輪に詳しい人が居れば心強いと思います。色々な視点から戦略的に業務を拡大していくことが必要だと思います。
在宅医療
在宅医療が増えると言われ、がん患者らの在宅シフトがじわじわと進んでいた感じがありましたが、COVID-19によりその関心は高まりました。
関心高とは裏腹に、現場の担い手不足や、インフラの発達途上などが壁となり患者激増とまではいきませんでした。
在宅医療は主治医(処方医)と訪問看護、居宅介護サービスの三者で成り立っています。
在宅医療においては課題が多く、特に医療面では訪問する看護師へ依存性は高まっています。血圧測定や静脈穿刺などの基本スキルだけでなく、多種多様なME機器への対応も求められています。
介護サービスは身の回りの世話をするにとどまるので、看護師業務との間に開きがあります。医療職であれば看護師以外でもできる仕事が潜在的にあり、それらの担い手が現れることも期待されています。
統合医工学
小規模な医療機関では常勤の臨床工学技士を必要としていないが、業務が無い訳ではないという場合もあります。在宅医療でも同様の事が言えます。
免許された範囲を超える事はできませんが、医工学全般において診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士がオーバーラップする部分があり、それらを上手く振り分ける事で合理化策を提案する事ができると考えます。
臨床工学部門が臨床工学技士だけで構成される必要は無く、 診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士の3職種が『統合医工学センター』のような形で互いに協力し合う部門へと再編されていく事で、医療機関全体での合理化に寄与できると考えます。
朝の透析室のプライミングには3職種が横並び、外来が開く時間帯には採血室に応援人材を充て、透析室の患者入替ピークには再び透析室に人員を集中するといった事ができます。
院内PHSやLAN、空調、エレベーターなどインフラ系の管理にはそもそも医療系の免許は不要になりますので、誰が管理者になっても問題ありません。
複数居たマネジャーを1人のゼネラルマネジャーに集約し、余った人件費は現場の専門家達に配分できれば、マネジャーの人数を少数化することにも理解が得られると思います。
看護師の受け皿
臨床工学部門の業務拡大をマネジメントするにあたり、『組織の成果に責任を持つ者』がマネジャーでなければなりません。
前述の診療放射線技師や臨床検査技師との協働にとどまらず、看護師を受け入れる事も視野に入れるべきだと考えます。
看護師だから看護部で働くのが当たり前ではなく、看護部以外の部門で雇用される看護師が居てもおかしなことではありません。
筆者が居た高度専門医療研究機関では、臨床研究部門に看護部に属さない看護師が居ました。筆者自身もの臨床工学部門所属ではなく研究開発を支援する部門に居ました。
看護師の免許を持って、臨床工学技士と類似した業務に就きたいと思う人材が居れば、臨床工学部門で雇い入れる事も考えるべきだと思います。
筆者も大学受験の際、看護師免許で臨床工学業務をカバーできると知っていれば、おそらく看護学部を受験したと思います。
臨床工学技士を常勤で雇い入れられる医療機関は限られており、病院の3分の1程度、診療所では1%にも満たないごく少数です。一方で看護師を雇用していない医療機関はごく稀であることから、臨床工学部門で修業した看護師が、それを強みに看護師長や部長職を目指して転職することもあり得ると思います。
マネジャーは『組織の成果に責任を持つ者』であると同時に、医療や医学に貢献することも医療従事者としての使命であり、広い視野でチームをマネジメントすることが求められています。
あすから始める業務拡大
これまでマネジメントの重要性や数年がかりの人材育成について述べてきましたが、現実として明日から何をするかについてもヒントを述べておきたいと思います。
まずは観察だと思います。
他の職種が何をしているのか、どのようにしているのか、それは苦手そうであったり、非合理であったりしないのか、といった視点で仕事ぶりを見させてもらいます。
その上で、自分には何ができるか、同僚や同級生には何ができるかを考えてみます。努力さえすれば自分にもできる事を発見したならば、その努力をすぐに始めます。
臨床工学部門の仕事についても精査します。先輩方からうとまれない程度に、合理化策の立案をし、可能であればこっそりと実証試験をしてみます。
筆者はマネジャー(技士長)として赴任していた病院では、誰よりも先に透析室に入り、プライミングの合理化を検討しました。早く終われば良いという事ではなく、ミスを減らしロスを減らすことを重要視して、特に異動のある看護師さんが透析室を抵抗に思わないようにと簡便化策を検討しました。
時間を作るということは、勤務時間内に他の仕事に手を出す事ができるという事につながります。肉体的に耐えられないほどに仕事を詰める必要はありませんが、合理化をすることは悪い事ではありませんので、まずは合理化策を検討し、時間をつくり、新境地の開拓へと着手して行けば良いと考えます。
おわりに
今回はブログという形で業務拡大や基盤整備について述べさせていただきました。
よくご質問を頂く部分ですので、私見をたくさん入れてのコメントになっています。一般論ではなく『私に聞かれたらこう答える』という感じになっています。
途中に私見であること、誹謗中傷は困るという事を載せておりますが、簡単に精神を病んでしまいますので、攻撃的なことはお控えくださいますようお願い申し上げます。